コミュニティトップへ



■温泉へ行こう!■

朱園ハルヒ
【3480】【栄神・万輝】【電脳神候補者】
「大変、大変だぁーーーーっ!!!!」
 バターン、と勢いよく開け放たれた扉。中にいた槻哉たちは当然それに驚き、斎月などは煙草を床に落としていた。
 扉を開けたのは、外から戻ってきた早畝だったのだ。
「……早畝、小さい子供じゃないんだから、もう少し落ち着きを…」
「それどころじゃないんだって!! 当たっちゃったの!!」
 槻哉が溜息を吐きながら、早畝の行動を窘めようと口を開けば、それを彼が遮って詰め寄ってくる。
「…なにが当たったんだい?」
 多少、引き気味になりながら。
 槻哉のデスクの上に右ひざを乗り上げている早畝を降ろして、話を促す。
「じゃーん! 温泉チケット!! そこの福引きやったら当たった!!」
「……………」
 びら、と槻哉の目の前に突きつけられたもの。
 そこには『一泊二日湯けむりの旅』と書かれた一枚のチケットがあった。
「な、なっ、俺凄いだろーー? だからさー、皆で温泉いこうぜ!」
「……まぁ、いいんじゃねーの? 休暇の話の途中だったんだしさ…」
 一人、自慢げに話す早畝に苦笑しながら、斎月が槻哉にそう言ってくる。
 実は早畝が此処にたどり着く前に、槻哉と斎月で休暇の打ち合わせをしていたのだ。早い話が忘年会のようなものだ。
「何の話?」
 斎月の話の内容がよく飲み込めていない早畝は、槻哉に小首をかしげながら問いかける。
「…斎月の言ったとおりだよ。休暇をとって温泉でも行こうかと話をしていたところだったんだ……」
 槻哉はそう応えて、早畝からチケットを受け取った。そして何か思いついたのか、顔を上げて早畝たちを見る。
「?」
「…僕らはもともと温泉へ行くという予定はあったんだ。このチケットは普段からお世話になっている協力者の人たちへのプレゼントとして、誘ってみる…と言うのはどうだろうか?」
 槻哉の提案にしては、珍しいとも取れる内容ではあるが。
 それでもこの場にいるもの達からは反対の声はあがらないようだ。
「俺も賛成だな」
 暖房の前で丸くなっていたナガレも、しっかり会話は聞いていたようでぴょん、と地を蹴って早畝の肩へと飛び移り、そう言った。
「じゃあ決まりだな。どうせ大人数で移動ってことになるだろうし、俺と槻哉で車出そうぜ」
 意外と乗り気なのは、斎月だった。実は温泉行きの話を最初に持ちかけたのは、彼だったのである。
 このメンバーの中で車を自由に動かせるのは、斎月と槻哉だけ。
 斎月の言葉に槻哉は黙って頷き、立ち上がる。
「楽しい旅行にしたいね。皆が予定が合えばいいのだが」
「…やっりぃ! 久しぶりの温泉だーー!!」
 槻哉の話を聞いているのかいないのか。早畝はもう早旅行気分になり、その場でぴょん、と跳ねている。
 斎月もナガレもそれを呆れ顔で見てはいるが、その胸のうちは休暇の嬉しさでいっぱいなのか、何も言わずにいる。
 今月は立て込んだ仕事も無い。
 一泊であるが、楽しい旅行が出来そうだ。
温泉へ行こう!



