■神の剣 吸血通り魔事件1 事件発生 ■
滝照直樹 |
【1703】【御柳・紅麗】【死神】 |
連続通り魔殺人のニュースが流れている。しかし、昼の都市は平和なものだった。只夜は、繁華街も少しさびしくなっている。かなり件数が上がっているからだろうか?
真実は、ニュースで語られることはないようだ。
路地裏に2つの赤い光。
地面には人だった物が落ちている。ひからびたものだった。
しかし、其れは突然動き出した……。
「通り魔殺人……血が一滴もないか……しかも、戦闘後、死体は灰に……」
草間興信所で、飴を口に草間が書類を見ていた。
封筒や、各種の書類に赤く『極秘』と書いている。
かなり薄暗く、そこにいるのは彼と、黒ずくめの男1人しかいない。手元には白い棒状の物を右に立てかけている。
零達はエヴァの所に遊びに行かせた。あやかし荘で泊まり込みを許可したのだ。
「俺に“戻れ”と言うことか?」
「ああ、人手不足だと……。それに、普通の連中じゃ被害が増える一方だ」
「ふう、復帰がこれとは零が悲しむか」
珍しく彼は煙草ではなく、飴をなめている。男の嫌煙癖を知ってのことだ。
「鬼鮫……吸血種の仕業と言うことか? 吸血鬼とも特定できない……と?」
草間の言葉に、鬼鮫と言われた男は頷いた。
「てめえの方が詳しいだろ? 吸血種の死体は灰になる事で、そのまま吸血鬼と断定できないだろ? 全部西から来たの化け物と違うって事だ」
鬼鮫の言葉に草間はそうだなと相づちをうつ
「さて、俺は先に行く。身支度しておけ……紅」
男はそのまま興信所を出て行った。
草間は我慢していた煙草を取り出し、一服してから……一言
「やれやれ……零は当分エヴァのお守りだな」
草間武彦……いや、“ディテクター”は自分の居場所に完全に鍵をかけた。
コートを羽織り、“紅”を持って。
蓮の間に、一つ置き手紙があった。
〈留守は任せた エルハンド〉
「まったく! また居なくなるんだから!」
茜はプンスカとフグ面になって怒っている。家賃は滞納していなくても問題だ。義明の事はどうするつもりだと言った感じだ。
「俺宛だから良いんじゃないか? 恵美さんも承諾してくれている」
「だからってねぇ」
納得がいかない茜は不平を言おうとするが、
「俺もココから離れるから。其れにお前は長谷神社と此処を任せるぞ」
「え? どういう事よ?」
状況がつかめない茜。
「長谷神社と此処の守護。そしてお前自身が身を守るため。今、通り魔多いだろ?」
「確かに〜。でも、ニュースでは……愉快犯によるっ……あ、静香?」
茜は、“霊木”の精霊・静香から何かを聞かされ……
「うそ、情報操作……吸血種の犯行? しかも規模が大きくなる?」
戸惑う茜、に義明は溜息をついた。
「やっと、事件の内容を霊木が教えてくれたか。と、いうわけで俺も動かないと……」
「エルヴァーンとの戦いでまだ身体癒えてないのに……」
「“闇の道”が見えた。それを追わないと」
「え? もう!? “柱”としての能力が?」
義明の言葉に驚く茜。
「そう言うこと。俺はヤバいところの闇を辿る……真相を突き止めないと」
義明は、竹刀袋と刀袋を革ギターケースに入れた。
「わかった……行ってらっしゃいよしちゃん。此処は任せて」
茜は本当に神に近くなっていく、少年を笑って送り出す。
義明はニコリと相変わらずな笑みだったが、目の奥に使命の焔を燃やしていた。
数日後の夜だった。
周りには元は人だった肉が転がっている。徐々に灰となっていく。
壁という壁は血にまみれているが、其れも灰となっていく。
その場に残る人影は、特殊な刀をもつ鬼鮫と、木刀をもつ義明だけだった。
「超常能力者だな……てめえ。確か織田義明……」
「その格好……IO2のエージェント……」
「一仕事のついでだ。お前の剣……試させて貰う!」
鬼鮫は義明に向かい構える。
「ま、まて! そんなことをして、それどころじゃないでしょう!」
