■Calling 〜小噺・演目〜■
ともやいずみ |
【0413】【神崎・美桜】【高校生】 |
よくわからないのだが。
たまたま助けた相手が劇団員で、どこかで公演するのに人数が足りないとかで。
(……どうして)
手伝ってと頼まれて、了承してしまったのだろうか……。
あと一人、人手がいるとか……。
(…………)
嘆息するしかなかった……。
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■当方のNPC、遠逆和彦、遠逆月乃、どちらかと共に劇を成功させてください。
NPCに頼まれて劇に参加することになった。
困っているNPCを見つけたので、手伝うことにしたなど。とにかく手伝って劇を成功させることが目的となります。
演じる劇と配役によっては、親密度があがったりします。積極的にNPCを助けることも親密度をあげることになります。
■どんな劇を演じるか(童話など、既存の話は誰もが知っているものでお願いします)、NPCにはどの役を演じさせるか、あなたはどんな役を演じるかを決めてください。
オリジナルの劇ならば、どういう話でということは必ず書いておいてください。
ライターにお任せでもいいです(「恋愛もの」「熱い青春もの」などの指定さえあれば良いです)
■完全個別受注となっております。
■初対面の方は初対面として描かせていただきます。
■内容はコメディか、ほのぼのなものになりそうです。(憑物封じは基本的にしませんので、戦闘はないと考えてください)
■参加NPC・世界観については、下記URL「東京怪談〜異界〜」を参照下さい。
□Calling 〜捕縛連鎖〜
http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=1258
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Calling 〜小噺・演目〜
台本を読み終えた遠逆和彦が、珍しく大きな溜息をついた。
むぅ、と眉間に皺を寄せてしまう。
「……王子、ねえ……」
ガラじゃない。
そう思ってしまう和彦は、ふと何かに気づいて座っていたベンチから腰をあげた。
*
あ、つまづいた。
そう思った時は遅い。神崎美桜の視界はゆっくりと降りていく。
と。
動きが止まる。
あれ? と美桜は思う。こんなところに自分の動きを止めるものなどないはずだ。自分は地面に倒れるはずだったのに。
「何もないところで転んで、どうするんだ?」
上からの声に、美桜は小さく目を見開く。
自分の腰に回った手。その手の主は、美桜をゆっくりと立たせてくれる。
振り向いた美桜は「やはり」と思ってしまった。
黒髪に色違いの瞳の少年。名は遠逆和彦。憑物を封じている、退魔士の少年だ。
(遠逆さん……)
「あ、ありがとうございます、遠逆さん」
「いや」
「…………制服じゃないんですね」
「毎日制服なわけないだろ」
無表情で言う和彦が何か落とした。それに気づいて美桜が拾う。何かの台本のようだ。
「? これは……?」
「あ、それは」
少しばかり焦ったような和彦は、伸ばしかけた手を降ろして眉間に皺を寄せた。
「少し、頼まれ事を……」
「頼まれ事、ですか?」
「その……劇を手伝うことに」
なって、と和彦は非常に言い難そうに小さく呟く。
美桜は少し微笑み、台本を眺めた。
「劇ですか? どんなお話なんです?」
「…………」
無言の和彦。
しばしの沈黙。
「恋愛ものだ」
いやに冷ややかな声だった。
きょとんとして見上げた美桜から、彼は視線を外す。見つめている者にしかわからない些細なしぐさであった。
「恋愛もの? えっと……ロミオとジュリエットとかですか?」
「そういう既存のものじゃないようだ。姫と王子の話で……」
難しそうにさらに眉間に皺を寄せる和彦。
(あ……なんだか遠逆さん、すごく……)
不機嫌そうだ。それが表情に出ないように堪えているように見える。
「あの、よければ私、手伝いますよ……?」
おずおずと言い出した美桜を、ゆっくりと見遣る和彦。睨みつけられたような感じがして、思わず美桜は言葉を止めた。
「手伝う? 誰を?」
「遠逆さんを……」
はあああああ、と和彦が大げさなくらいの溜息をつく。
「正直、助かる」
「え?」
意外な言葉だった。まさかあの和彦がこんなセリフを言うとは思わなかったのだ。