「大変、大変だぁーーーーっ!!!!」
 バターン、と勢いよく開け放たれた扉。中にいた槻哉たちは当然それに驚き、斎月などは煙草を床に落としていた。
 扉を開けたのは、外から戻ってきた早畝だったのだ。
「……早畝、小さい子供じゃないんだから、もう少し落ち着きを…」
「それどころじゃないんだって!! 当たっちゃったの!!」
 槻哉が溜息を吐きながら、早畝の行動を窘めようと口を開けば、それを彼が遮って詰め寄ってくる。
「…なにが当たったんだい?」
 多少、引き気味になりながら。
 槻哉のデスクの上に右ひざを乗り上げている早畝を降ろして、話を促す。
「じゃーん! 温泉チケット!! そこの福引きやったら当たった!!」
「……………」
 びら、と槻哉の目の前に突きつけられたもの。
 そこには『一泊二日湯けむりの旅』と書かれた一枚のチケットがあった。
「な、なっ、俺凄いだろーー? だからさー、皆で温泉いこうぜ!」
「……まぁ、いいんじゃねーの? 休暇の話の途中だったんだしさ…」
 一人、自慢げに話す早畝に苦笑しながら、斎月が槻哉にそう言ってくる。
 実は早畝が此処にたどり着く前に、槻哉と斎月で休暇の打ち合わせをしていたのだ。早い話が忘年会のようなものだ。
「何の話?」
 斎月の話の内容がよく飲み込めていない早畝は、槻哉に小首をかしげながら問いかける。
「…斎月の言ったとおりだよ。休暇をとって温泉でも行こうかと話をしていたところだったんだ……」
 槻哉はそう応えて、早畝からチケットを受け取った。そして何か思いついたのか、顔を上げて早畝たちを見る。
「?」
「…僕らはもともと温泉へ行くという予定はあったんだ。このチケットは普段からお世話になっている協力者の人たちへのプレゼントとして、誘ってみる…と言うのはどうだろうか?」
 槻哉の提案にしては、珍しいとも取れる内容ではあるが。
 それでもこの場にいるもの達からは反対の声はあがらないようだ。
「俺も賛成だな」
 暖房の前で丸くなっていたナガレも、しっかり会話は聞いていたようでぴょん、と地を蹴って早畝の肩へと飛び移り、そう言った。
「じゃあ決まりだな。どうせ大人数で移動ってことになるだろうし、俺と槻哉で車出そうぜ」
 意外と乗り気なのは、斎月だった。実は温泉行きの話を最初に持ちかけたのは、彼だったのである。
 このメンバーの中で車を自由に動かせるのは、斎月と槻哉だけ。
 斎月の言葉に槻哉は黙って頷き、立ち上がる。
「楽しい旅行にしたいね。皆が予定が合えばいいのだが」
「…やっりぃ! 久しぶりの温泉だーー!!」
 槻哉の話を聞いているのかいないのか。早畝はもう早旅行気分になり、その場でぴょん、と跳ねている。
 斎月もナガレもそれを呆れ顔で見てはいるが、その胸のうちは休暇の嬉しさでいっぱいなのか、何も言わずにいる。
 今月は立て込んだ仕事も無い。
 一泊であるが、楽しい旅行が出来そうだ。


 事前に指定した場に、時間通りに現れた2台の車。
「チカ、皆来たよ」
 黒のロングコートを着た万輝が自分の手元に向かいそう声をかけると、ポケットからぴょこん、と顔を出したのは猫の姿の千影だった。
「待たせてしまったかな」
 万輝の目の前に停まった車から、槻哉が姿を現した。遅れてナガレが、彼の肩口から顔を出す。
 後ろに停まった車には、斎月と早畝が乗っており、早畝がこちらに向かって手を振っていた。
「ナガレちゃん、槻哉ちゃん、早畝ちゃんやっほ〜」
 その早畝に元気よく答えたのが、万輝のポケットの中にいる千影だった。右前足を出して、ふりふり、とそれを振っている。その直後に万輝の足元を通った風が千影にまで届き、彼女は身をすくめた。
「あたし、寒いのきら〜い」
 そう言いながら、ポケットの中へと隠れてしまう。
「かわいいお嬢さんを寒がらせては可愛そうだ。さ、どうぞ」
「……はい」
 槻哉が後部座席のドアを開け、万輝を案内した。その万輝の表情は、複雑だ。槻哉に対して、何らかの感情を抱いたのであろう。
「あれ?」
 槻哉の肩口に居たナガレが、彼らの荷物がないことに気がつき、首をかしげた。
「…荷物は先に、送ってあるから」
 ナガレの疑問に、ズバリと答えたのは万輝。
 口にもしていなかったのに、と驚くが、相手が相手なので、感心するほかに無い。
「じゃあ、そろそろ出発しようか」
 万輝がきちんと後部座席に座ったのを確認した槻哉は、斎月たちに合図を送り、自分も運転席へと戻った。
「…あったか〜い」
 千影は猫の姿のまま、ポケットからするりと現れ、万輝の膝の上に座る。
「二人とも、喉が渇いたらナガレに言うといい」
「はぁ〜い」
 ルームミラーを通して槻哉が投げかけてくる言葉にも、彼女が元気よく答えていた。
 万輝は窓の外を眺めて、押し黙っている。
 程なくして、車はゆっくりと動き出した。

