■【ばれんたい〜ん】野郎どもの宴■
朝霧 青海 |
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【2951】【志羽・翔流】【高校生大道芸人】 |
「可愛い包装紙に包んで、赤いリボンをかけて出来上り！完璧！」
そう言って、その人物は笑顔のまま箱を机の上に置いた。
Ｙ・Ｋシティにある住宅街の、とある一軒家。ごくごく普通のその家の居間の机には、たくさんのプレゼント箱が山のように置かれている。赤、青、黄色、白。リボンもカラフルで、見ているだけでも鮮やかだ。
その隣で、箱を積んでいる様子を見つめながら、少年がため息をついた。
「兄さん、もうやめようよ、カラ箱たくさんラッピングするの」
「うるさい弟よ。このいまいましいバレンタインを乗り切るには、表面だけでもきちんとしておかねばなるまい」
兄の空雄は弟の大地を睨み付けると、空箱をひとつ手にとり、水玉の可愛らしい包装紙に包み込み「そらおちゃんへ♪」「大好き！」などと書かれたシールを貼り付けるのであった。
「むなしい。むなしすぎる」
兄の痛々しい姿に心を痛め、弟の大地の頬を、涙が一筋、音もなく流れ落ちた。
「さてと、一通り準備も出来たし、そろそろ宴の準備を始めようじゃないか」
「は？何、その宴って」
青ざめた表情の大地に、空雄は爽やかな笑顔で答えてみせた。
「決まってるじゃないか。我が同志をお招きして、宴をするのだよ。そう、同志同士でチョコレートを贈り合うのだ。見てくれだけではない。ちゃんと贈り物もやるのだ。これで、心のむなしさも癒されるに違いない。そうと決まれば、早速ネットで募集を募ろうではないか」
空雄は、自身に溢れた笑顔を浮かべ、自分で立てた計画の完璧さに酔いしれていた。だから、部屋に弟の姿がすでになかった事には、まったく気がついていなかったのだった。
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【ばれんたい〜ん】野郎どもの宴
「兄貴、本当にやったんだな」
必要以上に派手に飾られた部屋を見上げて、大地は長いため息をついた。
「当然だ弟よ。この日を派手に祝わずして、何をしろと言うのだ。さあ、宴の始まりだ。同士達よ、この聖域に集うのだ！」
空雄が天高く拳を突き上げているのを見て、大地はさらに長いため息をついた。
「おっ？何だこりゃ、バレンタインパーティーだって？」
ネットカフェで様々なパーティーを検索しながら、志羽・翔流はひとつのサイトで指を止める。
「バレンタイン関連なら、チョコもらえるチャンスだよなあ。どうせ暇だしな、行ってみるか」
将来は日本一のチンドン屋になる事、そんな夢を持つ翔流は、やっぱりチョコが欲しい！と、交換用のプレゼントを箱に詰めて、サイトに書かれた家へと向かったのだった。
「ちゃーす！サイトで見たんだけど、ここでバレンタインパーティーやるんだろ？」
「おお、同士が来たぞ！」
奥の部屋から、大柄の青年が出てきて、翔流を迎える。
「俺、志羽・翔流って言うんだ。面白そうな企画だったからさ、サイトで見て来てみたぜ。ちゃんと、プレゼントも用意したしさ！」
翔流はその青年に、持ってきたプレゼントの箱を見せる。
「勿論だ。私の名は井上空雄。今日は、存分に楽しんでくれ」
「ありがとな！あ、パーティーの盛り上げは任せてくれよ？俺さ、今高校生なんだけど、幼い時から祖父に宴会芸を叩き込まれてさ、いろんな所で芸を披露してるからさ」
「それは頼もしい。まだ誰も来ておらず、少々退屈をしていたところなのだ。翔流のような者がいれば、例え人が集まらなくとも、それだけで楽しいだろうからな」
「おう、そんな事任せておけって！」
「わ、本当に人が来た」
奥の扉から、落ち着いた雰囲気の少年が出てくる。
「弟の大地だ。いつも澄ましていて、つまらない私の弟だが」
「俺は翔流って言うんだ。どうせ暇だしな、来てみたんだ！」
