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■Calling 〜小噺・演目〜■

ともやいずみ
【4345】【蒼王・海浬】【マネージャー 来訪者】
 よくわからないのだが。
 たまたま助けた相手が劇団員で、どこかで公演するのに人数が足りないとかで。
(……どうして)
 手伝ってと頼まれて、了承してしまったのだろうか……。
 あと一人、人手がいるとか……。
(…………)
 嘆息するしかなかった……。


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■当方のNPC、遠逆和彦、遠逆月乃、どちらかと共に劇を成功させてください。
NPCに頼まれて劇に参加することになった。
困っているNPCを見つけたので、手伝うことにしたなど。とにかく手伝って劇を成功させることが目的となります。
演じる劇と配役によっては、親密度があがったりします。積極的にNPCを助けることも親密度をあげることになります。

■どんな劇を演じるか(童話など、既存の話は誰もが知っているものでお願いします)、NPCにはどの役を演じさせるか、あなたはどんな役を演じるかを決めてください。
オリジナルの劇ならば、どういう話でということは必ず書いておいてください。
ライターにお任せでもいいです(「恋愛もの」「熱い青春もの」などの指定さえあれば良いです)

■完全個別受注となっております。

■初対面の方は初対面として描かせていただきます。

■内容はコメディか、ほのぼのなものになりそうです。(憑物封じは基本的にしませんので、戦闘はないと考えてください)

■参加NPC・世界観については、下記URL「東京怪談〜異界〜」を参照下さい。
 □Calling 〜捕縛連鎖〜
  http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=1258
Calling 〜小噺・演目〜



 悩む彼女は「はあ」と、声に出して溜息をついていた。



 蒼王海浬は気づいてそちらを見遣る。交差点を渡る人物が視界に入った。だが、その人物が渡ろうとしている横断歩道は赤信号がついている。
 海浬はさっと駆け寄ると、その人物の腕を引っ張った。ぐん! と相手の体が後ろに引っ張られる。
 振り向いた相手の長い髪が揺れた。
「危ない」
 つい、と海浬の人差し指が信号機をさす。
 少女は信号を見遣り、それから海浬の手を軽く振り払った。
「すみません。ご迷惑をおかけしました」
 氷のような口調で言い放った少女は、頭をさげる。
 よく見れば少女は左右で目の色が違う。日本人としては珍しい。
(珍しい……白と、茶……? 妙な右瞳だが……)
 海浬の視線に気づいて少女が右手で右眼を隠す。
「……失礼な方ですね」
 敵意を左眼に宿して海浬を見てくる少女は、ふと気づいたように怪訝そうにした。
「あなた……少し……?」
 じ、と見てくる少女はふ、と嘆息する。諦めのものだ。
「気にする必要はないようですね……」
「しかし目の前の信号を見ていないとは、感心しないな」
 腕組みして言う海浬を見遣り、少女はばつが悪そうに一瞬顔をしかめた。
「それは……確かに私の不注意です」
(……言い訳はしないのか)
 普通は「だけど」と、続けるだろう。自分を正当化させるために。
(……見たところ、何かに悩んでた、ってとこか……)
「何か困ってるのか? そっちに意識が集中したんじゃないのか?」
 尋ねると、少女はムッとしたように眉間に皺を寄せてしまう。肯定の意味だろう。
 海浬は嘆息して肩をすくめた。
「俺でよければ力になるが……」
「!」
 少女は目を見開き、それから疑わしそうに見てくる。
「あなた……何か狙ってるんですか?」
「狙ってる?」
 きょとんとする海浬が、小さく息を吐いた。
「そんなに悪そうに見えるか? 俺……」
「えっ」
 驚いた少女が慌てて手を振る。
「そ、そういうつもりでは……ないんですけど……」
 そこでハッとして少女は徹底した無表情に戻ってしまう。す、と表情が消えたのだ。
「大変失礼しました。……初対面だというのに親切なことを言うので、少々怪しみました」
「…………」
「ではお言葉に甘えまして、教えてください」
 彼女は続けた。
「『春香伝』という話を、知っていますか?」



