コミュニティトップへ




■祈りの向かう先■

里子
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
 それは――誰のためですか?

 扉は今日も耐えている。
 古風なベルのついたその扉は来客を涼やかな音で店主に知らせる。極普通に無造作に開けられた扉のベルはその力と同じささやかさで、ちりりんと可愛らしい音を立てる。
 見た目ばかりは美女な店主は、その音に顔を上げた。
「あら、いらっしゃい」
「いつものを」
 そういって迷わずカウンターに歩み寄ったのはまだ若い男である。慣れた風に注文をしてカウンターの席に腰掛けると、その膝の上にこれまた迷わず漆黒の仔猫が飛び上がった。
「あら」
「おやおや。彼もいつものが欲しいようですよ?」
 その通りだと言うようににゃーと仔猫は泣いた。
 くすくすと笑いながら仔猫の頭を撫でる男、何かにありつけると知ってか喉を鳴らす黒い仔猫、肩を竦めてカップを手にする店主――概ね平穏で穏やかな午後だ。
 その終わりを告げたのは今日も耐えている扉であった。
 バン! ちりりりりりりりん!
 蹴破るような轟音で扉が開かれる。その勢いにけたたましくベルがなる。
「何処だ!」
 その轟音の主は来訪を告げる言葉も発せず行き成りそう怒鳴った。男の膝の上の仔猫がぴやっと背の毛を逆立て慌てて男の膝から逃げる。まるで天敵を見つけたかのようだ。店主は溜息を吐き、客である男は膝から逃げてしまった仔猫を名残惜しそうに見送る。
 そう、今日『も』扉は耐えている。
 毎度毎度蹴破らんかの勢いで己を蹴り開けてくれるこの襲撃者の仕打ちに。
「あら? 翔螺ちゃん?」
「そうだ僕だ! だがわかっていることをわざわざ口に出さなくてもいいぞ権左衛門!」
「……なん、ですって?」
「耳が悪いのか重松! 僕は生憎いい病院は知らないんだ不要だからな!」
 凍った空気もなんのその、わははと大声で笑った闖入者は目ざとくも店の隅へと目を向ける。おおクロだ! こいこいタマ、メリーと好き勝手に名前を呼びつつ、闖入者は毛を逆立てて逃げようとする仔猫を捕獲して高々と掲げる。
 ぎにゃーっと断末魔の悲鳴を上げ出す仔猫を横目で見やって、カウンター席のスーツの男は溜息を吐いた。
「……サチコさん」
「何かしら?」
「あなたいつから権左衛門だの重松だのになったんです?」
「そうそうこの間お客様から砒素を頂いたのよ。是非味見してくださる?」
「結構です」
 聖母のように微笑む店主に同じく人好きのする笑顔を向けつつ、男はさらっと提案を却下する。
 それに気勢を殺がれたか、それとも未だに鳴いている猫に哀れを催したのか、店主は溜息を吐いて被りを振ると、闖入者に向き直った。
「それで、何が何処だ? なの?」
「おおそれだ!」
 どれだ、とは店主、サチコは聞き返さなかった。聞き返しても無駄だという事を知っていたからである。この闖入者、名を西園寺・翔螺(さいおんじ・かけら)、当年二十八歳の独身女性というだけでも色々アレなのだが、挙句生業は弁護士でしかもかなりの敏腕ときている。世の不条理を体現している存在だが当人はそんな不条理は全く意に介してはいなかろう。
 そしてその不条理な弁護士先生がここを訪れる理由も大概の場合不条理なものであったりする。
「子供が子供じゃないのだ!」
 カウンターのストールに片足をずばんと乗せ、翔螺は腕を組んで胸を張る。
 本人は自信満々だが、それでは何がなにやらわからない。サチコは溜息を落とすと、辛抱強く聞き取りを始めた。
 辛抱強く聞き取った内容はこうである。
 子供の様子がおかしい。そう翔螺に言ってきたのは、その子供の母親でもなんでもない、単純に近所に住まう女子高生だったらしい。なんでも小学校の『お受験』を控え塾通いをしていた子供だったらしいのだが、その様子がある日を境にがらりと変化したというのだ。
 それまでは塾を嫌がり、母親の腰に縋って泣くことも多かった子供が、いつの間にか泣くことをやめていた。母親に言われるまま大人しく道を歩いている。そればかりか言葉遣いや態度までまるで『お受験見本品』へと変わってしまったというのだ。
 いくらなんでもおかしいと母親に尋ねてみても、母親としては現状が目標だったのだから取り合ってもくれない。しつこく問い質して漸く一つの事柄だけがわかった。
「神社にお参りした、ねえ」
「だからそういっているのだ!」
 いや言ってない。とはやはりサチコは突っ込まなかった。無駄だからである。
 お受験祈願で母親たちの間では密かに評判になりつつある神社へ子供と共に参拝した結果、子供はレッスンを嫌がらなくなり、そしてそのレッスンそのものも完璧にこなすようになったのだと言うのである。
「だがそんな子供は子供じゃない!」
 翔螺は大声で言い切る。確かにそんな子供は子供ではない。そんな状況がまともとも思えない。
「……なるほどねえ」
 溜息を吐いたサチコは胸元に逃げ込んできてぶるぶると震えている仔猫の頭を撫でた。いつの間にか常連客の姿がなかったが、それを翔螺に告げることはしなかった。

