■I’ll do anything■
九十九 一 |
【2592】【不動・修羅】【神聖都学園高等部2年生 降霊師】 |
都内某所
目に見える物が全てで、全てではない。
東京という町にひっくるめた日常と不可思議。
何事もない日常を送る者もいれば。
幸せな日もある。
もちろんそうでない日だって存在するだろう。
目に見える出来事やそうでない物。
全部ひっくるめて、この町は出来ている。
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福の神
寒空の中、怪奇探偵で名をはせている草間武彦の居る興信所の前に立つ男が一人。
「ようやくここまで来たぜ」
興信所の窓を眺めてニッと不敵な笑みを浮かべ階段を上がっていく。
その男不動修羅。
興信所のドアを開けた第一声が……。
「仕事無いか?」
興信所の主である草間が不機嫌そうに読んでいた新聞から顔を上げた。
「………不動か」
「なんだと思ったんだ?」
「依頼人だったら良かったのに」
「兄さん、そんな事言ったら失礼ですよ」
溜息のように吸い込んだ白い煙を吐き出す草間は、疑う余地もなくすさみきっていて、例の言葉も半ば素通りに近い。
理由は聞くまでもなく解った。
「そんなに仕事がないのか?」
「ぐっ……」
遊びに来たついでに仕事を貰おうなんて、夢のまた夢もいい所だったようである。
事件はどんな事であっても事件だ。
凶悪事件があって欲しいなんて事は言を口に出したりはしないが……何かそう、得意分野である怪奇絡みの事件が起きていたらと思ったのだ。
ここはそう言う事件ばかりが舞い込んでくる場所なのだから。
タイミングさえあればここにいるだけで事件に巻き込まれる事まれる事もある。巻き込まれた事は幸か不幸かは当人だけしか解らない事だろう。
最も何か事件を望んでここに来た修羅にとっては、今日は運がなかったようだと溜息を付き欠け顔を上げた。
「思ったんだが……」
「なんだ?」
イライラしている理由、もタバコが切れかけているらしいと気付き、そっちはほうって置く事にする。
指摘するだけ不機嫌になるだけだ。
「ここの閑古鳥鳴いてる原因だよ」
「し、仕事が来ない訳じゃない!!」
ドンッとデスクを叩けば、灰皿に山盛りになったタバコや灰がボロボロとこぼれ落ちる。
「確かに依頼は来ますよね、兄さんがタバコ買ったりしちゃうんですよね」
なるほどこう言う所も理由の一つなのかも知れない。
だが……。
「ここまで酷いのって理由があると思うがな」
「……俺の所為だって言いたいのか?」
「そうだけどそうじゃなくて」
肯定と否定を同時に告げながら、部屋の中をくるりと見渡しもしかしてと言葉を続ける。
「貧乏神でもいるんじゃないか?」
「……は?」
「儲かってるのにここまで金貯まらないなんてそうだとしか思えないだろ」
「そうかも……知れませんよね。だとしたら困りました、どうしたらいいんでしょう」
「………零」
あからさまに胡散臭いものでも見るような視線を修羅に向けながら、零を遠ざける草間。
この反応はあんまりではないかと思い、ムッとしつつ。
「信じてないのか、怪奇探偵のくせに」
「その名で呼ぶな」
「実際に確かめた方が早そうだな、この件を何とか出来たら報酬ってのはどうだ?」
貧乏が回避出来るのなら安いもんだろうと、ダメなら修羅がただ働きになってしまうと言う条件付きでの話だ。
草間にとっては悪い話ではなく、頷くのも当然の事だった。
「まあ……物は試しだしな、やってみるか」
「よし、じゃあいくぞ!」
神下ろし実行中。
降ろした神は福の神。
貧乏神を追い出し、同時に興信所に福をまねこうという完璧な計画………だったのだ。
降りてきた福の神の人格に問題があった事以外は。
「おい……不動」
「失礼でんな〜儂は福の神でっせ〜」
どこかしらか取りだしたそろばんをしゃかしゃかと振りつつ応接セットにでんと鎮座して居るのがそうである。
「……じゃあ福の神」
「なんでっか〜」
恰幅の良い体格で椅子を占領し、全く動かない。
それは……まあいい。
相手は福の神だ。
幸福をもたらしてくれる神様である。
「お待たせしました」
「ありがとさん〜」
お茶くみを要求し、ここの主のように振る舞っている福の神は零を一体なんだと思っているのか?
