■不思議少女の日常・〜出入りは自由です〜■
メビオス零 |
【1252】【海原・みなも】【女学生】 |
みっちゃんには、ハーデスの城(らしい)から、自由に出る許可が出されている。
だから、主に外で行う活動は、彼女に全権が与えられていた。他の者達には、自由な出入りが禁じられているのだから、しょうがないのかも知れない。
しかし、この試練はちょっと一人では無理すぎた。
「……………………」
みっちゃんは何も語らない。たとえ、いきなり夜道で押し倒されても悲鳴一つ上げないだろう(ただし攻撃してくる)。それぐらいに声を出さない。
彼女は、おおよそ感情表現の類が苦手………なのかも知れない。
なにぶん、何も言わないので解らないのだ。
だから、彼女の方から食材の買い出しを手伝って欲しいなどと言う事はなく、その無表情に、よく見れば解るぐらいの困惑を浮かべるだけだった。
「…………………………」
彼女は見上げる。食材の山を……。
ハーデスの従者は、背後で控えている者達を入れれば、それこそ数十人規模で居る。その食材の買い出しを、たった一人で行う辺り無茶すぎた。……てか誰か手伝えよ!?
「…………?」
そこに、彼女の姿を目に止める者がいた。
何たってメイドさんが、商店街の入り口で、高く積み上げられている食材を見上げて居るのだ。誰だって見るぐらいはする。
手伝おうとする者は居なかったが……
いや、居た。
困り顔(無表情でも、何となく解る)の彼女の元に、数人の人影が近付いて行った…………
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不思議少女の日常・〜出入りは自由です〜
みっちゃんには、ハーデスの城(らしい)から、自由に出る許可が出されている。
だから、主に外で行う活動は、彼女に全権が与えられていた。他の者達には、自由な出入りが禁じられているのだから、しょうがないのかも知れない。
しかし、この試練はちょっと一人では無理すぎた。
「……………………」
みっちゃんは何も語らない。たとえ、いきなり夜道で押し倒されても悲鳴一つ上げないだろう(ただし攻撃してくる)。それぐらいに声を出さない。
彼女は、おおよそ感情表現の類が苦手………なのかも知れない。
なにぶん、何も言わないので解らないのだ。
だから、彼女の方から食材の買い出しを手伝って欲しいなどと言う事はなく、その無表情に、よく見れば解るぐらいの困惑を浮かべるだけだった。
「…………………………」
彼女は見上げる。食材の山を……。
ハーデスの従者は、背後で控えている者達を入れれば、それこそ数十人規模で居る。その食材の買い出しを、たった一人で行う辺り無茶すぎた。……てか誰か手伝えよ!?
「…………?」
そこに、彼女の姿を目に止める者がいた。
何たってメイドさんが、商店街の入り口で、高く積み上げられている食材を見上げて居るのだ。誰だって見るぐらいはする。
手伝おうとする者は居なかったが……
いや、居た。
困り顔(無表情でも、何となく解る)の彼女の元に、人影が近付いて行った…………
「あの、手伝いましょうか?」
みっちゃんが振り返ると、そこには見た事のある学生服の少女がいた。
海原 みなも(うみばら みなも)、以前、ハーデスの幻影の夜で連れられ、ペンギンワールドへと行った女の子である。
もっとも、みなもはみっちゃんの事など知らない。忘れたわけではなく、会っていないからだ。みっちゃんは、みなもがお茶を飲んでいる時に、近くにあったペンギンの営んでいた喫茶店の厨房を占領……………………借り受けて、そこで軽食やクッキー、お茶のお代わりの用意などをしていて引っ込んでいた。
みっちゃんは、ジッとみなもを見た。別に威嚇しているわけではない。ただ単に、何で話しかけてきたんだろうか、と思っただけだ。
自分が目立っていて、少しばかり困っているのも解ってはいるのだが、それは目の前の少女には関係ない事だ。経験上、その他大勢に分類される者は、只取り巻きになるだけで、手伝おうとしないものなのだが…………
(………………)
思考さえ取ってもクリアな彼女は、とりあえず、『この少女は、その他大勢ではないだけ』という事で結論付けた。と言っても、彼女はまだ、手伝って貰おうとは思っていない。何せ持っていく場所は、ハーデスの城までなのだ。ハーデスの城は、実は、みっちゃん自身、どこに在るのか解らない。いや本当に。
ならばどうやって戻るのか?
