■商物「過現未」■
北斗玻璃 |
【2957】【箕耶・上総】【フリーター】 |
薄暗さに埃臭いようだが実はそんな事はなく、雑然としているそれこそが整えられた状態であると感じられる店内は、狭いようでいて広い。
一歩足を踏み入れれば正面に広く畳敷きの台場があり、其処に到るまで膝から腰へと順に高さを変える台には駄菓子や子供だましの籤が並ぶかと思えば妙に古びた本が積まれ、ガラスケースに真贋を問いたくなる無頓着さで装飾品の類が並ぶ。
歩みを進めれば鼻を擽るのは乾いた生薬の香、壁かと思えばそれは棚で、小さな引き出しに和紙に炭でひとつひとつ、納められた薬種の名が記されている。ひょいとその裏側を覗き込んでみればその向こうにも棚、こちらは楽器の類を納めてあるらしく、図書館のように幾列も連なるその向こうは影に紛れて奥行きを見通せない。
妙な所だといっそ感心するしかないそんな店でふと、笑いさざめく声が空気を動かした。
視線の先には白と黒……先までは確かに居なかった子供が二人、台場の端に腰をかけ、揃って大判の……どうやら百科事典と思しき重たげな本を互いの膝の間に置いて眺めていた。
「おや、あの子等が気になりますか」
ふぅ、と耳の後ろから前へと抜けか白い空気が煙草の香で鼻を擽るのに咄嗟に振り向けば、気配など感じもしなかったのに男が一人後ろに立つ。
「あぁ、こりゃ失礼を。あまりに熱心に品を御覧の様子にちょいと商売っ気が擽られてねぇ……陰と陽と、その間に構える故に陰陽堂と、そう冠しましたるこの店の主でさぁ」
ぷかりと煙管から吸い込んだ煙を吐き出す。
「そしてあの子等は、兄がコシカタ、妹がユクスエと。申しましてうちの立派な商品だ」
店主が言葉にした名に引かれてか、先に少年が、一拍遅れて少女が顔を上げて本を置いて小走りに駆けてきた。
そしてそのまま、右と左に手を繋がれて、その掌の思わぬ人懐っこさに面食らう。
「お気に召したなら、どうぞお持ち下さいまし」
にこにこと、店主はこちらの都合など存ぜぬ様子で煙管をふかす。
「こんな辺鄙な店に足を踏み入れる位だ。急ぎの用は御座いませんでしょう。お代はどうぞこの子等に一つずつ、揃いの品でも買い与えてやって下さればそれでよし。夕を過ぎてから朝までの間に、店に送り届けてやって下さいましな」
呈のいい子守かと、反論を受け付けずに店主は飄々と続ける。
「そうそう、この子等は占が得意でね。コシカタは後、ユクスエは先、見通す事にかけちゃ、ちょっとしたモンですよ」
くいと両側から同時に手を引かれて、足が自然に出口に向く。
「気を引かれるならば、その子等が。今必要という事ですよお客様」
目元だけを深める笑いが、たなびく紫煙越しに曖昧に光る。
引かれるままに戸外に出れば、店の薄暗さと真逆の昼の光に目が眩む。
「何処に行く?」
「何して遊ぶ?」
声は左右から。
問いかけの内容こそは子供らしいが、何処か淡々とした口調にさてどう扱えばいいものやら、勝手が掴めず途方に暮れた。
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商物「過現未」
目元を覆う濃い遮光グラスは、世界の色を闇夜よりは淡く、黄昏よりは濃く変じさせる。
箕耶上総は昼尚薄暗い……サングラスの効能に更に暗い路地の奥、果たして営業しているかどうか、から観察力、洞察力を総動員しなければならないその店に興味を覚え、窓に顔を近付けた。
窓硝子の内側はショウウィンドウらしく、原色のブリキのおもちゃや民芸品らしきポーチなどが並び、一見、雑貨の販売を兼ねた中華飯店っぽい。
円形と菱形を線で組み合わせた格子に絡む植物めいた紋様が大陸のそれを思わせる……が、華やかな朱ではなく、黒漆の艶やかさは和風である。
扉と壁とのデザインに別がないのは仕様なのか、鈍た光りをつるりと湛えた真鍮の取っ手がなければ、入り口が何処か解らないだろう。
「けったいな店やな〜」
