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■Unnumbered Episodes■

西東慶三
【4563】【ゼハール・―】【堕天使】
「アドヴァンスド」には、個体ごとに異なっている点も多いが、共通している点も少なくない。
 そうした「共通している点」の一つに、彼らの「ひと」に対する興味があげられる。

 そして実際、彼らは時々「ひと」の前に姿を現す。

 この物語も、そんなケースのうちの一つである……。

−−−−−

ライターより

・シチュエーションノベルに近い形となりますので、以下のことにご注意下さい。

 *シナリオ傾向はプレイングによって変動します。
 *ノベルは基本的にPC別となります。
  他のPCとご一緒に参加される場合は必ずその旨を明記して下さい。
 *プレイングには結果まで書いて下さっても構いませんし、
  結果はこちらに任せていただいても結構です。
 *これはあくまでゲームノベルですので、プレイングの内容によっては
  プレイングの一部がノベルに反映されない場合がございます。
  あらかじめご了承下さい。
Risky Challenge

 夕闇が、辺りを覆い始めた頃。
 ゼハールは、人気のない通りを行く一人の男を見つめていた。
 ぱっと見た限りでは、ただの若い外国人男性のようにしか見えないだろう。
 だが、ゼハールは彼の正体を知っていた。

「コーン」と呼ばれるその男は、最近あちこちで能力者との争いを繰り返しているらしい。
 その戦闘能力はかなり高く、実際、彼と戦った組織のいくつもが壊滅的打撃を受けていると聞いている。

 その彼を、自分の手で狩ってみたい。
 最初は、ほんのそれだけの話だった。





 音もなく、コーンの目の前に降り立つ。
「何の用ですか?」
 いぶかしげな視線を向けてくるコーンに、ゼハールは開口一番きっぱりとこう言いはなった。
「私は堕天使ゼハール。あなたを狩りにきました」
 その言葉を、コーンは軽く笑い飛ばす。
「あまり面白くありませんね。冗談はその格好だけにして下さい」
 しかし、口ではそう言いながらも、内心ではだいぶ腹を立てているのをゼハールは見逃さなかった。
「その強がりの方が、私には冗談に聞こえますが」
 そう言い返すと、さすがに二度目は腹に据えかねたのか、コーンの顔にかすかな怒りの表情が浮かんだ。
「強がり、ですか。全く、無知とは恐ろしいものですね」
 そこを、だめ押しとばかりにさらに挑発する。
「無知なのはあなたの方ではありませんか、コーン様?」
 ことここに至って、コーンもついに怒りを爆発させる、かと思いきや。
 意外にも、彼は無理矢理に笑顔を作ってこう言ったのだった。
「いいでしょう。私もあなたが泣き叫んで命乞いをするところが見たくなりました。遊んであげますよ」

 もっとも、その顔は少しも笑っているようには見えなかったが。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「あれだけのことを言ったのだから、よほど自信があるのでしょう。さっさとかかってきたらどうです」
 これもまた意外なことに、コーンは自分から仕掛けてこようとはしなかった。
 先に相手の手の内を見ようという作戦なのか、それとも、単なる自信過剰なのか。
 それはわからなかったが、いずれにせよ、せっかくもらったチャンスをムダにする手はない。

「では、行かせていただきます」
 そう宣言して、ゼハールはじっとコーンの瞳を見つめる。
 すると、次第にコーンの視線が宙をさまよい始め、やがて構えが崩れて完全に無防備な状態になった。
 ゼハールの持つ特殊能力の一つ「快楽の魔眼」である。
 いかに相手が強かろうと、この状態にしてから斬りかかれば、あっさりと勝利することができる。

 だが。
 コーンのあの様子は全て偽りだと、ゼハールの本能が告げていた。
 つまり、「快楽の魔眼」は、一切効果を現してはいないのである。
 だとすれば、コーンのあの様子は、それを逆用した罠に間違いない。
 おそらく、こちらが安易な攻撃を仕掛けようとするところを、不意をついて反撃するつもりだろう。

