■endless-終わることのない転生-■
時丸仙花 |
【4563】【ゼハール・―】【堕天使】 |
「キミの力を僕たちに貸してくれないかい?」
まるで天使のような青年が、突然汐海の前に現れ、微笑を浮かべて告げた。
一瞬頷きそうになる所を、ぐっと堪えると、汐海は首を傾げた。
「どういうことですか?」
そして、青年は語った。
「僕の家は、古代より続く由緒ある一族でね、特殊な力を持っているんだ」
そういうと、青年は汐海を公園近くのベンチへ誘った。
「表だって出ることはない、闇の一族なんだけど……。実は僕たちが懸念していた事態が起こってしまってね。その回収に追われている訳だけど、何分敵の動き、数がまったく読めなくてね、いつも後手に回ってしまうんだ」
彼らが一体何を"敵"としているのかは解らなかったが、せっぱ詰まっていることだけは理解出来た。
「キミを危険な目には遭わせない。ただ、敵の思念を探って、居所を探して欲しいんだ」
青年はニッコリ笑うと、手を差し出した。
「僕の記憶を視(よ)んでごらん。全てが解るから」
一瞬躊躇するが、汐海は唇を固く結ぶと、彼の手を取った。
青年の名は聖徒(せいと)――ただ、本名ではないらしい。
彼が統べる一族を闇狩(やみがり)といい、闇に棲む王を召喚し、その力を意のままに操る術を持っているのだという。
古来より、闇の王の1人――暗黒王とは折り合いが悪く、闇狩に降(くだ)ることはなかった。そして、暗黒王は闇狩に反旗を翻すかのように、配下を従えて闇世界から光りある世界へと姿を現した。
暗黒王の野望は、世界を手中に治めること。
闇狩と暗黒王との戦いは長い歳月を要した。千年前、当時の一族の長が、暗黒王の封印に成功した。
しかし、それから千年、結界が破られ、封印したはずの暗黒王の実体が行方不明になった。
「最近異能者が集められているんだ。暗黒王と関係があるのかもしれない。闇狩に縁ある者をキミの護衛につけるから、異能者集団の居所を探してくれないか?」
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異界個室の"「Endless」の設定"をお読み頂くと、よりこの世界が理解出来ます。
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endless-終わることのない転生-
-0-
古びた洋館の周囲は枯れ草に覆われた大地が支配していた。
ぽつりぽつりと植えられている木々は寒々しく、緑の1つも宿していない。
木々に止まっているカラス達が、冷ややかな視線を洋館に投げかけている。
なぜか空には暗雲が立ち込め、異様な空気を醸し出していた。
天上は高くそこからはきらびやかなシャンデリアが吊されている。
寒々しい石壁には、濃紺色のタペストリーが飾られ、ランプには暖かみのある炎が灯されていた。
床は石造りになっている。
1人の男が部屋の中央に歩み寄った。
床には魔法陣が画かれている。
大きな円、その内側にもう一つ円、その中に六芒星。円と円の間には古代文字が画かれていた。
男は円を一周すると、正面に立ちそれを見下ろした。
そして、低い声で呪文を唱えた。
円の中央に竜巻が起こる。
それは紫雲を巻き込みながら、天上近くまで巻き上がった。
竜巻の中央に人影が浮かぶ。
爆発するかのように、紫雲が霧散した。
円の中央にメイド姿をした少女が立っていた。
「……」
男はしばらく考えるように目の前の少女を見つめた。
「お呼びでしょうか」
大鎌を担いだ少女は、よっこらしょとそれを床に置いた。
「おれはメイドを呼びだしたつもりはないんだが……」
「はい。私もメイドとして呼び出されたつもりはございません」
きっぱり言い切る少女に、男は怪訝そうな視線を向けた。
「ゼハール。堕天使でございます」
ゼハールと名乗った少女――性別は男なのだと後に判明した――は極上の笑みを浮かべた。
-1-
日中の閑散とした繁華街に、1人の女性が立っていた。
意を決した様な表情をすると、古びたビルの地下へと降りて行った。
入口の扉は半分開いていて、そこから中の様子を窺うと、開店準備をしている従業員らしき人物の姿が見えた。
ぐっと口角を引き上げ、扉を開けようと手をかけた。
「1人で行ってどうする」
開けようとする扉を押さえる手に、女性はビクリとしながら振り返った。