しかし、その埃臭いような薄暗さは却って郷愁……というよりも未だ健在な子供心をわくわくと擽り、上総はドアノブに手をかけた。
「なんや、開いとるやん」
カチリ、と軽い手応えで開く扉、生じた隙間に頭を入れて店内を覗き込んで、上総は遠慮がちな声を奥へと放つ。
「お〜い、誰もおらへんの〜?」
空気を動かすのは上総の声と、カチコチと正確な律を刻む柱時計の振り子のみ。
無人と思しき場所への侵入に、多少の後ろめたさと高揚を感じながら足を踏み入れれば、薄暗さに埃臭いようだが実はそんな事はなく、雑然としているそれこそが整えられた状態であると感じられる店内は、狭いようでいて広い。
正面奥に広く畳敷きの台場があり、其処に到るまで膝から腰へと順に高さを変える台には駄菓子や子供だましの籤が並ぶかと思えば妙に古びた本が積まれ、ガラスケースに真贋を問いたくなる無頓着さで装飾品の類が並ぶ。
歩みを進めれば鼻を擽るのは乾いた生薬の香、壁かと思えばそれは棚で、小さな引き出しに和紙に墨でひとつひとつ、納められた薬種の名が記されている。
「けったいな店や」
確信にうん、と頷いて上総はふと、笑いさざめく声が空気を動かすのに顔を向けた。
視線の先には白と黒……先までは確かに居なかった子供が二人、台場の端に腰をかけ、揃って大判の……どうやら百科事典と思しき重たげな本を互いの膝の間に置いて眺めている。
「おや、あの子等が気になりますか」
ふぅ、と耳の後ろから前へと、白い空気が煙草の香で鼻を擽りながら抜けていく。
「うわぁっ?! なんやねんえっちっ!」
咄嗟に振り向けば、直前まで確かに誰も居なかった場所、背後に男が一人、立っていた。
「あぁ、こりゃ失礼を。あまりに熱心に品を御覧の様子にちょいと商売っ気が擽られてねぇ……陰と陽と、その間に構える故に陰陽堂と、そう冠しましたるこの店の主でさぁ」
ぷかりと煙管から吸い込んだ煙を吐き出す。
着流した和装の藍は濃く、薄暗い足下に透けそうだが、下駄をひっかけた素足に救われて生きた人間だと判じられる。
「……なぁ、言うてえぇ?」
棚引く煙で作られた軌跡が、どうぞ、と先を促すのに上総は一つ頷いた。
「あんた、客商売やったらもうちぃと小綺麗なカッコしぃや。そんな胡散臭い格好しとったら、若い女の子なんやきゃー! ゆうて逃げてくで?」
上総の言うその通り、無精髭の浮いた顎は一般的に求められる清潔感からは遠い。
「そうですかい?」
自らの顎をザリ、と音を立てて掌で擦り、店主は煙管を銜えた口元を笑いに引いた。
「ほら、アレだ……ワイルド系を狙っているという事で。ひとつ」
などと理解を求められるのに、上総は両手を肩の位置まで上げてやれやれと息を吐く。
「何ゆうとんねん、和服でワイルドが似合うんはジャン・レノくらいやゆうねん」
偏りを感じさせる意見だが、店主は「今度参考にさせて頂きましょ」とにこにこ笑って悪びれなく続けた。
「風体はどうあれ、造作はイイ男ですからねあたしゃ。わりと何でも似合うんです」
などとわざわざ灯りの方に向けた店主の顔を、上総は遠慮無く眺める……むさ苦しさに惑わされたが、自信の通り、美形好きを以て任じる上総の審美眼に充分適う。
「ホンマやな。こりゃ俺が悪かったわ。堪忍したってぇや」
「いえいえ、よくある事ですから」
むさ苦しいと言われる事か、はたまたフランスの男優と比較されるのか、よくあるそれ、がかかる箇所を判じられぬままに上総はまぁえぇかと肩を竦めた。
「したらなぁ、俺と茶ぁでもしばきに行かへん?」
美形と認定したならお茶に誘うのが上総の礼儀である。
それを聞いて店主は「ならば」と手にした煙管を動かして、その先に子供を示して見せた。
「あの子等が適任だ。兄がコシカタ、妹がユクスエと。申しましてうちの立派な商品で」
店主が言葉にした名に引かれてか、先に少年が、一拍遅れて少女が顔を上げて本を置いて小走りに駆けてきた。
そしてそのまま、右と左に手を繋がれて、その掌の思わぬ人懐っこさに面食らう。
「お気に召したなら、どうぞお持ち下さいまし」