 少し考えて、ゼハールはそれをさらに逆用することを思いついた。
 今こちらから仕掛ければ、コーンは自分の策が成功したものと思い、安易な反撃を仕掛けてくることだろう。
 それをかわして、必殺の一撃を放てれば。
 とはいえ、そのためには、少なくとも相手が反撃してくるまで、相手の策が成功していると思わせる必要がある。
 そこで、ゼハールはあえて真っ向からコーンに向かって突撃した。
 手にした大鎌を思い切り振り上げ、あたかもそのまま切り下ろすような顔をして、鎌の間合いギリギリまで入る。
 すると、案の定コーンは懐に飛び込んでの攻撃を狙ってきた。
 もちろん、ゼハールはすでにそれを読んで大きく後ろに跳んでいる。
 しかし、それでもコーンの拳はゼハールの鼻先をかすめていった。
 その予想以上の攻撃の鋭さに、ゼハールの計画が一気に狂う。
 本来ならばここで短く持ち直した鎌による一撃を見舞うはずだったのだが、先ほどの攻撃で出鼻をくじかれてしまったせいか、攻撃に転じるのが間に合わない。
 さらに悪いことに、安易な反撃がくるはずだという読み自体が外れていたらしく、コーンの攻撃はまだ続いていた。
 流れるような動きでの後ろ回し蹴りを、かろうじて大鎌の柄で受け止め、体勢を立て直すためにいったん大きく下がる。
 コーンはそれを追撃してこようとはせず、結局二人は最初と同じくらいの距離を置いて再び対峙することになった。

「裏の裏、ですか。着眼点はなかなかですが、自分の能力を考えてからやるべきでしたね」
 勝ち誇ったように、コーンが嘲笑する。
「さて、まさかこんなつまらない一発芸しかないわけではないでしょう?」

 強い。
 少なくとも、ゼハールの当初の想像を二回りは上回っている。

 とはいえ、今さら退くわけにもいかないし、見逃してくれるとも思えない。
「では、これではどうです?」
 そう言って、手にしている大鎌「ミッドガルド」の瘴気を解き放った。
 全てを腐らせ、分解する瘴気が、辺りに広がっていく。
 あとは、放っておいても瘴気が徐々に相手の身体を蝕んでいくだろう。
 だが、相手がそれまで待ってくれるとは考えにくい以上、瘴気の浸透を早めるためにも、ミッドガルドの真の力を示すためにも、やはり何とかして相手に直接傷をつける必要があった。

 再び、ゼハールがコーンに突撃をかける。
 瘴気の影響があるのか、相手の動きは先ほどより若干鈍くなっているようにも思えた。
 それでも、コーンとゼハールの実力はほぼ互角だった。
 コーンの攻撃をゼハールが受け止め、ゼハールの攻撃をコーンがかわす。
 それを、数十回ほど繰り返した後。

 お互いの攻撃が、同時に相手をとらえた。
 コーンの鋭いミドルキックが、ゼハールの左脇腹に直撃する。
 そのかわりに、ミッドガルドの刃も、コーンの左肩に深々と突き刺さっていた。

 どちらからともなく、再び距離をとる二人。
 ゼハールの受けたダメージも決して小さくはないが、コーンの受けたダメージはそれ以上だろう。
 少なくとも、これであの左腕はまもなく使い物にならなくなる。

 ゼハールが、そう思った矢先のことだった。
「この程度の傷で、勝ったつもりですか?」
 コーンが、にやりと意味深な笑みを浮かべた。
 おそらく、自己再生能力か何かがあるのだろう。
 けれども、そのようなものが役に立たないことを、彼はすぐに思い知ることになる。
「この『ミッドガルド』には強い呪いが込められています。
 この鎌でつけられた傷を癒すことはできません」
 どうせ聞きはしないだろうと思いながら、ゼハールはそう通達した。
 呪いを解かない限り、何をしようとあの傷口はふさがりはしない。
 それどころか、どんどん広がっていくのだ。

 ところが、そうとは知らないコーンは、相変わらず余裕の表情を浮かべている。
「そうですかね?」
 バカにしたようにそう言うと、コーンは傷口の方をちらりと見て――。

 次の瞬間、コーンの身体がぼやけた。

「!?」

 ただの目の錯覚、ではない。
 その証拠に、先ほど肩につけたはずの傷が、影も形も見あたらなくなっている。

 回復、などという生やさしいものではなかった。
 ほんの一瞬の間に、彼は傷を受けた部分や瘴気に冒された部分の肉体を傷ごと分解し、瞬時に正常な状態で再構成したのである。

