コミュニティトップへ




■Calling 〜小噺・演目〜■

ともやいずみ
【2734】【赤羽根・希】【大学生/仕置き人】
 よくわからないのだが。
 たまたま助けた相手が劇団員で、どこかで公演するのに人数が足りないとかで。
(……どうして)
 手伝ってと頼まれて、了承してしまったのだろうか……。
 あと一人、人手がいるとか……。
(…………)
 嘆息するしかなかった……。


------------------
■当方のNPC、遠逆和彦、遠逆月乃、どちらかと共に劇を成功させてください。
NPCに頼まれて劇に参加することになった。
困っているNPCを見つけたので、手伝うことにしたなど。とにかく手伝って劇を成功させることが目的となります。
演じる劇と配役によっては、親密度があがったりします。積極的にNPCを助けることも親密度をあげることになります。

■どんな劇を演じるか(童話など、既存の話は誰もが知っているものでお願いします)、NPCにはどの役を演じさせるか、あなたはどんな役を演じるかを決めてください。
オリジナルの劇ならば、どういう話でということは必ず書いておいてください。
ライターにお任せでもいいです(「恋愛もの」「熱い青春もの」などの指定さえあれば良いです)

■完全個別受注となっております。

■初対面の方は初対面として描かせていただきます。

■内容はコメディか、ほのぼのなものになりそうです。(憑物封じは基本的にしませんので、戦闘はないと考えてください)

■参加NPC・世界観については、下記URL「東京怪談〜異界〜」を参照下さい。
 □Calling 〜捕縛連鎖〜
  http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=1258
Calling 〜小噺・演目〜



 赤羽根希は、向かい側の席に座る少年を、頬杖をついて眺める。
 黒髪に、フチなしの眼鏡をかけた少年はやたらと顔が整っていた。
 名を希は知っている。遠逆和彦――――それが彼の名だ。
「ねえねえ和彦くん」
 ジュースをストローでぐるぐると掻き回しつつ、希は和彦から視線を外さない。彼が真面目に何かを読んでいるのが珍しいというのもあった。
「なんだ」
 素っ気なく返事をする和彦は、希に視線を向けない。
 和彦の前には彼が注文したコーヒーと、ホットサンドがある。だが彼は手をつけていない。
「なに読んでるの?」
「……構わない、という約束じゃなかったか?」
 冷ややかな彼の声に希は嘆息した。
 街中で偶然に和彦を見つけた希が、彼をこの喫茶店まで連れて来たのである。滅多に会えないのもあったからだ。
(ゆっくりお茶くらいしたいな〜って思ってもいいじゃないの……)
 唇を尖らせる希がストローからジュースを飲む。
 にしても。
 希が面白くない理由はほかにもあった。
(……なんでだろ)
 和彦ほどの美形なら、周囲が注目してもおかしくない。それなのに、周りの人々は彼に気づく気配はなかった。
 ウェイトレスの少女だって、最初に注文を取りに来た時に初めて和彦に気づいたくらいだ。その慌てっぷりは、希が見ていても面白いものだったが。
(和彦くんの顔見て、そこで初めてハッとしたような顔になったのよねぇ……)
「和彦くんてさ、なにかしてる?」
「邪魔をしない約束じゃなかったか?」
「…………」
 眉間に皺を寄せ、希はジュースをすする。
 希と一緒に居てもいいと彼が言ったのは、条件を呑んだからだ。彼に構わない、彼の邪魔をしないという条件である。
 これでは一緒にいてもつまらない。
(あーあ……)
「大学はどうした?」
 和彦は相変わらず何かを読んでいたが、希にそう尋ねる。思わず希は唖然とし、それからパッと顔を輝かせた。
「今日はね、一限目だけなの」
「ふぅん……単位は大丈夫なのか?」
「ちゃーんと計算してますから、ご安心ください」
 笑いながら言う希に、和彦は「へぇ」と呟く。
「…………ねえそれ、なに?」
「台本」
「台本? 台本てなんの?」
「劇」
「劇っ!?」
 仰天する希は、乗り出すようにして和彦が読んでいるものを覗き込もうとする。
「劇って、和彦くんって何か部活でもやってるの?」
「顔が近い」
 ムッとしたように言う和彦が顔をあげた。言われて、希がハッとする。
 間近にある和彦の顔に慌てて身を引いた。希は自分の顔が熱くなっているのに気づく。
(も、もしかして……いま、真っ赤になってたりしたら……)
 どうしよう。
 そう思ってしまうが、ちらりと和彦を見遣った。しかし彼は気にした様子もなく台本のページを捲っている。
「…………」
 ここまで気にされないというのも腹が立った。いや、一応は気にかけてくれているのだろう。つまらなそうな希に積極的に接してはくれないだけだ。
 再び頬杖をついた希に、和彦は言う。
「『白雪姫』を、やるんだ」
「……白雪姫? 白雪姫って、あの、七人の小人が出てきて毒リンゴを食べちゃって、っていう?」
「それだ」
「ふ〜ん。和彦くんて演劇に興味がある人だったのね」
「いいや。興味はない」
 きっぱりと断言した和彦に、希は思わず無言になってしまった。
 ではなぜ、彼は劇などを?
 じとり、と見る希の視線に、和彦は気づいた。
「助けた相手が、どうしても手伝ってくれと言ってきたんだ。ケガをしていたし、幼稚園でするものだから……まあいいかなと思ってな」
「へえー! 和彦くん、優しいじゃないの!」
「やさしい? こういうのが優しさとは、赤羽根さんも相当いい性格だな」
「え? どういう意味?」
「わからないならそれでいい」
 どうやら皮肉を言われたようだが、希は気づかない。
「ねえねえ、あたしも手伝おうか? 本読みの相手役でもいいわよ」
「…………」
 呆れたような視線を向けてくる和彦だったが、何かに気づいたように彼は口を開く。
「なら、一緒にやるか?」
「? やるって何を?」
「劇」
「え?」