何とか彼を止めようとする義明。木刀では耐えられないと思い、咄嗟に……
――喰らい、殺し合え。私の舞台は血によって成される――
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神の剣 吸血通り魔事件 1 事件発生
ワイドショーで流れる有名な通り魔殺人事件。しかし、納得がいかない感じがするのは様々な『力』の持ち主だった。如何にも“其れらしく”演出している分、信じるモノも多かった。
怪奇探偵で有名な草間武彦の〈事務所は改装に付き臨時休業〉と貼られており、人の気配がない。ウワサでは、改装でなく夜逃げだの、1人でこの事件を追うのだのと伝わっている。妹の零は、あやかし荘で暫く滞在中なのだが、色々心配しているそうだ。
真実を知る者は、少ない。
しかし、真実に近づくに連れて、幕が上がるのだ。
聖武威はよろず屋をしており、人を捜して欲しいと依頼を受けて、写真や資料を貰った。時期を調べると、今流れるワイドショーやニュース「通り魔」の所に関係あるようだ。
「さて、調べてみよう」
武威は愛車にまたがり、今日も足で人捜しを始める。徐々に余所にも同じ依頼が増えている事が不安になる武威だった。
皇茉夕良は自宅でこのニュースを聞いて、何かしら不可解なことを感じる。通り魔なら被害者の名前を、否、そうでなくても年齢や性別を報道する事が常ではないか? しかし、被害者を大きく取り上げることはない。もしかすると、通り魔と言うより、判別不可能なほどに殺害され、人数しかわからないと言うことなのだろうか? ともあれ
彼女は、現場近くまで向かい、その場に留まる無害な動物霊と会話した。
『テレビについては知らないけど、人が人の血を吸っていたよ……』
「なんですって?」
『ん〜、なんでかな? もう死んで2年になるけど人間のすることはわからないし。あ、何か餌ちょうだい』
“彼ら”と話して照合した結果“情報は捏造されている”事を知った。
「吸血鬼? それとも? 情報が足りないわね……」
と、茉夕良は急いで次の事件現場まで足を伸ばす。
「コレが例の通り魔の正体か!?」
と、御影蓮也がファンシーな蒼い傘を死体に突き刺したまま文句を言う。
少し幼児で夜遅く出歩いたときに、喧嘩に絡まれたのだが、意外なことで原因がわかってしまった。その死体は、徐々に灰となって崩れ落ちていく。近くには、茂枝萌がいつもの学生服ではなく黒いコートに身を纏って、サブマシンガンを持っていた。
茂枝萌、即ちIO2のNINJAと鉢合わせれば、〈通り魔〉の真実の一部をイヤでもわかる。
「相変わらず、出会っちゃうね……」
「縁があると言って欲しいな」
「もう、わかっての通りよ? それでも足を突っ込む気?」
茂枝萌はヴィルトカッツェとしてIO2として訊いている。
「もちろんだ」
「はぁ」
「しかし、迷惑はかけない情報とか色々欲しいけど口にしないだろう? せめて何処か通り魔事件が起こった場所や、今報道されている事件のまとまったモノが欲しい」
「其れもしっかりした情報よ……いくら運命を斬り宿命をコントロールする御影でも……」
「なに、義明の手伝いさ」
「はあ、詳しいのは“鬼鮫”かな。私は単に死に損ないの死体処理だから」
彼女はコートのまま、闇に消えていく。光学迷彩なのだろうか?
「そうか……ってそいつはだれだ?」
「気をつけた方がいいよ。彼って能力者を毛嫌いしているから、会ったらわかっちゃうけど」
と、ヴィルトカッツェの気配は消えた。
「茜の所に向かうか……アイツなら知っているかも知れない」
蓮也は長谷神社に電話して後日落ち合うことにした。
――義明ももう動いているだろう。
今の蓮也が見ている宿命の糸は、絡まっており、迷宮になっていた。
義明が気配を遮断する前に彼はすることがあった。
携帯を取り出す。
「もしもし、撫子」
[よ、義明君!]
「今からそっちに寄るから」
[え? あ、はい!]