 そしてコルクボードにまた一つ依頼が張り出される。
祈りの向う先

 ――確かにそれは愛であったはずなのに。

 その喫茶店の中はいつもその時間に満ちている。朝訪れようと昼訪れようと夜訪れようと、その時間の中に。それに気付けるものは極少数だが、その時間に、その喫茶店は満ちている。
 ――黄昏時に。
 何処となくその時間を肌で感じる者にも、そして感じない者にも、まるで気にしない者にも、その時間の中にある喫茶店は不思議と居心地がいい。
 尤も今はそうでもない。少しばかり肌を刺激するその黄昏が強すぎる気がして、シュライン・エマ(ー)はぞっと肌を粟立てた。どうしたのと聞いてくるママになんでもないと返しながらもなんでもなくなど無いことは理解していた。
 この店の黄昏が今深いのは、間違いなくコルクボードのせいだ。
 それに気付いているのか居ないのか窺わせない表情でサチコのコーヒーのおかわりを頼んだのは綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)である。
「私の仕事場にも子供は良く来ますけど……、急にって……転機に出会った訳でもないのにおかしいですね」
「それ自体が転機に通じていたのかもしれないわよ――普通に考えるならね」
 香り高いコーヒーをカップに注ぎながら、サチコが薄く笑んだ。シュラインはそれに肩を竦める。
「ネェさん、自分でも信じてないことを言うのはどうかと思うわよ?」
「あら分かった?」
 悪びれもせずに言うサチコに、シュラインは息を吐き出す。
「神社が怪しいことは間違いなさそうね」
「そうですね、今時そこまでご利益のある神社って言うのもないと思いますし」
 少しばかり難しい顔で、汐耶はカップを受け取った。何もカップの中身に問題があるわけではない。問題があるのは話題の方だ。シュラインにも同じようにカップを差し出したサチコは、一見女にしか見えない顔に憂いを帯びた笑みを浮かべる。
「――それで?」
 どうするのか? その声に出さない問いかけを二人は聞いた。聞き取ることが出来た。
「お請けします」
「一寸、心当たりもあるしね」
 言葉はそれぞれ違えども、それは肯定だった。