「演じるのは問題じゃないんだ……問題は、足りないもう一人のことで」
「足りない……?」
「人数が足りないんだ。急遽入院で」
しん、と静まり返った。
どう反応すればと困る美桜に向けて、和彦は言った。それは美桜の鼓動を激しく打ち鳴らすのに十分な言葉で――――。
「俺が相手役では、不足か?」
*
美桜は口を開く。
「だ、ダメですよ、遠逆さん!」
言われて和彦はセリフを止めて美桜を見遣った。
「どうして?」
「ど、どうして……と言われても……」
戸惑う美桜は、和彦の持つ台本を遠慮がちに覗き込む。
「ほら、ここで王子様はお姫様を救出するんですよ? 遠逆さんは颯爽と派手に登場しないと」
「どうしてだ」
眉根を寄せる和彦の言葉に、美桜は困ってしまう。
「派手にしたら目立つじゃないか」
「目立っていいんです」
「見つかれと? この王子、頭は大丈夫なのか?」
「お芝居なんですから……」
そこで彼は目を細めて嘆息し、頬杖をついた。真横に座っている美桜は苦笑する。
ベンチから立ち上がり、和彦はくるりと振り向いて美桜を見た。台本を丸めて掌をパン、と打つ。
「では、セリフを言ってくれ。憶えているかどうか、見て欲しい」
すいっと美桜に向けて台本を差し出した。美桜は少しそれを眺め、ゆっくりと受け取る。
*
公演の日がやってきた。
小学校の体育館を借りて行う、ボランティアのものだったが、美桜は生まれてこのかた演劇をやったことがない。
(き、緊張します……ね)
きゅ、と胸元で拳を握り、小学校の校門前に立った。
「神崎さん」
「きゃあ!」
いきなり背後から声をかけられて、美桜は心臓が止まりそうになるほど驚く。
恐々と振り向くと、そこには目を軽く見開いた和彦が立っていた。美桜が悲鳴をあげるとは思っていなかったらしく、珍しく少しのけぞっている。
「驚かさないでください、遠逆さん……っ」
「す、すまない……」
「あの、どうかしたんですか?」
「は?」
「え……用があったから声をかけたのでは……?」
首を微かに傾げる美桜の言葉に「ああ」と和彦は呟く。
「校門前で何をしているのかと思っただけだ」
「あ、えっと……」
「なんだ。まだここに用なのか?」
「いいえ! ち、違います」
慌てて手を振る美桜の横を、和彦が無表情に通る。
「なら行くぞ」
「…………」
「? なにしてる。行かないのか?」
数歩行ってから、彼が振り向いた。美桜は小走りで追いつくと、横に並んで歩き出す。
「小学校に入るの、久しぶりですね」
微笑みながら和彦を見上げる美桜であったが、彼が三秒ほど経ってから眉をひそめたのを見て怪訝そうにした。
「……どうしたんですか?」
「いや……小学校に入るのが、何か特別なのかなと思ったんだ」
「懐かしくないですか……?」
彼はさらに眉間に皺を寄せる。
「懐かしい……? どうしてだ?」
「どうしてって……」
「小学校は小学校だろう? 何か意味があるのか?」
和彦の声は真面目そのものだ。彼が本気で言っているのがわかる。
「あの……思い出したりしませんか? 小学校に通っていた頃とか……」
「…………ああ、そういう意味か」
納得したように和彦は頷く。彼は体育館を見つけると、足をそちらに向けた。
「どうだろうな……懐かしいともなんとも俺は思わないんだが」
「そうなんですか……」
「なんだ? 懐かしいのが…………その、普通なのか? 感想としては」
言葉の最後のほうの声が小さくなり、こっそり尋ねるような口調になる。
普通かと問われても、それを美桜は肯定できない。
「まあ……小学校にいい思い出のない方もいますから」
「………………いい思い出ねえ……」
ぼやくように言う和彦は、遠くを見るような目付きをした。その口調はまるで、思い出そのものがないような言い方であったのだが。
「……ところで神崎さん、緊張してるのか?」
尋ねられて美桜が足を止めそうになる。
「い、いえ、そんなこと、は」
無言になる和彦が、つい、と人差し指を美桜に向けた。その指先が示すのは、美桜の手だ。
拳に力を入れていた美桜は、ぱっと掌を開く。
(誰か緊張している人がいたら……精神感応でリラックスさせてあげようと思っていたんですけど……)
自分には使ったことがないからか、美桜はかなり緊張していた。
「うん」
唐突に頷いた和彦は足を止める。美桜もそれにならって止まった。
「掌に『人』という字を三回書いて飲み込む、じゃなかったか?」
「え?」
「緊張をほぐす……まじないだったか?」
