コミュニティトップへ



■ひとやすみ。■

朱園ハルヒ
【2291】【里谷・夜子】【高校生】
 いつもは慌しくしている司令室も、今日は穏やかだった。
 早畝はナガレとともに備え付けのテレビを見ているし、斎月は自分に与えられたデスクで煙草を咥えながら新聞に目を通している。
 槻哉はいつもどおりに中心のデスクに座りながら、パソコンを弄っていた。
 今日の特捜部には、仕事が無いらしい。
 事件が無いのはいい事なのだが…彼らは暇を持て余しているようにも、見える。
「早畝、お前学校は?」
「創立記念日で休みって、昨日言ったじゃん」
 斎月が新聞から顔をのぞかせながらそんなことを言うと、早畝は彼に背を向けたままで、返事を返してくる。
 見ているテレビの内容が面白いのか、会話はそのまま途切れた。
「……………」
 そこでまた、沈黙が訪れた。
 聞こえるのはテレビの音と、槻哉が黙々とキーボードを叩く音のみ。
 穏やかだと言えば、穏やかなのだが。
 何か、欠落しているような。
 それは、その場にいる者たちが全員感じていること。
 それだけ、普段が忙しいということだ。今まで、こんな風に時間を過ごしてきたことなど、あまり無かったから。
「たまにはこういう日もあって、いいだろう」
 そう言う槻哉も、その手が止まらないのは、落ち着かないから。
 秘書が運んできてくれたお茶も、これで三杯目だ。

 今日はこのまま、何も起こらずに終わるのだろうか。
 そんな事をそれぞれに思いながら、四人はその場を動かずに、いた。
ひとやすみ。

 いつもは慌しくしている司令室も、今日は穏やかだった。
 早畝はナガレとともに備え付けのテレビを見ているし、斎月は自分に与えられたデスクで煙草を咥えながら新聞に目を通している。
 槻哉はいつもどおりに中心のデスクに座りながら、パソコンを弄っていた。
 今日の特捜部には、仕事が無いらしい。
 事件が無いのはいい事なのだが…彼らは暇を持て余しているようにも、見える。
「早畝、お前学校は?」
「創立記念日で休みって、昨日言ったじゃん」
 斎月が新聞から顔をのぞかせながらそんなことを言うと、早畝は彼に背を向けたままで、返事を返してくる。
 見ているテレビの内容が面白いのか、会話はそのまま途切れた。
「……………」
 そこでまた、沈黙が訪れた。
 聞こえるのはテレビの音と、槻哉が黙々とキーボードを叩く音のみ。
 穏やかだと言えば、穏やかなのだが。
 何か、欠落しているような。
 それは、その場にいる者たちが全員感じていること。
 それだけ、普段が忙しいということだ。今まで、こんな風に時間を過ごしてきたことなど、あまり無かったから。
「たまにはこういう日もあって、いいだろう」
 そう言う槻哉も、その手が止まらないのは、落ち着かないから。
 秘書が運んできてくれたお茶も、これで三杯目だ。

 今日はこのまま、何も起こらずに終わるのだろうか。
 そんな事をそれぞれに思いながら、四人はその場を動かずに、いた。



 小一時間ほど、過ぎたころに。
 早畝が黙っているのに限界を感じ始めたのか、落ち着きの無い行動を始めた。テレビはつけっぱなしで、その辺をうろついたり、槻哉のパソコンを覗き込んだり。
 そんな彼を見てナガレは深いため息を吐き、口を開く。
「おい早畝、散歩にでも出かけようぜ」
 すると早畝は子犬のように瞳を輝かせて、こくこくと頷いた。
「行く行くっ もー退屈で…」
「…まぁそんなわけだ、ボス。俺ら二人、ちょっと散歩してくるな」
 早畝の子供っぽい仕草に苦笑しつつ、ナガレの言葉にしっかりと頷いた槻哉は『気をつけて』と言いながら、彼らを見送る。
「いってきまーす」
 着込んだジャケットに、マフラーを首に巻きつけ、その隙間にナガレが入り込むと。
 二人は司令室を後にした。