 近くのカフェに入った海浬は、少女の向かいの席に腰をおろす。少女は遠逆月乃と名乗った。
「で、『春香伝』だったな?」
 それならわかる、と言った海浬の言葉に彼女は安堵し、海浬と共にこの店に入ったのだ。
「知らないのか?」
「知りません」
 きっぱりと断言した月乃。海浬はふむ、と呟く。
「まあ……日本では確かにそうかもな」
「日本では? 日本の話ではないのですか?」
「『春香伝』は朝鮮の話なんだ」
「朝鮮……」
 驚いたように目を見開く月乃。ウェイトレスが二人にそれぞれの飲み物を運んで来て、テーブルの上に置く。
「簡単に言うと、身分差の恋の話だ。成春香という気立てのいい美しい女が、李夢龍という男と恋仲になるんだが……まあお約束というか、妨害が入る」
「…………確かに、名前は日本人のものではありませんね」
 眉間に皺を寄せる月乃は、海浬の言葉を真剣に聞いていた。
「それで、妨害とは?」
「春香を見初めた役人がいて、春香を手に入れようとするんだ」
「…………春香は、夢龍と恋仲なのでは?」
 不思議そうに言う月乃の前で、海浬は頷く。
「…………浮気ですか?」
「そうじゃない。春香は美人だったからな」
「……横恋慕?」
「そういうことになる」
 月乃は明らかに不愉快そうに視線を伏せた。
「だが、夢龍と恋仲だった春香は、役人の邊学道に自分のものになれと言われるが断る」
「! それは……立派なことだと思いますが……」
 不審そうな顔をする月乃は、どうやらこの物語の先行きに不安を感じているようだ。
 海浬が最初に「身分差の恋」と言っていることを憶えているからだろう。
「投獄された春香は拷問を受けても学道の言葉に首を縦に振らなかった」
「…………クズですね、その役人は」
 海浬は気づく。月乃の左右色違いの瞳に明らかに怒りと嫌悪が揺らめいていたからだ。
 感情を極端に抑えているような印象を受けるが、どうやら違うようである。
(……遠逆月乃、か。表面は冷たいが、内側はそうでもないようだな……)
「まあここでラストが分かれるんだが……」
「ラストが分かれる?」
「ほら、グリム童話も、子供用にアレンジされていたりするだろう? それと同じで、最後に夢龍が助けに来てハッピーエンドになる場合と、春香が自殺するバージョンがあるんだ」
「じさつ……」
 ぼんやりと呟く月乃は、俯いた。何か思案するように視線をさ迷わせている。
 海浬は目の前の飲み物に口をつけた。少しぬるくなっている。海浬と違い、月乃は目の前のジュースに触れる様子はなかった。
「だが、どうしてそんなことを訊いてきたんだ? 学校の課題か何かか?」
 見たところ月乃は高校生くらいだ。制服姿からしても、それは間違いないだろう。
 月乃は海浬に冷ややかな視線を向けて、無表情で見つめてくる。まるで人形のようなその虚ろな瞳に海浬は怪訝そうにした。
「課題ではありません。少々頼まれ事をしたので、調べていただけです」
「…………俺を信用したわけじゃないんだな」
 そこで初めて月乃はふ、と笑みを浮かべた。皮肉っぽい笑みだったが、すぐさま彼女はそれを消す。
「あなたは嘘をついていないと思います。嘘をついても、あなたに得はないはずです」
「確かにメリットはないな」
 見ず知らずの男と二人でいても、月乃は堂々としている。警戒はしているだろうが、それとは何か違う。
(妙な女だ)
 海浬はそう思わずにはいられない。
「実は劇の手伝いを頼まれまして……『春香伝』という話だとは知っていたんですが、台本をいただく前に少しでも知っておこうと思って調べていたんです」
「……なるほど」
「……朝鮮のお話とは知りませんでした。書店でどこを探せばいいかわからなくて日本文学ばかり見ていたんですが、見当違いだったんですね」
「少しは役に立ったか?」
 尋ねると、月乃は頷いた。
「助かりました。やはり、前もって知っているのとそうでないのでは、違いますから」
「そうか。なら良かった」
 微笑すらしない月乃に、海浬は内心肩をすくめる。
 これが蒼王海浬と、遠逆月乃の出会いだったわけだ。



