コミュニティトップへ




■祈りの向かう先■

里子
【3941】【四方神・結】【学生兼退魔師】
 それは――誰のためですか?

 扉は今日も耐えている。
 古風なベルのついたその扉は来客を涼やかな音で店主に知らせる。極普通に無造作に開けられた扉のベルはその力と同じささやかさで、ちりりんと可愛らしい音を立てる。
 見た目ばかりは美女な店主は、その音に顔を上げた。
「あら、いらっしゃい」
「いつものを」
 そういって迷わずカウンターに歩み寄ったのはまだ若い男である。慣れた風に注文をしてカウンターの席に腰掛けると、その膝の上にこれまた迷わず漆黒の仔猫が飛び上がった。
「あら」
「おやおや。彼もいつものが欲しいようですよ?」
 その通りだと言うようににゃーと仔猫は泣いた。
 くすくすと笑いながら仔猫の頭を撫でる男、何かにありつけると知ってか喉を鳴らす黒い仔猫、肩を竦めてカップを手にする店主――概ね平穏で穏やかな午後だ。
 その終わりを告げたのは今日も耐えている扉であった。
 バン! ちりりりりりりりん!
 蹴破るような轟音で扉が開かれる。その勢いにけたたましくベルがなる。
「何処だ!」
 その轟音の主は来訪を告げる言葉も発せず行き成りそう怒鳴った。男の膝の上の仔猫がぴやっと背の毛を逆立て慌てて男の膝から逃げる。まるで天敵を見つけたかのようだ。店主は溜息を吐き、客である男は膝から逃げてしまった仔猫を名残惜しそうに見送る。
 そう、今日『も』扉は耐えている。
 毎度毎度蹴破らんかの勢いで己を蹴り開けてくれるこの襲撃者の仕打ちに。
「あら? 翔螺ちゃん?」
「そうだ僕だ! だがわかっていることをわざわざ口に出さなくてもいいぞ権左衛門!」
「……なん、ですって?」
「耳が悪いのか重松! 僕は生憎いい病院は知らないんだ不要だからな!」
 凍った空気もなんのその、わははと大声で笑った闖入者は目ざとくも店の隅へと目を向ける。おおクロだ! こいこいタマ、メリーと好き勝手に名前を呼びつつ、闖入者は毛を逆立てて逃げようとする仔猫を捕獲して高々と掲げる。
 ぎにゃーっと断末魔の悲鳴を上げ出す仔猫を横目で見やって、カウンター席のスーツの男は溜息を吐いた。
「……サチコさん」
「何かしら?」
「あなたいつから権左衛門だの重松だのになったんです?」
「そうそうこの間お客様から砒素を頂いたのよ。是非味見してくださる?」
「結構です」
 聖母のように微笑む店主に同じく人好きのする笑顔を向けつつ、男はさらっと提案を却下する。
 それに気勢を殺がれたか、それとも未だに鳴いている猫に哀れを催したのか、店主は溜息を吐いて被りを振ると、闖入者に向き直った。
「それで、何が何処だ? なの?」
「おおそれだ!」
 どれだ、とは店主、サチコは聞き返さなかった。聞き返しても無駄だという事を知っていたからである。この闖入者、名を西園寺・翔螺(さいおんじ・かけら)、当年二十八歳の独身女性というだけでも色々アレなのだが、挙句生業は弁護士でしかもかなりの敏腕ときている。世の不条理を体現している存在だが当人はそんな不条理は全く意に介してはいなかろう。
 そしてその不条理な弁護士先生がここを訪れる理由も大概の場合不条理なものであったりする。
「子供が子供じゃないのだ!」
 カウンターのストールに片足をずばんと乗せ、翔螺は腕を組んで胸を張る。
 本人は自信満々だが、それでは何がなにやらわからない。サチコは溜息を落とすと、辛抱強く聞き取りを始めた。
 辛抱強く聞き取った内容はこうである。
 子供の様子がおかしい。そう翔螺に言ってきたのは、その子供の母親でもなんでもない、単純に近所に住まう女子高生だったらしい。なんでも小学校の『お受験』を控え塾通いをしていた子供だったらしいのだが、その様子がある日を境にがらりと変化したというのだ。
 それまでは塾を嫌がり、母親の腰に縋って泣くことも多かった子供が、いつの間にか泣くことをやめていた。母親に言われるまま大人しく道を歩いている。そればかりか言葉遣いや態度までまるで『お受験見本品』へと変わってしまったというのだ。
 いくらなんでもおかしいと母親に尋ねてみても、母親としては現状が目標だったのだから取り合ってもくれない。しつこく問い質して漸く一つの事柄だけがわかった。
「神社にお参りした、ねえ」
「だからそういっているのだ!」
 いや言ってない。とはやはりサチコは突っ込まなかった。無駄だからである。
 お受験祈願で母親たちの間では密かに評判になりつつある神社へ子供と共に参拝した結果、子供はレッスンを嫌がらなくなり、そしてそのレッスンそのものも完璧にこなすようになったのだと言うのである。
「だがそんな子供は子供じゃない!」
 翔螺は大声で言い切る。確かにそんな子供は子供ではない。そんな状況がまともとも思えない。
「……なるほどねえ」
 溜息を吐いたサチコは胸元に逃げ込んできてぶるぶると震えている仔猫の頭を撫でた。いつの間にか常連客の姿がなかったが、それを翔螺に告げることはしなかった。