 冷たい北風が吹く中で。
 リードを手にした少女が、元気のよい柴犬とともに散歩をしていた。
 以前早畝たちに協力をしてくれた、里谷夜子である。
 人懐こいその柴犬は彼女の飼い犬ではなく、旅行へと出かけている間預かっている、隣の家の犬だった。ちなみに名はゴローと言うらしい。
「……あら?」
 夜子がゴローとともに、道路を渡ろうとしたときに瞳の端で捕らえた、人影。
 それは先ほど特捜部のビルから出てきた、早畝とナガレの姿だった。
 彼女がそこで立ち止まったまま動かなくなってしまったので、ゴローが急かすように『ワン』と元気良く吠える。
 その声にナガレが気がつき、そして早畝も夜子の姿を瞳で捕らえたのか笑顔でこちらへと掛けてくる。
「夜子ちゃん!」
「こんにちは…先日はどうも」
 笑顔の早畝につられるかのように、夜子もふわりと笑いながら、彼の言葉に答えて軽く頭を下げた。彼女の微笑みは、見る人すべてを穏やかにさせる。
「こっちこそ、こないだはありがとな。また会えて良かったよ」
 ナガレがぴょこん、と早畝のマフラーから顔を出した状態で、夜子へと声をかけた。すると彼女はナガレにも丁寧に、ぺこりと頭を下げている。
「今日は…この子と散歩なんだ? 夜子ちゃん家の犬?」
「あ、いいえ…お隣の犬を預かっているんです。ゴローちゃんって言うんですよ」
 早畝が犬に視線を落としながらそう言うと、ゴローは尻尾を振って愛想を振りまいている。
「あは…可愛いなぁ」
 元から動物好きな早畝は、前足を上げて喜びを表現しているゴローに手を伸ばして、頭を撫でたり前足を持ったりしていた。
「…早畝さんたちは、今日もお仕事ですか?」
「ああ、いや…今日は暇でな。じっとしてるのはコイツの性分でもないし、散歩してる最中だったんだ」
 夜子がにこにことしながら早畝にそう声をかけると、それに答えたのはナガレだった。外の空気が冷たい為か、未だに彼のマフラーの中に入ったままだ。
「あら…それでは宜しければうちでお茶でも如何ですか? ここから少し歩いた所なんです」
「え、いいの?」
「はい」
 次の夜子の言葉に反応したのは、早畝。元気よく立ち上がって、わくわくしながら彼女を見つめている。その姿を間近で見て呆れているのは、ナガレだ。
「…では、行きましょうか」
 そんな二人にくすくすと笑い、夜子は彼らを案内すべく、帰路へと足を向けた。早畝とナガレはその彼女の後ろを、遅れを取らないように付いて歩く。
 散歩の再開となったゴローも、彼女の横で嬉しそうに歩いていた。

