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■べりー・べりー・ぱらだいす■

はる
【4345】【蒼王・海浬】【マネージャー 来訪者】
 桜の花も粗方散り、既に葉桜といった季節に移り変わる。
「うー…」
「どうしか?」
 カウンターに古びた書籍を丁寧に検分していた店主が客の漏らした唸りに顔を上げた。
「何だから、やる気がおきなくてさ」
「五月病というやつか」
「かなぁ〜……」
 暖かくなり、動こうとはおもうのだけど…
「なんかだるいんだよな」
 何かいい解決するいい方法しらない?
「そうだな……では、明日の朝もう一度くるといい」
 動き易い格好をして、何か袋になるものも持ってくるといい。
「?」
 不思議そうに首を傾げ、答えを促すが店主はただ静かに微笑むだけでそれ以上は教えてはくれなかった。

 明朝、普段はこの時間はけして人前に姿を現さない店は、昨日と同じようにそこにあった。
 明るい日差しの下で見る店は、普段見る夕方の姿とまた違なり、壁を這う蔦の緑が古びたレンガ造りのそれに映え、静寂を含むそのたたずまいがどこか目新しい。
「来たようだな」
 珍しくパンツスタイルの店主が出迎えてくれた。
「いったい今日は何を?」
「天気もいいし、少し遠出をしてみよう」
 知り合いのビニールハウスを貸しきりにしてもらったからな。
 散歩がてら、苺狩りと洒落込もうじゃないか。
迷子の小鳥

「参ったな……」
 珍しく難しい顔をして、黄昏堂店主、春日がカウンターに頬杖を付いたまま溜息をついた。
 店内に客は一人。流れるような金髪の青年が窓際のソファーに腰を掛け、落ち着きのない店主の様子を気にも留めずマイペースに出された紅茶を楽しんでいた。
  どうしたの?
 店内を興味深げに物色していた、真紅の毛に包まれた小型の龍に似た生き物が春日の顔を覗き込む。客として訪れた青年、蒼王海浬の聖獣でソールという名前らしい。
 主の海浬はといえば、我冠せずといった面持ちで青い矢車菊が描かれたティーカップを傾けている。つい先ほどまで、ソールの気を引いていた猫足の薪ストーブの中で火が爆ぜる。
「来るはずの者がこなくて困っているんだ」
 なつくように、首筋に纏わりつくソールの頭を軽く撫でてやる。
「春日様、私探しに行ってまいります」
 銀製のソーサーを手にしていた店員の少女が、踵を返し店の奥へ駆け出していった。
「……しかたがない……私も少しその辺を探しにいってくるか……」
シン留守番を頼むぞ。カウンターの上のイグアナに声をかけて扉を押し開けた。
    僕も行くー!
 春日に置くれじとソールもその後をおった。
「そうだな……散歩がてらに、俺も付き合うとするか」
 静かにティーカップを置くと、海浬もゆっくりと立ち上がった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 店を出るときに、まだ幼さの残る少女とすれ違った。
「随分と客層が広いんだな」
「お陰さまでな、いろいろな人間がいるからな」
 若くても、アンティークに興味のある物も少なくはない。少しだけ嬉しそうに春日が微笑んだ。

 それで……
「いったい何を待っていたんだ?」
「今年、うちの店に来るはずになっていた年神だ」
 異界の方にはなじみが薄いかもしれないが……
「毎年、その年を司る神や神獣が持ち回りで家々を回り新年を告げることになっているんだ」
 海浬の問に坦々と春日が説明を始めた。
「新年を祝う舞を、舞ってもらうのがうちの店の通例でな」
「ほぉ……」
「知っての通りかと思うが……この国の神々は比較的呑気だから…」
 その呑気な神の中に自分も含まれている事に知ってか知らずか、春日は溜息をついた。
「そのうち来るだろうと思ってまっていたのだが……今年の担当は…鳥だからなぁ」
 酉だけに……
「三歩、歩けばわすれるほどの鳥頭だったということか」
「そうはっきりいってくれるな」
 海浬の皮肉げな言葉に、春日が肩を竦めた。