「退屈じゃないか?」
 そう言って、万輝の膝の上に降りてきたのはナガレだった。そのナガレの上にどてーんと乗ってくるのは上機嫌の千影である。
「……別に…景色、綺麗だし…」
 千影の頭を撫でながら、万輝が視線を逸らしつつナガレの質問にそう答える。車はもう街並みを外れ、峠の中へと入った頃だった。
「うにゃん♪ ナガレちゃんは今日はその格好のままなの〜?」
「そうだなぁ…早畝に見つからなければ、ヒトにもなるかもしれないけどな」
 ゴロゴロ、と喉を鳴らして千影が擦り寄ってきた。動物同士のスキンシップといったところなのだが、彼女の主である万輝が、その光景を冷たい視線で見下ろしている。
 万輝の視線に苦笑し、千影から離れて予め槻哉が買っておいた飲み物を口で銜えて運ぶ。
「好きなの飲めよ。…あ、千影はこっちな」
 彼のよこにそれを置いたナガレは、千影に視線を合わせて意識をこちらへと向ける。
 千影はナガレを追うように、顔を上げた。
 一旦助手席へと戻ったナガレが口に銜えてきたのは、小さな魔法瓶。それを万輝へと手渡す。
「?」
「千影ならホットミルクがいいと思ってな。俺が朝に作っておいたんだ」
 眉根をよせた万輝に、ナガレが得意そうにそう言うと、千影がぱっと表情を変えて一度軽く飛び跳ねる。
「わ〜いっ チカ、ミルク大好き」
 千影の喜ぶ姿を見て満足したのか、ナガレは『熱いから冷まして飲ませてやってくれな』と言い残し、また助手席へと戻っていった。
「……………」
 万輝はまた、複雑な表情を崩せないでいる。
「ナガレちゃん、やさしーね」
 膝の上で尻尾をふりふり、としながら千影はご機嫌だ。その彼女に万輝は苦笑いを形どることしか出来ずに、時間を置いて手渡された魔法瓶のふたを開け、千影へとミルクを飲ませてやるのだった。



「え〜っ チカも一緒じゃいけないの〜?」
 あれから3時間ほど経ち、ようやく温泉宿へと辿り着いた特捜部の面子と万輝たち。用意された部屋で一息ついたあと、各自浴衣に着替えて、夕食の時間まで温泉に行こうと言う事になったのだが…。
「どうした」
 千影の声をうけて、斎月が万輝に声をかけてきた。
「あ、いえ…チカが…」
「チカも万輝ちゃんと一緒にお風呂入るぅ〜」
 斎月と万輝の間に割って入ってきたのが、人の姿になった千影だった。浴衣と羽織が良く似合っている。
「…あー…なるほどな」
 千影の主張に斎月が軽く笑う。そして万輝の頭を撫でながら、
「千影はオンナノコだろ。だから俺たちと一緒ってのは、無理だな」
 と言い聞かせるように伝えた。
「えーっ どうして?」
 千影は頬を膨らませながら、背の高い斎月に食って掛かるかのような態度でそう言った。彼女には何がいけないのか、いまいち理解が出来ないらしい。
「チカ、後で一緒に入ってあげるから…だから今は、部屋で待ってて」
 そんな彼女を宥めるのが、主である万輝だ。
 千影の肩の上に手を置き、諭すように目を見つめながら、そう言う。
「……………」
 それでも、千影には納得がいかないらしい。ぷぅ、と再び頬を膨らませた彼女は顔を逸らして部屋へと戻っていった。
「……お前も苦労すんなぁ…」
 くくく、と笑いながら、斎月は万輝の頭をくしゃくしゃに撫で回してそんな事を言う。
 そうこうしていると、早畝や槻哉も出揃い、万輝は彼らについて温泉へと足を向けた。

