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■闇風草紙 〜特別編〜■

杜野天音
【2863】【蒼王・翼】【F1レーサー 闇の皇女】
闇風草紙 〜バレンタイン物語〜

□女性PC用オープニング□

 彼に会って、何かが変わった。それは何だろう?
 街の飾りや店先のディスプレイ。世の中は聖なるバレンタイン。
 伝えなければ。
 これからどうなるかは分からない。でも――。
 想いを伝えなければいけない気がする。

 熱い頬はきっと貴方を想うから。

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□男性PC用オープニング□

 そこにいるのが不思議だ。
 彼という存在を認めた時に、どんな風に世界は変わったんだろう?
 魅了される。
 なんて言葉を男に使うつもりはない。けど。
 一緒にいる時の空気は嫌いじゃない。――そんな気がする。

闇風草紙 〜バレンタイン物語〜

□オープニング□

 そこにいるのが不思議だ。
 彼という存在を認めた時に、どんな風に世界は変わったんだろう?
 魅了される。
 なんて言葉を男に使うつもりはない。けど。
 一緒にいる時の空気は嫌いじゃない。――そんな気がする。


□ネフライトは天へ ――蒼王翼

 出会った意味を問うより、まず動くべきだ。
「邪魔をするな! キミは誰だ!?」
「無闇に誰かを傷つけているを見ていられないだけだ。名前は知らない方がいい」
 金の髪を月明かりに輝かせている少年。ボクは反射的に追われている黒い塊の前に両手を広げた。
「理由があっての狩りだ。そこを退いてもらおう。キミが庇っているのは、吸血鬼だ」
「吸血鬼?」
「知らないのか? ……人にあだなす者だと言えば、そこ退いてくれるのか?」
 日の光を思わせる髪色であるのに、なんて闇色が深い印象。それでも、そこを動かなかった。ボクの背後でうずくまっていた人影が、空に飛び上がった。一瞬の内に、小さな獣の姿になり飛び去った。
「……逃がしたか。キミが邪魔しなければ仕留められた」
「傷つけて生まれるモノは何もない! 逃げることが選択肢の中にあるのなら、ボクはそれを選ぶだけだ」
 少年は少し黙った。そして経過する時間。
 細身の肩を軽くすくめ、少年は溜息をついた。
「分かった。今度はキミが見ていないところで狩りをすることにする。僕は蒼王翼。これでも一応女だ」
「え……? 女?」
「やはり、勘違いしていたか。ま、どちらでもいい。僕は名乗ったのだから、キミも名乗るのが礼儀だ」
 男の恰好をしてるのに何故、女なのだろう? 快活な表情も女性というより少年のそれに近いのに。思わず本題ではないところに気を取られそうになり、慌てて思考を元に戻した。

 そうだ。ボクの運命に彼女を巻き込むわけにはいかない。

 名を名乗れば追っ手が彼女を襲うかもしれない。確かに妖との戦いを見ていても彼女は相当の力を持っているようだ。だからと言って大丈夫だという確証にはならない。
 だが、最初に関わってしまったのはボクの方なのだ。名乗らないわけにはいかないだろう。仕方なく、名を伝えた。
「衣蒼…未刀ね。覚えておく…少しは男らしい考えができるようになっているのか、次に逢った時が楽しみだよ」
 目の前の少年――否、少女は強い力を放つ青い目を細めた。背中が闇の中に遠ざかっていく。二度と会いたくない気がした。それは自分と真逆の生き方を選んだ者だからだろうか?

                        +

 また会ってしまった。名前は未刀と言ったはず。僕は状況を把握すべく、その場に立ち止まった。
「情けない…それでも男か――」
 生霊らしき女性に、体の自由を奪われている様子。周囲は静かな公園。広く樹木が植えられ、雲の多い空の下では濃い闇をつくり出していた。ぽっかりと開いた芝生の庭園。その中で、未刀ひとりが苦しんでいた。おそらく一般人が見ても、酒に酔った少年がもがいているようにしか見えないかもしれないが。
 
