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■愛すべき殺人鬼の右手<4>■

哉色戯琴
【2263】【神山・隼人】【便利屋】
「魂の管理不足とはな」
「っさいおっさんだねぇ――喧嘩売ってるのかい。だからあたしだって責任持って、こうやって乗り出してきたんじゃないか。自慢じゃないが、あたしが出張るなんてそうそう無いことなんだよ」
「だろうな。だが、殺人が繰り返されていると言うことは――」
「あいつはとことんに、やるだろうね」

 皮を剥がれて殺された女達。
 剥ぎ取られて全てを露出させられた死体達。
 まったく、ぞっとしない。
 まったく。

「お兄さん、資料、纏められました。事件の起こった時間と場所、それと被害者の特徴です」
「……共通項は何か、見付かっているか?」
「それが、殆どなくて」
「一応写真も仕入れてくれ。俺達は、街で目撃情報を集めてみる」
「このカードで魂の気配は辿れるからね――まったく、面倒に関わっちまったよ」
□■□■ 愛すべき殺人鬼の右手<4> ■□■□



「魂の管理不足とはな」
「っさいおっさんだねぇ――喧嘩売ってるのかい。だからあたしだって責任持って、こうやって乗り出してきたんじゃないか。自慢じゃないが、あたしが出張るなんてそうそう無いことなんだよ」
「だろうな。だが、殺人が繰り返されていると言うことは――」
「あいつはとことんに、やるだろうね」

 皮を剥がれて殺された女達。
 剥ぎ取られて全てを露出させられた死体達。
 まったく、ぞっとしない。
 まったく。

「お兄さん、資料、纏められました。事件の起こった時間と場所、それと被害者の特徴です」
「……共通項は何か、見付かっているか?」
「それが、殆どなくて」
「一応写真も仕入れてくれ。俺達は、街で目撃情報を集めてみる」
「このカードで魂の気配は辿れるからね――まったく、面倒に関わっちまったよ」

■綾和泉/ゼハール■

「寝ているところを無理矢理に起こされたようなものですからね、怒っても当たり前かもしれません。せめて話し合いの余地があれば良いのですけれど、望みは薄そうですね……」

 興信所の応接セットに腰掛け、零が作った新聞のスクラップ記事を読み進めながら、綾和泉汐耶は憂鬱そうな面持ちで呟いた。新聞はまだ規制されているが、週刊誌の記事ともなると微に入り細に穿ちの描写で嫌になってくる。ホラー小説も嗜む本好きではあるが、事実、しかも昨今にあった事件だと思えば、やはり気分の悪いものである。A4サイズのファイルを閉じ、彼女はそれをテーブルに置く。同時に、コーヒーが差し出された。
 見上げれば、にっこりと笑みを浮かべているのはメイドである。興信所にメイド。貧乏興信所にメイド。確かにここの調査員には多少奇抜な所のある者も多いが、流石に『ごく普通に居付いているメイド』は珍しい部類だった。何か入っていないだろうな、と少々の用心をしながら、汐耶はカップに口を付け、飲む振りをする。

「寝ている、という表現は少し違うと思いますわ、綾和泉様。死体から離れた霊魂の一部は天、あるいは地に向かいますが、一部は留まっているものです。アストラル体に転化する力を持つ方もいらっしゃいますし、そのままぼんやりと時を過ごす方も同様ですわ。この場合は突然状態を変化させられたことへの戸惑いと見た方が、適切かと存じます」
「それは、お世話様です。でもゼハールさん、本当にその……中心格だった、魔術師ですか? 彼を連れて行った人を、見ていないんでしょうか。そこはとても重要な所なので、確認しておきたいのですが」
「ええ、私は顔を見ていませんし、男女の区別も付かない状態だったのは確かですわ」

 答え、ゼハールはデスクで書類の整理をしている草間を見遣る。今回の事件が過去にあった何らかの事件と本当に無関係であるものなのかを調べているらしい。彼としては、反魂された魂の起こす連続殺人事件よりは、生身の人間が起こす異常心理に起因した事件の方が余程有り難いらしい。それはそうだろう、警察機構に合法的な強力も出来るし、相手は所詮生身。能力値には限界というものが、ある。
 エドガー・ゲイン。それが魔術師の身体を乗っ取り連れて行った魂の名前だとゼハールが知ったのは、七枷誠と連れ立って興信所に向かう道でのことだった。主の魂を憶え込み、認識が出来るようにはしていたが、名や経歴までは聞いていられなかったし――何よりも、彼自身がそれを語れる状態ではなかった。慢性的な精神分裂病で刑を逃れ、精神病院で長い時間を過ごした狂人。なるほど、それならば腑に落ちない仕種の数々も、頷ける。