「まあ、後悔しなければ、それでいいと思うが」
大地は何故か、すでに疲れたような顔をしていた。
「すげえな、結構ご馳走あるな！」
翔流は会場に置かれた沢山の料理を見て、驚きの声をあげた。
「まだ皆来てないがな、自由にしててくれ。勿論、先に料理を食べても構わないぞ」
空雄がそう言うと同時に、翔流は近くにあったサラダを皿に盛り始めた。
「どんなもんかと思ったけど、まあまあじゃないか」
ソーダを飲んでいると、入り口に扉が開き、 黒い髪に青い瞳、がっしりとした体型にすらりと高い男性が入ってきた。
「初めまして。私はシオン・レ・ハイと申します。よろしくお願いします。ご馳走があると聞いて、参加させて頂く事になりました」
「俺は志羽・翔流だ。よろしく！」
翔流がシオンに挨拶をすると、再び扉が開き、今度は銀色の長髪の、細身の青年が入ってくる。
「僕はフレイ・アストラスです〜。たまたま通りかかったんですけど、賑やかだったので来てしまいました〜」
「私もネットで今日の事を知りました。私の場合、バレンタインのチョコレートは、もらえるとしても友人に一個程度ですが」
シオンが翔流に続けて言い、持っていた紙袋を広げた。
「お邪魔させて頂きますので、空雄さんと大地さんに何か手土産をと思いましてマフラーを作りました。色違いの物です。趣味で作りましたので、よろしければ」
シオンは、そう言って赤と青の、色違いのマフラーを、空雄と大地に渡す。
「女性の方からの方が良かったでしょうか？」
シオンは、心配そうな表情を浮かべてマフラーを差し出す。
「いや、とんでもない！こんなバカ兄貴の遊びに付き合ってもらった上に、お土産までもらえるなんて、思ってもいなかったから」
大地が、嬉しそうに青いマフラーを受け取る。
「空雄さん？」
シオンがもう一度呼びかけると、空雄が滝のような涙を流してシオンに抱きつく。
「パーティーを開いて本当に良かった！こんな素晴らしい贈り物をもらえるなんて！」
空雄は赤いマフラーを握り締めて男泣きをしたのだった。
「そんなに喜んでもらえて、嬉しいです」
シオンは空雄に、にっこりと笑顔を浮かべた。
「さてと、ご馳走も沢山食べたしな！そろそろ宴会芸を初めていいか？」
翔流が、腰に挿していた扇子を取り出し、部屋の中央に踊り出た。
「俺、日本一の流離い大道芸人なんだぜ？宴会芸なら任せておけって！」
そう言って翔流は、囃子に合わせて扇子を動かし、その先から水を噴出させる。
「わあ、どうやっているんでしょうね〜！」
フレイは初めて見る手品のような芸に、感動の色を見せていた。
「扇子だけじゃねえぜ？」
今度は衣服の先から、水を噴出させる。
「素晴らしいです。水だけでなく、お酒も出せるのでしょうか」
シオンがフレイの横で、変な事を呟きながら翔流の水芸を眺めている。
「お次は傘回し！」
開いた傘の上に、すぐそばのテーブルに置いてあった茶碗を投げて、ぐるぐると見事な手さばきで茶碗を回してみせた。
「最後は南京玉すだれ！あ、それ、あ、それそれそれそれ！」
鮮やかなすだれを取り出し、様々な形を作り出していく翔流を見て、シオンが立ち上がり、懐から箸を取り出して見せた。
「私も何か芸をしなければいけませんね？お箸でなら、何でも掴む事が出来ます」
台所にあった胡麻塩を取り出して、その胡麻を鮮やかにつまんでみせるシオン。
「そういうのは、芸って言うのでしょうかね？」
フレイは首を傾げて見せた。
「あと、お金限定ですが、見たらすぐに暗算して計算する事が出来ますよ？」
「では、早速やってみて下さい〜！」
財布から小銭を取り出し、フレイがビシっと机に置いて見せる。
「６５０円！私が昨日やったアルバイトの１時間辺りの時給と同じですね」
「何だそりゃ」
翔流が傘やすだれを片付けながら、シオンに呟く。
「正解です〜！凄いですね、答えるのに１秒かかりませんでしたよ〜？」
「フレイは何か芸は出来ないのかい？」