 それだけのことを、顔色一つ変えずに行うとは。
 今さらながら、ゼハールは自分がケンカを売った相手がいかに厄介な相手であったかを改めて思い知らされた。

 さらに、それに追い打ちをかけるような言葉が、コーンの口から出る。
「ふさがらない傷口なら、傷口ごとなくしてしまえばいいだけのことです。
 いいかげん、くだらない小細工はやめていただきたいものですね」

 小細工。
 大蛇ミッドガルドの猛毒と呪いを、小細工呼ばわりとは。

「さて、これで気は済みましたか?」
 薄笑いを浮かべたまま、コーンがこちらに向かって一歩を踏み出す。
「もう少し考えて行動すべきでしたね。一対一で私に勝てるものなど、この世に存在しないのですから」
 その表情からにじみ出るのは、自分の強さに対する絶対の自信。
 だが、それが全てまやかしのものであることに、ゼハールは気づいていた。

「ならば、なぜあなたは自分の仲間を恐れているのです?」
 一言、ゼハールははっきりとそう指摘した。
 そうすることによって、相手の動揺を誘えるかもしれないと考えたのである。

 けれども、その行動は完全に裏目に出た。
 図星を指すことによってコーンを動揺させるはずが、彼を激昂させる結果となってしまったのである。

「言うなぁっ!」
 その叫び声とともに、二度の衝撃がゼハールを襲った。
 最初は前から、一瞬の後には後ろから。
 体当たりで吹き飛ばされて、後ろの壁に叩きつけられたと気づくのには、数秒の時間を要した。

 速い。
「閃光のような」という表現が、何の違和感もなく当てはまるほどに。

 とにかく、何とかして体勢を立て直さなくては。
 そう思って、顔を上げると――悪鬼のような姿に変じたコーンが、すでに目の前に立っていた。

 崩れた壁から身を起こす暇もなく、胸元を踏みつけられ、さらに深く瓦礫の中へと沈められる。
「この私を侮辱した罪……あなたの命程度で償えるものではありませんよ?」

 絶対的に不利な体勢。
 反撃に移ろうにも、そのための糸口すら見つからない。

「最大の苦痛と屈辱、それこそがあなたにふさわしい罰です」
 脚に力が込められ、全身の骨が嫌な音を立て始める。
 おそらく、彼がその気になれば、このままゼハールを踏みつぶすことも可能なのだろう。
 しかし、コーンにそんな単純な終わらせ方を選ぶ気はさらさらなさそうだった。
「人間どもの見ている前で、あなたを生きたまま『解体』してあげますよ。
 指をねじ切り、目玉をえぐり出し、はらわたを引きずり出してね!」
 そういうやいなや、コーンはゼハールの首を鷲掴みにすると、強引に瓦礫の山から引き抜き、そして無造作に表通りの方へと投げ飛ばした。

 その時だった。
 地面に叩きつけられるよりも早く、何かがゼハールの身体をすくい上げた。
 グリフォンの翼を持つ巨大な蛇――ハイレスである。
「ハイレス!」
 ハイレスの背にまたがり、五メートルほど上空へと上がる。
 コーンはその様子を黙って見つめていたが、やがて凶悪な笑みを浮かべてこう言った。
「仲間がいましたか。それなら、そのヘビも一緒に合い挽き肉にしてあげましょう」
 さらに、それだけでは言い足りなかったのか、続けてこんな暴言を吐く。
「あなたに連なるモノ全て、私がこの手で殲滅してあげますよ」

 ゼハールに連なるもの全て、となれば。
 含まれるのは、ゼハールとハイレス、そしてゼハールの生みの親であり主でもある魔神。

 この瞬間、ゼハールにとってのこの戦いの意義が変わった。
 単なる私闘から、魔神に敵対するものとの戦いとなったのである。

「私はともかく……私の主に危害を加えることは許しません!」

 勝たねばならない。
 ここでゼハールが敗れるようなことがあれば、次は魔神の方にとばっちりがいくことになる。
 それだけは、絶対に避けねばならない。
 例え、いかなる手段を使っても。

 再び、ミッドガルドの瘴気を解き放つ。
 どうせ先ほどと同じような手段で防がれてしまうだろうが、それでも少し動きを鈍らせる程度の役には立つはずだ。

 その上で、ハイレスの背中に乗ったまま、一気に急上昇する。
 狙うは、上空からの急降下攻撃。
 それも、かなりの高度から行わなければ、間違いなく見切られてしまうだろう。