「…………」
「なんだその顔は。俺が知っているのが意外だったか?」
ムッとする和彦は美桜の額を指で軽く弾いた。小さな痛みに美桜が顔を少ししかめる。
「そんなに緊張してたら、またコケるぞ」
「こ、コケませんよっ」
「そうだといいがな」
小さく笑っている和彦を、美桜は慌てて追いかけた。
*
「姫!」
囚われていた美桜が声に振り向く。
舞台に登場したのは和彦で、剣を持っている。
「助けに参りました!」
いつもの淡々とした声ではなく、温かみのあるものだ。
美桜は、なんだか不思議な気分になる。これは確かに芝居だ。
だが、目の前にいる和彦はあまりにも普段とかけ離れている。
美桜は我知らず彼の掌を握りしめていた。和彦は一瞬だけ目を見開くものの、すぐにうかがうように見てくる。美桜に合わせる気のようだ。
(遠逆さん……守られてばかりじゃなくて)
美桜は手に力を込める。
「こんなわたくしのためにここまで……? わたくしはあなたの足を引っ張っているのでは?」
セリフを言った。
「いいえ」
彼は否定する。これも台本通りだ。だが、和彦はそこで小さく呟いたのだ。美桜に聞こえるくらいの声で。
「考えすぎだ」
――と。
そしてすぐさま大きな声でセリフを続けた。
美桜は彼の言葉を反芻する。
(考えすぎ……。遠逆さん…………)
握りしめた和彦の手には傷一つなかった。凄いスピードでケガが治っていくのを美桜は目の当たりにしている。
(あんなひどいケガ……)
もう、負ってほしくない。和彦にケガをさせたくなかった。
「さあ、姫」
「はい」
美桜は頷いて和彦と共に舞台のソデに駆け去る。
(こんな……守られて、助けられるだけのお姫様じゃなくて……)
*
劇が終わり、美桜は安堵と感動で胸を撫で下ろす。
(良かった……成功したみたいです)
どこか目まいにも似たような感覚。美桜はぼんやりと床を見つめている。
「神崎さん」
今度は驚かなかった。振り向いて微笑む。
「お疲れ様でした、か……遠逆さん」
言い直す美桜に気づき、和彦は無言で眺めてきた。美桜は怪訝そうにする。
「?」
「言い直さなくていいぞ?」
「え……?」
「好きなように呼べばいい」
「…………か、和彦さん……?」
「なんだ」
意味もないのに呼ぶなと言いたげな和彦は、少し頬が赤い。美桜はそれには気づかなかった。
「お……お疲れ様です」
「さっき聞いたぞ」
呆れたように言う和彦は、マントを外す。重い、と文句を言った。
そして小さく。
「お疲れ様、神崎さん」
と、まるで囁くように言ったのだ。
「そうだ。少し小腹がすいてないか?」
「え?」
「何か食べて帰らないか?」
和彦の申し出に、美桜は戸惑う。いいのだろうか、一緒に行っても。
「私と一緒にですか?」
「あんた以外に誰がいるんだ」
変なことを言うなあ、という口調の和彦。
美桜は頷いた。
「ご一緒します」
「よし。では、うどんだ。うどんの店に行こう!」
にやにやと笑い出した和彦の表情に思わず美桜が動きを停止した。
「手打ちのところに行くべきか……それとも……。迷うなあ」
ふふふと楽しそうに笑う和彦の様子に、美桜は唖然としてしまう。こんなに嬉しそうな和彦を見るのは初めてだ。
(なんだかよくわかりませんけど……和彦さんが楽しそうですから、邪魔をしないでおきましょう)
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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PC
【0413/神崎・美桜(かんざき・みお)/女/17/高校生】
NPC
【遠逆・和彦(とおさか・かずひこ)/男/17/高校生+退魔士】
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■ ライター通信 ■
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二度目のご参加ありがとうございます、神崎様。ライターのともやいずみです。
今回は少し親密度があがった感じとして描かせていただきました。いかがでしたでしょうか?
今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
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