にこにこと、店主はこちらの都合など存ぜぬ様子で煙管をふかす。
「こんな辺鄙な店に足を踏み入れる位だ。急ぎの用は御座いませんでしょう。お代はどうぞこの子等に一つずつ、揃いの品でも買い与えてやって下さればそれでよし。夕を過ぎてから朝までの間に、店に送り届けてやって下さいましな」
呈のいい子守かと、反論を受け付けずに店主は飄々と続ける。
「そうそう、この子等は占が得意でね。コシカタは後、ユクスエは先、見通す事にかけちゃ、ちょっとしたモンですよ」
くいと両側から同時に手を引かれて、足が自然に出口に向く。
「気を引かれるならば、その子等が。今必要という事ですよお客様」
目元だけを深める笑いが、たなびく紫煙越しに曖昧に光る。
引かれるままに戸外に出れば、パタンと背後で軽く扉が閉まった。
「何処に行く?」
右の手をキュ、と握られて見れば金の瞳で見上げる少年……コシカタ。
強請る言葉ではあるが、声は淡々として感情に薄い。
「あー……なんやよー解らんけど……とりあえず遊び行こか?」
けど可愛ぇなぁ、などと目元を緩ませた上総の左手が、次いで軽く引かれる。
「何して遊ぶ?」
銀の瞳を見下ろせば、少女……ユクスエの長い白髪がさらりと流れる動きに女の子もえぇなぁ、と口の端が綻ぶ。
「つか、俺買い物行こうと思うとったんや。付き合うてくれる?」
両手に花、と相好を崩しまくった上総は、円いサングラスのアヤシイ風体であるのをすっかり失念して、ツーステップで歩き出した。
近いようで遠い子供の頃、手繰り寄せた想い出でお出かけに嬉しかったのはデパート、遊園地、動物園。
子供相手ならここや! という絶大なる自信で以て、上総はコシカタとユクスエを伴って都内の百貨店を訪れていた。
多少のしょぼさはあるものの独特の雰囲気が味である、屋上施設を遊園地と動物園に代用して、五人組のヒーローショーに野次を飛ばし、エアートランポリンではしゃいで、少しやさぐれた風味の兎を抱き。
そのどれもを堪能しているのは上総のみ、誘いには応じるものの、連れの双子は何処か淡々としていて楽しいのか楽しくないのか……否、表情の無さに明らかに楽しくはなさそうである。
「……手強いなぁ、キミ等」
思わぬ強敵に、上総は心中に汗をかく。
それぞれに黒と白の兎を抱いて頭を撫でてはいるものの、その柔らかさに頬を綻ばせるでなく、美味しそうだと唾を呑むわけでもなく。
このままでは、わざわざ名乗りを上げて怪人の人質にまでなった甲斐がない。
「よーっし、こうなったら最後の手段や!」
上総は意気込みを示して、胸の前で拳を握る。
「子供が最も弱いモノ、それは物欲!」
行っくでー! と威勢の良い掛声に、階を順に制覇すべく上総はコシカタとユクスエの手を取った。
……だがしかし。
「あ、なぁなぁ、コシカタ! こんなんどないや?! きっとよぉ似合うでぇ〜、お、ちゃんと背中のジッパーまで再現したるやん芸細かッ!」
身長40mを誇って人の良い、銀色の巨大ヒーロー変身セットをなどとコシカタに薦めるが、受け取りはしても首を傾げて眺めている様に、年頃の男の子が持つヒーロー願望が見出せずに項垂れる……男の子向け玩具コーナー敗退。
「見てみぃな! お姫様アクセサリーセットやて! きらきらしてキレイやなぁ、ユクスエ、こんなんつけたらホンマのお姫様になってまうで!」
と、透明なピンクのケースに入ったプラスチックビーズのアクセサリーを指差すが、冷めた瞳に装飾品に対する興味は見受けられない……女の子向け玩具コーナー敗退。
「て、手強い……」
顎に伝う汗を拭う動作で焦りを示し、上総は手を繋いで先を歩く双子の兄妹を見た。
「イヤ、落ち着け自分。観察して想像するんや……あの子等がナニをしたら喜ぶかを。このままでは笑いの本場大阪、いやさ関西人の名が廃る! お笑いの神様仏様! オラに元気を分けてくれ〜ッ!」
それでなくとも屋内でサングラスをかけた怪しい風体で、偶像が存在するかさえ怪しい神仏に手を揉みしだいて祈りを捧げる上総……時節でなくとも不審者に向けられる目は厳しい折。