 夜子の家はささやかな造りではあるが、立派な日本家屋の佇まいだった。
 その家屋に神社が隣接しているのは、彼女の祖父が持つものらしい。
「どうぞ」
「いただきます」
 居間に通された二人は、そこで彼女が昨日作ったというおはぎとお茶を差し出されて、遠慮なく口へと運ぶ。
「美味い!」
 適度な甘さのそれは、早畝の幸福度を一気に上げていく。お菓子が大好きな彼には、丁度良いおやつになったようだ。
 ナガレも隣で食べながら、『美味いな』と言っている。
「餡子はお隣さんの手作りを頂いたんです、おいしいですよね」
 本当に美味しそうに食べる早畝たちを見ながら、夜子は満足気に微笑む。そしてベランダの外で水を待っていたゴローへと水の入った器を置いてやり、頭を撫でてやっていた。
「洋菓子もいいが、俺はこう言った和菓子のほうが好きだな」
 こくこく、とお茶を丁寧に飲みながら、ナガレがそんな事を言う。
 それを耳にした夜子が、彼の隣へと足を運びそこで腰を下ろした。
「私、こんなふうにのんびりとお茶を飲む時間が好きなんです…。ナガレさんも同じ、ですか?」
「ああ、そうだな。落ち着いた場でゆっくりまったりするのが、一番いい」
 自分用に入れたお茶を手に、夜子がそう問いかけてくるとナガレはこくりと頷いて、言葉を返す。
 すると夜子は嬉しそうに微笑みながら、お茶を口にした。
「……友達にはよく『年寄りくさい』って言われるんですけどね」
 そう言う彼女は、ふふふ、と笑う。
「『奥ゆかしい』って言うんだぜ? おまえらしくて、俺は好きだけどな」
 ナガレが独り言のようにそう返すと、夜子はまた、穏やかな微笑へと表情を変えていく。
「ありがとうございます」
 いつの間にかおはぎを食べ終えた早畝がベランダの窓から庭へと出て、ゴローと戯れている。そんな彼へと視線を移し、また幸せそうに笑う。
「ゴローちゃん、遊んで貰えて良かったですね」
 そう、ゴローへと声をかけると早畝が『あれ?』と首をかしげた。
「ゴローって、もしかして女の子?」
「そうですよ」
 夜子は何も、不思議に思っていないのか、簡単に早畝の問いに答えてくる。
 早畝は名前から、その犬がオスだと思っていたらしく、ポリポリと頭を掻いていた。すると脇からゴローが早畝めがけて飛び込んできて、そのまま彼はゴローと一緒に芝生の上に転がった。コロコロと数回転がった後は『やったな、ゴロー』と言いながら、早畝は全身でゴローの相手を再開する。結局は、ゴローがメスであろうが、遊び相手には変わりは無い。まるで子供が遊び戯れるかのように、早畝とゴローはその後も暫く、その場で遊び続けていた。
 夜子とナガレは、その姿を見ながらぽつぽつと会話を続け、ゆったりとした時間をすごすのだった。


 太陽が、西へと傾きかけたころに。
 ようやく早畝たちは、夜子の家を後にしようと席を立つ。
「すっかり長居しちまった…悪かったな」
「いいえ…私も楽しかったですし。それに…普段仕事に追われるお二人に、少しでものんびりとしてもらいたかっただけですので…」
 ナガレの言葉にそう答えた夜子は、その手に丸い器を持ちながら、微笑む。
 そんな、彼女の優しい心遣いにナガレも早畝も、暖かい気持ちになる。
「今度、特捜部にも遊びにおいでよ。夜子ちゃんなら、いつでも歓迎するし」
 へへ、と笑いながらそんな事を言うのは早畝だ。
「ありがとうございます。……あの、これ。先ほどのおはぎです。たくさん作りましたし、宜しかったら特捜部の皆さんへどうぞ」
 その早畝の言葉に、また優しい笑顔で答えながら、彼女は手にしていた器を彼に差し出した。それに、おはぎが入っているらしい。
「うわ…ありがと。槻哉とか喜ぶと思う」
 素直にそれを受け取った早畝は、満面の笑みで、答えて見せた。
「じゃあ、今日は楽しかった。本当にありがとな」
「お気をつけて」
 早畝の肩の上に再び乗ったナガレが、夜子へと前足を上げてそれを振る。手を振っているつもりなのだろう。
 夜子はくす、と笑いながらそれに答えて、自分も右手を上げた。
 そして玄関先で彼らを見送り、姿が見えなくなるまで、その場で手を振り続けていた。

 早畝もナガレも、いい日を過ごせたと思いながら、美味しいおはぎを槻哉たちにも食べさせるために、駆け足で特捜部へと戻っていくのであった。






□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
            登場人物 
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 : PC名 : 性別 : 年齢 : 職業】

【2259 : 里谷・夜子 : 女性 : 17歳 : 高校生】

【NPC : 早畝】
【NPC : ナガレ】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
           ライター通信           
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 ライターの桐岬です。今回は『ひとやすみ。』へのご参加、ありがとうございました。
 

 里谷・夜子さま
 今回もご参加ありがとうございました。
 優しい夜子さんのおかげで、早畝もナガレもとても楽しい一日を過ごせたようです。ほんわかなプレイングをありがとうございました。
 そして、今回は納品が遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした。
 今後はこのようなことが無いように、心がけていきたいと思っています。

 ご感想など、聞かせていただけると幸いです。今後の参考にさせていただきます。
 今回は本当に有難うございました。

 誤字脱字が有りました場合、申し訳有りません。

 桐岬 美沖。