 そしてコルクボードにまた一つ依頼が張り出される。
祈りの向う先

 ――確かにそれは愛であったはずなのに。

 その喫茶店の中はいつもその時間に満ちている。朝訪れようと昼訪れようと夜訪れようと、その時間の中に。それに気付けるものは極少数だが、その時間に、その喫茶店は満ちている。
 ――黄昏時に。
 何処となくその時間を肌で感じる者にも、そして感じない者にも、まるで気にしない者にも、その時間の中にある喫茶店は不思議と居心地がいい。
 さて、全く気にしないものであるところの冴木・紫(さえき・ゆかり)は、全くと言っていいほど無い持ち合わせに、カウンターにへばりついて唸っていた。
「……オナカすいたー……」
「パンの耳ならあるわよ?」
「…………鳥扱いなんですか」
「そうね」
「はいはいはいはい! 鳥でいいです! 貰います!」
 四方神・結(しもがみ・ゆい)と、大和・鮎(やまと・あゆ)の二人が呆れたような声を出すのに一切構わず、がばっと身体を起こした紫は挙手してカウンターから身を乗り出した。貧乏は紫から人間のプライドも剥ぎ取ったらしい。流石にそのまま食わせるのは哀れに思ったか、ジャムやバターもサービスで出してやりつつ、サチコは苦笑した。
「まあ同じとは言えないけど大分『人間らしくない』事は確かなのよ」
 その言葉に、結と鮎の顔に緊張感が戻る。
 この黄昏の店のコルクボードに何かが張り出されている時。それがこの店の黄昏をより一双濃いものとする。その憂いの時間の色を。
「そうね、親の聞き分けのいいだけの子供なんて、そんなのお人形さんみたいなものじゃない」
 紅茶のカップから立ち昇る湯気を顎に当てながら鮎が言うと、本日のケーキにフォークを刺した結もそれに同意した。
「そうですよね……」
 ぶすっとそのままフォークを突き立て、結は憤懣やるかたないという風情でぎっとコルクボードを睨んだ。
「第一神社をそんなことに利用するなんて許せません!」
 趣味が神社めぐりであるところの結にはそれが何より許せないらしい。
 苦い顔で沈黙する鮎、怒りを顕にする結、そして幾らか食べた後ナプキンに残りのパンの耳を包みだす紫。その三者を眺め、サチコは尋ねた。
「――それで?」
 その問いかけには三者三様の反応は返らない。それでこのコルクボードの依頼をどうするのか。そんなことは聞かれるまでもなく決まっていた。

