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■月魄の宴■

はる
【2863】【蒼王・翼】【F1レーサー 闇の皇女】
 蟹が描かれた塗り盆に朱塗りの椀。
 ウサギが跳ねる様子を描かれた、古めかしい皿の数々。
 その中に一枚の銅鏡が置かれていた。
「これは何に使うんだ?」
 月見をするから、と誘われた行きつけの骨董屋の宴会の準備の席。
 ふと目に付いたものをそばで桐箱から食器を出していた店主に尋ねた。
「ん?あぁ……月夜には鏡に未来が映るというからな、余興の一つに使おうとおもって出してきたんだ」
「ふ〜ん、占いか」
『占いなら我が得意なのである』
 横からぬっとイグアナ(自称)が顔を突き出す。
「そんなこといったって、お前の占い当たらないじゃないか」
 黄昏堂の座敷イグアナの占い的中率の低さは折り紙つきだ。
『我の占いは絶対なのである!!』
「絶対あたってほしくないことばかりあたるの間違いだろ」
『失敬な!我を愚弄する気なのであるか』
「ほらほら手が止まってるぞ」
 漫才のような常連客と眷属のやり取りに苦笑しながら店主が、口の長い花活けを手にとった。
「あ……しまった」
「どうかしたのか?」
「ススキを用意しておくのを忘れていた……」
「春日様、あの……お酒の方も……」
 あまり予備がありませんけど、どうしましょう?
 一緒に買ってきましょうかと店の看板娘が小首を傾げた。

「月から客も来る予定だからな……無いと形がつかんだろ?」
 仕方ないなと、店主は肩をすくめて立ち上がった。
心機の鏡 〜白〜


「すげえぜ、さすが金持ちなだけあるよな」
「へんなお面だぜ、見てみろよ」
 資産家で知られるの家に無断で侵入し、金目の物を物色してた若い男達は見たこともない美術品の数々に興奮気味だった。
 白木の桐箱に収められた、面を見つけ男達の一人が面白半分に身につける。
 それが悲劇の幕開けになるとも知らずに……

「厄介な事になったな」
 受話器を置いた店主が、小さく溜息をついた。電話は知り合いの、古物商からのもの。所謂所の、曰くつきの品を集めていた好事家の家が物取りに荒され、集めていた品々の一部が紛失し、行方知れずになったという知らせだった。
「どういたしますか?」
「どうするもこうするも…私が出る以外にあるまい?」
 人の世にあっては厄介だ……
「不三面(ふみつら)か……」
「なんでしょうか?」
 それは。
「名の知れた、仏師が彫った3つの鬼面の通り名だ」
 曰く、人の不の感情を掘ったものらしい。その面をつけたものは隠された、欲望や願望に引きづられ破滅の道を歩むというもの。
「怒りの赤面(せきつら)の回収は済んだようだが、後2つの行方が知れぬらしい」

「これは?」
 変なお面。道に落ちていた白い面を少女は手に取った。
「これをつけて家に入ったら、母さんは驚くかしら?」
 何時も口うるさく彼女をしかる母親。軽い冗談のつもりで少女は面を顔につけた。

   モウイヤ ワタシハワタシ コレイジョウカンショウシナイデ!
   ホウッテオイテ ミンナキライヨ ダイッキライ!!

「緑ちゃん………?」
 面をつけた少女の手には包丁が光る。それは異様な光景だった。

 
 黄昏堂の長い夜が始まろうとしていた。



 騒然とする衆人と、微かにだが漂う血臭に興味を覚え翼は騒ぎを覗き込んだ。
「まて!」
 何故だか分からないが、包丁を突きつけられたままの女性が、突きつけている相手を引き摺るようにして駆けていくのが見えた。
「逃がすか……」
 白銀の弓を引き絞った女性が狙いを定めようとするが、群集が壁になってしまい相手に狙いが定められない。舌打ちをした女性が走り去った二人を追うように、翼の脇を駆け抜けた。
 白塗りの鬼面をつけたセーラー服の少女に包丁を突きつけられながらも、その場から逃げ出した女性。
「一体何……?」
 純粋に好奇心を覚え、翼は3人の後を追うことを決めた。

