■獣達の啼く夜sideβ■
水貴透子 |
【4757】【谷戸・和真】【古書店『誘蛾灯』店主 兼 祓い屋】 |
誰か、あたしを助けて。
そうずっと願っていた。
だけど、誰も助けてくれる人はいなかった。
あの時以上の地獄なんてあるわけないと思っていた。
だけど、あの時の出来事は地獄の始まりに過ぎなくて
更なる悪夢があたしに襲い掛かってきた。
だから、あたしはもう助けを待たない。
待っても救いの手を差し伸べてくれる人なんていなかったから。
地獄がくるなら来るがいい。
あたしは全てを受け止める事にしてやる。
今のあたしに怖いものなどない。
だから、あたしは後ろを振り返ることなく前に進む。
その先に何があるのかは分からないけれど。
※※始まりの第一夜※※
その日は激しい雨が降りしきる夜だった。
尭樟生梨覇(たかくす おりは)と雪沢海斗(ゆきさわ かいと)は公園の前で震えながら座っている少女を見つけた。
その少女の瞳は闇夜の中でもはっきりと分かるくらいの赤い瞳。
「あなた、どうしたの?」
なにやら普通ではなさそうな少女に生梨覇が問いかける。
「家出少女にしては変だな」
海斗も少女の顔を覗きこみながら言う。
だが、その瞬間、少女の身体がグラリと揺れ前のめりに倒れこんできた。
「お、おい!」
水溜りに倒れこむところを海斗が抱きとめる。
「…おい、こいつ…牙がある…」
苦しげに息を吐く少女から見え隠れするのは肉食動物のように尖った牙、犬歯にしては鋭すぎる。
「どうしたものかしらね」
生梨覇が困ったように言うと暗闇の中一人の人影が二人の視界に入ってきた。
「あら、お久しぶりね」
「何だ、あんたか。そういえば…あんたの家がこの近くだったよな。行き倒れの人間見つけたから連れて行ってもいいか?」
こうして一人の少女を拾ったのだが、キシキシと軋む運命の歯車の中に巻き込まれたことなどこの時の自分は思いもしなかった…。
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獣達の啼く夜sideβ
オープニング
誰か、あたしを助けて。
そうずっと願っていた。
だけど、誰も助けてくれる人はいなかった。
あの時以上の地獄なんてあるわけないと思っていた。
だけど、あの時の出来事は地獄の始まりに過ぎなくて
更なる悪夢があたしに襲い掛かってきた。
だから、あたしはもう助けを待たない。
待っても救いの手を差し伸べてくれる人なんていなかったから。
地獄がくるなら来るがいい。
あたしは全てを受け止める事にしてやる。
今のあたしに怖いものなどない。
だから、あたしは後ろを振り返ることなく前に進む。
その先に何があるのかは分からないけれど。
※※始まりの第一夜※※
その日は激しい雨が降りしきる夜だった。
尭樟生梨覇(たかくす おりは)と雪沢海斗(ゆきさわ かいと)は公園の前で震えながら座っている少女を見つけた。
その少女の瞳は闇夜の中でもはっきりと分かるくらいの赤い瞳。
「あなた、どうしたの?」
なにやら普通ではなさそうな少女に生梨覇が問いかける。
「家出少女にしては変だな」
海斗も少女の顔を覗きこみながら言う。
だが、その瞬間、少女の身体がグラリと揺れ前のめりに倒れこんできた。
「お、おい!」
水溜りに倒れこむところを海斗が抱きとめる。
「…おい、こいつ…牙がある…」
苦しげに息を吐く少女から見え隠れするのは肉食動物のように尖った牙、犬歯にしては鋭すぎる。
「どうしたものかしらね」
生梨覇が困ったように言うと暗闇の中一人の人影が二人の視界に入ってきた。
「あら、お久しぶりね」
「何だ、あんたか。そういえば…あんたの家がこの近くだったよな。行き倒れの人間見つけたから連れて行ってもいいか?」
こうして一人の少女を拾ったのだが、キシキシと軋む運命の歯車の中に巻き込まれたことなどこの時の自分は思いもしなかった…。
視点⇒谷戸・和真
和真ははっきり言って面倒事に巻き込まれるのはごめんだった。
だから、生梨覇と海斗が持ち出してきた事も断るはずだった…が、よく見れば倒れていた人物は女の子だった。女の子となれば断るわけにもいかず、渋々だが自宅に連れてくる事を了承した。
これが一時間前の話。少女は今だ苦しげに息を吐きながらうなされている様にも見えた。
「……牙?」
今時カラーコンタクトというものがあるから赤い瞳は別に珍しいものでもない。だけど、牙となると話は別だ。苦しげに息を吐くときに見え隠れするのは作り物ではない本物の牙。
(あぁ…絶対に厄介ごとに巻き込まれる…)
和真は諦めたように溜め息を漏らし、がっくりとうな垂れる。
とりあえず、普通ではなさそうな少女だが、助けたついでというものがある。何かに困っていて助けを求めるなら助けてやるけれど、何も求めてこないなら何もしない。
けれど、拾っておいて放り出すのも寝覚めが悪いし、どこかで野垂れ死にされても迷惑だ。こうなったらこの少女が何と言おうが逃がすことはしない。
