■超能力心霊部 セカンド・ドリーマー■
ともやいずみ |
【2181】【鹿沼・デルフェス】【アンティークショップ・レンの店員】 |
「この写真……」
ざわつくファーストフード店でのいつものように集まっていた時のことだ。
正太郎に渡された写真を見て、奈々子は顔をしかめた。
写っているのは高見沢朱理にほかならない。
しかし……。
「……薬師寺さん、これ……」
「うん……」
二人の深刻な顔に気づかず、朱理はとりあえず食欲を満たそうとがつがつハンバーガーを食べている。
その能天気な表情を見て、奈々子は拳を振り上げたくなった。
写真には眠っている朱理の枕元に立つ、幼い少女の姿。
青白い肌と、冷めた瞳がこちらを睨んでいた。うって変わって朱理は今と変わらず間抜けな顔で眠っていたが。
予兆、だ。
正太郎の能力・念写の一つ、未来を写すものだろう。
それがいつなのかまでは……奈々子にはわからない。
「朱理さん」
正太郎の声に朱理は「ん?」と彼を見遣る。
「この写真の女の子を見たら、とにかく気をつけて」
朱理は奈々子の手にある写真を覗き込み、それから明るく笑ってみせる。
「だ〜いじょうぶだって! いざとなったらあたいにはパイロがあるんだしさ〜」
しかし二日後、写真は現実のものとなる。
朱理は眠ったまま目を覚まさなくなってしまったのだ……。
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超能力心霊部 セカンド・ドリーマー
店のドアを開けて表に出ると、鹿沼デルフェスは持って出た箒で掃除を始める。
ふいに視線を遣った場所に制服姿の一ノ瀬奈々子の姿を見つけた。学校帰りらしい。
(もしかして、お店に遊びに来てくださったんでしょうか)
ぱあっと顔を輝かせ、箒を握りしめる。しかし奈々子の顔色が優れないことに気づいてデルフェスは怪訝そうにした。
「奈々子様!」
声をかけると、奈々子は気づいて顔をあげる。
デルフェスは軽く頭をさげて微笑むが、奈々子は力のない笑みを浮かべてすぐに消した。
近づいてきて、奈々子は店を見上げる。
「ここが、鹿沼さんが働いてるお店ですか」
「ええ。よければ寄っていかれます?」
「いえ……今日は寄るところがあるので」
覇気のない奈々子の声に、デルフェスは尋ねる。
「朱理様は今日は一緒ではないのですね。先に帰られましたか?」
びくっと奈々子が反応し、俯いた。
「あ、朱理は……いま」
ゆっくりと事情を話す奈々子の言葉に、デルフェスは目を見開く。
「朱理様が、眠ったままに!?」
「は、はい」
「それは……原因は? 何かご病気でしょうか?」
「……」
奈々子は鞄から一枚の写真を取り出す。そしてデルフェスに渡した。
写真を見遣ったデルフェスは、慌てて奈々子を見遣る。写真には眠っている朱理と、そのすぐ側にいる幼い少女が写っていた。幼い少女は明らかに生きている人間ではない。
「この女の子が原因ですのね」
「たぶん……」
「このまま眠ったままだと、衰弱死してしまうかもしれません……。奈々子様、わたくしに考えがございます。よろしければ朱理様のところにお連れ願えませんか……?」
「え……」
驚く奈々子に、デルフェスはずいっと近づく。
「朱理様をこのままにしておけませんわ!」
「鹿沼さん……」
嬉しそうに微笑む奈々子の横で、声がする。
「あの、僕を無視しないでくれるかな……二人とも」
デルフェスは奈々子の横を見遣って、呟いた。
「……いたんですの、正太郎様」
「……ひどいですよ、鹿沼さん……」
*
正太郎は用事があるということで、奈々子と二人で朱理の家まで来ることになった。奈々子は朱理の様子を見に行く途中でアンティークショップ・レンの前を通ったのだという。
朱理の借りているマンションの部屋まで来ると、朱理の叔母が出かけるというので奈々子は留守を任されることになった。
ばたばたと出ていく朱理の叔母の後ろ姿を見ていたデルフェスに、奈々子は説明した。
「朱理は叔母さんと二人暮しなんです」
「まあ、そうでしたの。朱理様のご両親は?」
「事故で亡くなったとは、聞いたことがあるんですが」
「……そう、でしたの」
肩を落とすデルフェスは、ぴりっと肌に何かを感じて視線を動かす。襖の向こうに気配を感じる。
「……あちら、ですか」
「え? あ、そうです。朱理は和室を部屋にしていますから」