そう、一緒に共に歩むと決めたパートナー。
多分独りで行こうとすれば、一緒に行くと駄々をこねる。
何しろ、お互い天然なのだからお互いフォロースするしかないし、今の義明は退魔刀と基礎的な天空剣術で体を張って調べるしかないのだ。
天薙の神社につく義明を迎える撫子
「まさか、呼ばれると思いませんでした」
「俺には君が必要だし、君も俺が必要、助けてくれないか?」
「もちろんです。でも……」
「なに?」
「わたくしを頼ってくれる、あなたがとても好きです」
「ああ、約束であるし、其れより撫子と共に歩みたい」
真剣な目であるが、優しい顔の義明。
撫子はその言葉が嬉しかった。
少し目頭が熱くなる。
「義明君……」
義明に抱きつく撫子。
其れを暖かく優しく答える義明。
暫く、2人はそのままお互いのぬくもりを感じていた。
「行こうか?」
「はい。あなたには道は見える。しかし道は見えても暗いまま。なら私が其れを照らします」
「任せたよ」
お互いニコリと微笑んだ。
夜道を2人で歩く途中で、良く見知った死神が斬魂刀を刀袋に収め電柱に寄りかかっていた。
「よう、色ボケ。恋人と死合いか?」
笑いながら義明が挨拶する。
「いきなり挨拶がそれか! おまえこそ、夜中のデー……いや何でもないです。こんばんは」
皮肉を言おうとした死神・御柳紅麗は、撫子の厳しい目つきで言いたかったことをやめた。
――不公平だ。絶対に不公平だ。
心の中で泣く、御柳紅麗17歳。
目下、天然剣客織田義明をライバル視している仙人死神である。
「お前が来ると言うことは、何かしら“上”の命令だな?」
「御察しの通り。出来れば不問にしてくれ」
義明と紅麗が真剣な顔をして、話をする。
撫子が用意した、暖かいお茶が美味しい。
「お互いあまり力を使わずにこの調査をするのは厄介だ。義明は良いだろうけど……どうするよ? まだ完治はしてないのだろ?」
「ああ、腕は治ったが、巧いこと柱として動けないな」
「そうか、何か情報でもないか、撫子」
戦闘に特化している義明と紅麗、その中で一番頼りになるのは、撫子だった。
「わたくしは“全て”を見ることができますが、未だ限られております。それに、わたくしもIO2と懇意になっているモノの、力の乱用は“抑止の一”に抑えられる可能性もあります」
「エルハンドか……其れは其れでやっかいだし、実際何が抑止かわかりやしないか……IO2も抑止と言えば抑止だからなぁ」
舌打ちする紅麗。
「……知っているだけでも、師が“装填”されているし。行き場は迷宮。だが、その情報をたぐり寄せる友人はもう1人いる」
「あ、いたな!」
義明の言葉に
「その方とは?」
撫子が訊いた。
「「真・傘持ち、こと御影蓮也だ」」
紅麗と義明が同時に行った。
「その渾名は可哀想じゃありませんか?」
苦笑する撫子だった。
事件から数日のことである。
武威は、途中何か不審そうな動きをする少女を見かけた。
星座占いは得意ではないが、星座占いで使われる、12宮の星座カードを全て自分の魔法武装にスキャンさせる。コレで多少、星占い程度は出来るのだ。
「彼女も何か探し物か……」
自分の姿がキャッチセールスに間違えられないことを確認し、
「一寸すまないが、訊きたいことがあるんだけど」
武威はスポーツカーを止めて、目の前の少女に訊いた。
黒いスポーツカーから、極普通の服の男に声をかけられた茉夕良は少し驚くのだが、彼に悪意はないと感じた。道を教えて欲しいのだろうかと思った。
