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■おそらくはそれさえも平凡な日々■

西東慶三
【1219】【風野・時音】【時空跳躍者】
 個性豊かすぎる教員と学生、異様なほど多くの組織が存在するクラブ活動、
 そして、「自由な校風」の一言でそれらをほぼ野放しにしている学長・東郷十三郎。

 この状況で、何事も起きない日などあるはずがない。
 多少のトラブルや心霊現象は、すでにここでは日常茶飯事と化していた。

 それらの騒動に学外の人間が巻き込まれることも、実は決して珍しいことではない。
 この物語も、東郷大学ではほんの些細な日常の一コマに過ぎないのである……。

−−−−−

ライターより

・シチュエーションノベルに近い形となりますので、以下のことにご注意下さい。

 *シナリオ傾向はプレイングによって変動します。
 *ノベルは基本的にPC別となります。
  他のPCとご一緒に参加される場合は必ずその旨を明記して下さい。
 *プレイングには結果まで書いて下さっても構いませんし、
  結果はこちらに任せていただいても結構です。
 *これはあくまでゲームノベルですので、プレイングの内容によっては
  プレイングの一部がノベルに反映されない場合がございます。
  あらかじめご了承下さい。
萌えとブルマとお姉さんと自称天才美少女呪術師

〜 どきどき恋占い 〜

(どうして、こんなことになってしまったんだろう)
 ぼんやりと、風野時音(かぜの・ときね)はそんなことを考えていた。

 そもそもの発端は、歌姫が「恋占いをしてもらいたい」と言い出したことである。
 最初はそのつきあいで来ただけのはずが、いつの間にか「二人の相性占い」と誤解され――あるいは、歌姫は元々そのつもりだったのかも知れないが――結局、時音も一緒に質問を受けるハメになってしまったのである。
 その上、その占いを担当するのが、占い師ではなく呪術師の黒須宵子なのだからたまらない。
「占いは専門外ですが、多少ならできますよ」
 そう言って微笑んだ宵子の顔を見て、時音は何とも言えぬ不安に襲われた。

 そして、その「恋占い」の内容は、時音が恐れていた以上にとんでもないものだった。
「歌姫さんに質問。ミカンとポンカンどっちが好きですか?」
 何の意味があるのかよくわからない、というより、ほとんど投げやりに近い質問。
 それに対する答えを、歌姫はなぜか直接答えずに、時音にだけ伝えてくる。
「ミカンだそうです」
 仕方なく時音が代わってそう答えると、宵子はその答えを素早くメモし、すぐに次の質問に移った。
「時音さんに質問。髪は長い方が好き? それとも短い方が好き?」
 歌姫への質問とは異なり、こちらは妙に意味ありげ、というより、意図がバレバレの質問ばかりである。
「あの、これ、本当に恋占いなんですか?」
 相手の好みのタイプを聞き出して照合することは、恋占いとは言わない。
 その点を問いただそうとした時音であったが、もちろんそんな質問を宵子が許すはずもなかった。
「もちろんです!
 そんなこと疑ってると、明日から脱力系のトラブルが怒濤のごとく襲ってくる呪いをかけちゃいますよ?」
 冗談めかしてそう言う宵子だが、あながち冗談と言い切れないところが恐ろしい。
「やめてください……それ、地味ながらじわじわ効きそうです」
「じゃ、さっさっと答えて下さいね?」
 宵子に促されて、時音は小声でこう答えたのだった。
「……髪は、長い方が好きです」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 対決! ブル魔王 〜

 永遠にも思える時間の後。
「じゃ、最後の質問です」
 ついに、宵子がその言葉を口にした。
 ようやく、この「恋占いと称する甘酸っぱい無間地獄」から脱出することができるのだ。
 そう考えて、時音はほっと胸をなで下ろした。

 けれども、最後に残った質問は、これまでにもまして答えにくいものだった。
「時音さんは、お姉さんにオデコをツンしてもらうと萌える?」
 これまでの質問の傾向から考えて、「お姉さん」というのが歌姫のことを指しているのはほぼ間違いない。

 ……が。
「萌える」というという感覚が、時音にはよくわからなかった。
 よって、彼にはこの質問に答える術がなかったのである。

 目の前では宵子が微笑みながら、そして隣では歌姫が真剣な顔で答えを待っている。
 はいと答えるべきか、それともいいえと答えるべきか。
 それとも、場がしらけるのを覚悟で、「萌える」というのがどういうことか聞いてみるべきか。