 汐耶はふぅっと息を吐いて、先程置いたばかりのファイルの表面を撫でた。収められている情報は暗唱できる程に叩き込んだが、殆ど手掛かりになりそうなものは無い。切れ味の悪い両刃のナイフを使用していたのは最初の一件だけで、それからはまた違うものを使っているらしい。大方脂や血液で使い物にならなくなったものを変えただけだろう。手口の様子から同一犯と見られているし、最初の犠牲者と例の廃ビルで見付かった十一人を傷付けたナイフは同じものと見られている。それだけで、関連は充分だ。
 傍らに置いていた本を取り、そこに挟んであった四つ折りのコピー用紙を広げる。今朝一番で届けられたファックスは、IO2……と言うか、鬼鮫からのものだった。図形として解析が出来た魔法陣の様子だが、該当するものはまだ見付かっていないらしい。彼女はそれをゼハールに、示す。

「……これは?」
「ビルの、殺害現場になった部屋の床に描かれていた魔法陣です。まだ解析は済んでいないのですけれど、本場の悪魔さんなら何か判るかと思いまして……読み解くことが出来るのならば、教えて頂きたいのですけれど」
「正確には堕天使なのですが、少々お待ち下さいませ。何か書くものをお持ちでしたら、そちらに控えて頂きたいのですが」
「大丈夫です、記憶力は良いので憶えられますよ。判ることからどうぞ」
「では――」

 ゼハールは、ふっと眼を眇める。

「記されている諸聖人の名は必要ございませんね。魔王の名はガミジン様です」
「ソロモン72柱の一、ですね。レメゲトンに記されているのを見た記憶があります、地獄の大公爵で司る力は降霊術。とみに水で死んだ者の魂を呼び出すことに長けている、とか」
「得手不得手はございますが、それ以外の魂も呼び出すことが可能でおられますわ。図形は蛇を象ったものが使用されていますが、そこにも特徴がございます……ウロボロス、尾を噛む蛇」
「始まりと終わりが同時であることを現すものの、同時に自滅・自己完結などの意味も持つ」
「魂の名は、エドガー・ゲイン。おそらくは彼を呼び出してあなた方に何らかの復讐を考えていたのでしょうが――」
「ウロボロスの裏の意味によって、呼び出された魂に返り討ち、虐殺の憂き目にあった、と言うところでしょうか」
「そう、推測致します」

 にこりとゼハールは微笑み、魔法陣を汐耶に返す。彼女はそれを元通り本に挟み、軽く息を吐いた。

「また、不様な話ですね……この陣の応用で、強制的に魂を返す事も出来るのでしょうか?」
「ご本人がおられませんと、難しいかと存じますわ」
「やっぱりそうですか。事件が起きている以上相手は肉体を持っていることになりますから、多分魔術師かその仲間が憑依されている……と考えるのが妥当な所でしょうね。さてと」

 汐耶は立ち上がり、草間に声を掛ける。灰皿に煙草の塔を作っていた彼は、ん、と面倒臭そうに顔を上げた。どうやら随分てんぱっているらしい様子に苦笑を漏らしながら、彼女は玄関を指差す。

「私は、蓮さんから預かったカードで結界を追ってみることにしますね。ゼハールさんに襲われないよう気をつけて下さい、草間さん」
「……。不穏な言葉は聞かなかったことにして、行ってらっしゃい」
「ああ、そうですわ、綾和泉様」
「はい?」

 呼び止められて汐耶は玄関先で振り向く。ゼハールはテーブルの上のスクラップブックを胸に抱え、にこりと微笑んでいた。二次性徴に移行していない華奢な少年の身体と、可愛らしい少女の顔。カウンターテナーとソプラノの境にある微妙な声質。細い声で、彼は告げる。

「満月には、お気を付け下さいませ」

 彼の王、魔王ゼパルはエドガー・ゲインを知っている。信心深い母親によって性欲を罪と思い込み、自身の雄を否定したがった、歪んだ子供。その素質を見抜き、彼が十歳の頃からの行動を記録したスクラップブックまで記していた。収容された精神病院に医者として潜り込み、会話もした事がある。良き、暇潰しであったと、王は言っていた。

「……今のはどういう意味だ?」

 汐耶がドアを閉じた後で、草間が訝しげな表情を浮かべながらゼハールを見る。彼は黙って微笑んだ。
 その胸に抱えられたスクラップブックには、彼の王が記したゲインの様子も収められている。
 ゲインが満月の夜、人の皮で創ったスーツを着て徘徊していたことを記した、それが。

■七枷/鴉女■

 いや、自分はぶっちゃけ怒っているのだ。
 七枷誠は頭の中で自分にそう言い聞かせる。そう、怒っている。この上なく怒っているはずなのだ。それはもう物凄い勢いで怒っている。そのはずなのだ。そのはずなのに。
 真面目に言うのならば、彼は今回の連続殺人に対して激しい憤りを覚えていた。手口からして犯人が廃ビルの殺人犯と同一人物であるとは判ることだし、ということは、殺人鬼は手の持ち主であるエドガー・ゲインだろう。つまりは、死人。死人が闊歩し、死人を作るという矛盾など、許せるはずも無い。僅かに記憶に触れるだけに、今回の事件に対する怒りは相当の大きさを持っている。同様に、深く関わっておきながら止めることが出来ないでいる自分に対してのそれも。