 時間にして、30分を過ぎたほどだろうか。
「チカ」
 部屋に残してきた千影が心配になったのか、万輝は早々に温泉から上がり、自分の部屋へと戻ってきた。
「あれぇ、万輝ちゃん早いね?」
 千影はテーブルの前でちょこんと座り、予め持ってきたらしい筆記用具を出して何かの準備をしているところだった。先ほどの不機嫌さは、何処にも見当たらずに。
 そんな彼女に肩を落とした万輝は軽い溜息を吐く。
「どうしたの? 万輝ちゃん」
「……いや、なんでもないよ。…チカ、皆のお土産でも買いに行く?」
「うんっ 行く〜♪」
 気分を変えるためにも、万輝が思いついたように彼女にそう言った。すると千影は嬉々として返事をする。それにほっとした万輝は、千影の手を引いて部屋を後にした。
 広いスペースの土産物コーナーは、その土地での限定品が主に揃えられていて、二人とも見て回るのが少しだけ大変なようであった。それでも千影は楽しそうに、万輝と手をつないだまま、色々なものに目を奪われているようだった。
「万輝ちゃん、ママ様にはお酒?」
「うん…そうだね」
 『ママ様』とは万輝の母親の事を指しているようだ。千影の言葉に答えながら、万輝が手にしたのは上等な日本酒。彼の母親はなかなかの酒豪らしい。
 千影に日本酒を持たせて、次に見繕い始めたのは同居している叔父への土産。料理をつくる人なのか、和食器を数点眺めている。そして直感で良いと感じたものを選び、会計へと運ぶ。…何故かは解りかねるが、実の父親への土産は、無いらしい。
 全てワレモノという事もあり、万輝はその場で土産を郵送で実家に送ることにした。手続きをしている間、千影は彼の傍でまわりに置いてあるガラスの小物を物珍しそうに眺め、人差し指で突付いてみたりしていた。
「あ、いたいた。万輝〜千影ちゃん、そろそろご飯だって」
 丁度土産コーナーを後にしたところで、早畝に声をかけられる。どうやら万輝たちを探していたらしい。
「はーい」
 早畝の言葉に元気よく返事をしたのは千影だった。そして楽しそうに万輝の手を引っ張り、早畝のほうへとかけていく。
 万輝は仕方なさそうにゆるく笑みを作りながら、彼女の後を追った。
 そこで合流した3人は、そのまま槻哉の部屋へと足を運ぶ。夕食は皆で楽しく、と決めたのは槻哉で、そのために彼の部屋は他の皆より大きい間取りになっているのだ。
「わぁ〜すご〜い」
 部屋に入ると、大きなテーブルには郷土料理が所狭しと並んでいた。千影が瞳をキラキラと輝かせながらそれらを眺めている。
「万輝くんも千影くんも、遠慮しないでくつろいでくれて良いからね」
 席へと座った彼らにそう言うのは、飲み物を持ってきてくれた槻哉だった。二人ともおそろいで、オレンジジュースが目の前に置かれる。
 皆でそろって『いただきます』と言った後は、小さな宴会会場と化した部屋で、万輝も千影も、特捜部の皆に囲まれて多少揉みくちゃにされながらも楽しい食事のひと時を過ごした。