 チャンスは一回。
 避けられれば、まず次はない。
 地面に叩きつけられるか、相手の反撃を受けるか。
 いずれにせよ、その時点でジ・エンドである。
 そうならないためには、最大限に慎重、かつ大胆にやるしかない。

 急速上昇のGに耐えられず、傷ついた身体が悲鳴を上げる。
 もうここでいい。これ以上は無理だ。
 そんな考えを必死で抑えつけながら、さらに上を目指す。

 そして、数百メートルほどの高さまで上昇した時。
 ゼハールの合図で、ハイレスが一気に急降下へと転じた。

 ハイレスの速度と、自然落下による加速。
 それを合わせれば、地表近くにつく頃には、かなりの速度になる。
 あとは、いかにして狙いをつけるか。
 問題は、その一点に絞られた――はずだった。

 降下していくに連れて、ゼハールはある違和感を感じ始めていた。
 地表にいるはずのコーンの姿が、なぜか大きく見える。
 最初は錯覚かとも思ったが、どうやらそうではなさそうだ。
 そう考えると、納得できる説明は、一つしかない。

 相手が、こちらに向かってきているのだ。
 こちらと同じように「飛んだ」のか、それともただ単に「跳んだ」だけなのかまではわからないが、相手が、空中を、こちらに向かってきていることだけは、どうやら間違いなさそうである。

 だとすれば。
 こちらの急降下する速度に、相手の上昇してくる速度が加われば、急降下攻撃の威力は十分すぎるほどに高まっているはずである。
 その代わりに問題となるのは、相手の攻撃に対する対処。
 このまままっすぐ降りていっても、相手に迎撃されるのがオチだろう。
 何とかして、相手のタイミングを外さなければならない。
 ほんの一瞬でもいいから、相手のもとに到達する時間をずらさなければならない。

 そのために、ゼハールができること。
 わずかな時間の中で、ゼハールが思いついた手段は、一つしかなかった。

 お互いの距離が、数メートルにまで迫ったその瞬間。
 ゼハールは、ハイレスの背を蹴ってコーンに向かって跳んだ。
 急降下する速度と、自然落下の速度、コーンが上昇してくる速度の三つに、ゼハール自身の脚力がプラスされる。
 このプラスアルファがはたして有利に働くか、それとも単なる誤差の範囲内で終わるか。
 そんなことを頭の片隅で考えながら、ゼハールは全力で鎌を振るった。
 当たればそれでよし、当たらなければそこまで――すでに、そう考えるより他にないのだから。

 そして、次の瞬間。
 肉を切り裂き、骨を断ち割る確かな手応えが伝わってきた。
 真っ二つか、腕や脚の一本か、あるいは首か。そこまではわからない。
 ただ、決して浅からぬ傷を負わせることには成功した。それだけは間違いなかった。

 成功だ。
 勝てたかどうかはわからないが、これでダメなら、もう手はない。
 少なくとも、自分にできることは、全てやれた。

 落下を続けるゼハールの目の前に、薄汚れた壁が迫る。
 ハイレスの助けは、恐らくこの距離では間に合わない。
 かといって、避ける術もなければ、構えなおして壁に斬りつけるだけの余裕もない。

 せめて、何とか受け身をとろうとしたが、それさえも間に合わず――。





 次にゼハールが目を覚ましたのは、ハイレスの背中の上だった。
 全身がひどく痛む。少なく見積もっても、骨の五、六本くらいは折れているだろう。
 だが、なんにせよ、生きてはいる。相手の強さを考えれば、それだけでも収穫といえた。
「あの男は?」
 その問いに、ハイレスが首を横に振る。
 ということは、あの男も死んではいない、ということだろう。
 ああいう手合いは執念深そうだから、ひょっとしたら次は向こうから挑んでくるかも知れない。

 これは、厄介なことになった。
 ゼハールはそう思ったが、不思議と後悔の念はなかった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 4563 / ゼハール・― / 男性 / 15 / 堕天使/殺人鬼/戦闘狂

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■         ライター通信          ■
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 はじめまして、撓場秀武です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。

 さて、コーンとの戦闘とのことでしたが、ご覧のように今回のところは痛み分けと言うことになりましたが、これは一対一では望みうるほぼ最良の結果です。

 ともあれ、もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。