 駐車場に駆けつけた翼の前に、走り去った黒のランドクルーザーを苦々しく、見送る先ほどの弓を持った女性の姿があった。
「あれを、野放しにするのは厄介だというのに……」
 呟きが夕暮れの街角の風にとけて消える。
「何がやっかいなの?」
 お手伝いしてあげようか?にっと笑う翼に、弓を持った女性が不審そうに眉を寄せた。
「そろそろ、子供は家に帰る時間だぞ」
「折角手伝ってあげようって言ってるのに、それはないんじゃない?」
 猫の手も借りたい現状で、物好きな助っ人を断ることは確かに理に適っていない。
「……私は、春日だ」
 この先で店を経営している。諦めたように春日が日の沈んだ、空を見上げた。
「僕は翼。蒼王翼だよ」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 車で逃走した相手を追うのに適しているのは、同じ足を使うことで……里美の車の止めてあった駐車場から程近いところにある、春日の経営する黄昏堂に止めてあった車を見て翼は目を輝かせた。
「わーミッションじゃない」
 右ハンドルでありながら、外国産のシルバーボディのそれはこの型式の車では珍しいミッション車であった。
「僕、これのミッションまだ乗ったこと無いんだよね」
「貴様はまだ免許を取れる年ではなかろうが……」
「交通違反は見つからなければ、違反にならないんだよ」
 あっけらかんと言い切る、翼の様子にそれまで、険しい表情を見せていた春日が始めて表情を緩めた。
「ぶつけるなよ」
「任せて、こう見えてもプロだから」
 投げ渡された、鍵を機用にキャッチすると、翼は運転席に滑り込んだ。

「それで、あれは何?」
 少女のつけていた、不気味な鬼面。その泣き笑いのような表情が忘れられずに翼は、隣で瞳を閉じ周囲の気配を探る春日に尋ねた。
「あれは……不三面と呼ばれる、3つの鬼面のうちの一つでな…人の感情を写す鏡のような面なのだという」
「それって、ずっとつけていても大丈夫なものなの?」
 さっきのこは何かに取り付かれていたみたいだけど……
「良いわけがなかろう?自分の不の感情が常に目の前にあるんだ……あれをつけた者は、己の感情に飲み込まれ廃人になるか狂人になるかの二つに一つだ」
 半分諦めたような口振りで春日は坦々と告げる。
「じゃぁ……あの子も……」
「今はまだ、辛うじて自我のようなものが残っているようだが……時間の問題だろうな」
 ステアリングを握る翼の手が力を込めすぎて白くなる。
「早く、見つけてあげないと……そうだ……」
 お願いあの子を見つけてきて……呟くように、翼は自分の周りを取り囲むものに語り掛けた。
「……風か……?」
 少しだけ開けられた窓から、意思を持つ様に車内を駆け抜けた風に春日が目を細めた。
「うん、風は何者にも邪魔されないから」
 真剣な眼差しで正面を見据え、翼はアクセルを踏み込んだ。

