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■シンデレラは誰だ!?■

ひろち
【3994】【我宝ヶ峰・沙霧】【摂理の一部】
「・・・居ない」
 いつでも本を読むことに没頭している栞が、珍しく口を開いた。夢々はコーヒーを淹れていた手を止める。
「居ないって、何が?」
「シンデレラですよ。シンデレラ。本の中から消えちゃってるんです」
「はあ?」
 意味がわからない。
「・・・栞さん。また俺をからかってるわけ?」
「違いますよー。確かに夢々くんいじめるのは楽し・・・じゃなくて、これ見てみてください」
 栞が本を差し出してきたので、夢々は顔をしかめつつもそれを受け取り、中身を読んでみた。

+++ +++ +++ +++ +++
『シンデレラ!シンデレラはどこ!?』
『お母様。あの子、どこにも居ないわ。とうとう逃げたのよ』
『シンデレラ!シンデレラ!!』
『どーこー行ったのよー。出てきなさーい!』
+++ +++ +++ +++ +++

「・・・何これ。もはやシンデレラじゃないっていうか・・・継母達がシンデレラ捜索し続けてるだけじゃん」
 数ページ後には白紙になっていた。しばらく眺めているとまた新たな文字が書き加えられる。やはり内容はシンデレラ捜索。
「シンデレラが居なければ物語は進行しませんよ。当たり前のことでしょう?」
「そうだけどさ。何でこんなことになってんの?」
「多分、本を抜け出してどこかに出かけたんじゃないですか。シンデレラもたまには息抜きしたかったんでしょう。そのうち帰ってきますよ」
「そういうもんなの?」
「そういうものです」
 栞がそう言うのならそうなのだろう。何せここは「めるへん堂」だ。夢々自身も元々は本の中の人間である。ここでは本は「生きた存在」なのだ。
「・・・あ。ちょ・・・っ栞さん!!」
「どうしました?」
「何かこの本、凄いことになってきてるんだけど・・・」
 きちんと文章を形成していた文字が、乱れてきている。接続語の欠落、綴られる脈絡のない言葉、前後で繋がりのない文章。最後には文字ですらなくなっていた。
「うあー。全っ然、読めねーっ」
「主人公を失ったことで混乱しているようですね」
「どーすんだよっ」
「どうすると言われても・・・」

 ギィ・・・

 最近建付けが悪くなってきたドアが開く音がした。 
 客だ。
「丁度いいですね」
「何が」
 栞は「ふふふ」といたずらっぽく笑う。何か思いついたのだろう。
 嫌な予感。
「な・・・なぁ、栞さん・・・?まさか客をシンデレラに仕立て上げちゃおーとか思ってないよな・・・?」
「え?だってそれしかないですよね」
「えええええっ!?」
シンデレラは誰だ!?

 めるへん堂に現れた客は何やら物騒な出で立ちで、夢々は思わず顔を引きつらせていた。
 服装はごくごく普通の女性なのだが、両方の腰に下げたホルダに入っているものは銃だ。どういうわけか二丁の銃。
「シンデレラ・・・ね。いいわよ。受けて立とうじゃないの」
「受けて立つ・・・って別に王子を討ち取って来いって言ってるわけじゃ・・・・・・」
「ん、なあに?」
 満面の笑顔を向けられて、夢々はびくっと栞の背に隠れる。
 ・・・怖い。何だか妙に怖い。
 だが、栞はまったく怯む様子もなく、彼女を真っ直ぐに見つめた。
「協力感謝します。では誰を連れていきますか、我宝ヶ峰沙霧さん?」


【これも一つのハッピーエンド?〜我宝ヶ峰・沙霧〜】


「・・・ねぇ、店長」
「何ですか。鈴音ちゃん」
「私、すっごく先行き不安なんだけど」
「そうですか?私は面白いと思いますけど」
「・・・店長ならそう言うと思ったわ・・・」

 それというのも

 継母達との生活を始めた沙霧だが、まったく仕事をする様子がなかった。
 そして何を思ったのか継母の額に銃を押しつけ、こんなことを言い出したのだ。
「料理も洗濯も掃除も貴方達の仕事よね?私、何もしなくてもいいわよね?お継母様」
 継母が顔を引きつらせながら、頷いたのは言うまでもない。
 それからというもの、家の主権は完全に沙霧が握っている状態で、優雅に茶を飲んでいる彼女に対し、継母達がせっせと働きまわっていた。
 ・・・どちらがシンデレラかわかったものではない。
 すっかり自信を喪失した継母達は、いつしか部屋に篭ってしまった。舞踏会にも行く気はないらしい。
「私、何か悪いことしたかしら?」
「この自覚のなさが恐いわね・・・」
「何か言った、鈴音?」
「いえ、別に」