「神坂さん……」
神坂翔(みさかかける)、彼女――一条汐海――が世話になっている【闇狩】の一族の1人である。
神坂は扉から汐海の手を引き離すと、静かに扉を閉めた。
「兎に角助っ人を待てといっただろ」
頭に指を突っ込むと、長めの髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。
「だけど……視えたんです。だから……確認ぐらいなら私にも出来ます。ちょっと様子見るだけで帰ろうと思って……」
汐海は物に残された思念を読みとる事が出来る。彼女は自分の力を「記憶感応」と名付けた。
「相手は異能者集団だぞ。どんな力を有しているのか解らないんだぞ。護衛もなしでどうやって逃げるつもりなんだ」
「逃げるつもりなどないもの。見つかったらその時だわ。相手を説得させればいいだけよ」
「なんなんだ、その無鉄砲さは」
呆れた口調で呟くと、神坂はポケットに手を突っ込み煙草を取り出した。
汐海は残された思念を読みとる力を買われ、闇狩の当主直々にスカウトされた。
ただ、防御する術を持たない汐海は、敵と対峙した時に対処出来ない。
そこで、汐海の力を必要とする時には、必ず護衛を付けるという条件が設けられた。
闇狩は闇の王を召喚し、その力を意のままに操る一族ではあるが、唯一伏すことが出来なかった存在がいた。
それが、暗黒王と名乗るモノである。
古の時代、暗黒王は世界を我がモノにしようとした。が、闇狩の力によりなんとか阻止できた。
闇狩の力を持ってしても、滅することは出来なかった。辛うじて封印出来たものの、何らかのきっかけで封印が解けるかもしれない。そこで、一族は幾重にも結界を張った。
永遠に封じ込める為に――。
「いいか、暗黒王の力が日々強まっている」
「解っています。だから、私が暗黒王に繋がる異能者達の隠れ家を探しているのでしょ」
そう、封印した場所から、暗黒王の実体が消えていた。
日々、暗黒王の力を感じ取ることは出来るが、その場所を特定することが出来ないでいた。
だから、汐海の力を使い、彼らのアジトを探しているのだ。
「オマエ、焦りすぎていないか」
神坂の言葉に、汐海は俯いた。
「……大丈夫です」
「大丈夫って……ハア」
空を仰ぎ見た、頭が痛いと言わんばかりに、額を抑えた。
「兎に角、どうしても動きたいというなら俺に言え。オマエを1人で動かせると聖徒(せいと)に俺がどやされる」
聖徒とは、闇狩の当主の名である。
「ありがとう」
汐海は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうじゃねえよ」
めんどくさそうに呟くと、持っていたパッケージから一本取り出そうとした。
「チッ」
煙草切れである。おもむろに手の中で丸めると、ジーンズのポケットに突っ込んだ。
「で、この中か?」
神坂の言葉に汐海は顔をパッと明るくし、大きく頷いた。
-2-
床をモップ掛けしたり、テーブルを並べたりと、開店前のバーは忙しない。
そこへ、汐海と神坂はズカズカと入っていった。
「なんか用か? まだ開店前だよ」
カウンターの奥から、マスターらしき人物が冷めた視線を向けている。
汐海はぐるりと見回した。
「あの……」
「誰をお捜しですか?」
が、聞き慣れない声を間近で聞き、汐海の心臓は大きく跳ね上がった。
「だ、誰……」
汐海から掠れた声が紡ぎ出された。
「初めまして」
メイド服を着ている割には、メタル系アクセサリを装備している可愛らしい少女が立っていた。
「メイド……さん?」
その場には余りにもそぐわない格好の少女――しかし、少女から醸し出される空気は、禍々しく、その可愛らしい顔には似つかわしくない。
「あなたが一条汐海? そして、そっちが闇狩の人」
「お前誰だ」
神坂が警戒気味に問いかけ、汐海を自分の背後へ押しやった。
「私はゼハール。今回の使命はあなた方の抹殺」
ニヤリと口角を引き上げると、片手を空に上げた。
すると、何もない空間から身の丈以上の鎌が出現した。
「あなたがたに怨みはありません。ただ、我が主の命に従うだけ」
そう言うと、大鎌を軽々と振り上げた。
ゼハールは周囲を見回した。
召喚者の命によると、自分のことを嗅ぎ回っている女――一条汐海――そして、彼女を助けている闇狩の人間を抹殺しろという。
今回の標的は、目の前の闇狩に属する男と、一条汐海。