 風に導かれ、翼と春日がたどり着いた場所は、傍らに寒々しい黒い水面が広がる港。
「ここに、あの子がいるの……?」
 潮の匂いを孕んだ風が、肯定の意思を示すように翼の頬を撫でた。
「……!?」
「どうした?」
 潮の香りに混じって微かに香る、血臭を感じ取り駆け出した翼の後を春日が慌てて追いかけた。
 コンテナの陰に隠れるように停車したランドクルーザーの傍らに、蹲った人影。
「里美!」
 その足元に広がるものは黒々とした血溜り。
「……大丈夫……平気よ……」
 苦しそうな息の下で、里美が何事かを呟くとその周囲に、赤く怪しく光る魔方陣が浮かび上がった。
 そこから呼び出されたものの姿に、翼も息を呑んだ。
 十字架に貼り付けにされ、血を流す聖者の姿をした異形のものが里美を守るようにその姿を現した。
「……里美のデーモンだ、確かジーザス・クライスト・スーパースレイヤーといったか」
 異端の力を持つデーモンの能力によって、里美の傷が癒されていく。
「そういえば、あの子は?」
 目の前の女性が大丈夫だと分かって安心した、翼は当初の目的を思い出した。
「あそこにいるわ」
 里美の指差す方向に、まるで幽鬼の様に立ち尽くす鬼面をつけた少女の姿があった。
「……そろそろ、限界だな」
 春日の言葉を聞くまでもなく、少女の自我が消えかけていることが感じ取れる。
「いざとなったら、無理やりにでもあれを外せばいいんでしょ」
 傷が癒えたのか、血で汚れてしまったスーツのジャケットを忌々しそうに脱ぎ捨てて里美が己の僕を顎で杓った。
「ねえ、キミ」
 少女の手の手の中にある血まみれの包丁を一切気にすることなく、翼は彼女に近づいていった。
「…スベテ…ナクス…」
 壊す、殺す。うわ言のようにくぐもった呟きが面の下から聞こえる。
「何がしたいの?何か言いたいことがあるんじゃないの?」
「……チカヅク…コロス…ジャマ」
「それじゃ、分からないよ。自分の言葉でいってみたら?」
 恐らくは、自分と余り違わない年頃の少女の心に翼は語り掛けた。
「本当にキミはこんなことがしたかったの?」
 静かに問いかけながら、翼は一歩一歩少女に近づいていった。
「………」
 その言葉にまるで、嫌々をするように鬼面をつけた少女が頭を抱える。
「壊すことじゃ、全ては始まらないよ」
「……ドウスレバ…ヨカッタノヨ!」
 包丁を手放し悲鳴を上げる様に叫ぶと少女は、その場にしゃがみこんだ。
「もう一押しね」
 里美がジーザス・クライスト・スーパースレイヤーに目を向ける。
 魔で在りながら聖の属性を持つ異端のデーモン。その体が淡く光をおび周囲を暖かい光で満たす。全てを魔を払う浄化の光が辺りを包み込む。
「どうすればよかったと思う?」
 少女と傍に歩み寄った翼が同じように、しゃがみこみその白塗りの鬼面に手をかけた。
「今は分からなくても、これから少しずつ考えていっても遅くないんじゃないのかな?」
 にっこりと微笑みかけながら、少女を呪縛していた鬼面を外した。
「これから…?」
「そう、これから。僕も相談にのるからさ」
 鬼面の下から現れた、涙で濡れた少女の額に翼は軽く口付けた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「とりえず、ひと段落か……」
「まだ、終わってないわよ」
 ほっと、肩の力を抜いた春日の耳を里美が引っ張った。
「あの子の母親はどこ?」
「確か……市立病院に搬送されたはずだ」
「案内して、なに不思議そうな顔してるのよ!お母さんの怪我が無かったことになれば、あの子の罪も曖昧に出来るでしょ!」
 きょとんとした春日の頭を張り飛ばした。
「いや、私はこれからもう一つの面を回収しにいかなければならないんだが……」
 まるで、漫才のような二人のやり取りに翼がくすくすと笑いながら、白い鬼面を春日に手渡した。
「無免許の僕でいいなら案内するよ」

 その後里美のデーモンの力により、鬼面に操られていた少女の母親の傷は癒され、表ざたになることなく処理された。
 数日後の街角で、翼は再び春日に出会った。
「あの子は?」
「もう、大丈夫だろう…」
 多分、これから先のことも乗り越えていけるさ……
「人は強いからな」
「そうだね……」
 二人の間を沈黙が走る。
「ああ、そうだ」
 春日が小さな小箱を取り出した。
「これは?」
「あの後に偶然手に入ったものだ、癒しの効果があるようだ」
 折角だから受け取ってくれ。
「ふ〜ん」
 小箱の中の雫型の結晶をまじまじと見つめ、翼はそれを受け取った。
「あの子がこれから、まっすぐな人生をおくれるといいよね……」
「そうだな……」



【 Fin 】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


【0638 / 飯城・里美 / 女 / 28歳 / ゲーム会社の部長のデーモン使い】
【2863 / 蒼王・翼 / 女 / 16歳 / F1レーサー 闇の皇女】

【NPC / 春日】
【NPC / ルゥ】


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■         ライター通信          ■
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初めまして、そして大変お待たせしました、ライターのはるでございます。
心機の鏡〜白〜をお届けさせて頂きます。当初はシリアスのつもりで書き始めましたのに・・・シリアスになりきっていないのは・・・あまり気になさらずに置いてください・・・
今回は御参加ありがとうございました。

蒼王・翼様
今回は参加された御両名が男前とうい設定の方々で、大変楽しく書かせていただいたはるでございます。
年齢的に明らかに違反だろうと思いながらも・・・話の流れ的に設定事項からのアドリブ大目でお届けさせていただきましたが・・・大丈夫だったでしょうか・・・(汗)
何か、ありましたら遠慮なくお申し付けくださいませ。