「ぬかったわ」
「何がです?」
 サチコから貰った住所の紙を握り締め真剣な面持ちで低く呟いた紫に、結は心配そうに問いかけた。このあたりまだまだ人生経験が――正確には紫経験がだが――中々足りてない。
 その誰が見ても真剣としか言いようのない表情のまま、紫は手にしている大き目のバッグをぎゅっと抱きしめる。
「バターとジャムも貰ってきとくべきだったわ。糖分さえ追加できれば三日は生き延びられたのに」
「……………」
 ごんと結は電信柱に頭を打ち付けた。何を言ってくれているのだこの一見綺麗で有能そうなお姉さんは。しかも電柱に頭を打ち付けた結をやっぱり真面目な顔して気遣ってくるのだからたまらない。
「どうしたの? ちょっと今結構いい音したわよ?」
「どうかしたもなにもないですよ! 気にするところはそこなんですか!」
「っふ。お嬢ちゃんまだまだ世の中ってものをわかってないわね」
「……なんですか?」
 いいこと! と紫は人差し指を立てて宣言する。
「依頼が完遂しても即日現金は手に入らないのよ! しかも大概の場合は銀行振り込み! こういう仕事の場合は処理が終われば振り込んでくれるけど、場合によっては月末締めの翌月!」
「……は、はあ……?」
「それまでどう生き延びるのかという問題が発生するのよここに! しかも真っ先に家賃とか光熱費とかが落ちてくから残るとは限らないし!」
「……はい」
「わかった? つまり目先を生き延びる為に実に深刻な問題なのよこれは!」
「……ていうかあの。一体どんな生活を……」
 聞きかけて結は口を噤んだ。なんとも言いようのない気配が紫のその細い身体から立ち昇り始めている。
「……聞きたい?」
「力の限り遠慮します」
 とても賢明な判断だった。そういうするうちに目的の家が見えてくる。
「じゃあ行きましょう!」
 結が選択した調査方法は実に簡単明瞭。件の母親の元へ特攻をかけるというものだった。それに何故紫がついてきたかといえば、
『女子高生一人じゃ舐められるでしょー?』
 という理由からだったが、結は今それが単なる建前であることを正確に読み取っていた。
(……絶対ケーキだ、このお姉さんの目的……)
 結の手には手土産用にと喫茶店でテイクアウトしてきたケーキの箱があった。

 持ち帰った情報を確認しあう拠点となるのはやはり黄昏の店である。ここの店主は客を邪険にはしない。客でなくともあまり邪険にはしない。そしてコルクボードの依頼を受けた相手もまた邪険にしない。サービスもしないが。
 窓際のテーブルを二つくっつけて、一同はそれぞれの情報を交換した。
 似たような年頃の子供を持つ母親になりきってお母様方の会議に入り込んでいたシュライン・エマ(ー)はげっそりと疲労した様子を隠そうともせずに肩を落とした。
「実際、噂にはなり始めているみたいね。ただ新入りの母親にはやっぱりガードが固いのよ。聞き出そうとはしたんだけど、はっきりとした言質は取れなかったわ」
「その間に近所も少し聞いて周ってみたんだけど、こっちは全く収穫ナシね。お受験専用神社なんてものは、あの近所には存在しないわ。少なくともそんなもの専用の神社があるなんてことは、誰も思ってないの」
 鮎もそれに倣うように肩を落とす。だがそれは情報が得られなかったと言うことを意味しない。
「つまり母親が隠したがるようなご利益は存在していて、それに対して周囲の人は無自覚だってことね」
 シュラインがそう纏める。
「それならもう少し補強できると思います。私――達は図書館と、それから一応神社も見てきましたが――」
「なんか小さい神社だったけどねー」
 綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)の発言の微妙な間に気付かないままに高台寺・孔志(こうだいじ・たかし)が答える。新久・孝博(しんきゅう・たかひろ)も頷いた。
「本当に小さなものでした。即席の宝くじ売り場のようなものがあるばかりで。神社自体がそれほど妙なものには……」
「……それって、もしかしてお守りとか売ってるみたいな?」
 紫が横から口を出す。それに孝博は頷いた。
「ふうん、つまり売ってるわけね」
 シュラインより更に疲れている風情の紫が傍らの結に同意を求める。結もまた頷きを返した。
「私達はその子供さんの家へ直接行ってきたんですけど……」
「どうもね、神社だけが問題じゃないみたいなのよ」
「つまりお守りですか?」
 孝博の問いかけに、結と紫が同時に頷く。母親はお守りにこそご利益があるといって子供に買い与えているという。
「一応……こっそり、そのお守りは子供さんの鞄から掠めてきたんですけど……」
 申し訳なさそうに言う結の肩を、紫がぽんと叩く。そしてテーブルにそのお守り袋をぽんと置く。何の変哲も無い、ただのお守りに見える。それは結や孔志のような多少の感応を持つものの目にも同じことだった。
「それで何か変化はあったの?」
 孔志に尋ねられ、紫は首を振った。
「取って逃げてきたのよ。まだわかんないわよそんなことは」
 なるほど真面目そうな結が申し訳なさそうにするわけである。そこで汐耶が会話に割って入った。
「神社なんだけど、資料によれば祭られてるのは昔雷に打たれた古木らしいわ。由来は省くけど、少なくとも受験に関わりがあるようには――」
 とても思えない。そういうように汐耶は首を横に振る。
 黙って報告を聞いていたシュラインがここでポンと手を叩いた。
「そうね、神社が問題だとして。もう少し詰めてみましょう」
「具体的には?」
 鮎が尋ねるとシュラインは軽く頷き、紫が投げ出したお守りを指差した。
「子供の変化とこのお守りに因果関係があるなら子供の様子を探る必要があるわ。それから神社ね。神社なら宮司さんが居るはずでしょう?」
 汐耶が頷いた。
「複数の神社の掛け持ちのようですけど、宮司さんはいらっしゃいます。一応、住所も控えてあります」
「ならその線ね。お守りが関係しているなら、宮司さんが知らないはずが、ないのよ」
 ふと己の発言に自身なさげに、シュラインは口を閉じた。だが次の瞬間にはもう顔を上げている。その含みに気付いたのは紫のみだった。正確にはその含みの意味するところに、だが。
「じゃあ宮司さんとこと、子供の張り込み――それに直で神社を見てくると。三手に分かれればいいわけね?」
「そうですね。えと、私や紫さんは子供さんの様子を探るのは避けたほうがいいと思います。お母さんにもう顔が知れてるし……」
「同じ理由で神社方面も行った人はやめたほうがいいかもね。同じ人間が調べて出てくるのはきっと同じものな気がするから」
 結の言葉を鮎が引き継ぐ。
 結局、神社へは紫とシュライン、宮司の元へは汐耶と孝博、結、そして子供の見張りに鮎と孔志がそれぞれ出向くこととなった。