「一度着てみたかったのよね〜。ドレスにガラスの靴」
 城に辿り着くと沙霧はシルクのドレスの裾を持ち上げ、くるっと一回まわってみせた。その足取りが微妙に覚束無い。
「・・・沙霧ってもしかして踊れなかったりする?」
「む。失礼ね。それくらいできるわよ。栞、こっち来て」
 鈴音の突っ込みに沙霧は栞を相手に踊り始めた。滑らかに踊る栞に対し、沙霧の動きはやはりどこかぎこちない。
 鈴音が冷や冷やしながら見ていると、案の定バランスを崩した。
 倒れた先に居たのは―――
「あ」
「きゃっ」
「うわっ!?」
 何とか体勢を立て直した沙霧だが、相手の方は見事に尻餅をついている。くるりと振り返り、沙霧は質の良さそうな服に身を包んだ青年を睨みつけた。
「ちょっと、どこ見て歩いてるのっ。前方不注意だわ!」
「は・・・はあ、すいません」
 「ふん」と身を翻す沙霧。鈴音は彼女と青年を交互に見比べた。
「ちょっと沙霧。あれ、王子じゃないの?」
「え、嘘」
「王子ですね」
 栞が断定する。沙霧は顔をしかめた。
「あんな軟弱そうなのが?」
「あ・・・あの・・・」
「ん?」
 沙霧が振り向くと何時の間にか立ち上がっていた王子が、頬を紅潮させていた。そして彼女の手を取り、信じられないことを言い出したのだ。
「僕と結婚してくださいっ!」
「はあ!?」
 何故そうなる。
 その場にいた全員が心中突っ込みを入れていた。
「ちょ・・・っ、何血迷ってるのよ、王子!」
「僕、今みたいに怒られたのって初めてだったんだ。君の言葉に愛を感じたっ!」
「勝手に感じるんじゃなーーーーーーいっ!!」
 王子の手を強引に振り払う沙霧。鳥肌でもたったのか自分の腕をさすっている。
「どうします?」
 のんびりと栞が尋ねた。
「逃げるわよっ」
 沙霧が一歩踏み出した瞬間

 バリンっ

 嫌な音が響き渡った。
 彼女の顔からさーっと血の気が引いていく。
 沈黙を破ったのは鈴音。
「ちょっとちょっとっ。何で靴が割れるのよ!」
「・・・ちっ」
「舌打ち!?」
 沙霧はもう片方の靴を脱ぎ捨て、裸足で走り出した。栞と鈴音もその後を追う。
「随分とパワフルなシンデレラですねー」
「何でそんなに嬉しそうなの、店長・・・」
「いえいえ、結末が楽しみだな、と」
「私は激しく不安を感じるわ・・・・・・」


 その後。
 王子は残されたガラスの靴を頼りに、シンデレラの捜索を始めた。
 そんな彼から沙霧達は逃げ回っている。
「王子から逃亡するシンデレラって何・・・・・・」
「だって私、あんなマゾ男と結婚するなんて嫌よ。死んでもゴメンだわ」
「まあ、それはわからないでもないけど・・・」
 先程から沙霧は打開策を探しているのか、考え込んでいる。そして突然「あ」と声をあげ走り出した。
 その先にいるのは金髪碧眼の少女―――
「あれは・・・」
「どうしたの、店長?」
「いえ・・・何でもないです」
 沙霧に腕を掴まれ、少女は目を瞬かせていた。
「あ・・・あの・・・何ですか?」
「ちょっと協力してくれない?」
「協力って・・・・・・」
 どうやら沙霧は彼女をシンデレラの代わりに仕立て上げようとしているらしい。
 ガラスの靴を少女の足のサイズに変えてくれと、鈴音達に頼んできたのだ。
「で・・・でも私、王子様とは・・・」
「お願いっ!私の人生がかかってるのよっ」
「この場合、その子の人生はどうでもいいのかしら・・・」
「うーん。どこまでも我が道を行く方ですねぇ」
 王子が辿り着く頃には、沙霧は強引に少女を頷かせていた。
 物影からガラスの靴が少女の足にぴったりとはまるのを確認すると、小さくガッツポーズをする。
「よしっ、ハッピーエンド!」
 どこが。
 激しく突っ込みを入れたくなった鈴音だったが、口には出さなかった。
 不思議と遠目にみる見る王子と少女が幸せそうに見えたから。



 沙霧が去っためるへん堂で、鈴音は溜息をついていた。
「何かあの人、好き勝手やっていったわね」
「まあ、結果的にハッピーエンドなようなので、問題ないでしょう」
「はあ?」
 栞もあれでハッピーエンドだと思っているのだろうか。
 顔をしかめる鈴音に、栞はシンデレラの本を差し出す。
 最後のシーンを読んでみて、鈴音は「ああ」と頷いた。
「なるほど。確かにハッピーエンドね」
「沙霧さんは知らなかったようですけどね。彼女が本物のシンデレラだったってこと」
「何だか結果オーライって感じねぇ」
 一歩間違えればバッドエンドではないか。
「・・・まぁ、いいんじゃないですか。皆、幸せになれたようなので」
「・・・それも・・・そうかもね」



 我宝ヶ峰沙霧は思わぬ形で幸せを残していったらしい。
 そう、まるで気まぐれな風のように。


fin


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC

【3994/我宝ヶ峰・沙霧(がほうがみね・さぎり)/女性/22/摂理の一部】

NPC

【本間・栞(ほんま・しおり)/女性/18/めるへん堂店長】
【鈴音(すずね)/女性/10/めるへん堂店員】

【夢々(ゆゆ)/男性/14/めるへん堂店員】

【シンデレラ/女性/16/シンデレラの登場人物】
【王子(おうじ)/男性/18/シンデレラの登場人物】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、こんにちは。ライターのひろちという者です。
今回はありがとうございました!

沙霧さんはとにかくパワーのある女性で、圧倒されっぱなしでした。
今回はコメディというかかなりドタバタな感じで書かせて頂いたのですがいかがでしたでしょう?
冷静に突っ込みができるのが鈴音しかいなかったので、彼女の視点です。

好きなようにやって、結局最後は皆幸せになっている。
偶然とはいえ、これも沙霧さんの力のうちなのかもしれませんね。

本当にありがとうございました!
またご縁がありましたら、その時はよろしくお願いしますね。