 が。

 IO2が借りた貸事務所の一室、仮の捜査本部。とは言っても捜査員は一人、そして調査員は誠ともう一人。
 目の前では、鴉女麒麟と鬼鮫が向かい合っている。
 怒りが萎える理由に、これ以上の説明は必要としなかった。

「で、誠はどうするんだって? このおじさんと一緒に脚で稼ぐ地道な調査なのかな、それともお得意の言霊で何か面白いことでもする?」
「…………」
「でもこの人無愛想だから、あまりコミュニケーションは期待できないんだよね。悲しいけれど、やっぱり共同で行動するメリットは少ないと思うんだよ。IO2とやらも、どうしてこう不適格な人間を寄越したのかなあ……ああ、別に喧嘩なんか売っていないのに。そんなに睨まないで欲しいな、可愛い女の子を」
「き、麒麟、ストップ……」
「なに、誠も僕と一緒に囮がしたいの? 残念だけれど、現状狙われてるのは一人歩きの女性だからね……女装して、別の場所を歩いてくれないかな? 大丈夫、きっとこのおじさんと不毛な行動しているよりはずっと有意義な時間を過ごせるから」

 前回も同じような状況に陥っていた気がする、そしてその後に流血沙汰にまで発展したような気がする。気を抜けば何をしでかすか判らない二人に挟まれる形になれば、おちおち怒りに身を任せてもいられない状態ではないか。これは一体何の真似だ、一体なんの恨みがあってこんな状況に身を置かなくてはいけないんだ。
 冷静さを取り戻すために、誠は軽く深呼吸をする。どうやら麒麟は囮になることを決めているようだが、彼女に限って死ぬという事態には陥りはしないだろう。彼女が言った通り、現在までの犠牲者は全て一人歩きの女性である。必然鬼鮫とも別行動なのだから、この際その存在を流しておくことにする。

「鬼鮫さん、聞きたいんだが、今回の事はもう心霊関係の事件としてIO2の管轄下に置かれているのか?」
「……ああ。始まった当初からこちらの管轄だ。センセーショナル過ぎる所為でマスコミへの緘口令は出せなかったが、警察は動かしていない」
「と言う事は、被害者の死体の類も、そっちのモルグみたいな場所に保管してある――と、踏んでいいな。もし死体の管理をしているんなら、遺体の一部を分けてもらえないか」

 ぴく、と鬼鮫の眉が動く。遺体の一部を欲しがるのは確かにその尊厳を奪う行動だし、何よりも、異常だ。誠もそれは理解しているが、現在まで手掛かりが全く無い状態で被害者だけが増え続けている。多少強引でも、何か使えるものは使うべき、なのだ。人の皮を剥いで悦に入るような死者が殺人鬼としてのさばっている異常に対抗するためには、こちらもある程度の異常を負わなくてはならない。

「ほんの少しで良い、出来れば肉や内臓の類は遠慮したいんだが……髪や爪、乾燥した血液でも構わない」
「何に使うつもりだ、そんなものを」
「説明したと思うが……結社の連中が根城にしているビルを探すのに、俺は残された外套に言霊を与えることで場所を掴んだ。同じ事が、出来ると思う。剥がされた皮を追わせる」

 生物に対する言霊の付与には精神力を多大に浪費する。だが、死体は、死んでいる。そこに意思は無い、ただの『物』だ――と言い切ることは出来ない。だが、そうとでも思わなければ、正直現状から動くことは出来ないだろう。手掛かりもなく犠牲者が増えるばかりの状況からは。

 事務所と言う形式を演出するためだけに置かれている事務机に腰掛けて、何やら真面目な話し合いをしている誠と鬼鮫を眺めながら、麒麟は軽く鼻歌を歌っていた。己の黒いワンピースから伸びた白い腕を眺め、くくくっと忍び笑いを漏らす。思い出し笑いを、漏らす。
 そこにはもう傷など残っていない。あのビルで鬼鮫に六分割された痕は、結局一晩も経たないうちに消えてしまった。だがそれでも、ゆっくりと指先で撫でれば、様子を思い出すことは容易い。爪で軽くつけた蚯蚓腫れは、すぐに消えてしまうけれど。
 自分と遜色の無い能力を持つ人間達、或いは異形達が身近に溢れている。実に良い暇潰しだ。暇が潰せて潰せて癖になりそうだ、このまま事件が続くのも良いかもしれないとすら思える――誰が死のうが誰が殺そうが誰が調べようが、究極的にはどうでも良い。ただ楽しい状態、退屈しない状態が続いてさえ暮れれば良いのだ。

 壁に掛けられた地図には、ピンが刺されている。周辺数区に跨る巨大な正三角形は各ビルのあった場所を結んでいた。ぽつぽつと不規則な印は、死体の発見現場。見事に三角形の内部に納まっている、と言う事は、その範囲が犯人の行動範囲なのだろう。比較的狭いとは言え、中には山なども含まれている。
 ともかくこの範囲内をうろうろしていれば、何かが掴めるのだろう。むしろ、引っ掛かるのだろう。くすくすと笑みを漏らし、麒麟は机から飛び降りた。たしッ、と乾いた音がして、鬼鮫の視線が向けられる。