「万輝ちゃん〜…?」
 夕食の時間を終え、部屋へと戻ってきた万輝は、日ごろの疲れもたまっていたのか用意されていた敷き布団の上に自分の体を預けると、そのまま夢の中へとすんなり入り込んでしまった。千影が声をかけても気がつきもしない。
「もぅ…万輝ちゃんってば…」
 千影は一人でブツブツとそんな事を言っては、テーブルの前に腰を下ろす。そして準備したままになっていた筆記用具をかちゃかちゃと取り出し、葉書のようなものに何かをサラサラと書き始めた。それも、数枚。丁寧にそれらを書き終えると、浴衣の袖の中にそれを入れて、物音を立てないように立ち上がり、静かに部屋から出て行く。
「…千影?」
「あ、ナガレちゃん」
 千影が一人でフロントまで辿り着いたときに、横から聞きなれた声がした。彼女が振り返るとそこには人型になったナガレが立っている。こっそりと部屋を抜け出し、宿内を巡って歩いていたようだ。
「どうした?」
「えっとね、チカのお家ではお出かけすると皆にお手紙だすの」
 千影はえへへ〜と笑いながら、自慢気に浴衣の袖から先ほどの紙を取り出し、それをナガレに見せる。
「へぇ…エライな」
 それはやはり葉書だったようで、たどたどしい文字であるが、心のこもった文字が見れてナガレは素直に感心していた。
「チカはね、万輝ちゃんとママ様とお家の皆と……あっ…後は内緒ぉ〜」
「?」
 一枚一枚をフロントの前で並べながら、千影は楽しそうにナガレにそう言う。後のほうのものはナガレにも内緒らしく、慌てて数枚を重ね合わせて、そのままフロントの横にある小さなポストの中へと葉書を落としていた。
「えへへっ あ、ねぇねぇナガレちゃん、お外にお散歩に行こう?」
「…ああ、そうだな」
 ひとつの役目を終え、千影は満足そうに笑いながら、ナガレに向き直る。そして思いついたかのようにナガレの袖口を引っ張り、庭へと続く廊下を指差してそんな事を言った。
 ナガレも特に断る理由も無いので、快く返事をする。
 そして二人は仲良く手をつなぎ、夜の庭へと散歩に出かけた。
 それから、10分くらいが経った頃。
 部屋で眠っていた万輝が何かに呼ばれたような感覚で、ふと目を覚ました。
「………チカ…?」
 ぼんやりと瞳をめぐらせると、そこには千影の姿が無い。
 ゆっくりと身を起こし、周りを見るとテーブルの上には絵葉書が数枚残された状態だった。
「…………………」
 無口なまま、万輝は千影を探しに部屋を出る。 
「…おっ 万輝。いいところに出てきたな」
「!」
 部屋を出た瞬間に、後ろから伸びてきた腕に、万輝は驚き体を硬直させる。
 よく確認をすると、まだ良いが醒めていないのか、上機嫌の斎月が万輝を後ろから抱きしめている状態になっていた。
「……あの…」
「こら斎月。万輝くんが嫌がっているだろう」
 どう対処しようか困っていると、その後ろから槻哉の声が聞こえてきた。
 見れば早畝もいる。皆、タオルを手に持って。
「………………」
 なんとなく、いやな予感が万輝の脳裏をよぎった。
「よっし、万輝〜風呂に行くぞ。お前さっき、さっさと出ちまっただろ。今度こそ俺らに付き合え」
 腕を解いたものの、斎月は万輝の肩の上に手を置いたままで、有無を言わさぬ勢いだ。
 万輝は万輝で、予想がものの見事に的中してしまい、眉間にしわを寄せている。
「…斎月、無理強いは良くない…」
「うるせぇよ槻哉」
 槻哉の言葉にも、斎月は強気だ。
「…ごめん万輝…斎月、なんだか悪酔いしちゃってるみたいで…」
 早畝が斎月と槻哉の間を割り込んで、申し訳なさそうにそんな事を言ってくる。
「……酒が抜けてない状態で、温泉はまずいんじゃ…」
「おらっ行くぞお前ら!」
 早畝にもっともな意見を言いかけた万輝だったのだが、斎月の勢いにそれも掻き消される。
 そして彼らは、そのまま大浴場へと引きずられてしまうのだった。
 温泉の中でも斎月の酔いは醒めずに、万輝はいいだけオモチャにされていた。
 『ちゃんと食ってるのか』と言っては腰のラインを触ってきたり、『ちまちま洗ってんなよ』と言うと同時に乱暴に髪を洗われたりと…槻哉と早畝が止めに入ってはくれたのだがそれも適わずに散々な目に遭ってしまう。
 そんなこんなで、フラフラになりながら部屋に戻ると千影が既に部屋に戻っており、にっこり笑顔で彼を出迎えてくれた。
「おかえり万輝ちゃん。…万輝ちゃんもお手紙書くよね?」
 万輝の気苦労なんてなんのその、な千影は、満面の笑みで残りの絵葉書を万輝へと手渡した。
「……………」
 まだ髪の毛からほかほかと湯気が出ている状態だったのだが、千影を無視することも出来ずに、彼は静かに筆を執る。
 ゆっくりと深呼吸した後、気持ちを新たに、絵葉書へとメッセージを書き込む。
 そうこうしているうちに、隣で座っていた千影が眠くなったのか、うつらうつらとし始める。
「…チカも疲れただろう。そろそろ寝ようか…?」
「………うん…」
 目をこすりながら返事をする千影に、万輝が柔らかく笑った。
 早々に葉書へのメッセージを書き込み、静かに筆をおいて、二人は布団へと足を運んだ。
「…おやすみなさい、万輝ちゃん…」
「おやすみ、チカ」
 千影はそれだけを言うと、ぽん、と音を立てて猫の姿へと戻り、万輝の傍へと寄ってくる。そして数分と待たずに寝息を立て始めた。
 そんな彼女を柔らかな笑顔で見つめ、万輝もゆっくりと自分の瞼を閉じるのであった。