 僕より年下っぽいが――。
 それにしても力がないのだったら、霊体に近づかなければいいのに。

 見ているとイライラが募る。けれど、そこを立ち去ることはできなかった。まるで幼子を見捨てるようで、寝覚めが悪い。このまま放っておくこともできず、僕は彼が本当に危なくなった時、飛びして助けようと考えた。
 その時声が聞こえた。彼が締められている喉から懸命に叫んでいる声だった。
「あんたはあんただ!! きっと、大事に…思ってくれる人がいる。ボクは…ボ…クを愛しんでくれる人を知らない……けど、あんたは違うだろう!?」
 そんな言葉ひとつで、霊となった女の心が揺らぐ訳がないと思った。けれど、彼の説得はそれで終わりではなかった。
「そうだ……。あんたは生きてる。まだ生きているんだ。目の前に広がった世界を1人の男のために、闇にしてはダメだ」
 諭す声。僕の心にさえ伝わってくる未刀の感情。それはただ力で収めようとする偽りの慰めではなく、心から生霊となった女を助けようとする気持ちの表れだった。
 未刀は解放された。曇天が晴れ上がり、射し込む一条の光。生霊の姿は光の中に消えた。

 本当に言葉だけで、生霊を目覚めさせたのか――。

 ただの情けない思想の持ち主だと思っていたが違うようだ。僕は思わず拍手を贈っていた。音に驚いて未刀がこちらを振り向いた。不思議そうな顔で首を傾げている。拍手の意味が分からないのだろう。
「見せてもらったよ。キミは力よりも心を重視する人間なんだな」
「それはどうも……」
「そんなに警戒しなくても。これから、カフェに行こうと思っているんだが、キミもどうかな? 素晴らしいモノを見せてもらったお礼をしたい」
「別に何も特別なことなんてしてない。……だから、あんたと何か食べる理由はない」
 未刀は困った顔。頭を下げ背を向けようとした。僕は腕組みをして、彼を引きとめる方法を考えた。けれど良い案は浮かばない。思わず溜息とともに言葉が零れた。
「……今の時期、ホットチョコレートなど美味しいのになぁ」
 その途端、未刀の歩みが止まった。

 ん? もしかして甘いモノ好き?

 容貌のイメージと反している。笑いを噛み殺して、僕はさらに続けた。
「よかったら僕が奢るよ。甘いモノが美味しいカフェを知っているからな」
 彼にとっての決め台詞だったらしい。振り向いて、
「……ついて行けばいいのか?」
 と言った。

 よく来るカフェにつくと、ホットチョコレートとケーキを頼んだ。僕は食べずに、彼が懸命にフォークを動かしているのを見詰めていた。最初に会った印象とかなり違う。これが本来の彼なのかもしれない。
「吸血鬼をどうして庇ったんだ?」
 だから尋ねてみたかった。彼の広げた両手を忘れることができない。
「……痛みを知っているからだ」
「痛み。――そうだな、狩られる者も痛みを感じるのだな……」
「なぜあんたがその吸血鬼…という者を狩るのかは知らない。けど、理由なく姿と意識を奪われ、永遠に闇に閉ざされる姿をボクが見たくないだけだ。だから、別にあんたのしてることを止めさせるつもりはない」
 未刀はマグカップを口に運んだ。人の心をとろけさせるスイーツを食べながらする話ではないなと、我ながら質問したことを悔いた。
「わかった。いずれ、キミに理由を話す時がくるかもしれない。でも、これだけは分かって欲しい。僕だって、同属の血を流し続けることを好んでいるわけじゃない。良心の呵責に苛まれることだってある」
 ちょっと驚いた顔をして、未刀が言った。
「お互いに、少し誤解していたようだ」
「では、改めてよろしく――だな?」

 テーブル越しに握手を交わした。
 この出会いは何を意味するのだろうか。僕は自分の居場所を築く時、誰といるのだろう?
 くゆる甘い香りが鼻腔をくすぐった。


□END□

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

+ 2863 / 蒼王・翼 (そうおう・つばさ) / 女 / 16 / F1レーサー+闇の皇女

+ NPC / 衣蒼・未刀( いそう・みたち) / 男 / 17 / 封魔屋(逃亡中)

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■         ライター通信          ■
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 大変大変遅くなり申し訳ありませんでした。ライターの杜野天音です。
 女性PCでありながら友情への進展――ということでしたが、このバレンタイン物語では出会っただけになってしまいました。未刀とは違い、戦って生きている方だったので、未刀が最初は緊張感を持って接しています。万能設定のPCを動かすのはとても大変でした。存在理由が分からないからです。…私の解釈で合っていましたでしょうか? 本当は力がないくらいの方が動かしやすいんですが……。私の文章力不足ですみません。物語が気に入ってもらえたなら本当に嬉しいです。プレゼントも用意しておきましたので、受けとって下さい。
 では今後ともよろしくお願い致します。