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■超能力心霊部 セカンド・ドリーマー■

ともやいずみ
【3604】【諏訪・海月】【万屋と陰陽術士】
「この写真……」
 ざわつくファーストフード店でのいつものように集まっていた時のことだ。
 正太郎に渡された写真を見て、奈々子は顔をしかめた。
 写っているのは高見沢朱理にほかならない。
 しかし……。
「……薬師寺さん、これ……」
「うん……」
 二人の深刻な顔に気づかず、朱理はとりあえず食欲を満たそうとがつがつハンバーガーを食べている。
 その能天気な表情を見て、奈々子は拳を振り上げたくなった。
 写真には眠っている朱理の枕元に立つ、幼い少女の姿。
 青白い肌と、冷めた瞳がこちらを睨んでいた。うって変わって朱理は今と変わらず間抜けな顔で眠っていたが。
 予兆、だ。
 正太郎の能力・念写の一つ、未来を写すものだろう。
 それがいつなのかまでは……奈々子にはわからない。
「朱理さん」
 正太郎の声に朱理は「ん?」と彼を見遣る。
「この写真の女の子を見たら、とにかく気をつけて」
 朱理は奈々子の手にある写真を覗き込み、それから明るく笑ってみせる。
「だ〜いじょうぶだって! いざとなったらあたいにはパイロがあるんだしさ〜」

 しかし二日後、写真は現実のものとなる。
 朱理は眠ったまま目を覚まさなくなってしまったのだ……。
超能力心霊部 セカンド・ドリーマー



 そういえば。
(あの3人、どうしてるだろうか……?)
 諏訪海月はそう思って、起き上がる。妙に気になってしまった。あの、ファーストフード店で出会った3人が。
(……行ってみるか)
 丁度、たいした用事もないしと海月は出かける準備をする。そして、館をあとにした。



 二階へあがると、彼らが居る定位置に少し視線を遣る。
(……いる)
 前に会った時と同じように、二階の隅の窓際に陣取っていた。
 海月は近づき、声をかける。
「よお」
 だが、すぐに気づいた。一人足りないのだ。
 一番小さくて、元気の良かった娘の姿がない。
 ゆっくりと顔をあげた薬師寺正太郎が「あ」と、すがるような目で見て呟く。
「す、諏訪、さん……」
「もう一人の朱理って子はどうしたんだ?」
 正太郎の向かい側の、一ノ瀬奈々子がびくっとして顔をあげる。彼女の反応に、何かマズいことでも訊いたかと海月は怪訝そうにした。
「朱理は……」
 奈々子は言いかけて、すぐに唇を噛み締めた。海月はますます不審そうにして正太郎を見遣る。
 正太郎は一枚の写真を取り出した。そこで海月はハッとする。正太郎は念写の能力の持ち主。望む、望まないに関わらず、そこには怪奇現象をとらえてしまうことがあるのだ。
「朱理さんが、実は眠ったまま起きなくなってしまったんです」
「起きない? 昏睡状態ってことか?」
「単なる寝すぎだと思ってたんですけど……もう三日も眠ったままなんです」
「…………」
 あの元気の代名詞のような娘が突然そんな状態に陥るなど、考えつかない。
 海月は正太郎から写真を受け取る。
「その写真について、つい4日前に話してたんです。何かあるって奈々子さんは警戒してたんですけど、朱理さん……笑って大丈夫だって言ってて……」
「……この写真、強いものを感じる……」
 海月は眉間に皺を寄せ、それから写真を観察した。
 無防備に眠る朱理と、そのすぐそばにいる冷たい目の幼い少女。それを写したものだ。
「……コイツに眠らされてるのかもな」
「やっぱり、諏訪さんもそう思いますか?」
 奈々子がじっと見てくるので、海月は頷いてみせた。
 写真の強い波動は、この幼い少女のものだと告げている。自分にはそれがわかる。
「朱理は……少し、霊感があるんだろ? この前、気づいたんだがな……」
 小さく言う海月の言葉に奈々子は泣きそうな表情になった。それは肯定を示す動作にほかならない。
 海月は正太郎の横に腰掛けると、口を開く。
「憑かれている可能性が高い……朱理を救出しよう」
 奈々子と正太郎は顔を見合わせ、深く頷いた。