 時音は悩んだ。
 それこそ、この世界に来てから一、二を争うほどに。

 と。
「もちろん萌えるに決まっておろう!!」
 その言葉とともに、突然ドアが蹴り開けられる。
 とっさに、三人はそちらに目をやって……自分たちの目を疑った。

 乱入者の正体は、ブルマをかぶった筋骨隆々の男二人。
「我が輩は萌えの探求者・ブル魔王である!」
 呆気にとられる三人に向かって、そのうちの一人が突然熱く、というより暑苦しく語り出した。
「年上のお姉さん! それは稀少極まる神秘の萌え! 何故なら期間限定だからだ!」
 また「萌え」という単語が出てくる。この時点ですでに時音には理解不能だ。
「その萌えに気付くお年頃になった頃には、周囲におられるのは同年代の女性やロリっ子、もしくは年上の女性になってしまう!
 それはいい! 萌えは広大無辺! そこにすら見出す事は出来よう!
 しかし! そこに『お姉さん』はいない! オデコに指でツンしてもらうロマンが無いのだ!」
 今度は「オデコをツン」ときた。
 気になって歌姫と宵子の方に目をやると、二人とも唖然とした表情を浮かべている。
 その様子を見る限りでは、二人とも、相手の話を理解できてはいないのだろう。
 それに気づいているのかいないのか、男は時音を指さしてこう吠えた。
「それを入手した貴様を、我輩は萌えの探求者として断固許すわけにはいかんのだ!」

 何を言っているのかは全然全くさっぱりちっともわからないが、とにかく敵意があることだけは間違いない。
「なんだかよくわからないけど……とにかく、この二人は僕が守る!!」
 そう宣言して、時音は歌姫と宵子をかばうように前に立った。

 改めて、敵の戦力を確認する。
 ブル魔王と名乗った方の男は、曲がりなりにも魔王と名乗るだけあって、かなりの実力のようである。
 しかし、もう一人はあくまで普通の人間で、どうやらあのブルマによって操られているだけのようだ。
 ということは、実質、倒すべき敵は一人、ということになる。

 だが、それは事態がかえってややこしくなることを意味していた。
 ブルマさえどうにかすれば正気に戻るということは、殺さずに済む方法があるということであり、またそうすべきだということでもある。
 とはいえ、ブル魔王と戦いながらあのブルマだけを斬るのは非常に難しいし、こちらに守るべき相手がいる以上、例え常人の域に止まっているとはいえ、放っておくのは危険すぎる。

 かくなる上は、何とかして二人一度に相手をするしかないか。
 そう、時音が覚悟を決めようとした時。

 突然、宵子が一歩前に進み出た。
 手には、なにやら藁人形のような物が張り付けられた板を持っている。
「こっちは私に任せて下さい」
 そう言うや否や、宵子は目にもとまらぬ速さで藁人形の頭部に釘を打ち込んだ。 
 とたんに、ブル魔王の手下が頭を抑える。
「さあ、今のうちに魔王を!」
「は、はい!」
 宵子に言われるままに、時音はブル魔王に斬りかかった。
 その光刃を、魔王は光の翼を展開して防ぎ止める。
「さすがは『お姉さん萌え』を手に入れただけのことはあるなっ!」
「何をわけのわからないことをっ!」
 反撃してくる魔王の拳をかわしつつ、斬撃を繰り出す時音。
 けれども、魔王の光の翼が、その全てをかき消してしまう。

 手詰まり感に襲われる時音の視界の片隅で、ブル魔王の部下がゆっくりと立ち上がった。
「効かない?」
 驚く宵子に、ブル魔王がこう言い放つ。
「その程度の呪いが今の武満に効くものか!
 あのブルマはこのブル魔王が直々に与えた物、そう簡単に抜くことは出来ぬ!」

 ……が、少なくともさっきまで効いていたことは確かなのだから、決定的なダメージは与えられずとも、足止め程度はできるだろう。
 そう考えて、時音と魔王が再び戦いに移る。

 ところが、宵子の攻撃力は、二人の想像をだいぶ超えていた。
「それなら、こうしちゃいます!」
 宵子のその言葉とともに、武満と呼ばれた男がうめき声を上げてその場に崩れ落ちた。
 藁人形を見ると、その四肢の中ほど……ちょうど肘と膝に当たる部分に、深々と釘が突き立てられている。
 そのきわめて的確かつえげつない攻撃方法に、時音も、そして魔王も、思わず手が止まった。