「そんな年にはまだ早いんだけど……」
「晩婚と早婚の間が広まってるだけでしょ。問題ないわ、高校にも行かずに子供産む女が居る世の中なんだし」
 溜息を吐くシュラインの背を押したのは大和・鮎(やまと・あゆ)である。シュラインは言われて肩を落とした。確かに10台で子供を産む女など珍しくも無いが――
「私がそういうタイプの女に見えるの?」
「勿論見えないわ」
 にっこりと微笑んでいっそ清清しい程にきっぱりと鮎が答える。シュラインは思わず額を押さえた。
「あのね……」
「だけどねぇ。私よりもよっぽど適任じゃないかしら?」
「……」
 そう言われるともう黙るしかない。21歳の鮎よりも自分のほうが、間違いなく『子持ちに適した年齢』なのだ。
 お受験年齢のお母様方はそれぞれ伝を作って情報交換などに興じる。殆どが益体もない子供自慢の席なのだろうが、それでも話題にはなる筈だ。件の『良い子になる神社』のことは。流石にネットなどのお受験サイトにその存在はほのめかしさえされていなかったが、実際に生身で体当たりすれば話も違う。不特定多数のライバルが見るかもしれないHPには書けずとも、『良い子になった子供自慢』はしたいのが定石。それを知りたいのならばどうするか。
 答えは同類に成りすます、である。
 そして鮎とシュライン、どちらが適任かといえばそれはシュラインのほうに決まっている。
 そして最早鮎は何も言わない。ただにっこりと笑ってシュラインに行動を促すのみだ。シュラインは苦虫を噛み潰したような顔から深く嘆息し、そして苦笑した。
「はいはい。わかった分かりました!」
 降参というように諸手をあげたシュラインに鮎は一双晴れやかに笑った。それにシュラインは少しだけ意地悪く口の端を吊り上げる。
「私は苗字が大和で名前がエマ。そして子供の名前は鮎って設定で行くわよ」
「…………え?」
 鮎の笑顔が罅割れる。それでも笑顔のままどうしてそんな必要が? と尋ねてくる鮎にシュラインはさらっと答えた。
「必要はないけど設定は必要でしょう。それともなにか不都合があるの?」
「……」
 特に無い。否、一つあるといえばある。
 単純に嫌である、鮎自身が。
 だがそれを言ってどうなる。シュラインだって嫌なのだ、お受験の子を持つ母親の役など。必要だからやるだけの話であって、やりたいわけでは全く無い。だから単純に嫌だという理由で反論も出来ない。
「……頑張って」
「健闘を祈ってて頂戴」
 手を振ったシュラインの後頭部を、鮎は人目が無いことを確認してからぎろっと睨みすえた。
 この勝負、シュラインの判定勝ちであった。

 持ち帰った情報を確認しあう拠点となるのはやはり黄昏の店である。ここの店主は客を邪険にはしない。客でなくともあまり邪険にはしない。そしてコルクボードの依頼を受けた相手もまた邪険にしない。サービスもしないが。
 窓際のテーブルを二つくっつけて、一同はそれぞれの情報を交換した。
 似たような年頃の子供を持つ母親になりきってお母様方の会議に入り込んでいたシュラインはげっそりと疲労した様子を隠そうともせずに肩を落とした。
「実際、噂にはなり始めているみたいね。ただ新入りの母親にはやっぱりガードが固いのよ。聞き出そうとはしたんだけど、はっきりとした言質は取れなかったわ」
「その間に近所も少し聞いて周ってみたんだけど、こっちは全く収穫ナシね。お受験専用神社なんてものは、あの近所には存在しないわ。少なくともそんなもの専用の神社があるなんてことは、誰も思ってないの」
 鮎もそれに倣うように肩を落とす。だがそれは情報が得られなかったと言うことを意味しない。
「つまり母親が隠したがるようなご利益は存在していて、それに対して周囲の人は無自覚だってことね」
 シュラインがそう纏める。
「それならもう少し補強できると思います。私――達は図書館と、それから一応神社も見てきましたが――」
「なんか小さい神社だったけどねー」
 汐耶の発言の微妙な間に気付かないままに高台寺・孔志(こうだいじ・たかし)が答える。新久・孝博(しんきゅう・たかひろ)も頷いた。
「本当に小さなものでした。即席の宝くじ売り場のようなものがあるばかりで。神社自体がそれほど妙なものには……」
「……それって、もしかしてお守りとか売ってるみたいな?」
 冴木・紫(さえき・ゆかり)が横から口を出す。それに孝博は頷いた。
「ふうん、つまり売ってるわけね」
 シュラインより更に疲れている風情の紫が傍らの結に同意を求める。四方神・結(しもがみ・ゆい)もまた頷きを返した。
「私達はその子供さんの家へ直接行ってきたんですけど……」
「どうもね、神社だけが問題じゃないみたいなのよ」
「つまりお守りですか?」
 孝博の問いかけに、結と紫が同時に頷く。母親はお守りにこそご利益があるといって子供に買い与えているという。
「一応……こっそり、そのお守りは子供さんの鞄から掠めてきたんですけど……」
 申し訳なさそうに言う結の肩を、紫がぽんと叩く。そしてテーブルにそのお守り袋をぽんと置く。何の変哲も無い、ただのお守りに見える。それは結や孔志のような多少の感応を持つものの目にも同じことだった。
「それで何か変化はあったの?」
 孔志に尋ねられ、紫は首を振った。
「取って逃げてきたのよ。まだわかんないわよそんなことは」
 なるほど真面目そうな結が申し訳なさそうにするわけである。そこで汐耶が会話に割って入った。
「神社なんだけど、資料によれば祭られてるのは昔雷に打たれた古木らしいわ。由来は省くけど、少なくとも受験に関わりがあるようには――」
 とても思えない。そういうように汐耶は首を横に振る。
 黙って報告を聞いていたシュラインがここでポンと手を叩いた。
「そうね、神社が問題だとして。もう少し詰めてみましょう」
「具体的には?」
 鮎が尋ねるとシュラインは軽く頷き、紫が投げ出したお守りを指差した。
「子供の変化とこのお守りに因果関係があるなら子供の様子を探る必要があるわ。それから神社ね。神社なら宮司さんが居るはずでしょう?」
 汐耶が頷いた。
「複数の神社の掛け持ちのようですけど、宮司さんはいらっしゃいます。一応、住所も控えてあります」
「ならその線ね。お守りが関係しているなら、宮司さんが知らないはずが、ないのよ」
 ふと己の発言に自身なさげに、シュラインは口を閉じた。だが次の瞬間にはもう顔を上げている。その含みに気付いたのは紫のみだった。正確にはその含みの意味するところに、だが。
「じゃあ宮司さんとこと、子供の張り込み――それに直で神社を見てくると。三手に分かれればいいわけね?」
「そうですね。えと、私や紫さんは子供さんの様子を探るのは避けたほうがいいと思います。お母さんにもう顔が知れてるし……」
「同じ理由で神社方面も行った人はやめたほうがいいかもね。同じ人間が調べて出てくるのはきっと同じものな気がするから」
 結の言葉を鮎が引き継ぐ。
 結局、神社へは紫とシュライン、宮司の元へは汐耶と孝博、結、そして子供の見張りに鮎と孔志がそれぞれ出向くこととなった。