 海浬は体育館にいた。
 なぜかというと、月乃の手伝いで、だ。
(まさかさらに怪我人が出るとは……)
 カフェから出た二人に、誰かが声をかけた。その人物は月乃に劇の出演を頼んだ人物らしく、団員の一人が怪我をして配役が足りなくなったということを伝えに来たらしい。
 驚く月乃の横にいた海浬を見て、よければどうかと言ってきたのだ。
 断る理由もないので海浬は承諾したが……まさか役を演じるほうに回されるとは……。
 台本と睨めっこをしている月乃を一瞥し、海浬は己のそれをくるくると丸める。棒状にした台本で、自身の肩を軽く叩いた。
 月乃は主人公である春香役をすることになった。彼女はそれを聞いて、かなり複雑な顔をしていたのを海浬は目撃している。
(かなり……変なカオだったな)
 思い出して海浬は苦笑しかける。
「大丈夫か? 月乃」
「…………」
 声をかけて近づいて来た海浬を、彼女は顔をあげて見遣る。
「大丈夫です」
 眉間に皺が寄っているのを目ざとく発見した海浬は「そうだろうか」と思ってしまう。
(身分差の恋で……拷問に耐えて……)
 でもって。
 その相手役である夢龍が自分とくれば、彼女が難しい顔をするのも当然と言えた。自分たちはそこまで仲良くない。むしろ、まだ単なる知り合い以上くらいだ。
「肩の力を抜いたらどうだろう。ほら、深呼吸とか」
 提案した海浬を、月乃が睨みつけた。
「大丈夫だと、言ったはずですが」
「そんな怖い顔しなくても」
「放っておいてく……」
 言いかけて、彼女はぐっと言葉を呑み込んだ。
「……では、練習に付き合ってください」
 月乃は台本を海浬と同じように棒状に丸める。
「私はあなたのことを知りません。それに……」
 ますます眉間に皺を寄せる月乃の唇が微かに動いた。それを海浬は読み取ってしまう。
(苦手です、か――――)
 そういえば、彼女は何度か自分を邪険にしてはキツイ言葉を吐いていた。だがすぐに言ったことを訂正している。
 言い過ぎ、と思ったのかもしれない。
 ふむ、と海浬は月乃を観察した。
(強い『死』のニオイがする……。人生を諦めているというわけじゃない……何か根本的なものが……)
 ふいに月乃の目付きが変わる。それまで敵意のようなものを海浬に向けていた彼女は、視線だけ後方に向けた。肩越しに、体育館の扉を見ている。
「? 何かいるのか?」
「…………いえ」
 短く答えた月乃が冷ややかに目を細め、海浬に向き直った。
「どうせ入ってこれません。さあ、練習をしましょう。蒼王さんはこの話をご存知のようですし、私の演技に違和感があったら教えてください」
「違和感、ね……」
「私は演じるプロではありませんから」



 拍手に包まれた舞台。海浬は横の月乃を見遣った。
 海浬も月乃も練習をかなりしたので、この舞台の成功は当然とも言える。
「成功して、良かったな」
 月乃に笑みを浮かべて言う海浬だったが、月乃はそれを一瞥すると眉間に皺を寄せて頷いた。
「はい。成功して良かったです。これも、蒼王さんのおかげです」
「そう思うんだったら、少し笑ってくれ」
 冗談のつもりで言う。これで月乃が怒るなりしてくれればいいのだが、彼女は黙っていて応えてくれない。だが、ややあってから言う。
「笑う……それをあなたが言いますか」
「は?」
「いいえ……」

 着替えて出てきた海浬は、月乃の姿がないのに気づく。劇が終わって疲れているはずなのに……一体どこへ行ったのだろうか。

 風に衣服を揺らめかせ、空を見上げる。
「春香……夢龍へ一途な愛を貫いた女性、ですか。私には想像もつかないことです」
 恋すらしたことのない彼女には、理解しがたい。
 月乃は苦笑を浮かべて空を見つめ続けた。ただ、それだけだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【4345/蒼王・海浬(そうおう・かいり)/男/25/マネージャー 来訪者】

NPC
【遠逆・月乃(とおさか・つきの)/女/17/高校生+退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして蒼王様。ライターのともやいずみです。
 初対面で蒼王様の態度は柔らかめ……にしたつもりなんですが、月乃が逆にかなりキツい感じになってしまいました……。
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。
 今回は本当にありがとうございました。