答えは簡単。
『入り口が見つかるまで歩き回る』
……………………何とも無理のある帰り方でした。
「あれ?」
商店街のチラシを見直して、何か買い漏らしがないかどうかを確認していると、私はふと、商店街のある一点に気が付きました。
メイドさんが居ます。ええもうハッキリと。ピンク色の髪に薄水色のメイド服(エプロン月)、袖から伸びる肌は白で、とても目立っています。しかもメイドさんの前には、「俺は富士の山を目指すんだーー!!」とばかりに、高く積み上げられている荷物の山がありました。思わず、外巻きに見ているあたしも「うわぁっ」と言ってしまう程です。
メイドさんは、流石に困っているようです。当たり前ですけど、こんな荷物を持って行けるとは思えません。
(誰か、他のメイドさんはいないのかな?)
辺りを見渡してみますけど、そう言う人は見当たりませんでした。商店街を回っている時にも一人も見ませんでしたし、もしかしたら一人で来たのかも知れません。だとすると、あの荷物を一人で持っていくのでしょうか?
「無理ですよね。やっぱり」
思わず独り言が出てしまいました。ついでにあたしの体も前に出ています。あたしは、取り巻きの人達の中から出て、メイドさんの後ろまで歩いていきました。
こんな荷物を一人で運ぶ事なんて出来ないでしょうから、やっぱりここは手伝わないと。家には……1時間程帰宅が遅れると電話すれば良いと思いますし。
「あの、手伝いましょうか?」
あたしが声を掛けると、メイドさんが振り返りました。
緑色の瞳があたしをジッと見てきます。とても深い色をしたその瞳は、無表情な顔つきと相まって、可愛いというよりは綺麗で、なんだか人形みたいです。
「……………………」
メイドさんは黙ったままです。えっと、突然の事で聞こえなかったんでしょうか?
「あ、あの………手伝いましょうか?」
もう一度訊いてみました。……やっぱり何も言いません。もしかしたら、耳が聞こえてないのかも知れません。
「えっと、……もしかして耳が聞こえないんですか?」
だとすると、今のセリフも聞こえていませんよね?どうしましょう。あたしは手話とかは出来ないんですけど……あ!なら
「あの、私が、この荷物を、持つのを、手伝いましょうか?」
あたしは、ジェスチャーを交えて話してみました。まずは自分を指差して、次に荷物、その次に、荷物を持つ真似をしてみます。これなら解って貰えると思いますし………何のリアクションもありませんでした(涙)。
「あれ?あの〜〜」
どうしましょう。全然反応がないです。ジッとこちらを見てくるだけで、何も言いませんし…………そろそろ周りの方からの視線が痛くなってきました。
(どうしよう。えっと、あと他に何があったかな……そうだ!)
「あ、そう言えばメモ帳が鞄の中に……」
あたしは筆談に思い当たり、実行するために鞄の中を探りました。メモ帳と筆記用具を用意して書いてみました。これで通じなかったら、流石にお手上げなんですけど………
【お荷物を持つのを手伝いましょうか?】
さぁ、どうですか?お願いしますから、これで通じて下さい。
メイドさんは、まだこっちをジッと見てきます。だけど、そこからコクン、と頷いてくれました。
「良かったぁ、やっと通じた」
ホッと胸を撫で下ろしてしまいました。これで通じなかったら、本当に困っていたところです。
メイドさんが私が持つ分の荷物を渡し始めると、…………なんだか、周りから拍手が起こりました。
みなもは、少しだけ困っていた。
目の前には、自分の頭よりもずっと高い位置まで荷物を持って、それでも平気で歩いているメイドさんが居る。自分も、負けないぐらいの荷物を抱えて歩いていた。
……二人が商店街から歩き始めて、既に1時間が経過した。
その間、みなもはみっちゃんの後ろをずっと着いていっているのだが、それがまた、右へ行ったり左へ行ったり登ったり下ったり………………あっちこっちへと歩き回る事になった。
(本当にこっちにあるんでしょうか?)