「……紫」
 道すがら硬い声で名前を呼ばれ、紫はシュラインを振り仰いだ。紫も身長はある方だが、シュラインのほうがそれよりもまだ高い。多少上に位置する瞳を紫は見つめ返した。
「どう、思う?」
「――多分同じこと思ってると思うけど」
 集まったメンバーの中でそれを感じられるのはシュラインと紫の二人だけだ。感触がある。恐らく『犯人』が隠そうともしていないその『犯人』の感触が。
「だから神社志願してそれで私引っ張ってきたんでしょ?」
 言われてシュラインは固い顔のまま頷いた。
「サチコネェさんの話を聞いたときから思ってたのよ。あの男ならこのくらいは出来るわ――人格を分裂させたように、今度は邪魔な人格を封じたとも、考えられない?」
「勉強を嫌がる、人格ってことね。十分在り得ると思うわ。それで子供がどーなろうとアレは知ったこっちゃないんだろうし」
「そして母親の願いを顕在化させる。十分やりかねない……目的は聞くだけ無駄だろうけど」
 紫はそれにきょとんと目を瞬かせた。
「あるじゃない目的なら」
「何よ?」
「実験」
 あまりにもさらりと言われ、シュラインは頭を抱えた。そんな問題かと怒鳴りたくなる気力さえ奪われて、額に手を当てたまま沈黙する。それに紫は軽く笑って見せた。
「落ち込むことは無いんじゃない? 本気じゃないって事なんだからそれは」
「それは……どういうこと?」
「本気じゃないから、実験段階だから。後始末がつかないと困るから、こうやって糸口が残ってるんだと思うわよ。解決してくれって言われてるのと同じよこれは」
「……あの男に?」
 紫は一瞬黙った。その一瞬だけ、顔に敵愾心が確かに浮かぶのを見て取ったシュラインは肩の力を漸く抜いた。
「じゃあ精々きちんと解決してやりましょうか……気に食わないけど、あの男の為にじゃないわ。子供の為によ」
「そういうことよねー。ねーところでエマさんエマさん」
「なによ?」
「ところであのお守りって、聞き分けの悪い大人とかにも有効だとちょっとありがたいんだけどどうなのかしらねー?」
 誰に持たせたいのか候補者が数名即座に頭に浮かんだシュラインは、無言で紫の後ろ頭を張り飛ばした。