翔流はフレイに尋ねた。
「そうですね〜、僕は芸は皆さんの様には出来ませんが、代わりに、皆さんに良き出会いがあるように、僕が祈って差し上げますよ〜」
フレイが目を閉じて、皆へと祈りを捧げている。
「俺、義理チョコしかもらった事ねえけど、来年はもっといいもん、もらえるかな」
翔流が去年のバレンタインを思い出しながらそういった時、後ろから声がかけられた。
「そろそろ、プレゼント交換を始めよう」
空雄がプレゼント交換用のテーブルを部屋の真ん中に出していた。
「ルールは簡単だ。このテーブルの上にプレゼントを置き、歌に合わせてテーブルを回る。私がストップって言ったら、一番近くに置いてあるプレゼントをもらえるってわけだ。じゃ早速やろうか」
空雄が、何の歌だかよくわからないが、歌を歌いだした。翔流達はその歌に合わせて、テーブルのまわりを回りだす。男の野太い声に合わせて、グルグルまわっている男達。これじゃあ色気も何もあったもんじゃないよな、と翔流は心の中で呟いていた。
「ストップ！」
部屋に空雄の声が響く。翔流は足を止めて、テーブルへと目をやった。
「お、これか。早速見てみるか」
包みの中には、兎の柄の可愛らしいチョコレートが入っていた。その翔流の様子を見て、シオンが言う。
「そのチョコは私が持ってきました。バレンタイン用に手作りしたチョコレートが余っていましたので。私は女性にもチョコをあげる事が多いのですが、喜んでもらえればよりです」
「僕のは、色々入ってますね〜」
フレイが、プレゼントの箱の中から、色々な物を取り出していた。
「そりゃ俺が持ってきたのだな。俺の故郷の富山の薬だろ、フェイスタオルにキーホルダー、ストラップ。あと、小っちゃいチョコも３０個ほどな」
「シオンさんには、僕のプレゼントがいったんですねえ！」
シオンは、綺麗な透明の石を見つめていた。
「この前、道で拾った石なんです〜。とても綺麗ですし、きっと価値があるに違いありませんよ〜！僕の予想では、ダイヤモンドかもしれません」
「ええ、きっとそうに違いありませんよ。こうまで美しい石ですし。磨けば、もっと光るかもしれません」
シオンは石が、すっかりダイヤモンドだと信じている様子だ。
「さて、プレゼント交換も終わったし、そろそろお開きにするか。名残惜しいが、また来てくれ、同志達よ」
目を滲ませて、空雄が皆に最後の挨拶をする。
「またやる気じゃないだろうな、兄貴。まさかホワイトデーとか」
そう言って、肩からため息をついている大地と、涙を流しながら手を振る空雄に翔流達は別れをつげた。
「ま、こういうのもいいよな？俺は芸も披露出来たし。チョコは家でゆっくり食べるよ。有難うな、楽しかったよ」
翔流は空雄と大地にそう言うと、交換した兎のチョコレートを手にして、帰り道へとつくのであった。
◆◇◆ 登場人物 ◆◇◆
【2951／志羽・翔流／男性／１８歳／高校生大道芸人】
【3356／シオン・レ・ハイ／男性／４２歳／びんぼーにん（食住）＋α】
【4443／フレイ・アストラス／男性／２０歳／フリーター兼退魔士】
◆◇◆ ライター通信 ◆◇◆
志羽・翔流様
初めまして。新人ライターの朝霧青海です。発注頂き、本当に有難うございました！
今回はバレンタインという事で、本当はバレンタインに合わせて納品したかったのですが、間に合わずに申し訳ないです（汗）志羽・翔流さんは宴会芸が得意、という設定でしたので、それらをどう描写していくかで頭をひねりました。水芸などは、実際に見たことがないので、ネットで検索したりして、イメージを膨らましていきました（笑）少しでも賑やかそうな雰囲気が出てればいいなあと思います。
視点がＰＣ別になっていますので、一緒に参加された方のノベルで、また楽しめるかもしれません。今回は本当に参加頂き、有難うございました！
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