 朱理の自宅へ向かいながら、三人は相談を進めた。
「では、諏訪さんに全面的に頼ってしまいますけど……よろしいですか?」
「……ああ」
「あ、あの」
 奈々子が少しだけ俯き、それからチラチラと海月を見上げる。
「ありがとうございます……。諏訪さんがいなかったら……」
「気にするな。困った時はお互い様。知らない仲でもないしな……」
 ほっ、と安堵する奈々子を見遣り、前回の時より態度がかなり柔和になっていることに気づく。それほど、朱理の容態が気になって仕方なかったのだろう。
「よろしくお願いします」
 ぺこりと頭をさげられ、海月は困ったように無言になる。
「……任せろ」
 それしか言えなかった。
 正太郎は持っていた写真から目を離して、マンションを指差した。
「あそこが朱理さんのマンションです、諏訪さん!」



 朱理の叔母が居たので、すんなり家へは入れた。入れ違いのように叔母は「買い物に行くから留守をお願いね」と言って出て行ってしまう。
 残された三人は朱理の眠る和室の戸を開いた。
 布団を敷いて、朱理は呑気な顔で眠っている。あまりにも平和そうな顔に奈々子がムッとしたのがわかった。
 びりっとした空気を感じて、海月は一歩後退する。正太郎は無意識にキョロキョロし、青ざめた。
「……」
 海月は朱理に近づくや、すぐに屈んで彼女の額に手を置く。
<邪魔するな!>
 脳裏に響いた声に思わず海月は手を離した。
(今の声は……?)
 朱理の声ではない。それよりも随分幼かった。
 あの写真に写っていた幼女だ。そうに違いない。
「諏訪さん……?」
 様子を見守っている二人に「静かに」という合図を送り、海月はもう一度額に手を置く。朱理の額はひんやりとしていた。
(……おまえが、朱理を眠らせている者だな?)
<……なに、おまえ。邪魔しに来たの?>
(朱理を解放しろ……。取り憑く相手を間違っていないか……?)
 無邪気で元気な朱理には、付け入られる隙などないように思う。
 だが、声の主は小さく笑った。
<なんにも知らないんだ。この子の闇は気持ちいいよ。いい気持ちになるの。だからずっと一緒。ずっと夢の中>
 夢?
 刹那、周囲が歪み、海月は見知らぬ場所に立っていた。
 見るからに田舎で、道もそれほど舗装されていない。村、と呼ばれるような場所だ。
 何かを見ている朱理の姿を発見し、海月は怪訝そうに近づく。
「……朱理、か?」
 なにを見て……?
 彼女は普段の様子とは違って、真面目な表情でじっと何かを見ている。視線を追った海月は、そこにランドセルを背負って泣いている小学生の朱理の姿を見た。
(あれは……?)
<あれが彼女の闇。彼女の陰。憎しみ、怒り、後悔の姿>
 海月は佇む朱理に声をかける。
「奈々子と、正太郎が心配していた。おまえが帰るのを、待ってる……」
「だれ?」
 冷たい視線だけ海月に向ける朱理は、やはりいつもの彼女を微塵も感じさせない。
「諏訪海月だ。この前、会っただろ……」
「スワ……?」
 記憶を探る朱理の手を、何かが引っ張る。着物を着た幼女……あの写真の娘だ。
「だ〜め。これ以上は干渉させてあげない。アカリはわたしとずっと一緒なの。ずっと、この悪夢にわたしと居るの」
「悪夢……? おまえ……夢魔か?」
「正解。だけど、サービスはここまで。さあ戻って。おまえは邪魔だってわかったでしょ?」
「なにが邪魔だ……! 朱理を悪夢に捕らえて何をする気だ」
「この子の闇は燻ってる炎みたい。ずっと胸の内に抱えてるの。でも、誰に言う気もないのが気に入ったのよ」
「誰にだって、言えないことはあるだろ……」
 海月の言葉に幼女はクスクス笑う。朱理と手を繋ぎ、その手をしっかりと握っていた。朱理は再び、幼い朱理へと視線を向けている。
「言えないんじゃないの。言わないのよ。言う気がないの。気にしてないのよ。
 不思議な人間。無防備な心の持ち主のくせに、闇が濃いの。健全な人間とは言い難いわ」
「おまえの都合で朱理を閉じ込めるのは……どうにもな」
 海月は夢魔の少女を睨みつける。
「あら。この子は抵抗すらしなかったわ。夢から抜け出そうともしてない。ここが居心地いいからよ!
 外部から干渉されるのは気に食わないの。さあ、戻ってちょうだい。この子は二度と目覚めない」