 件の宮はガイドブックにも載っていない小さなものだった。それどころか普段は無人の、宮司も他所との兼任の正月と祭りの季節だけ扉が開くような、そんなところだったのだ。地元の人間でも殆どは何が奉られているのか知らない。最近になって漸く、常時アルバイトを置いてお守りやおみくじの類を売り出したという。
 問題はそのお守りだった。どの母親も一律にそれを購入して、子供の持ち物につけていたのである。試しにそれを取り上げると、亡羊としていた子供には少しだけ生気が戻った。完全に戻ったわけではない。まるで夢から覚めた後のような、ぼんやりとした様子を示したのだ。
 バイトは何も知らなかった。それどころか兼任宮司さえも、何も知らなかった。宮司に至ってはそこでお守りの販売が始まったことさえ知らなかったのだ。
 そして、神社の扉は固く閉ざされていた。宮司から借り受けた鍵を使おうと、決して開きはしなかった。

 彼らはその結果を、神社へと攻撃を仕掛けるもの達に託した。そこまでが、今彼らに与えられていた仕事だった。

 そしてその店の黄昏は薄くなる。濃すぎる黄昏の戦慄とは無縁となったその店のカウンターで、一同はサチコから事の顛末を聞いていた。
「――ご神体が二つ?」
 問い返した汐耶に、サチコが深く頷く。
「祭壇が二つ、あの神社にはあったそうよ。その内の一つからこんなものが出てきたらしいの」
 サチコがエプロンのポケットから出してカウンターに乗せたのは中国人形だった。古びてはいるが服装からそれであることが分かる。
「なにこれ?」
 サービスのパンの耳をかじっていた紫が不思議そうにそれを指で突付いた。
「小脚娘娘(しょうきゃくにゃんにゃん)の人形、だってよ」
 襲撃にも参加していた孔志が頭の後ろで手を組んで言った。どこかふてくされて居るようにも見える。同じく孝博もまた沈痛な面持ちでその人形を指し示した。
「――中国で奉られていた神の一種で、纏足の神様だそうです」
「てんそく?」
 汐耶の眉が顰められる。然るに汐耶にはその知識があるのだろう。
 纏足は、足の指を足の裏側に押し曲げて小さな足を保つというもので、理想は大人の男の掌にすっぽり納まる程度だったという。三歳〜五歳くらいの時に施術を始め、小さな足を作る。人工的に足を破壊してしまう。今でなら立派な幼児虐待だ。
「それって……」
 結が言い辛そうに眉を顰めた。
 当時の母親達は子供の足を愛ゆえに破壊した。泣き叫ぶ子供の声に耳を塞ぎ、小さな足こそこの子供の幸せの為だと思いその足を破壊したのだ。
 鮎がきっぱりという。
「随分と、もって周った揶揄ね」
 泣いて嫌がる子供を受験へと向わせる。それもまた多分、愛故なのだ。子供らしさを破壊しても、それでも愛故に。
「全くね」
「ほんっとに嫌な話だわね」
 シュラインと紫が顔を見合わせた。
 サチコが流石に困ったように微笑んだが、彼女はそれ以上の言質を、誰にも与えなかった。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【1021 / 冴木・紫 / 女 / 21 / フリーライター】
【1449 / 綾和泉・汐耶 / 女 / 23 / 都立図書館司書 】
【2529 / 新久・孝博 / 男 / 20 / 富豪の有閑大学生(法学部)】
【2936 / 高台寺・孔志 / 男 / 27 / 花屋:独立営業は21歳から】
【3580 / 大和・鮎 / 女 / 21 / OL】
【3941 / 四方神・結 / 女 / 17 / 学生兼退魔師】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 こんにちは、里子です。今回は参加ありがとうございます。遠大に遅れてしまいまして申し訳ありません

。<平伏

 コラボ作品文章パート。戦闘での解決編はカゲローさんのゲームコミックの方でどうぞお確かめ下さい。
 頻度は激しくありませんが、以降時折一つの事件を二局面から追うタイプのコラボはやっていければと思

います。今回は初めてのことで色々と不手際がありましたことをお詫びいたします。

 今回はありがとうございました。また機会がありましたら、宜しくお願いいたします。