「まあ、難しい話は勝手にしていてくれれば良いよ。僕はとりあえず行くからね。危なくなったらちゃんと守ってちょーだい、おじさんっ」

 わざとらしく可愛らしい声を出して、彼女はドアに向かう。
 さあ、本当に、楽しくて堪らなくなってきた。

■セレスティ/神山■

「あー、あーあーあー、あーあーあーあーあーあー」

 苛々と言葉を吐きながら、蓮は脚を進めていく。カツカツと乱暴に鳴るハイヒールの様子、チャイナドレスの裾の揺れ方からして、相当に機嫌が悪そうだった。セレスティ・カーニンガムの車椅子を押しながら、神山隼人は苦笑する。これはかなり、きている。

 魂の管理不足。確かに、封じ込めていたものがいつの間にか居なくなっているという状態に気付かなかったのは所有者であり管理者である蓮の責任なのだが、それにしても鬼鮫の嫌味はかなりねちねちとしたものだった。蓮は異能者と言うわけでもなく、どちらかと言えば普通の人間だが――悪趣味なアイテムの所有者と言う時点で、鬼鮫の敵意の範疇内に入ってしまったらしい。店から殆ど出て来ない彼女が街を歩いているのは、どこか妙な光景だった。と言うか、街中でもいつもの格好なのは正直目立つのだが。

 早歩きの蓮の後ろを、神山とセレスティが続く。その周りには、セレスティの警護の者達が付いていた。あまり戦闘が得手ではない彼が、自分の身を守るために置いたボディガードである。現状狙われているのは女性ばかりだが、魔術師の個人的な恨みが残っているとすれば、彼もまた危険である。それに、戦闘能力が無いのは蓮も同様だった。ともかく自衛を考じておかなければ支障がある――正直、あまり歓迎できない状況だ。セレスティは苦笑と共に、隼人を見上げる。

「すみません、神山さん。車椅子を押して頂くことになってしまって」
「構いませんよ、この方がいざと言う時は守りやすくなりますからね。しかし蓮さん、もう少し速度を緩めて下さいな……現場は逃げたりしませんよ」
「あたしが逃げたいんだよ、一刻も早くあのいけ好かないオッサンの近くから!」

 髪をメデューサ状態にして怒鳴る蓮に、びくっと隼人は肩を竦ませた。怖い、本気で怖い。普段が飄々としているだけに、そして顔立ちがきつめであるだけに、その迫力はなんとも悪魔的だった。思わず悪魔も心臓が跳ねる。

 被害者の発見された現場から魂の気配を感じることが出来るかもしれないという蓮に付いてきたのは、単純に聞き込みをするためだった。警察やIO2がすでに終えているかもしれないが、何かの目撃談があるかもしれないし、現場の様子も知っておきたかった。鬼鮫との行動は勘弁してもらいたかったし、草間は外堀を埋めるのに没頭している。必然調査をするには蓮に付いて行く以外に選択が無かった、隼人は彼女の後姿を見ながら思考する。
 被害者の情報はまだあまり揃っていないし、現場の情報も同様だ。どのような場所なのかは気になるし、死体の遺棄現場に何か魔術の痕跡を見られるかもしれないと言う期待も、ある。使い魔を飛ばして探索もしてはいるが――はて、どうなることやら。

「あとで、綾和泉さんも合流する予定でしたか?」
「ええ、彼女は草間さんのところでもう少し資料を把握してからと。用心深いと言うか、思慮深いところのある女性ですから……彼女ならきっと、魂の気配を封印の観点からも追うことが出来ると思います」

 セレスティは答え、ぼんやりと見える蓮のコートに視線を向けていた。緋色はどこか血を連想させる。
 財閥の力を動かしてIO2が集めた現場の資料を閲覧したが、なんともえげつない事件である。写真の類は不要なので取り寄せなかったが、紙資料の活字を追っているだけでも気分が悪くなった。死体は首が切断され、両足を広げた裸の状態で放置されている。腕は後ろ手に縛られ、同じ類の縄で付いた痕が足首にも見付かっているとのこと。状態はどれも共通で、逆さに吊られた後に首を切られ、陰部から腹を割かれて肋骨や胸骨を折られている。それから露出した内臓を取り出され、暫くの血抜きの後で背や腹などの目ぼしい皮を剥がれ、次の日の朝には遺棄。
 被害者の行方がわからなくなった時間から逆算すると、どうやら生きたまま一日は放置され、その後で作業が始まっているらしい。泣き喚く状態を観察したいのだとすれば、随分な悪趣味である。

 車の入れない小さな路地に、蓮が脚を進めた。隼人とセレスティがその後ろに続く。最初の被害者が見付かったその場所は、下水の近くだった。あまり馨しくないニオイが立ち込める様子に、セレスティは小さく眉を顰める。蓮はそんなことを気にする素振りも無く、薄汚れた一角の前に立った。