「しょ、宵子さん、どうして……」
 すがるような目で見上げる武満に、宵子は楽しそうに微笑みかけた。
「武満さん」
 本当にこの状況を楽しんでいるのか、それとも笑っているように見えて目はちっとも笑っていないのか。
 それは視線の先にいる武満にしかわからないことだが、どちらにしても恐ろしい話である。

 しかし、本当に恐ろしいのは、宵子のその次の言葉だった。
「私、変態は嫌いです」
 きっぱりはっきり、何の遠慮もない、ストレートな言葉の暴力。
「ノオオオォォォッ! どんな呪いよりもその言葉が深く深く俺を切り裂くっ!!」
 見事に精神的にトドメを刺され、武満は号泣しながら床に頭を打ちつけ始めた。

「おのれ! 貴様にはこの萌えがわからんのかっ!?」
 自分の「萌え」を守るためか、曲がりなりにも自分の手下である武満を守るためか。
 目的は不明ながら、慌てて魔王がフォローに入る。
 けれども、宵子はそれすらも一言で切って捨てた。
「ブルマをはいた女の子ならともかく、ブルマをかぶった男はただの変態以外の何者でもありません!
 そして、私は『変態萌え』ではありません! 以上です!!」
 フォローどころか、しっかり返り討ちにされ、さしもの魔王も一歩退く。

 そこへ、そのどさくさにブルマの呪いから解き放たれ、逆ギレした武満が突撃した。
 未だ藁人形の四肢には釘が刺さったままにもかかわらず、鬼の形相で魔王に迫る。
「おぉんどりゃあこのタコ魔王っ! よくも俺を騙しやがっ」
「やかましいっ!!」
 裏拳一発。
 怒りの言葉を最後まで言い終えることすら出来ずに、武満は数百メートルの空の旅へと旅立ってしまった。
「宵子さん! 今の人、宵子さんの知り合いだったんじゃありませんか!?」
 時音は今さらながらそう尋ねてみたが、宵子はにっこり笑って首を横に振ったのだった。
「私の知り合いに変態はいないはずですから、少なくとも改心するまでは知らない人です」





 ともあれ。
 これで、最大の不安材料は消滅したわけである。
「ええい、なぜだっ! なぜ、どいつもこいつも我が輩の理想を理解しようとせんのだ!?」
 魔王も、部下を失ったこと……というより、あっさり論破されたことが効いたのか、だいぶ動揺しているらしい。

 倒すなら、今しかない。
 時音が、一気に魔王の懐に飛び込もうとしたその瞬間。

「それは、キミの理想がわざわざ理解するほどのものじゃないからだよ、要っち☆」
 突然、外からまた別の何者かが飛び込んできた。
「想司くん!」
 その姿を見て、宵子が嬉しそうな声をあげる。
 水野想司(みずの・そうじ)はその声に応えるように一度ポーズを決めると、ブル魔王こと海塚要(うみずか・かなめ)に向かってこう言った。
「最近、ブル魔王を名乗るようになった故、とうとう萌えの覇権を賭け僕と戦う資格を得たと思ったのにっ♪ がっかりだねっ! 要っち!」
 その言葉に、要はムキになってこう反論する。
「なんだと!? 我が輩の理想のどこに欠陥があるというのだっ!」
 けれども、想司はあっさりとこう切り返した。
「『萌えとは外見ではない!』そんな初歩的な事すら疎かにするなんてっ☆」
 その一言で、要の表情が変わる。
「お姉さん萌えも然り!
 年齢が上ならお姉さん? 否!
 萌えとは魂の叫び! 『肝心なのは属性であり外見に在らず』!!」
 さらに想司がたたみかけると、要は愕然としてこう呟いた。
「そ、そうだったのか……っ!」
 これまた、時音にはさっぱりわからない論理ではあるが、魔王が圧倒されているところを見ると、一応わかる人にとっては正当な理屈であるらしい。

 なんにせよ、要が精神的ショックを受けている今こそ、彼を撃退するチャンスである。
 そう考えて、時音は踏み込むチャンスをうかがった。

 だが。
「不足分は想像力でカバーしてこその萌え!
 それを忘れた君には僕からの『オデコ(の秘孔)を指でツン』を進呈しようっ♪」
 時音が動くより早く、想司が目にもとまらぬ速さで要に飛びかかったのである。