すっと襖を開けると、そこには布団の中で横になって寝ている朱理がいた。朱理は呑気な顔で寝息をたてている。
それを見てデルフェスは小さく笑う。
「朱理様は寝顔もお可愛らしいですわね」
「そうですか? ……こっちがすごく心配してるのにこんな顔で寝てたら、ムッとしますよ?」
苦笑する奈々子を見て、デルフェスは微笑んだ。奈々子が朱理を心底心配しているのがわかっているからだ。
朱理の枕もとに座り、うかがう。
確かに、苦しんでいる様子もなく、ただ眠っているだけのように見える。
彼女の額に手を伸ばすと、軽く弾かれた。
(やはり……朱理様には何かが取り憑いていますわね……)
朱理は他人を無条件に信じる性格だ。最初に出会った時のことを思い出して、苦笑してしまう。
(朱理様をこのままにはしておけませんわ……)
このまま眠ったままになど、させておくものか。
顔を引き締め、デルフェスは己の内からの力を朱理に流し込む。彼女のかざした掌から朱理の額へと、何か、見えない力が流れていった。
朱理に吸収されていくその力は、朱理自身の体に変化をもたらした。
朱理の右腕が石へと変わっているのだ。
驚愕した奈々子が青ざめ、デルフェスを見遣る。
「か、鹿沼さん!?」
「落ち着いてくださいまし、奈々子様。これはわたくしの能力です」
「で、でも……!」
「わたくしを信じてください……!」
奈々子は口ごもり、頷く。
デルフェスは静かに朱理に声をかけた。
「換石の術は、その心も石へと化します。この意味が、わかっていますわね? 取り憑いている方」
瞬間、デルフェスに激しい念が叩きつけられる。
<どうして邪魔するのよ! アカリは一緒にいるの!>
「朱理様がそれを望んでいるとでも言うのですか? そんなはずはありませんわ」
<アカリはそれを望んでる! この夢の世界を否定しないもの!>
その言葉に、デルフェスは敵の正体に気づいた。
「まさか……夢魔、ですの……?」
<アカリはずっと夢の中にいる……ずっと、ずっと……>
「そうはいきませんわ。ここに居る奈々子様も、わたくしも、朱理様が必要です。必要なんです」
<!>
「朱理様は、わたくしたちを悲しませるようなことはしない方です!」
はっきりと言い放つ。
「わたくしは、朱理様と会ってまだ少ししか経っておりませんが……でも、朱理様のことをもっと知りたいです。仲良くしたいです!」
<…………>
「悪夢で朱理様を縛り付けるのはやめてください……」
<……>
夢魔が沈黙した。
その念がより凍りつくほどの冷えたものに変わる。
<嫌よ……誰が渡すものか……!>
答えを受け取って、デルフェスは瞳を細めた。
「……それなら仕方ないですわね。こういう方法はとりたくなかったのですけれど……。このまま数十年、石化封印するしかないようですわね……」
<!>
「鹿沼さん!?」
驚愕する奈々子を、デルフェスは横目で見遣る。その目を見て、奈々子は何か気づいたように黙り込んだ。
<石化封印!? アカリはどうするの! 夢に囚われたままそんなことをすると……>
「承知の上です。このまま朱理様が衰弱していくのを、ただ黙って見ているわけには参りません」
凛とした声を放つ。その声が本気だと語っていた。
夢魔は焦り、慌てて朱理の体から飛び出してくる。
「なんてヤツ! アカリのことが大切じゃないの!」
デルフェスは静かに夢魔を見つめた。
「それは……あなたも同じではないのですか?」
「!?」
「朱理様を石化させるのが嫌で、こうして解放したのではないのですか?」
「そ、それは……」
夢魔は眠っている朱理を一瞥し、唇を噛み締める。悔しそうに。
デルフェスは微笑む。
「朱理様はとてもお優しい方ですもの。そこに、あなたも惹かれたのでしょう?」
「……」
夢魔は唇をわななかせ、涙を流した。それを見て、デルフェスも奈々子も驚く。
デルフェスは立ち上がり、ゆっくりと夢魔に近づいてその体を抱きしめた。抱きしめられた夢魔はびくっと身を震わせたが、そのまましがみついた。
幼い体はとても小さく、夢魔は誕生してそれほど時間が経っていないとわかる。
「さみ、しくて……。アカリは、拒絶しなかったから!」
たどたどしく語る夢魔は、四日前ほどの夜に空中を浮遊していた際、朱理を見つけたのだと言った。無防備そのものだったので興味を抱いたと。