「はい、任せたよ」
「え?」

 ピッ、っと投げ渡されたカードを受け取ったのは隼人だった。油を溶かしたようなフラクタル、何度見てもあまり気持ちの良いものとは思えないカードの表面。そこには何も入っていない、が、微かな痕跡は感じられる。
 蓮は何処から出したのか、愛用のキセルを指先に構えた。セレスティのガードの一人にそれを無言で差し出す、と、使用人としての条件反射なのか男はそれに火を点ける。それを当たり前とばかりに受け取って一口吸い込めば、別の男が携帯用灰皿を出した。それもまた当たり前のように遣い、彼女は隼人を見据える。

「あたしはあんまり面倒ごとに関わり合いたくないんでねぇ……って言っても遅いんだけれど、労働に従事するつもりは無いのさ。そういうわけで、ここらに気配が無いか見てくれないかねぇ」
「その前に……カードのことですが、その特性に関しては以前お話頂いたことが全てでしょうか?」

 セレスティの問い掛けに、蓮が『ん?』と小首を傾げてみせる。

「貴女はいつも、どこか情報を小出しになさいますからね。何か他の情報、或いは補足、または応用など御存知ではないのかと。それに、何故カードから魂が抜けてしまったのかも判りかねます。封印をしていたのならば、降霊術如きで簡単に召喚されるとは思えません」
「へぇ、中々に疑い深いことを言うじゃないか」
「前例がないこともありませんからね、貴女は……さて、何かの補足情報はございませんか? このまま行けばどれだけ犠牲者が増えることになるか判りませんし、女性と言う時点で貴女にも危険があります。そのお美しい容姿が剥ぎ取られては大変です」
「良い皮肉だねぇ」

 くくくっと喉で笑い、蓮はセレスティを見据える。それから不意に視線を、隼人の手の中にあるカードに向けた。
 死者の魂を封じるカード、とびきりの悪趣味。逃がしてしまったのは殺人犯の魂、そして、それは現在殺人鬼として街を襲っている。
 隼人としては別段、街が襲われることに痛ましさは感じていない。ただ少し面倒で、危なっかしい。知り合いが襲われるのも心地が悪いし、自分が襲われてスーツが汚れるのは遠慮したいから、取り敢えず片付けておきたい――その程度と言えばその程度の、関心である。言い切ってしまうのは多少の嘘かもしれないが、あくまでそれは多少だ。
 蓮は、すい、とカードを指差す。一瞬自分が指されたような心地になって、隼人は顔を上げた。

「あたしは確かに死者の魂を封じ込めたカードを集めるのが趣味だけれどね、普段は他愛ないもんばっかりなもんさ。夭逝した詩人だの、才能を求められなかった音楽家だの。そういう連中の愚痴を聞きながら適当に相手してるだけなんだけれどね。それに限っては、ちょいと経緯がある」
「経緯、ですか?」
「カードの製作者ってのは結構な数いるんだけど、そのカードに限っては、作る際に三人ばかし死んでるんだ。ピストル自殺と飛び降りと、海に身投げだったかな」
「――――」
「滲み出して来るんだよ、魂が。封印が緩いわけじゃない。封じられないほどに」
「穢れた魂だった」
「違うね。穢れが無さ過ぎたのさ」

 隼人とセレスティは同時に、首を傾げる。
 史実としてゲインが殺したのは二人の女性に留まっているが、墓を掘り返して解体した死体の数は十人弱にも及ぶ。或いは食し、或いは加工していた、人の尊厳を粉々に踏みにじった殺人犯の魂。それが穢れていないとは、とても納得が出来ない。表情に考えが出たのだろう、蓮はクッと皮肉っぽく笑って見せる。

「ゲインは敬虔なクリスチャンだったし、収容された精神病院でもいつもニコニコ笑ってね。人懐こくて子供好きな男だから、『リトル・エディ』なんて呼ばれて愛されてたぐらいさ。心が狂ってなんの罪悪感もない奴ってのは、やさぐれてもひねくれてもいない。真白なものは、どうやっても、封じていられないのさ」

 その精神が悪ではない故に、悪では無さ過ぎるために、留めて置けない。ふわりふわりと舞っていく。呼ばれれば、剥がれていく。簡単に、簡単に。

「つまりは、殆ど封印なんて出来たもんじゃないってことなのさ。風船を指に引っ掛けとくぐらいの確実性なんだよ――だから、あんた達がどうにかしな。殺し尽くすか、どうにか方法を考えるか。まあ今はとにかく、気配を追ってみておくれよ」

■綾和泉/麒麟/七枷/神山■

「ちょ、ッと」

 汐耶は向かってくる小柄な子供が持つナイフを、後ろに飛ぶ事で避けた。間一髪、掠った刃先が僅かにスーツを薙いで傷を付ける。ぎゅっと本を握る手には、大量の汗が滲み出していた。革表紙がずり落ちそうになって、慌てて指先に力を込める。爪が僅かに刺さる感触で、混乱を沈める。