「任せて!」
 希は胸を叩く。
「これでも幼稚園でのお遊戯会では主役をやってたのよ!」
「…………」
 無言の和彦が、台本をぱたんと閉じた。
「で、どの役?」
「さてなあ……」

 希は和彦に連れられて、病院へ行くことになった。
 和彦が助けた人物は現在病院に入院しているそうなのだ。
 その男は希を紹介されて喜んでいた。
「良かった! もう一人見つかったんだね!」
「そういうことだな。それで、どの役をやればいいんだ?」
「はいはーい!」
 二人の会話に、手を挙げて希が入ってくる。
「和彦くんは、王子様の役がいいと思います!」
「……はあ?」
 訊き返したのは和彦本人だ。どうしてそんな役になるのか、という意味だろう。
「和彦くんは顔もかっこいいし、適任よ!」
「か、顔の美醜は関係ないだろ!」
 焦ったように言う和彦だったが、希は気にしない。それどころか、和彦をじとっと見る。
「だって白雪姫の王子様って、最後しか出てこないでしょ? 和彦くん、そのほうがいいんじゃない?」
「どういう意味だ」
「出番が少ないってことは、目立たないってことよ?」
 そう言われて和彦は軽く目を見開く。
「で? どう? ねえねえ。和彦くんは王子様にぴったりだと思う、あたし!」
 怪我人に向けて言う希だったが、相手はじっと和彦を見つめた。和彦は困惑の瞳を希に向けたままだ。
「……よし、そうしてみるか。せっかくだし、若い子が主役をやるのはいいかもな。子供達も喜ぶかも」
「でしょ?」
 にこっと笑う希。和彦の王子様姿など、一生に一度、見れるか見れないかだろう。
(せっかくだし、見たいもんね)
 と、そこまで黙って成り行きを見ていた和彦は両目を細める。
「じゃあ、俺も提案させてくれ」
 希を見遣って意地悪に笑った。
「彼女を白雪姫に。どうも、幼稚園で主役もやったらしいから、かなりの自信があるらしい」
「和彦くんっ!?」
「なんだ。光栄なことだろ? 主役だぞ」
 にやり、と笑った和彦に、希は唖然としていた。