悪夢を見せても怖がるわけでもなく、怒るでもなく……ただ黙っている朱理を気に入ってしまったのだと。
デルフェスは腕に力を込めた。
「寂しかったのですわね……ごめんなさい」
「…………」
「ごめん、なさい……」
噛み締めるように言うデルフェスだった。
*
石化を解いてもらった朱理は、二人にコーヒーを出していた。目覚めた朱理は以前と全く変わりなく、元気そのものだ。
「夢魔ねえ。そういや、なんかず〜っと夢を見てたような気はするなあ」
呑気に言う朱理に、奈々子が眉を吊り上げる。
「なんでそう楽天的なんですか! 鹿沼さんがいなかったら、あなたはそのまま眠っていたのかもしれないんですよ!」
「はいはい」
面倒そうに言われて、奈々子のこめかみに青筋が浮かんだのをデルフェスは目撃した。
「ま、まあまあ奈々子様。朱理様が息災で、良かったじゃありませんか。ね?」
「……鹿沼さんは、朱理に甘いと思います」
声に怒りを含んでいるため、凄みがある。デルフェスは頬に汗を流して乾いた笑いを洩らした。
これは話題を逸らさなければ。
「朱理様、寝ている間はどんな夢を?」
「……ああ、夢、ね」
途端に朱理の能天気な表情が少し変わる。え、とデルフェスは内心思った。
不敵に小さくくすり、と朱理が笑う。
「さあ……? どうだったかな。忘れちゃった」
声はいつもの明るいものだが、表情が違っていた。だいたい朱理にこういう表情ができることを、デルフェスは想像もしなかったのだ。
(朱理様……?)
「忘れたあ!? なんでそうなんですか! あなたは毎回毎回、いい加減なんですから! 少しは反省してください!」
テーブルを勢いよく叩く奈々子は、今の朱理の変化に気づいてはいないようだ。すぐさま朱理は元の表情に戻る。
「反省してますって。ごめんごめん」
「なんですか、その軽い謝罪は!」
「も〜、うるさいなあ」
横で朱理を叱り付けている奈々子と、それをものともしない朱理のやり取りを眺めていたが……。
(朱理様に何か隠し事があったとしても)
それは、ほんの些細な事にすぎないだろう。
「奈々子様、いいじゃありませんの。こういうところが、朱理様のいいところですもの」
「さすが鹿沼さん! 奈々子も鹿沼さんを見習ったほうがいいよ。もっとおしとやかにしないと、彼氏できないんじゃないの〜?」
「余計なお世話です! 鹿沼さんも朱理を甘やかすのはやめてください!」
「そ、そういうつもりではなかったのですが……」
苦笑するデルフェスは、ついに可笑しすぎて吹き出してしまう。
驚いて二人が動きを止めた。
「ど、どうしたの、鹿沼さん?」
「どうかされたんですか?」
「い、いえ……お二人のやり取りがあまりに……その、うふふ……」
くすくすと笑い続けるデルフェスを前に、奈々子と朱理はきょとんとしてから笑い合ったのだった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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PC
【2181/鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)/女/463/アンティークショップ・レンの店員】
NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】
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■ ライター通信 ■
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二度目のご依頼ありがとうございます。ライターのともやいずみです。
今回は朱理を中心としたお話でしたが、鹿沼さんのおかげで無事に朱理が救出されました!
警戒心の強い奈々子も、今では鹿沼さんに信頼を寄せている状態になっています〜。
今回はご依頼ありがとうございました! 楽しく書かせていただき、大感謝です!
楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
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