 セレスティ達と合流して封印の痕跡や魂の緒を見る調査は半日に及んだが、結局何も収獲が無かった。気配を辿るために感覚の範囲を広げることはしてみたものの、他の塚や神社が掛かるばかりで肝心の殺人鬼には辿り着けない。精神力の消費が激しく中断した所で、蓮の言うことには――『ここまで追えないのならば、何かの依り代に完全に魂を定着させている可能性がある』と。
 カードという媒介で、魂は力の消費を抑えているものなのだという。切り離された状態で浮遊していればその内に消えてしまうからと。だが、魂の緒を切断しているのならば、完全に何かに乗り移っていることになる。しかし他人の身体には定着など出来ない――汐耶は目の前の子供を、見た。ゆらりとする身体は、夢遊病者のように覚束ない足取りである。

 セレスティが蓮を送るために車で去った後、隼人と別れたのはつい先程だった。そして、それを狙っていたかのように飛び出してきた子供。身長は彼女よりも頭一つ分程度低く、長い金髪が顔を隠している。手足は細く、少年とも少女とも付かない。襤褸布を身体に巻いて、ナイフだけをぎらつかせる、その様子。
 汐耶は直感で、目の前の子供が『そう』なのだと確信する。

 生きているようで生きていない、人間のようで人間でない。人形のようで人形でない、魂の篭った、それは、おそらく。

「ゲイン、さん……ですね?」

 汐耶の言葉に、しかし相手はまるで反応を示さない。ただナイフを逆手に持って、ゆったりと距離を詰めてくる。彼女はじりじりと、後退する――道には生憎とひと気が無い、夜が更けていると言うわけではないが、辺りは薄暗かった。事件の所為で、人の退けはいつもよりも随分早い。挙句に辺りは住宅地でもない、どちらかと言うとオフィスビルの多い場所だ。狙われていた、としたら、何故か。自分の顔は相手に知られていない、はずなのに。

「――、……」
「え? ッ、く!?」

 何事かを呟くと同時に、相手が踏み込んでくる。汐耶は反射的に腕を上げ、手に持った本で結界を張った。衝撃が走るが、傷は付いていない――ナイフは彼女に真っ直ぐ向けられている、だが届いてはいなかった。引き攣るような笑みを浮かべる口元、ぶるぶると震える腕が、押し留められながらも殺意を剥き出しにしている。狂人の笑みが、向けられている。
 何とか弾き返すことでもう一度距離を取り、汐耶は息を吐いた。通信機を与えられてはいるが、これでは使っている暇も無い。昼間に精神力を消費しすぎたのが仇になったか、それとも。どうするか。どうするかどうするかどうするか。

 再び踏み込まれる気配に、彼女は本を掲げる。
 と同時に、相手のナイフが溶けた。

「――――、え?」
「酷いなまったく、僕の方が若くて弱そうだって言うのに、どうして汐耶ちゃんを狙ってるのかな。これはひどい侮辱だよ。脚を棒にして一日中囮を楽しんでいた僕の立場を無視しているとしか思えない」
「単にお前が好みじゃなかったんだろッ……たく、ビックリした」
「ま、誠さん……麒麟さん!?」
「間に合いました、ね」

 軽く手を上げて殺人鬼の身体に金縛りを与えた隼人が、麒麟と誠の後ろでふぅっと微笑を浮かべた。三人は汐耶の左手側、背の低い商店の上に立っている。どうしてそんな所からの登場なのだ、特撮ヒーローじゃあるまいし。彼女が思ったところで、誠が降りてくる。そのまま汐耶の腕を掴み、庇うように背中側に移動させた。その表情はひどく強張っている。目の前の殺人鬼を、その強張った表情で、ねめつけている。

「……遺体の一部に探らせてたんだが、どうにも追えなくてな。皮が移動しているのだとしたら、持ち歩いているのかと思って、麒麟の後を付けていたんだ」
「勿論僕は気付いて、いい加減歩き回るのに飽きてたから誠とデートを楽しんでいたわけです」
「楽しんでねぇよ」
「そこに乱入して馬に蹴られたのが私です」
「ネタに乗るなよ!!」
「で、でも、ここに貴方達が現れる理由にはなりませんよ? こんな都合よくは――」

 隼人は汐耶の言葉に微笑し、殺人鬼に相対する。掲げていた手を下げれば相手の金縛りが解け、そのままに後退した。様子を伺うような仕種の合間に溶けたナイフを放り投げ、襤褸布の中からスペアと思しきもう一本を取り出す。逃げるつもりは無いらしいが、ここまで拘るのもどこか不自然である。隼人は警戒するように、身構えた。
 そのままで汐耶に微笑を向ける。

「気付いていなかったでしょうが、少々使い魔を付けさせて頂いていましたので。『眼』の情報で二人を連れてすっ飛んできたんですよ。怪我は、ございませんか?」
「平気です、どうにか。ところであの身体は――」
「……屍皮人形、でしょうかね。何か人に近いもので作られた、形代です」

 死人の皮を加工して作る人形は、意思を根こそぎに奪われた躯でありながらも生命になる。その辺りの加工はゲインにとって簡単なものだろうが、しかし、その身体から感じられる気配はどこか魔を纏っているようにも感じられた。悪魔か、もう少し高位の魔王か。その気配が、確かにそこにある。