「はい? どうされました?」
「人捜しをしているんだけど、こういう人、見かけなかったかな?」
と、探している相手の写真を見せる。
「……。う〜ん、わかりません。会ったこと無いですね」
「そうか、済まなかった」
「いえ、お力になれなくて」
「迷惑かけた、1人で彷徨くのは危険な世の中だからおとなしく……」
「通り魔事件ですか?」
その言葉に、武威は止まった。
「あんたも、其れ調べていたのか?」
「えっと、そうですね。興味本位ではなく、本気で調べているの」
と、茉夕良は自信たっぷりに言う。
「そうか、なら俺は間接的に関係あるな」
と、武威は〈よろず屋〉の方の名刺を差し出した。
「聖武威さん……ですか?」
「ああ。何かわかったら、電話してくれ。コレでも役に立つと自信はある」
と、武威は颯爽とスポーツカーに乗り込みかっ飛ばしていった。
「聖……武威さんね」
茉夕良は、しっかり名刺をバックに入れた。
「しまった、あの女の子の名前聞く事忘れていた!」
と、武威はスポーツカーに乗りながら悔やんだ。
「縁があったら電話してくれるだろう……って何処かであったような? いや、テレビで見たような?」
と、呟いた。
蓮也は茜に出会った。
「気に入っているのね。その傘」
長谷茜はにっこりと笑って挨拶らしいことをいう。
蓮也に対しての挨拶は、“傘”が付くらしい。
「傘、傘言わないでくれ。頼むから」
力抜けする傘……もとい、蓮也。
蓮也は、事の始まりや今の情報を全部教えて貰うためにここに来たことを告げた。
「私もそんなに詳しくはないけど。IO2もあまり教えてくれないよね?」
「ああ、そういうことだ。ただ、事件現場と、IO2内で詳しい人物のことも萌が教えてくれた」
「だれ?」
「鬼鮫って男らしい。ただ危険ってさ。萌のほうは助からない死体処理だけだって」
「うーん。その後にエルハンドがもみ消し作業かなぁ。記憶操作と、浄化」
「そうか」
居間で腕を組んで考え込む2人。
「結局、愉快犯か何かでなく魔法陣なのか螺旋構築なのかを調べていたんだが……」
と、事故現場を線で結んだ地図を見せる。
「何か魔法陣に見えるか?」
「全部ダミーよ。陣は要らない。ただ、吸血種ならばコマを増やし、力を蓄えるかんじかな?」
あっさり返答する。
「そうか……なら事故現場を押さえて一匹捕まえ……」
「無理かもね」
「どうしてさ?」
「もしそんなヘマするなら、すでにIO2にわかっているわよ? 正体が」
「む……」
また考え込む蓮也。
「というと、アレか? 何かトンデモナイモノが復活するっていうのか?」
「そう言うことになるわ。危険と感じたら、ココ付近をシェルターとして、親しい人を守るように使うようになっている」
茜は自分の任務を言う。
「鬼鮫に直聞きかな。俺たちは何れ鉢合わせることになるだろうし」
「うん、そうだね」
蓮也は、背伸びして……
「少し“糸”はほどけた。今できるのは、少し早送りできるよう、皆の宿命を弄るだけかな?」
と、疲れが出たのかそのまま寝入ってしまう蓮也だった。
歩き通しだったのだろう。自分の足だけで現場を調べ尽くしたのだ。
夜中、義明達は悲鳴を聞きつけ人通りの少ない通りにはいった。
「全部吸血鬼奴隷か?!」
紅麗は驚く。
数は25と多い。それほどまでに“これら”を隠せるとは思えなかった。
「霧散現象かもしれねぇな」
と、聞き覚えのない声と同時に一陣の風が紅麗の横を突っ切る。
「!?」
――だれだ?