ゼハールは2人を見比べた。
――たやすいな。
汐海は攻撃の力を持たない。そして、闇狩の男――神坂からも、たいした力は感じられない。
だから、持てる力の半分も使わなくても勝てる――ゼハールはそう思っていた。
すっと青い瞳を細めた。
そして、クククと咽を鳴らし、大鎌を振り下ろした。
空間を切り裂くように振り下ろされたそれは、周囲の空気を巻き込むようにうなり声をあげた。
ガツン
が、それは空を切り、地面に深く突き刺さった。
「あっぶねえな」
神坂の声に、ゼハールは顔を上げる。
すると、神坂は汐海を脇に抱えたまま、数歩後ろに飛び退いていた。
「オマエはここで待機だ」
神坂は汐海を降ろすと、入口近くの空いたスペースに押し込んだ。
「なんなんだよ、その禍々しい鎌は」
神坂が吐き捨てる。
「これはミッドガルド」
「ミッドガルド? 猛毒を持つ大蛇の名前かよ」
また、やっかいなもんを持ちやがって――吐き捨てるように呟くと、神坂は軽く印を結んだ。
そして、九字を切った。
「へえ、結界張れるんだ」
楽しそうに咽を鳴らずと、ゼハールは大鎌に軽く口づけを施し、もう一度振り下ろした。
ブン
結界に阻まれ、ゼハールの鎌は押し戻される。
「……」
軽く不機嫌そうな表情を浮かべると、ゼハールは目の前の男を睨み付けた。
「そんなに死にたいなら殺してあげるよ」
冷ややかな笑みと共に、ゼハールは大鎌を担ぎ上げた。
「なっ……」
大鎌から吐き出されたのは、一瞬で意識を奪い去ってしまう程の瘴気。神坂は口元を手でおおた。
「これ以上やっても無駄でしょう。さあ、我がミッドガルドの前にその首をさしだしなさい」
ゼハールはゆっくり大鎌を振り上げると、無表情のまま、崩れ落ちていく神坂を見つめた。
そして――。
-3-
「悪いがそのくらいでやめておけ」
第三者の介入に、ゼハールは怪訝そうに眉根を寄せた。
「あなたは……」
派手な顔立ちの男と、その背後に隠れるように情けない表情の男。
ゼハールは背後の男に視線を向けた。
「……」
そして、解き放った瘴気をゆっくりと鎮めた。
「命は抹殺。まだ終わっていません」
「もう十分だ」
「……我が主はあなたではない」
きっぱり言い放つと、ゼハールは小刻みに震えている背後の男をもう一度見た。
自分が命を受けた時とは、印象が違う。
自分の主は、これほどまでにひ弱な存在だったであろうか――ゼハールの脳裏に疑問が残った。
「要治」
男が後ろに隠れている男――要治――を前に押し出す。
「だって、海斗……僕にどうしろと言うんだよ」
前に押し出されているにも関わらず、必死で海斗と呼ばれた男の袖に顔を隠している。
「我が主よ――」
ゼハールは静かな声を紡ぎ出すと、要治の前に膝をついた。
「要治っ」
海斗が耳打ちし、要治の脇腹をこづいた。
「契約は成された」
すると、ゼハールの周囲が発光し、足下には来たときと同じ魔法陣が浮かび上がっていた。
次の瞬間、ゼハールは光りと共に姿を消した。
「とりあえず出直してくれば?」
海斗は神坂に言い放った。
「……っ」
現状では分が悪い。
「一条、行くぞ」
入口近くに隠れていた汐海に声をかけ、神坂はバーを出た。
「……」
汐海は意味ありげな視線を室内に残しながら、神坂の後を追った。
「神坂さん、この場所は暗黒王に繋がっています……よね」
「そうだな」
静かに告げると、振り返りバーが入っているビルを見つめた。
END.
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【4563/ゼハール・―(ぜはーる・ー)/男/15歳/堕天使/殺人鬼/戦闘狂】
NPC 一条汐海
NPC 神坂翔
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■ ライター通信 ■
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初めまして。
ライターの風深千歌です。
ゲームノベルへの参加ありがとうございました。
ノベルの設定上、今後の展開など考慮し、プレイングでかき込まれた内容とは少々食い違うノベルとなっております。
また、どこかでご縁がありましたら宜しくお願いします。
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