「…………本当は」
 海月の視線から鋭さが消えたのを、夢魔は不審そうにする。
「本当は、おまえが一人で寂しいだけじゃ……」
 言葉に目を見開き、夢魔が力をぶつけてきたのがわかる。ハッとした海月は、元の部屋で、朱理の額に手を置いた状態のままで居た。
 小さく息を吸い込み、海月は一枚のヒトガタを取り出す。
「封じて、滅することも可能だ。夢魔、おとなしく朱理から出て行け」
「邪魔をするなって言ってるでしょう!」
 朱理が目を開き、海月を睨みつける。だがそれは、あの夢魔の少女が朱理の体を使って起こした行動だ。
「朱理を返してください!」
「そうだ、朱理さんを解放しろ!」
 奈々子と正太郎が、海月を支援するように言い放つ。朱理は二人にも鋭い視線を向けた。そして何かを言おうとするが……声が出なかった。
 慌てて喉に手を遣るものの、声は微塵も出ない。
 海月は穏やかに言う。
「朱理、同情してるんだろ……? おまえは、最初に俺と会った時も無条件に信用してた……。そいつをあっさり受け入れたのも、おまえだからこそだってのはわかる。
 でも……奈々子も、正太郎もおまえをずっと心配してた。友達に心配をかけたくは……ないんじゃないのか……?」
 瞬間、朱理の体から夢魔が弾き出された。驚いて悲鳴をあげる正太郎は、真横の奈々子に思わず抱きつく。
 拒絶された夢魔が、悔しそうに歯噛みした。
 肉体の自由を取り戻した朱理は、海月に笑顔を向ける。
「ありがとね、諏訪さん」
「……たいしたことはしてないがな」
「そんなことないよ。夢の中であたいに話しかけたでしょ? 名前名乗ってさ。あれで、ずっと諏訪って誰だろうって考えてたから……だからだよ」
 あんな些細な行動で、彼女を助けたことに海月は驚く。
 海月は夢魔を見遣る。このままだと、また朱理に取り憑く可能性があったが……。
(なんか……見かけがああだっていうのもあるが、少し憎めないところがあるな)
「諏訪さん」
「ん?」
「あのさ、そこの夢魔、逃がしてやってくれないかな?」
「……おまえ、こいつのせいで困ってたんじゃないのか?」
「いやあ、寝てただけだし、久々によく寝たからいいよ。ね?」
 そう言われては、と海月は嘆息した。
「わかった。夢魔、また悪さをしたら次はないからな……」
 夢魔の少女は奇妙な表情を浮かべるものの、すぐさま「べーっ」と舌を出すや壁をすり抜けて出て行ってしまった。
 呆然としている正太郎と奈々子の前で、やれやれと海月は肩をコキコキと鳴らす。
「とりあえず解決か。……おまえも、少しは反省しろ」
 人差し指で朱理の額を押すと、彼女は「たはは」と笑う。反省しているようには見えない。
(朱理か……こいつも、何か抱えてるんだな)
 だがそれは、今は自分だけの胸の中に隠しておこう。夢魔も言っていたではないか。朱理には言う気がないのだと。
「いいじゃん。また何かあったら、諏訪さんが助けてくれるんでしょ?」
「……確かに俺は万屋だけどな」
「よろしく諏訪さん!」
「…………」
 だから、なんでこんなに無条件に信じてるんだ?
 渋い表情を浮かべていた海月だったが、ついつい小さく吹き出してしまう。
(こんなに頼られてたら……まあ、仕方ねえな)



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【3604/諏訪・海月(すわ・かげつ)/男/20/ハッカー&万屋、トランスのメンバー】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 またもご依頼ありがとうございます。ライターのともやいずみです。
 ちょっぴりシリアス混じりなお話になりましたが、さすがに頼れるお兄さん・諏訪様! 今回も頼れる人として活躍させていただきました。
 前回よりも、三人と親密度があがってしまいました……ますます諏訪さんが三人のお兄さん化していってます……。なんだか三人のNPCが諏訪さんに群がっているような気もしないでも……。
 クリスマスは残念でした……今度の時はこちらこそよろしくお願いします! お待ちしておりますので!

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。