なんだか目つきがイヤラシいのである。
体つきも変わっている部分と不動修羅である部分が残っているので、いまいちありがたみが薄いのだ。
なにせ……傍目には修羅似の爺さんが零にセクハラをしているのである。
「きれいな手やなぁ〜」
「あの、ええと、こまります」
お茶を置いて手を引っ込めようとした零の手を握り撫でてはにぎにぎと……完全に下心があるとしか思えない。
ふと草間が考えた事は、修羅IN福の神との交渉は自分でしなければならないのだろうかという事だった。
「あー、ええっとだな」
呻きつつ零を引き離そうとした草間の目が一点で止まり、沈黙する。
距離は離したというのに、手首だけはしっかりと握られたままであるどころか……逆の手で零の手の甲を撫でているのだ。
「……兄さん」
「零から手を、は・な・せ!」
「へんもんやおまへんやろ〜」
「それでもだっ!!」
ばしっと手を叩いて渋々手を離すと思いきや、背を向けた零のお尻を撫で上げる。
「きゃあっ!」
「―――!!!」
「姉ちゃんええ乳してまんなぁ〜?」
触ったのは尻なのに何故胸の事を言うとか突っ込みをしている余裕すらない、カッとなった草間がズハンといい音をさせつつ殴りつける。
悲鳴を上げて吹っ飛んでいく修羅IN福の神。
草間の必殺の一撃が決まり、ゴロゴロと床の上を転がっていく。
次に起き上がる時は福の神は退散して、修羅の姿に戻ってしまっていた。
「なにするんだっ!?」
「なにがって、こっちの台詞だっ!!」
ガチャガチャと引き出しから銃を取り出し修羅に突きつける草間。
「妹になにしてくれてんだこのエロ閣下!!!」
「まてまてまてっ!!」
捕りだした獲物にさっと顔を青ざめさせる修羅、本気であると伝わった故なのだろう。
「あんなもん呼びやがって!」
「だーー!!!」
このままじゃ殺されると咄嗟に修羅が回避策を取る、つまるところ別の霊を降ろしたと言う事だ。
言ってしまえばこれほど単純な事はないと言うのに……。
「!!?」
はしっと草間の銃を白刃取りのように両手で挟み動きを止める。
「お、おまえは!」
「おちつけい!」
「いや、そうじゃなくて!」
何と言うべきか?
時代がかった口調は何か侍の様で……。
ギリギリと均衡状態であった硬直が不意にとかれる。
だっと窓の方に走り寄った修羅が外に向けて重き切り声を張り上げて叫んだのだ。
「だ、だいごろーーーー!!」
「わーーーーーーー!! まずい、それまずいっ、やめてくれ!!!」
色々な意味で危険である。
どうやら呼んだのは『子供を連れて逃亡の旅をする狼な侍』だったらしい。
「どこだーー!? だいごろう!!!」
「やめやめっ!!! 零、手伝ってくれ」
「はっ、はい兄さんっ」
二人がかりで窓から引き離し、わが子を捜そうとするの侍を宥めにかかる。
「だいごろーー」
「いや、だからな」
「だーいーごーろーーー」
話にならない。
「落ち着けっ」
「兄さん、暴力はダメですっ」
宥めて落ち着かせ帰ってもらうのに、少しばかりの時間を要した。
グッタリとソファーに伸びている草間と修羅。
「あー、つかれた……」
「それはこっちの台詞だっ! ますます客足が遠のく」
ぶちぶちと言いながら灰だらけの灰皿の中からまだ吸えそうなタバコを探し出し、短いそれに火を付ける。
「客足が遠のくって、福の神追い出したのあんただろう?」
「あんなもんおいといた方が有害だっ!!」
「兄さん、それぐらいにしてお茶にしましょう。不動さんもご一緒にどうぞ」
カチャリと置かれたお茶を飲みながら、ようやく一息つく。
この様子では今日はもう仕事はこなさそうだし、無駄足になってしまったようだ。
「はぁ……寿命が縮むかと思ったぜ」
深々と溜息を付く修羅。
ただのたとえ話のつもりなのだが……本日二度も霊を降ろした事で、本当に寿命が縮まっている事は当の本人は知らない事だった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0554/不動・修羅/男性/17歳/神聖都学園高等部2年生 降霊師】
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■ ライター通信 ■
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こういう事になりましたが、楽しんでいただけたか緊張してます。
福の神が逃げてしまいましたね。
興信所にこの後吹き荒れるだろう不幸が心配です。
発注ありがとうこざいました。
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