 宮司と言っても掛け持ちともなると普段から神主の格好と言うものではないらしい。尤もそれは掛け持ちであろうとなかろうと同じことなのかもしれないが。だが今回に限ってはどこかの軽い神事に出かけた直後であったらしく、それらしい服装で宮司は現れた。
 そしてそれらしい服装の宮司は完全に小首を傾げた。
「……どういうことですか?」
「どういうことと聞きたいのはこちらの方です」
 民族文化を調べているという汐耶の言葉を疑うことなく三人を招じ入れた宮司は話を聞いて仰天したようだった。
 各地区に点在する小さな神社の類は専門の宮司は折らず近隣の大きな神社の宮司がかけもちでそれを努めることが多い。土地の者が代々引き継ぐ兼業宮司の場合もあるが、そうでない場合はこの宮司のように十数もの神社を掛け持っている場合が多いのである。
 ――従って個々の事情にも疎くなると言うことでしょうか。
 孝博は間違いなく仰天している様子の宮司をみてそう心中で呟いた。
「ええと、本当にご存じないんですか?」
 結に必死の顔で詰め寄られ、宮司は深く頷いた。
「ええ、確かにその神社は私が宮司をかけもたせて頂いていますが――神事の場合しか行くことはありませんし、そんな販売所が出来ているという話も始めて聞きます」
「あの神社のご神体についてはご存知ですか?」
「ええ、確か古木の破片、だったと思います。土地の古いものを祭ってある神社は多いですから、少し自信がないですが」
 汐耶は素早く孝博と結に目配せを送る。事実、この宮司は何も知らない。そもそもお守りなどが販売できる『ご利益』のない神社だとはじめから知っている。だからこそ困惑している。
「そうですか。お騒がせして申し訳ありません」
「お待ちなさい、そのお守りと言うのは本当ですか?」
 当然のことを宮司にとわれ、思わず結と孝博は口ごもった。しかし汐耶は全く騒ぐことなく、さらりと答えた。
「いえ、そうした小さな土着の神社ではそういうものを販売したりはしないのか、そう聞いたつもりだったのですが?」
「そう、ですか?」
 あまりにもきっぱりと言い切られ、宮司は口を噤んだ。噤むしかなかったのだろうなあと、どこか暢気に結はそう考えた。