メイドを雇うだけのお屋敷ならばもっと広い場所にあると思っていたのだが、何故かみっちゃんは、商店街で一番最初に荷物を持って路地裏へと入った。これにはさすがにみなもも驚いたが、だからといってここで手伝いを止めるわけにもいかない。
みなもは、みっちゃんが残していった荷物を持って、後を着いて行った。みなもに預けられた荷物は、全体の約三分の一と言ったところか。それでも、たぶん10sは下らないのだが、みなもは悲しい事に力には多少の自信がある女の子なので、特に問題にならなかった。みっちゃんに至っては、残りの三分の二を無表情のままで運んでいる。
問題があるとすれば、行き先がよく分からない事だ。ついでに言うと、あっちこっちと歩き回っているので帰り道も分からない。
しかもみっちゃんは無口なため、聞く事も憚られた。
(う〜ん、会話も何も無いのが辛いなぁ。なんだか寂しそうな所に来ているし………)
薄暗い路地裏にまで来ると、だんだんみなもの不安が募ってきた。今までの経験に比べると、まぁ、これぐらいはまだ許容範囲なのだが、それでも不安は拭いきれない。
特に黙々と歩いているだけだと、どうも気まずい雰囲気になってしまう。みっちゃんの寡黙オーラに当てられると、どうしても話しかけられないのだ。
(何か、話題でもないでしょうか?)
何か無いかと考えてみる。だが、ほとんど初対面の二人(しかもみっちゃんは喋らない)では、弾んだ会話も望めなかった。そもそも、みなもの中では、未だにみっちゃんは耳の聞こえない人だという位置付けのままだった。何たって、本人が否定してこないし、聞くのも失礼に思えたため、確認まではしていないからだ。
一人悶々としていると、ふと、みっちゃんが立ち止まった。みなもも、そのすぐ後ろで立ち止まる。どうしたのかを聞こうとすると、前方から、すごく元気そうな声が響いてきた。
見ると、青髪の女の子……いや、女性がこちらに向かって手を振りながら走ってきた。
「みっちゃ〜〜ん!探したでぇ、ここにおったんかぁ。えらいスマンなぁ、買い物一人押しつけてしもて。ホンマ堪忍や。つい忘れてもうたんやぁ…………やっぱあれかいな?一昨日の24時間耐久一気飲みレースが効いてもうたかな?」
そんな事して動ける貴女は何者だ。
ここに誰か、突っ込み役の人が居たら、間違いなくそう言うだろう。
「?、みっちゃん、そっちの女の子は誰なんや?見たとこ、純粋な人間でも無さそうやけど………吸血鬼よりかはなんぼもマシっぽいな。ほうほうほう………」
女が、みなもに向かって近付いてきた。値踏みするように見てから、大袈裟に驚いた。
「おお!!みっちゃんを手伝ってくれたんか!?そらおおきになぁ、ウチが手伝うはずやったんやけど………あ、ウチはみっちゃんの親友の柊・日向ッちゅうんや。よろしゅうな」
「あたしは水原みなもです」
「よろしゅうな、みなちゃん」
日向が手を差し出してくる。みなもは、荷物をいったん下ろしてから、その手を取った。みっちゃんは、その光景をジーーーーっと見ている。無言で、荷物を持ったまま。
日向は、みなもの手を持ったまま、嬉しそうにぶんぶんと振り回していた。
「……………………………………………………………………………………」
「みっちゃんは相変わらず黙ったままやなぁ、羨ましいなら加わってもええんやで?」
「みっちゃんさんもどうですか?」
「…………」
「ああ!そんな一人でスタコラ行かんでも!?ほれ、荷物持ったるさかい、3人で行こうやぁ。みなちゃんも一緒な。世話かけた礼も、まぁ、色々事情が有ってでけへんねんけど、今度宴会でもやる時には、呼べたら呼んだるさかいな」
日向が、みっちゃんが持っていた荷物を半分程持つと、今度は3人で連れ立って行くかたちになった。3人で、談笑しながら歩き出す。(と言っても、みっちゃんは黙っていたが)
「いえ、そんな。別にお礼なんて……むしろ、今回は、私の方がお礼をしたようなものですから」
「なんや、会った事あるんか?」
「いえ、たぶん…………ハーデスさんって知ってます?」
「そら勿論や。ウチ等の大将やさかい。なんや、客人になった事あったんか」
「ええ、つい先日。その時に、みっちゃんさんのクッキーをお土産に貰ったんです。本人には会ってませんでしたけど」
「そうなんか、羨ましいなぁ、みっちゃんクッキー美味いねん。なぁ、今度、ウチにも作ってぇなぁ」
日向が、荷物を持ったままみっちゃんに擦り寄っていく。みっちゃんは、日向から逃げるように歩を早め、日向がそれを追って更にイチャイチャと懐いていった。
みなもは、そんな二人を微笑みながら追っていった……………………
「…………」
「お?着いたみたいやな」
「え?ここなんですか?」