 長い髪で顔を隠した人形は、くつくつと喉で笑っていた。誠と隼人が身構えてその突進を待つ中、すいっと平気で歩いて行く影がある。長い黒髪を靡かせて進んでいくのは、麒麟だ。その顔には勿論のこと、笑みを浮かべて。

「ふふふふふ、皮を剥いじゃうんだって? それは未だない経験だな。なんと言うか、そう、ぞくぞくするね。どうやるのかな、そのナイフでめりめりと腹でも裂くのかい? 内臓を取り出してべりべりと、どの辺りが使いやすいものなんだろうねぇ」

 好戦的な彼女の事、遭遇した敵を逃がすつもりなど微塵にも無い。否、逃がすとしても、交戦しないままではいないだろう。誠はシャツのポケットから人型に切り抜いた紙を取り出し、ぽつりと、言霊を与える。そしてそのままに、脚を踏み出した。
 隼人と麒麟がその行動の唐突さに眼を丸め、フォローが一歩、遅れる。

「誠さん!!」

 汐耶の声に苦笑しながら、誠は小さく論理を呟いた。

「例え僅かな移動であろうとそこには時間が必要。時間の単位など無限に分けられ、結果、移動には無限の時間を必要とする――『アキレスと亀』の意味を俺自身に命ずる」

 パラドックスが言霊となり彼に散る、反応した殺人鬼が人形の身体でナイフを突き出す。だが一転、誠は靴をアスファルトに擦らせて停止した。そのままに軽く後ろへと身体を引く、と同時に紙を飛ばした。そこに付けた意味は、母。
 資料に寄ればゲインは極度のマザーコンプレックスである。母親と、彼女が持つ宗教観念に対して絶対を感じ、それに疑問を持つ自分を恥じている。畏敬の対象であるそれがふわりと空中に停止する、と同時に、人形の動きが止まった。
 監視されている、見下ろされている、見下されている。絶対の存在がそこにある。

「――――ぅ」

 人形が歯を鳴らし、怯えた。

「う、うあ、うああ、うああぁああああ!!」
「ッと、麒麟!!」
「なんだ、誠がやるんじゃないのかい?」
「ふざけるな、無理!」

 恐慌を来たした人形が我武者羅にナイフを翳す、だがパラドックスの言霊によって二人には絶対の距離が生まれていた。それでも踏み込んでくる動作を繰り返す人形に、一足飛びで麒麟が距離を詰める。突然迫ってきた黒に完全に隙を突かれる形になりながらも、ナイフを閃かせる速度は速かった。だが麒麟はそれを腕で受け止める、痛みなどないかのように、肉に骨に刃物を突き立てさせた。
 貫通したナイフにフンッと息を吐き、彼女は腕を払う。ナイフは捕らえられたままに人形の手を離れ、麒麟の腕からも離れた。カランッと音を立てるそれは血に濡れたまま転がり、隼人の足元に落ちる。流血した腕でそのまま人形が纏う襤褸を掴んだ麒麟は、一気にその温度を上げた。

「!!」

 声も無く、だが叫ぶようにそれは大きな口を開ける。発火点に達した襤褸切れはすぐに燃え出した。身体に纏わり付く炎の服を脱ぎ捨てようと人形がもがく、麒麟の腕を振り払ってごろごろと足掻く。長く鬱陶しいほどの金髪を振り乱して、アスファルトを転げるそれ。
 服の下には裸体が見える。乳房も腹も臀部も、どこかたるんでいた。女性の身体でありながら、それはどこか不自然で、無理矢理に上書きされたもののようにも見える。やがて髪にまで到達した炎がブスブスと嫌な臭気を放つ、そして、人形はその金髪を掻き毟って素顔を露にした。

「――――ほう」

 隼人は声を漏らす。その後ろで汐耶は、口元を押さえながら眼を見開いていた。
 長い金髪に隠された顔は、ゼハールと同じ。
 瞳の色が赤いこと以外は、ほぼ同一。
 そして。
 転げる人形は、自分の皮を剥いだ。
 ずるりと、剥ぎ取った。
 その下には、皮膚がある。
 おそらくは殺された女達の皮。
 そして脱皮した『彼』は、裸のままで逃げていく。

「今の、顔……ゼハールさんでしたよね?」

 少し掠れた汐耶の声に、隼人は苦笑を向ける。足元に転がっているのは麒麟の血に濡れたナイフだった。靴で刃を踏むことでそれを舞い上げ、彼は手に取る。ごく普通のダガーではある、が、柄の部分には見覚えのある魔王の名前が刻まれていた。

「ゼパルの趣味、でしょうねぇ……やれやれ。ゼハールさんには後で、たっぷりお話を聞いておきましょうか」
「って言うか。この程度で逃げられると物凄くつまらないんだけれど、その辺どう思う? これからあのおじさん呼び出して、不完全燃焼分暴れてやろうかな」
「やめろ、頼むから」