紅麗の目には見えなかった。
我を戻し、そのまま走る。義明も走った。
「無茶をしてはなりませんよ!」
妖斬鋼糸で結界を巡らせ、視認できなかった“奴隷”を縛る。
先に25のコマを切り伏せたのは……黒いコートの男だ。
ヤクザ風の男。
その、居合いの技と身体能力は人の域を超えていた。
「強い……!?」
紅麗は力を使わず、他のコマを切り伏せる。
「小僧! コイツ等は所詮コマ! 被害者を助けろ!」
「あんたに言われたってわかってらぁ!」
紅麗は一気に薙払う。
その瞬間に、頭に誰かが踏んづける。
「俺を踏み台にするなぁ!」
踏み台にしたのは、織田義明。そいつしか居るまい。
真の力〜神の覚醒〜ではなく、人間が限界まで持つ力を引き出す術を身につけた義明。天空剣の基礎はそれにある。
そして、被害者を襲うコマを一気にコマの首を切り落とした。
木刀で……切り落としたのだ。
周りには、やくざ風の男と義明。
そこから、10m前後で紅麗と撫子がいる。
周りには元は人だった肉が転がっている。徐々に灰となっていく。
壁という壁は血にまみれているが、其れも灰となっていく。
「大丈夫?」
義明が、襲われた少女を助け起こす。
「一寸、痛いけど我慢してね」
と、傷の手当てをするために、撫子を呼んで任せることに。
「はい」
駆け寄る撫子。
紅麗は、黒い男に怯えていた。
尋常ではない雰囲気。
――抑止の一の存在であると本能で悟った。
抑止は抑止でないと倒せない。しかも堂々巡り。
「義明……」
「感じたか? 本気に抑止と向かい合うのを……」
にじり寄る義明、いつでも皆が逃げることを優先できるようにする紅麗。
特殊な刀をもつ鬼鮫と、木刀をもつ義明だった。
「超常能力者だな……てめえ。確か織田義明……」
「その格好……IO2のエージェント……」
「仕事のついで。お前の剣……試させて貰う!」
鬼鮫は義明に向かい構える。
「ま、まて! そんなことをして、それどころじゃないでしょう!」
何とか彼を止めようとする義明。木刀では耐えられないと思い、咄嗟に……
「やめて!」
撫子が叫んだ。
覚醒して走り出しても、間に合わない!
――あれは!
武威が、悲鳴と僅ながら聞こえる剣戟をしる。
車に乗り込もうとするところ、一緒に同じ所に走っている少女と合った。
「このまえの?」
「武威さん!? この先で戦いが!」
「あんたわかるのか?」
「え、ええ! それに何となく知っている気配も! ……お願い!」
「乗れ!」
と、少女を乗せた。
「名前聞いてなかった」
「皇茉夕良よ」
「そうか、飛ばすから気をつけろ!」
彼は車のアクセルを全開にして、走らせる。風のトンネルを抜ける錯覚に襲われる。
そして、現場にたどり着いた2人は、ある剣士の戦いに魅入ってしまった。
「なんだ? アレが人の戦いか!?」
武威と茉夕良は驚いた。
1人は居合いなのだろう。しかしその抜刀から斬り、納刀に至るまでの時間と隙がない。
そして其れを受け流すもう1人の少年の跳躍力や剣技も凄まじい。
能力者であるなら、この戦いを芸術と見とれることも、戦慄して身を凍らせることもあろう。
神や魔などそう言う信仰から成り立つものではない。
“世界”と“世界”の武器の衝突だ。
武器は武器にしかならぬ。
傷つけば、命は無い。
それを覚悟で止めようとしたのは、
着物姿の女性だった。
黒服のヤクザの男と義明の2人の間に入っている。
「鬼鮫様、義明君と争っても意味がありません」
「天薙の嬢ちゃんか……っち、興が殺がれた」
地面に唾を吐き、納刀する。
義明も納刀し……
「ごめん。撫子」
「いいえ、あなたはなにも……」
と、撫子は倒れる。
鬼鮫の抜刀、義明の木刀を己の体を張って受け止めていたのだ。
「ばかなこと……」
「こうでもしないと止めてくれないと……」
「っち……俺が悪かった、嬢ちゃん」
自分では他人の治癒など何とか出来ないようだ。
必死に義明が彼女を止血する。幸い傷は浅いようだが。
地面が血に染まる……。
幸い、被害者の女性はこの間に紅麗が別の所に逃がしてくれていたようだ。
「丁度エルハンドにあった。何とかなる」
「よ、よかった」
撫子とは安堵する。
「撫子、今は喋るな!」
「おまえら何してんだ!」
我に返って、武威が叫ぶ。
「喧嘩していたというのは目に見えるだろ、わかいの?」
コートの男が言う。
「女性を怪我させて……」
茉夕良は嫌悪感を示す。
「不慮の事故だ。それに、そこの嬢ちゃんは助かる」
「??」
鬼鮫は顎で、見てみろと武威と茉夕良に指図する。
「神格解放……同調して」
「……はい」
暖かい光に包まれ、撫子の傷は完全に癒された。
「命張るのは俺だけで良いのに」
と、義明は少し小突く。
「こうでもしないと、止められないと……ってきゃあ!」
横抱きされる撫子。
「は、恥ずかしいですから!」
「安静になくちゃいけないだろ。今地面に寝かせられないから」
義明は撫子を抱えたまま言う。
「まったく、お前が本当に“人間”なのか“影斬”なのかわからねぇな」
紅麗と鬼鮫は溜息をついた。
呆然とするのは武威と茉夕良であった。
すこし、皆が冷静になってから、鬼鮫が喋り出した。
「さて、俺の我が儘で喧嘩売っちまったな、すまねぇ小僧。いや織田義明と他の者達」
意外なことに彼は謝った。
やはり女子供を斬ってしまった事が、彼に罪悪感を持たせたのだろうか?