 
 数日後。
 特捜部へと数枚の絵葉書が届いた。
「…それぞれにきちんと書いたんだな…マメなやつらだぜ…」
 斎月、早畝、ナガレ、槻哉に宛てられた絵葉書。一枚一枚、違う柄で、中に書かれたメッセージも違う。
 各自がその絵葉書を手にしながら、暖かな気持ちに包まれる中、ナガレが千影の言葉を思い出したのか、うっすらと笑っていた。
『チカはね、万輝ちゃんとママ様とお家の皆と……あっ…後は内緒ぉ〜』
 彼女の言う『内緒』とはこう言うことだったのか、と。
 絵葉書の差出人は、千影と万輝。
 幼さが抜けない文字の綴りは、千影。
 大人顔負けの文字は、万輝。
 槻哉宛には『誘ってくれて有り難うございました』と丁寧に書き込まれている。
「……良い育ち方をしているんだね、彼らは」
 ぽつり、と独り言のように漏らす、槻哉。
 それを早畝たちもきちんと聞き取り、深く頷く。
 ちいさな二人の、ささやかな気持ちをそれぞれに受けながら、彼らはまた仕事へと戻っていくのだった。





□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
            登場人物 
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【整理番号 : PC名 : 性別 : 年齢 : 職業】

【3480 : 栄神・万輝 : 男性 : 14歳 : モデル・情報屋】
【3689 : 千影・ー : 女性 : 14歳 : ZOA】

【NPC : 早畝】
【NPC : 斎月】
【NPC : 槻哉】
【NPC :ナガレ】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
           ライター通信           
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 ライターの桐岬です。今回は『温泉へ行こう!』へのご参加、ありがとうございました。

 栄神・万輝さま
 いつもご参加有り難うございます。可愛らしいプレイングで、とても楽しく書かせていただきました。
 途中、斎月が絡んでしまって万輝君も災難だったように思いますが…それでも楽しい思い出を作ることが
 出来たら良いな、と思っております。
 そして…納品が大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした(平謝)。
 今後は体調と相談しつつ、もっと計画性を持った行動を心がけようと思っております。

 ご感想など、お聞かせくださると嬉しいです。今後の参考にさせていただきます。
 もちろん苦情も受け付けます。遅れてしまい、本当に申し訳ありませんでした…(平謝り)。

 今回は本当に有難うございました。

 誤字脱字が有りました場合、申し訳有りません。

 桐岬 美沖。