 想司の人差し指が、弾丸よりも速いスピードで、要の額にめり込む。
 想司が静かに指を引き抜くと、要はそのまま後ろに倒れた。

「死んだ……のか?」
 事態にさっぱりついていけない時音を尻目に、想司は歌姫と宵子の方に向かった。
「想司くん、怖かったよぉ」
 さっきまでこれっぽっちも怖がってなどいなかったくせに、迫真の演技で宵子が想司に抱きつく。
 と、想司が歌姫を手招きして、二人に何事か耳打ちした。
「わかった。ちょっと怖いけど、やってみるね」
 そう答えて、宵子が倒れたままの要の方に向かう。
 さらに、歌姫もその後ろに続いた。
「歌姫さん! 危険です!!」
 時音は二人を――正確には歌姫を止めようとしたが、それより早く、想司が時音の前に立った。
「大丈夫、いいから見ててよっ☆」

 



「ううっ……」
 苦しげに呻きながら、要がどうにか上体を起こす。
 歌姫と宵子はそんな要の前にならんで立つと、要の顔を覗き込もうとするように身を乗り出した。
「要くん」
 宵子のその言葉に、要は弾かれたように顔を上げる。
 軽く微笑みながら、左に立つ宵子は右手の、そして右に立つ歌姫は左の人差し指を立て――。
「あんまりみんなに迷惑かけちゃ……ダ・メ・だ・ぞっ♪」
 そう言い終わるのと同時に、二人で要の額を軽くつついた。

「こ、これが……これが、我が輩の探し求めていた萌……ぶべらっ!?」
 要が突然吹っ飛んでいったのは、それからちょうど五秒後だった。

 一体、何が起こったというのだろう?
 時音が説明を求めて想司の方を見ると、想司はきっぱりとこう言いはなったのだった。

「魔王には大気圏突入能力は無いっ♪
 だが無駄死ではないっ☆ どっちかといえば犬死だねっ♪」

 もちろん、時音にはその答えの意味が全く理解できなかったことは言うまでもない。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 その後 〜

 要がどこかへ吹っ飛んでいって、少し落ち着いたあと。

「それで……あの、恋占いの結果は……どうだったんですか?」
 なんとなく気になって、時音は宵子にそう尋ねてみた。
「お二人は、ラブラブ度九十五パーセントってとこですね。
 相性は基本的にバッチリ、でもパーフェクトなカップルになるにはあともう一歩、です」
 間髪を入れずに、明確な答えが返ってくる。
「はぁ」
 あんな質問で、よくそこまでわかるものだ。
 時音がそんなことを考えていると、不意に、宵子が時音の耳元に顔を寄せてきた。
「もう一歩、時音さんの方が踏み出さなきゃダメですよ?」
 時音にだけ聞こえるようにそう囁いて、くすりと笑う。
「それじゃ、私はそろそろ帰りますから。何かあったらまた呼んで下さいね」
 手を振りながら去っていくその後ろ姿を、時音は半ば呆然と見送った。

 と。
 突然、歌姫に耳を引っ張られた。
「いきなり何するんですか」
 びっくりしてそう尋ねると、歌姫は少しふくれた顔をした。
 どうやら、さっき宵子に耳打ちされたのを誤解されたらしい。
 内容が内容だったせいでドキドキしていたのも、後ろ姿をいつまでも見ていたのもその誤解に拍車をかけたのだろう。
「誤解ですよ、誤解。さっきの恋占いのことで話を聞いていただけです」
 そう説明すると、歌姫はその点についてはすぐに納得してくれたものの、かわりにこんな質問をぶつけてきた。
(それで、最後の質問の答えは?)
 ここまで来たら、もう正直に白状するよりあるまい。
「それが……よくわからないんです」
 時音が正直に答えると、歌姫はきょとんとした顔で時音を見つめ……突然、時音のおでこを軽くつついた。

 次の瞬間、時音は急に心臓がどきどきして、顔に血が上るのを自覚した。

(ひょっとすると、「萌える」ってこういうことなんだろうか)
 いたずらっぽく笑う歌姫を見ながら、時音はふとそんなことを思った。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1219 / 風野・時音 / 男性 /  17 / 時空跳躍者
 0759 / 海塚・要  / 男性 / 999 / 魔王
 0424 / 水野・想司 / 男性 /  14 / 吸血鬼ハンター(埋葬騎士)

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
 また、ノベルの方、大変遅くなってしまって申し訳ございませんでした。

・このノベルの構成について
 このノベルは全部で三つのパートで構成されております。
 このうち、二つめのパート以外は複数パターンがありますので、もしよろしければ他の方のノベルにも目を通してみていただけると幸いです。

・個別通信(風野時音様)
 今回はご参加ありがとうございました。
 達観ときどき純朴な時音さんにとって、天然小悪魔系(?)の宵子は実は苦手なタイプなのでは、と思って書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?
 もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。