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■文月堂奇譚 〜古書探し〜■

藤杜錬
【2322】【宇奈月・慎一郎】【召喚師 最近ちょっと錬金術師】
とある昼下がり。
裏通りにある小さな古い古本屋に一人のお客が入っていった。

「いらっしゃいませ。」

文月堂に入ってきたあなたは二人の女性に迎えられる。

ここは大通りの裏にある小さな古本屋、文月堂。
未整理の本の中には様々な本が置いてある事でその筋で有名な古本屋だ。

「それでどのような本をお探しですか?」

店員であろう女性にあなたはそう声を掛けられた。
文月堂奇譚 〜古書探し〜

宇奈月 慎一郎編

●きっかけとは偶然に
 魔法使いの修行の旅の途中の眼鏡に長髪それに少しくたびれかけたコートを着た青年がその店の前に現れたのはただの偶然であった。
 たまたま故あって逃亡中であったおり、裏路地に駆け込み、そのまま走って行った先にたまたまあっただけの事であった。
 青年が思わず気に止めてしまうほど、古い店構えを持ったその店の名前は『古書店文月堂』というかすれかけた文字の書かれた看板が掲げられていた。
 そしてその店に何かに引き寄せられるかのように入って行った青年の名前は宇奈月慎一郎(うなずき・しんいちろう)といった。

●探している物
「いらっしゃいませ」
 店の外観からはおよそ考えられない明るい声が、慎一郎が店に入ると聞こえてくる。
 慎一郎が超えのした方を向くとそこには銀髪に紅い瞳を持った少女、店員の佐伯紗霧がきょとんとした顔をして慎一郎を見つめていた。
「えと、どんな本をお探しでしょうか?」
 紗霧は慎一郎の何処か浮世離れをした雰囲気に戸惑いつつ、慎一郎に問う。
「あ、僕が探しているのは少し特殊な本でしてね、お嬢さん」
「特殊な本……ですか?」
「ええ」
 慎一郎は紗霧にそう答えると、店内をすっと見渡す。
「僕が探しているのは魔道書なんですよ、僕はこう見えても魔法使いなんですよ」
 慎一郎はさらっとそんな事をいう。
「魔法使いさん?」
「ええ、それで僕が探しているのは希少な魔道書なんですよ」
「魔道書……ですか?あると良いのですが」
 紗霧は思わずところ狭しと本の並べてある本棚ではなく店の奥をじっと見つめる。
 魔道書や禁忌の書といわれるものは普通の本棚にはおいてなく店の奥に大抵はしまわれているからだ。
「奥がどうかしましたか?」
 奥を見た紗霧に慎一郎に怪訝そうに問う。
「あ、いえ、な、なんでもないですよ」
 奥に魔道書などが置かれているというのは迂闊に他の人に教える事はできない為、慌ててそう紗霧は誤魔化す。
「そうですか……なら良いのですが」
 慎一郎は紗霧のその言葉に何か言いたくない事でもあるのだろうと自分を納得させて小さく頷き紗霧に微笑みかける。
「あ、あのそれでお求めの本って?」
 紗霧は慌てて思い出したように慎一郎に問う。
「あーえーと、それは……『根暗な未婚』『良い盆の書』『留守家慰問』という三冊です」
 その慎一郎の言葉に場が一瞬だけ止まったような感じがした。

●真実?それとも…
 紗霧は慎一郎が告げたそのタイトルに戸惑いを隠せない様子であった。
「え……あ……あの本当に『根暗な未婚』『良い盆の書』『留守家慰問』でよろしいんですか?」
「ええ、そうですよ」
 紗霧の戸惑いに気付いてか気付かないでか、慎一郎はさらっとそう答える。
 紗霧の頭の中には世界的に有名な三冊の魔道書のタイトルがよぎる。
 三冊のその魔道書はあまりの危険さゆえにずっと伝説となり、世界各地で語り継がれてきたものであった。
 その名前を人よりも長い時を過ごしてきたその少女は何度も耳にした事があった。
 だが幸か不幸か実際に実物を目にした事はただの一度も無かった。
 どう答えるべきか考え込み黙り込む紗霧であったが、その紗霧の沈黙を慎一郎は別の解釈をしてとった慎一郎は場の空気を吹き飛ばすかのような明るい声で紗霧に話し掛ける。
「あ、ひょっとしてタイトルの感じがわからなかったですか?漢字が並んでいて少し難しいですからね〜。ええっと良ければペンと紙を貸していただけませんか?ええっと……」
「紗霧です、佐伯紗霧(さえき・さぎり)」
 紗霧はその慎一郎の言葉に疑問を抱く。
「なんで漢字なの?あの本のタイトルのどこにも漢字なんて……」
 紗霧はどうにも訳がわからないといった顔のまま、カウンターの下から紙とペンを取り出し慎一郎に渡す。
「ありがとうございます、紗霧クン」
 そして慎一郎はどこがそんなに楽しいのかわからないが、楽しそうにペンを握るとそのままペンを走らせる。
 そしてさらさらっと書き上げたそのタイトルを自慢げに紗霧に見せる。
 なぜか妙にその描いた文字は上手かった。