 件の宮はガイドブックにも載っていない小さなものだった。それどころか普段は無人の、宮司も他所との兼任の正月と祭りの季節だけ扉が開くような、そんなところだったのだ。地元の人間でも殆どは何が奉られているのか知らない。最近になって漸く、常時アルバイトを置いてお守りやおみくじの類を売り出したという。
 問題はそのお守りだった。どの母親も一律にそれを購入して、子供の持ち物につけていたのである。試しにそれを取り上げると、亡羊としていた子供には少しだけ生気が戻った。完全に戻ったわけではない。まるで夢から覚めた後のような、ぼんやりとした様子を示したのだ。
 バイトは何も知らなかった。それどころか兼任宮司さえも、何も知らなかった。宮司に至ってはそこでお守りの販売が始まったことさえ知らなかったのだ。
 そして、神社の扉は固く閉ざされていた。宮司から借り受けた鍵を使おうと、決して開きはしなかった。

 彼らはその結果を、神社へと攻撃を仕掛けるもの達に託した。そこまでが、今彼らに与えられていた仕事だった。

 そしてその店の黄昏は薄くなる。濃すぎる黄昏の戦慄とは無縁となったその店のカウンターで、一同はサチコから事の顛末を聞いていた。
「――ご神体が二つ?」
 問い返した汐耶に、サチコが深く頷く。
「祭壇が二つ、あの神社にはあったそうよ。その内の一つからこんなものが出てきたらしいの」
 サチコがエプロンのポケットから出してカウンターに乗せたのは中国人形だった。古びてはいるが服装からそれであることが分かる。
「なにこれ?」
 サービスのパンの耳をかじっていた紫が不思議そうにそれを指で突付いた。
「小脚娘娘(しょうきゃくにゃんにゃん)の人形、だってよ」
 襲撃にも参加していた孔志が頭の後ろで手を組んで言った。どこかふてくされて居るようにも見える。同じく孝博もまた沈痛な面持ちでその人形を指し示した。
「――中国で奉られていた神の一種で、纏足の神様だそうです」
「てんそく?」
 汐耶の眉が顰められる。然るに汐耶にはその知識があるのだろう。
 纏足は、足の指を足の裏側に押し曲げて小さな足を保つというもので、理想は大人の男の掌にすっぽり納まる程度だったという。三歳〜五歳くらいの時に施術を始め、小さな足を作る。人工的に足を破壊してしまう。今でなら立派な幼児虐待だ。
「それって……」
 結が言い辛そうに眉を顰めた。
 当時の母親達は子供の足を愛ゆえに破壊した。泣き叫ぶ子供の声に耳を塞ぎ、小さな足こそこの子供の幸せの為だと思いその足を破壊したのだ。
 鮎がきっぱりという。
「随分と、もって周った揶揄ね」
 泣いて嫌がる子供を受験へと向わせる。それもまた多分、愛故なのだ。子供らしさを破壊しても、それでも愛故に。
「全くね」
「ほんっとに嫌な話だわね」
 シュラインと紫が顔を見合わせた。
 サチコが流石に困ったように微笑んだが、彼女はそれ以上の言質を、誰にも与えなかった。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【1021 / 冴木・紫 / 女 / 21 / フリーライター】
【1449 / 綾和泉・汐耶 / 女 / 23 / 都立図書館司書 】
【2529 / 新久・孝博 / 男 / 20 / 富豪の有閑大学生(法学部)】
【2936 / 高台寺・孔志 / 男 / 27 / 花屋:独立営業は21歳から】
【3580 / 大和・鮎 / 女 / 21 / OL】
【3941 / 四方神・結 / 女 / 17 / 学生兼退魔師】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 こんにちは、里子です。今回は参加ありがとうございます。遠大に遅れてしまいまして申し訳ありません。<平伏

 コラボ作品文章パート。戦闘での解決編はカゲローさんのゲームコミックの方でどうぞお確かめ下さい。
 頻度は激しくありませんが、以降時折一つの事件を二局面から追うタイプのコラボはやっていければと思います。今回は初めてのことで色々と不手際がありましたことをお詫びいたします。

 今回はありがとうございました。また機会がありましたら、宜しくお願いいたします。