「お客様、恐縮ですが事務所までご一緒願えますか?」
突如として現われた紺色の制服を纏った警備員に両脇をがっちりと固められ、上総は足を引きずるように移動させられる。
「えっ? アレ? なんやの? アレ? アレレレレ?」
買い物を楽しむお客様の害となる、と判断された上総はあっという間に裏方に拉致された。
「こ、恐かった……」
コシカタとユクスエに仲良く繋いだ手で引かれ、肩でえくえくと泣きながら上総は百貨店内を歩いていた。
「この魅惑のバディが汚されてまうかと思った……」
ちなみにそんなトラウマを覚えるような事実は微塵たりとも起きておらず、無根にも程がある。
彼が警察のお世話になる事なく、程なく解放されたのはコシカタとユクスエの迎えがあったに他ならない……時に人懐っこい子供の主張は、どんな身分証明よりも確かであるのだが、奇行に対するお目玉はしっかりとくらった上総である。
「箕耶様?」
「大丈夫?」
きゅ、と握る手に力を入れて案じる言葉で見上げてくる、表情には薄い双子の気遣いにきゅんと胸を走るときめきに、上総は身をくねらせた。
「そんな他人行儀な呼び方せんとってぇや」
先に経験が教訓として活きていない上に、全く懲りてない。
「さっきみたいに呼んでぇな♪ ホラホラ♪」
己を指差す上総に、コシカタとユクスエは顔を見合わせる。
「さっきって……?」
「上総お兄ちゃん?」
上総の身柄を確保する為に、身内を装った二人が打った一芝居に於ける呼称が痛く気に入った様子である。
「せや! えぇなぁ『お兄ちゃん』! 俺、天涯孤独な一人っ子やさかい、めっちゃ新鮮やー♪」
顔を見合わせる二人の間を、上総は勢い良く突っ切るように割り込んで、その手を握る。
「お! よう見たら一階にもおもちゃあんねや! 覗いてこー♪」
目先の興味に囚われて歩幅も大きく歩き出す上総に、コシカタとユクスエは足早になりながら続く……先にはバラエティ玩具特設コーナー。
「おおぉぉぉ?!」
その売り場の中心で目を輝かせ、感嘆の声を上げる上総。
「コレやコレ! 俺が求めとったんはコレなんやーッ!」
定番の鼻眼鏡やバーコード鬘、各種コスチューム……忘年会でもクリスマスでもハロウィンでもないのに何を意図して特設されたか全く以て謎、としかいいようのない売り場ながら、その時期外れっぷりがまた上総の関西人の血をざわめかす。
「えぇやん、えぇやん! 関東人もようやっとお笑いのなんたるかを理解しだしたんやな、えぇ傾向や!」
深々と頷きながらあちらにこちらに、売り場を飛び回って物色する上総はコシカタとユクスエの存在を忘れ去っていたかのようだったが、程なく、ビニールの手提げを下げて戻ってきた。
上総が買い物に勤しむ間、売り場から離れたソファで並んで座っていた双子は、それぞれひとつずつ、袋を手渡されて同じ角度に首を傾げた。
「コレやったら絶対に気に入るわ! 開けてみてぇや♪」
絶対的な自信に胸を反らす上総に、コシカタとユクスエはガサガサと音を立ててビニール袋の中身を取り出した……袋の上部には『雷様変身セット!』とポップな字体で大きく表示され、それぞれの手にどぎつい原色の赤と青、そしてどうやらカツラであるらしい黄色と虎柄の布が内包されているのが見える。
「これが全身タイツでなー、赤鬼さんと青鬼さんになれるんや、面白いやろ?」
節分でもないのに。
けれども二人の子供はそれをしっかりと抱えると、また同時に上総を見上げて僅か、微笑む。
「ありがとう」
「ありがとう」
返品を食らわずに済んだ上総は、ほ、と肩の力を抜いた。
「よ〜し、乗ってきた! 次は地下街食べ歩きやーッ!」
声高に拳を振り上げた上総を今度こそ店内から叩き出すべく、靴音を揃えて向かってくる警備員に気付いた双子は、この場で保護者であるべき青年の両側を押さえて慌てず急がずその場から離れた。
そして地下。