日向が言うと、みなもが思わず聞き返した。辺りは薄暗く、建物の密集している場所の裏手で、結構怪しい雰囲気が出ているような所だった。
こんな所に住んでいるはずはないのだが………
「大気の魔力が微かに澱んどる。もう目の前やな。そのうちここにも来るかも知れへんから、ここまでにしといた方がええ。あまり近付かんときな?“幻影の夜”に巻き込まれたら、三時間の足止めや。もう時間も遅いさかいな、これ以上帰るのが遅れたら、シャレにならんやろ?」
「そ、そうですね。分かりました」
以前は、学校からの帰宅途中で巻き込まれ、帰ってから怒られてしまった。もう既に、その時間さえすぎているが………
(ここから帰ったら、もっと時間かかっちゃうな)
みなもが溜息をつくと、日向がみなもに向かって携帯電話を差し出した。
「これで家に電話しい。ウチが言い訳したるさかいな」
「いえ、でもそんな……」
「これぐらいはさせてぇな。そもそもこっちが世話になりっぱなしや」
「……分かりました。じゃあ、お願いしますね」
みなもは携帯電話を受け取ると、自宅の番号を入れた。親に二〜三応答すると、その携帯を日向に手渡した。日向は、両親に対して冗談交じりに、様々な会話をこなし、宥めていく。やれ迷ったから案内して貰っていただの、あっちこっち連れ回していただの………よくもまぁ、と感心してしまうくらい次から次へと嘘が並べ立てられる。それでも微妙に嘘と言い切れない辺り、逃げ道も用意されていた。
「ほれ、これでええやろ。帰ったら、よろしゅう言っといてや?」
「はい。ありがとうございます」
みなもがお礼を言うと、日向は「ええって、これでまた誘えるさかいな」と言って、みなもの背中を叩いた。
「は?」
「気にせんとき。ほな、ウチ等はもう行くわ。次にあったら、何かもっとちゃんとした礼するさかいな」
日向が、いったん置いて置いた荷物を持ち上げる。みなもの持っていた物も一緒に持ち上げていた。
みっちゃんも、荷物を持ったままずっと待っている。目はみなもに向き、日向が横に来ると、ぺこりとお辞儀をした。日向は、みなもに笑いかけていた。
みなもも、みっちゃんに答えるために軽くお辞儀をする。
顔を上げると、もう、二人の姿はなかった…………
後日談
「何やってんですか?日向さん」
「ン?これか?この前、ウチとみっちゃんで普通の世界に行ったやろ。その時の嬢ちゃんの自宅の電番、この携帯に残しといたさかい。住所調べてんねん」
「………………何する気ですか、あんたは」
「そらウチがやることっちゅうたら一つやろ」
にやりと、日向が笑う。
(また宴会だろうなぁ、もうお酒は懲り懲りだよ……勘弁して………)
柳弥は、溜息を吐いて項垂れる。そんな柳弥をニヤニヤと笑いながら見つつ、日向は視線を厨房でジャガイモの皮を剥いているみっちゃんに向けた。
「みっちゃん。その時んなったら、御馳走頼んだで?」
「…………………………………………………………♪」
「!!!?」
「どうしたんですか?」
「い、いや!何でもない!!ただの目の錯覚や!!」
日向があまりの驚きで狼狽えている。柳弥は、怪訝な表情でみっちゃんを見た。
みっちゃんは、いつものように無表情で黙々と作業している。
だが、日向は確かに見たのだ。
一瞬だが、確かに嬉しそうだった、その笑顔を………
end
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1252 海原・みなも (うなばら・みなも) 13歳 女性 中学生
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■ ライター通信 ■
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二度目のご参加、ありがとうございました。メビオス零です。
ファンレターもありがとうございます。ちゃんと読ませて頂きました。
こっちの納品が近かったので、こっちで返事を纏めようかな〜〜と……ちゃんと読みましたよ〜〜
進歩してるんだかしてないんだか……波が激しいのが弱点か?日情景の物は、まだまだ訓練が必要だと痛感しております。
これからも精進し続けますので、これからも……よろしければ!よろしければよろしくお願いします。(文が乱れてきてる〜〜(涙)
そう言えば………一人称、前回“あたし”ではなく“私”にしてしまっていましたね。すみませんでした。いや、もう本当に………
これからは、ちゃんとチェックをします。
では、ご参加、本当にありがとうございました。(・_・)(._.)
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