最期の言葉は悪役のそれに少し似ていたが、心の中で呟いていたので誰にも聞こえていないから問題ない。
「それにしても、何者なんだろうな」
海斗がコーヒーを飲みながらベッドで眠る少女を見て、呟いた。
「そうね、ただの家出少女なら問題ないけれど…」
生梨覇が呟くと同時に少女は赤い瞳を開き、和真、海斗、生梨覇の三人の顔を見比べた。
「……ぁ…たし…」
少女は慌てて起き上がろうとするが、熱があるせいか体が重く感じるのだろう、すぐにベッドに倒れこんだ。
「無理をしちゃだめよ、雨の中ずっといて風邪をひいているんだから」
生梨覇が呟くと、少女が起き上がろうとして乱れた布団を被せてやる。
「…あたし…は…それにここはどこ…」
見慣れない部屋に途惑っているのか、少女は何度も瞬きをしながら問いかけてくる。
「あたし、出て行かなきゃ…迷惑が…かかる…」
少女はそう呟き、ふらふらとした足取りで出て行こうとするが、和真がそれを制止する。
「そんな身体でどこに行こうってんだ。大人しく寝てろ」
和真はそう言って少女をまたベッドに放り投げる。
「あたし…バケモノなんだよ…?ここにいたら貴方達に迷惑がかかる」
少女は布団をギュッと指先が白くなるまで握り締め、その小さな肩を震わせながら呟いた。
「……バケモノ?」
少女の言葉に聞き返すように和真が言う。
「…うん、西脇製薬会社って知ってる?そこでは警察や政府が絡んでの極秘に行われた実験があったんだ。…それがビースト・プロジェクト。人間と動物の遺伝子を混ぜ合わせて最強の兵器を作り出す計画。その被験者の中にあたしがいたんだ…」
その時のことを思い出したのか優と名乗った少女はガタガタと身体を震わせながら呟いた。
「その研究所から逃げて…でも行くところがなくて…」
あの公園でどうしようか考えている途中に倒れた、と少女は言葉を付け足した。
「だから、あたしがいたら…」
「だから?」
「「「……は…?」」」
和真の言葉に少女はもちろん、海斗や生梨覇も驚いたようで間抜けな声を出した。
「や、だから、あたしは…」
「俺ははっきり言って今の話を聞いても何とも思わないし、同情もしない」
和真のはっきりとした言葉に生梨覇があははと声を出して笑い出す。
「面倒くさがりというか、豪胆というか…和真らしいわねぇ」
今だ笑いを止められない様子で、生梨覇はクックッと口元に手を当てたまま笑いを堪えている。
「ま、それが和真って人間のイイトコなんだろうけど」
海斗も笑いを堪えながら呟く。
「行く場所がないって言ったな。だったらここに住めばいい。だが、俺が経営する古書店で働いてもらうからな、働かざるもの食うべからずだ」
和真は少女を指差し、きっぱりと言い放つ。
「……なんで、そんなに優しくしてくれるの?」
少女は心底不思議そうに和真に問いかけてきた。
「和真はね、面倒くさがりだけど自分で助けた人を放っておけないのよ」
クスクスと笑いながら少女に生梨覇が答えた。
その言葉を聞いた途端、少女の頬を涙が一筋伝った。
「…何で、あの研究所の連中は人間だったあたしを人間扱いしなかったのに、貴方達は何でバケモノのあたしを人間扱いするの…」
そう言いながらも少女の涙はどんどん溢れてくる。
「お、おい!泣くなっ!泣いても俺にはどうしようもねぇぞ!あぁっ泣くなって」
頭をガシガシと掻きながら和真が焦ったように騒ぎ立てる。
「相変わらず、誰かが泣くってのに弱いなぁ、あんた」
海斗がその様子を見てからかうように言葉を投げかけてきた。
「そういえば、名前聞いてなかったな」
和真が思い出したように呟く。
「…あたしは…優…小日向、優」
よろしくお願いします、優は丁寧に頭を下げて握手をするために手を差し出した。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
4757/谷戸・和真/男性/19歳/古書店・誘蛾灯店主兼祓い屋
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■ ライター通信 ■
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特別出演
東圭真喜愛様よりお借りしました⇒『尭樟生梨覇』
風深千歌様よりお借りしました⇒『雪沢海斗』
★★★★★★
谷戸・和真様>
初めまして。
今回『獣達の啼く夜sideβ』を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
『獣達の啼く夜sideβ』はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思ってくださったら幸いです^^
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^
―瀬皇緋澄
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