「いや、うん、主役を演じるのはいいのよ」
 希は白雪姫の衣装を着て、ぶつぶつと呟いている。
「ただね、やっぱり少し気になることがあるのよね」
「へえ。なんだ?」
 真横に立っている和彦が尋ねた。彼はまだ出番まで時間があるため、ジャージ姿である。
「あたし、和彦くんとその……少し年の差があるじゃない? 変に思われないかなあ」
「…………」
「それに、いや……これはもうしょうがないんだけど、ほら、あたしって結構目立つ顔というか……派手というか……」
 はあ、と嘆息する希。
 和彦はしゃがんでいた希の腕を掴むや、力任せに立たせた。見かけによらず彼は力がある。
「最初の悩みだが、幼稚園児が正確な年齢を判別できるとは思えない。気にする必要はないだろう」
「…………」
「次のだが」
 劇のために黒く髪を染めた希の顔を、彼は覗き込む。
「普段の赤髪よりは、マシだ」
「…………」
 それは、解決になっていないような。
 そう思う希であったが、和彦に額を軽く叩かれて小さく声を洩らす。
「いたっ!」
「わざわざ黒く染めたんだろ?」
「う。だって白雪姫は赤い髪じゃなくて、黒髪でしょ? 白い肌に黒髪がシンボルっていうか」
「ならいいじゃないか。やるだけのことはした。練習もした。あんたはそこまでやったんだ。何を臆病になる必要がある?」
「別に臆病になってるわけじゃないわよ! 子供が見てどう思うかってちょっと心配したのよ、あたしは!」
「なら」
 和彦は大きく嘆息した。
「心配など、するな。俺が保証するさ」
 なにを?
 と、希は思ってしまう。何を保証するのだろう。
「うん」
 希は突然頷き、和彦を見上げた。
「やっぱ、和彦くんてイイ男だわ」
 思わずズル、と足を滑らせる和彦であった。



「お嬢さん、美味しいリンゴはいかが?」
 希の前に差し出されたリンゴは、赤くて美しい。
「まあ、わたしに?」
 喜ぶ希は、リンゴを受け取る。それは魔女の作った毒入りのリンゴ。園児たちは口々に「あぶなーい」「食べちゃだめ」と声を出している。
 希は齧る仕種をした。そしてリンゴを落とす。
 同時に彼女はその場にばったりと倒れてしまった。
 倒れた希を見つけたのは七人の小人たち。死んでいると知り、彼らはひどく悲しんだ。
 森の中では死んでしまった白雪姫の葬儀が行われていた。
 棺の周りでは悲しむ小人たち。
 そこに現れたのは一人の少年だ。彼は王子。
「こんなところで何をしている?」
「白雪姫が死んじゃったんです!」
 小人の一人が訴える。
 王子役である和彦は棺に近づく。そして驚いた。
「なんと美しい人だ……! しかし死んでしまうとは……」
 棺のすぐ横にひざまずき、和彦は無言になる。
 彼の頬に汗が伝っていたのだが、誰も気づかない。
(……? あれ? ここでキスのはずだけど……)
 瞼を閉じたままの希は、うっすら片目を開く。
 和彦は棺に手をかけたまま、眉間に皺を寄せて唇を引き結んでいた。
(なに難しいカオしてんのよ、和彦くんはっ)
 フリなのだから、なにを困ることがあるのか。
 苛立ちを感じた希はパカッと瞼を開ける。その様子に和彦がぎくりとしたように目をみはった。
 希と和彦の視線が合う。
 むくりと起き上がった希が和彦の手をぎゅ、と強く握りしめた。
「わたしと結婚してください、王子様!」
 ぽかーん……と、和彦がする。
 ええいままよ、と希はさらに乗り出して和彦の頬にキスをお見舞いした。頬なんだからこれくらいは許してもらえるだろう。そう……思いたい。
 バッとキスされた頬に手を遣った和彦は、顔を赤らめて希を凝視する。
 しー……ん。
 は、とした小人の一人が用意していた紙ふぶきを放つ。合わせて舞台上の全員がわあわあとはやしたてた。
 園児の女の子が、横に座る男の子に話し掛けている。
「これからはおんながつよいじだいなのよ」
 偉そうに言う少女に、横の少年は呆れ気味だ。
 舞台上の和彦は、恨めしそうに希を見ている。希も恥ずかしくなって顔を赤くしたまま照れ笑いをしていた。
 とりあえず、劇は成功したようである。



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

PC
【2734/赤羽根・希(あかばね・のぞみ)/女/21/大学生・仕置き人】

NPC
【遠逆・和彦(とおさか・かずひこ)/男/17/高校生+退魔士】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 二度目のご参加ありがとうございます、赤羽根様。ライターのともやいずみです。
 前回のを気に入っていただけたようで、良かったです。今回は恋愛色を少し出してみました。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!