●捜索
 書かれたタイトルを見た紗霧はそのまま唖然とした顔になる。
「本当にこれであっているんですか?」
 本当に?と行った様子で紗霧が慎一郎に問うと慎一郎なさらに不思議そうな顔をして頷き肯定する。
 その肯定の頷きにますます紗霧は困惑の表情を浮かべる。
『どうしよう……?この人の勘違いなのかな?それとも本当にこういう本を探しているのかな?』
 紗霧が心の中でそんな葛藤をしていると唐突に慎一郎は、この本をどうして探しているかをとうとうと語り始めた。
「この本は元々僕が持っていたのですよ……。それがああ!あの忌まわしい家事の所為で全て灰に!灰になってしまいましたっ!この悔しさが紗霧クンにわかりますか?この僕の胸の痛みがっ!」
 最初は静かに話していた慎一郎であったが、徐々にその言葉は力を帯びていった。
 だんだん身を乗り出してくる慎一郎に紗霧は気おされるように徐々に下がるしかなかった。
 しばらくして、自分の語りたい事を語り終えたのか慎一郎がこほんと咳払いを一つした。
「と、僕はこういう事があってこの本達を探しているのですよ」
「……た、大変だったんですね」
 何処か固まった様な微笑を浮かべながら紗霧は慎一郎にそう答えると、慎一郎は紗霧の手を取る。
「判ってくれますか?この僕の悔しさ!切なさ!寂しさ!が!」
「え、ええ……」
 慎一郎のその言葉にただただ頷くことしかできなくなった紗霧であった。

……
………
…………

 しばらくそんな風なやり取りが続いた後、紗霧は思い出したように慌てて慎一郎に話す。
「そ、それじゃ私はちょっとその本がないか探して見ますね」
「ええ、お願いします。僕も自分が探している本のためです、探すのをぜひ手伝いたいです。どの辺りにそういう本はあるのでしょうか?」
「え、えーと……多分その辺、かな?」
 素直に真実を言う事ができない為にハードカバーの古い小説などが並んでいる辺りを紗霧は慎一郎に示す。
「判りました!」
 一瞬、姿が消えてしまったのではないか?とでも言う様な速さで示された本棚に向かい調べ始める慎一郎を見て紗霧は小さくため息を漏らす。
 そしてゆっくり立ち上がり奥に歩き始める。
「あ、私はちょっと奥の方にないか探して来ますね?」
「ええ、はい、判りました」
 探す事に集中しているのか、かなり生返事な返答をしてきた慎一郎の事が多少気にかかりつつもその場を紗霧は後にするのだった。