「お前が、超越者に向かって謝るとはおかしいな」
と、一部の者は見知った顔が現れる。
何かを引きずっている。おそらく逃げようとした、コマの1つなのだろう。
しかし、それも灰となって消えてしまった。
「ディテクター……」
「??」
IO2事情を知るものは知っているが、武威や茉夕良はよく知らない。
「話しを詳しく聞かせて貰おう」
武威が鬼鮫と草間に訊いた。
もちろん、この事件に関わっている者全てに顔写真を見せて、
なにか吸血種の仕業であり、其れが無差別に襲う。しかしそれは、意図して魔法陣や、立体陣での復活ではなく、栄養として“命”が必要とし復活しようとするらしい。コマは死亡しても、一定時間以内に遠隔にて吸収されるようなのだ。
本来なら、領土を必要とする吸血種だが、今回は特殊らしい。コマを増やす方法は常套手段であるが、本当は、人の血を贄として地に落とすか、こうして誰かにより灰にする為なのか……わからないのだ。
おたがいこの事件の解決を目指し、足を踏み込んだと正直に言う。それは、前もって嘘を看破できる義明に言われる事を知らされている為である。
鬼鮫は不快な顔をするが、先ほどの失態があるため、口は挟めない。特に武威と茉夕良に対しては(能力者とわかってないらしい)。かといって、丁寧に対応するというわけでもなさそうだ。
さて、武威が“自分本来の仕事”、失踪者の事を全員に訊いたところ。
「先ほど救出した方が彼女かも知れないな。確認は後で取った方がいい。この惨劇など記憶を消去か緩和するため、治癒を受けている」
と、途中で現れたディテクターなる男が武威に伝えた。
「そうか助かったのか……。じゃ、俺たちがどうなる?」
「見たところ、一般人だな。多少記憶操作で記憶を……」
「ディテクター、そう言うわけにはいかないようです」
コートを借りて身を覆っている撫子が言う。
義明も、あらぬ方向を睨んでいた。
「……っち……」
「俺たちも縁有りで深入りするって事か?」
「私たちもね……」
武威と茉夕良も紅麗も……
ビルに浮かぶように現れた
影法師を見上げていた。
後ろに、偽りの紅い満月を輝かせ……。
――喰らい、殺し合え。私の舞台は血によって成される――
2話に続く
■登場人物
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【1703 御柳・紅麗 16 男 不良高校生&死神【護魂十三隊一番隊副長】】
【2276 御影・蓮也 18 男 大学生 概念操者】
【4464 聖・武威 24 男 レーサー/よろず屋】
【4788 皇・茉夕良 16 女 ヴィルトゥオーソ・ヴァイオリニスト】
■ライター通信
滝照直樹です
『神の剣 吸血通り魔事件 1 事件発生』参加ありがとうございます
聖武威さん初参加ありがとうございます。
謎探しの調査から最終的に殆どの参加者が集まるという形になりました。皆さんに見せ場を何処に置くかを悩みましたが、こんな感じにまとまりましたが、どうでしたでしょうか?
影法師の正体は何なのか? 鬼鮫の性格で皆さんが危機になる事もありますが巧く避けられるでしょうか(鬼鮫「俺悪党かよ?」)!?
2話に続きます。その時ご縁があれば宜しくお願いします。
※聖武威さまの設定を間違えていましたので修正致しました。ご迷惑をおかけして済みません。
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