    どこから探すの〜?
「さて……このまま」
 あてもなく探すのか?という、海浬とソールに春日が軽く首を振って見せた。
「このまま探すのもなんだ、その辺の誰かに聞いてみよう」
 すぐに日も落ちるしな、という春日の言葉のとおり太陽は既に大きく西に傾いて地面に触れようとしてた。
 春日はあたりを見回し、口笛を吹く。その響きに応えるように数羽の鳥のはばたきが聞こえた。
「お前達、この辺で見かけない者を見なかったか?」
 その問かけに何かを訴えるように、鳥たちが激しく囀った。囀りを聞いていた春日の顔が険しくなる。
    どうしたの、春日?
「この先で随分と悪さをしている、チビ介がいるようだ」
 鳥たちの話を聞くに、どうやら自分は神だといって悪戯ばかりするし少年がいて困っているらしい。
 鳥たちに案内されて、三人は自称神の少年がいるという神社へ向かった。
「僕は神だぞ!えらいんだー!!」
 突風が木立を揺らし、奉納された絵馬をカラカラとならす。
「……あれか……」
「……どうも、そうらしい」
 鳥居の上で仁王立ちの、少年の背には小さな赤い翼。呆れたような海浬の呟きに春日が肩を落とした。
「おい、そこのお前達、僕にお菓子をもってこい」
「……小僧、名は?」
 不遜な態度の少年の様子に、その場に呆れたような空気が流れる。
「僕は鳳凰の翼様だ!」
「鳥かだとしたら貴様が、今年の年神だな」
「だったらなんだよ、おばさん」
 春日の周りの空気が凍りつく。どうやら翼という少年が地雷を踏んだらしい。
「口の利き方には注意した方がいいぞ」
「うるさいなぁー!」
 疾風が走り忠告を口にした海浬の服の一部が切れた瞬間、あたりの気圧が下がった。
    二人ともどおしたの〜?
 間に挟まれたソールがだまってしまった二人の顔をきょろきょろと見比べる。
「……子供の躾は重要だったな……」
 いつの間にか海浬の手に光の鞭。
「同感だ」
 春日もすっと半身をずらした。
 絶対零度の世界を作り上げていた、二人が次の瞬間鳥居の上の少年に飛び掛った。4メートル程の高さも海浬と春日の前には無いも同じであった。
 宙に浮いた海浬が翼の足に鞭を絡ませ、引き摺り落とし、春日がその腕を掴み投げ飛ばす。見事な連携といえた。
「ソール逃がすな」
    は〜い。
 慌てて空に逃げようとする少年の前に巨大化したソールが立ちふさがり、その体に絡みついた。
「はなせ、はなせよぉー!」
  つかまえたよぉ。
「悪戯をしたら、どうなるか……覚えておくことだ」
「上には上がいるということもな」
 人の悪い笑みを浮かべながら、ソールから翼を受け取った海浬がその右手を振り上げた。

「うわ〜ん、ごめんなさ〜い」
 スパーン。尻を叩く乾いた音ともうしませんという、少年の泣き声が人気の無い社に響いていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 翼を伴い疲れた顔で店に戻った面々を迎えたのは、出掛けにすれ違った少女とイグアナと店員そして…
「翼!」
「母ちゃん!?」
 少年に駆け寄った白い翼を持つ女性。
「あらあら、折角のお召し物が切れていらっしゃいますね」
 店の店員が海浬のコートを見て、ポシェットから針と糸を取り出す。
「すぐにお直ししますので、暫くお待ちいただけますか?」
 甘いものがお嫌でなければ、それまでの間これでも召し上がっていてください。
 緑茶をそえた椀を海浬の前に差し出した。ソールの前にも小さな器に入れられた小さな餅と小豆の汁粉。
「あれが母親か」
「そのようだな……親とはぐれて寂しくて悪戯をしていたのだろう」
 熱いお茶を啜りながら春日が一息ついた。

「それでは、お役目を務めさせていただきます」
 やがて翼の腕を引き白い翼の女性が膝を折った。
「よろしく頼む」
 やっと新年が迎えられると春日が苦笑する。
 五色の紐がつけられた鈴を手に、白い翼と赤い翼の神鳥が舞う。
 幻想的なその演舞にその場にいた者たちは、中庭の小さな石舞台の上の舞を見入っていた。




【 Fin 】



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


【1252 / 海原・みなも / 女 / 13歳 / 中学生】
【4345 / 蒼王・海浬 / 男 / 25歳 / マネージャー 来訪者】

【NPC / 春日】
【NPC / シン】
【NPC / ルゥ】


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■         ライター通信          ■
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蒼王・海浬様

おまたせしました。初めまして、はると申します。
この度は【迷子の小鳥】への御参加ありがとうございました。クールな海浬さんと可愛いソール君のお二人のご来店真にありがとうございます。
今回のノベルは翼と連、二羽の神鳥、二つの視点からノベルが展開しております。もう片方のものとあわせて読んでみると、また違った見方ができるかもしれません。

またのご来店おまちしております。