 汐耶はふっと、空を見上げる。
 そこには月齢十四の月が浮かんでいた。
 満月、である。

「満月には気をつけろ――でも、どうして彼は私を狙ったのでしょうね」

■セレスティ/ゼハール■

「……見事なものですね、これは」
「ええ、我が君様の秘蔵でございますもの。セレスティ様、お茶のお代わりは如何致しましょう?」
「いえ、結構ですよ。しかし、本当に――ゲインという人間には、悪意が欠落していたとしか思えませんね」

 ゼハールが手を貸したスクラップブックを眺めながら、セレスティは溜息を吐く。エドガー・ゲインという一人の男の人生を、七十七年というけっして短くは無い一生を詳細に綴ったそれ。読み進めれば読み進めるほどに、昼間の蓮の言葉が正しいものなのだと思わされる――本当に、彼には悪意が無い。
 ただ純粋に望み、無邪気に行動した。楽しいことを笑い、嬉しいことを喜んだ。その方向が常人とは違ったがために束縛を余儀なくされながらも、笑い続けていた、狂人。一瞬ゾッとする背筋に、彼はパタンと記録を閉じる。魔王の悪趣味も、中々のものだ。

「しかし、貴方の魔王のお気に入りだったのならば、捕まえたいとは思わないのではありませんか? ゼハールさんとしては」
「ええ、だから協力はしていませんもの。ただここでメイドとしておりますわ。零様がいらっしゃいませんと、草間様はすぐに辺りを散らかしてしまいますの。働き甲斐がありますわ」
「そういえば、彼女は何処へ?」
「アトラスと言う編集部にお出掛けです」

 にこにこと答えるゼハールは、セレスティの向かいのソファーに腰掛けていた。見目良い麗人と相対するには真正面が良い。
 確かに彼の主であるゼパルは、ゲインのことをそれなりに気に入って愛していた。だがそれも、精々お気に入りの玩具に対する愛着程度のものである。殊更強く執着があるわけでもない、むしろその魂がこの興信所の人々を巻き込んでどこまで大きな騒ぎを起こすのか、それを今は楽しんでいる節がある。だから彼は、精々その為の演出を手伝うのだ。スクラップブックに然り、警告に、然り。そしてゲインに自由な身体を与えることに、然り。
 遊び終わってしまったはずの玩具が、まだ遊ばせてくれる。その状況は、確かに不可思議な矛盾で滑稽だろう。人々は混乱で右往左往しているし、楽しい断末魔も心地よく地獄に響く。これは純粋に遊び、なのかもしれない。この世から離れられない人々にとっては不幸でしかないが。

「……ゼハールさん、邪眼で見詰められると少々慌ててしまうのですが?」
「あら、ただ見詰めているだけですわ」
「ふふ、冗談ですよ。それで、零嬢はアトラスに何をしに?」
「何でも、犠牲者となった方々の写真を貰いに行かれたそうですわ。外観から何かが判るかもしれないからと、草間様のお言い付けで。鬼鮫様に頼んだ方がお早いと申し上げたのですが、どうしてだか草間様が嫌がりましたの」
「おやおや、我侭はいけませんね」
「まったくですわ」
「我侭違う、むしろ言うなお前ら――ッと」

 じりりりりりりりり、と古びた黒電話のベルが鳴る音に、書類を片付けていた草間が机の上の受話器を引っ掴む。クス、とゼハールは、可愛らしく微笑んだ。その様子を訝るセレスティは声を掛けようとするが、草間の様子に、それが遮られる。

「あぁ? 零、なんだ、落ち着け」
『お、お願いです、早くして、早く来て下さいお兄さんっ!』
「だから、どうしたんだって」
『え、恵美さんが、嬉璃さんがぐったりで、三下さんの背中がッ』
「落ち着け! 何なんだ一体!?」



『恵美さん、あ、あやかし荘の恵美さんが、行方不明なんです!』



■□■□■ 参加PC一覧 ■□■□■

4563 / ゼハール         /  十五歳 / 男性 / 堕天使・殺人鬼・戦闘狂
2263 / 神山隼人         / 九九九歳 / 男性 / 便利屋
1883 / セレスティ・カーニンガム / 七二五歳 / 男性 / 財閥総帥・占い師・水霊使い
3590 / 七枷誠          /  十七歳 / 男性 / 高校二年生・ワードマスター
2667 / 鴉女麒麟         /  十七歳 / 女性 / 骨董商
1449 / 綾和泉汐耶        / 二十三歳 / 女性 / 都立図書館司書

<受付順>


■□■□■ 配布アイテム ■□■□■

これが勝利への鍵だ!
☆蓮のカード(全員)


■□■□■ ライター戯言 ■□■□■

 例によって長ったらしいのですが、今回もお付き合い頂きありがとうございました、ライターの哉色ですっ。殺人鬼との遭遇やら恵美が行方不明やら蓮がサボってるとか鬼鮫さんカルシウム足りてないとか草間のデスクワークってなんで似合わないんだろうとかそんな感じになりました。徹夜明けが良い感じにトリップを生み出している謎の後書きですが、やっとこ折り返しの『愛すべき殺人鬼の右手<4>』、少しでもお楽しみ頂けていれば幸いです。