●宝物
「うーんやっぱり無いよなぁ、あんなタイトルの本は……」
 しばらくたって、店の奥にある倉庫から紗霧は戻ってくると、慎一郎は一冊の本を真剣に、それはもう真剣に読んでいた。
『あれ?ひょっとしてあの人の探していた本見つかったのかな?……まさか……いや、でもあのタイトルならひょっとして?』
 紗霧は心の中で慎一郎の思っている事が判らず、悪いとは思いつつもついつい後ろから声をかけてしまう。
「あの……ひょっとして見つかったんですか?」
 紗霧のその言葉に慎一郎が振り返る。
 その顔は瞳からあふれる涙でグショグショであった。
「……なんて悲しいお話なんでしょう、このお話は。特にほら見てください、最後のこの少年がこの大きな犬と一緒に教会にいる所なんて……。」
 慎一郎はそう言って読んでいた本の挿絵のある一頁を紗霧に見せる。
 本の頁を覗き込んだ紗霧は思わずそのシーンに見入ってしまう。
 どう見ても、慎一郎の探していた本ではなかったが慎一郎の言う通り、そのシーンは感動的な内容であり紗霧もついつい見入ってしまい、瞳が潤みかけてしまうが、ついついはっきりと慎一郎に言ってしまう。
「でもこの本は探していた本ではないですよね?」
「…………っ!はっ、そうでした、僕が探していたのはこの本ではないのでしたっ!」
 紗霧のその言葉で気がついたかの様に慌てて立ち上がろうとする慎一郎であったが、あまりの勢いだった為にそのまま紗霧とぶつかり合ってしまう。
 慎一郎とぶつかった紗霧はそのままよろめいて本棚にぶつかってしまう。
 そして紗霧がぶつかった本棚から本が雪崩の様に落ちてくる。
「いった〜い」
 本の雪崩にあい、紗霧はつい悲鳴上げてしまう。
「だ、大丈夫ですか?」
 慎一郎は慌てて紗霧の事を助け出そうと手を伸ばそうと身を乗り出したその時であった。
 崩れた本の一番上に何処か見た記憶のある本の裏表紙が慎一郎の視界に入って来たのは。
「あ、こ、この本は……!ありました!ありましたよ!」
 慎一郎は一端掴んだ紗霧の手をそのまま離しその本を手に取る。
 慎一郎の手をとり立ち上がろうとしていた紗霧が急に慎一郎からの支えがなくなるとどうなるか、それは自明の理であった。
 そこには再びそのまま後ろに倒れ込む紗霧の姿があった。

……
………
…………ドスンッ!

 その倒れこんだ音を聞いて、嬉しそうに本を手に取っていた慎一郎は何があったのか、と言う顔で音のした方を見る。
「何をしているんですか?紗霧クン」
 自分が手を離した所為だ、とは露にとも思ってないその嬉しそうな顔に紗霧は全ての毒気を抜かれてしまう。
「はぁ、な、なんでもないですよ、それよりもその本は?」
 倒れこんだままの姿で慎一郎の持っている本を指差し慎一郎に問う紗霧。
 慎一郎はその問いに嬉しそうに答える。
「あ、この本ですか?あったんですよ僕の探していた【留守家慰問】が!」
「……はぁ?」
 思わず紗霧もまの抜けた声を上げてしまう。
 まさか魔道書、本人曰くだが、が小説の中にあるとは思っていなかった為当たり前といえば当たり前なのだが。
「見つかったのも紗霧クンのお陰です、ありがとうありがとう!」
 このままだと抱きついて気すらする勢いの信一郎に紗霧は慌てて立ち上がり、距離をとったが、そんな紗霧は一切気にせず信一郎は手にした本をうれしそうに見つめていた。
「よ…良かったですね。本当にその本でいいんですか?」
「ええ、これこそ僕の探していた本です。ぜひ譲ってください!」
 慎一郎のその勢いに紗霧はただただ頷く事しかできなかった。
 紗霧の頷きを見た慎一郎は本を持ったそのままカウンターに向かう。
 紗霧もそんな慎一郎を見て慌ててカウンターに向かう。
『本当にこの本が魔道書なのかな?』
 本の値段を調べながらそんな疑問を紗霧は持つが、当の慎一郎は微塵も疑っていないようだった。
『本人が良いって言ってるんだから、それで良いんだよね』
 そんな風に思いながら、慎一郎から御代を貰い紗霧は本を渡す。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
 今にも跳ね周りでもしそうな満面の笑みで慎一郎は本を受け取る。
 そんな慎一郎を見ているとついつい紗霧も顔に笑みが浮かんでしまう。
「それじゃ、これで僕は失礼しますね!本当にありがとうございました!今日は見つかったお祝いにおでんといきましょう!」
 お礼を言いながら出て行く慎一郎を紗霧は見送った。
 そして慎一郎が出て行ったのを見送ると横で崩れている本の山を見て、紗霧は小さくため息をつくのであった。


Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ 宇奈月・慎一郎
整理番号:2322 性別:男 年齢:26
職業:召喚師

≪NPC≫
■ 佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋

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■         ライター通信          ■
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 どうも初めまして、ライターの藤杜錬です。
 この度はゲームノベル『文月堂奇譚 〜古書探し〜』にご参加いただきありがとうございます。
 宇奈月さんと云うとても個性的なPCさんでしたので、上手く描けているか多少不安でもあります。
 このような感じで宜しかったでしょうか?
 楽しんでいただけたら幸いです。
 今年は厄介な風邪がはやっていますので、体には気をつけてくださいね。
 それでは本当にありがとうございました。

2005.02.28.
Written by Ren Fujimori