ゆっくりと腰を落ち着ける時間も惜しい奥様方がターゲットな売り場の為か、イートインが可能な店舗の少なさを補う為か、休憩所と称して自動販売機を壁際に並べた前、テーブルと椅子の設えられた一画を陣取った上総は、甘味を山と積んでご満悦である。
勿論、コシカタとユクスエの前にも上総よりは抑えめだが多種多様、例に挙げて言うなら和なら練り菓子、洋ならケーキ、中なら月餅と全店網羅の勢いで買い漁った品が並んでいた。
「二人ともどないしてん? はよ食べ、子供が遠慮しとったら大きぅなれんで?」
上総の薦めるまま遠慮せずに食べきれば確かに大きくなれる事だろう……横に幅広く際限なく。
それ以前に容量が有限である内臓の大きさを、外観から察するに物理的に無理であろう……そんな無体を強いている自覚なく、上総は自分はまくまくとみたらし団子を攻略している。
早くも手持ち無沙汰に、和菓子に添えられた黒文字を弄っていたユクスエがふと顔を上げた。
「箕耶……上総おにいちゃん」
コシカタの呼び掛けの途中で一睨みして、望む呼称を付加させた上総は満足気に笑って促す。
「なんや?」
朗らかな上総に、一度ゆっくりと瞬いたコシカタが問うた。
「その眼鏡、誰の?」
金の眼差しの射抜く強さが、地下でもかけたままのサングラスのレンズに映り込む。
「誰て……俺のやで? いつの間にか持っとったけど」
言いながらサングラスの弦に触れる……改めて問われれば、バイト中こそ外すがそれ以外では肌身から離さない、無意識の執着の奇妙さに初めて気付く。
心中に浮かんだ疑問への答えを見出す間のないままに、コシカタが続けた。
「髪も服も、真っ黒い人が持ってた」
差し出されたコシカタの手を促されるままに握れば、ユクスエの細い手がその上に添えられる。
「俺そんなん知らんで? ハズレやハズレ〜〜」
暖かな子供の体温でサンドイッチ状態に手を握られたまま、上総はカラカラと笑って否定する。
けれどユクスエが、コシカタの言を受け継いだ。
「髪も服も、真っ黒い人」
ユクスエの銀の視線は、遠くを見るように上総を透かして澄む。
「形は違うけれどいつか。諦めなければ月の瞳に出逢う」
瞬きのない瞳で告げる真っ直ぐな言葉に、笑みを深めようとした上総の目尻から一粒、涙が零れ落ちた。
「うえ!? な、なんや、コレ?!」
それを皮切りに、次々と溢れ零れる涙の収拾がつかず、慌てた上総は腰を浮かせてテーブル越しに身を乗り出してコシカタとユクスエを抱き締めた。
「俺の事泣かせるなんて……二人とも罪な子ぉや〜〜」
ぐしゅぐしゅと鼻を鳴らしながら、涙と共に盛大に溢れる感情は知らないようで、懐かしいようで……冷たいようで、暖かいようで。
上総は一人では堪え切れぬ想いの強さと重さに絶える為、ぬくもりに縋るようにして双子を抱く腕に力を込めた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【2957/箕耶・上総/男性/19歳/フリーター】
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■ ライター通信 ■
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いつもお世話になっております、貴方の日常をさり気ない驚きで彩りたい闇に蠢く駄文書き、北斗玻璃に御座います♪
ライター通信を書くのが久しぶりすぎてかなりドキドキ♪ これが恋?(違)え〜……ここには何を書くんだったかな、などと悩んでないで。文中でさり気なく大風呂敷を広げてしまったような気がしますけれども、えぇ。諦めないで頂ければまぁ……何らかの形で類する人に会えるような会えないような。そんな袱紗程度の北斗の野望があるというあたりをささやかに意思表示しながら、また時が遇う事を心より楽しみにさせて頂きます。
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