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■Calling 〜小噺・演目〜■

ともやいずみ
【4757】【谷戸・和真】【古書店『誘蛾灯』店主 兼 祓い屋】
 よくわからないのだが。
 たまたま助けた相手が劇団員で、どこかで公演するのに人数が足りないとかで。
(……どうして)
 手伝ってと頼まれて、了承してしまったのだろうか……。
 あと一人、人手がいるとか……。
(…………)
 嘆息するしかなかった……。


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■当方のNPC、遠逆和彦、遠逆月乃、どちらかと共に劇を成功させてください。
NPCに頼まれて劇に参加することになった。
困っているNPCを見つけたので、手伝うことにしたなど。とにかく手伝って劇を成功させることが目的となります。
演じる劇と配役によっては、親密度があがったりします。積極的にNPCを助けることも親密度をあげることになります。

■どんな劇を演じるか(童話など、既存の話は誰もが知っているものでお願いします)、NPCにはどの役を演じさせるか、あなたはどんな役を演じるかを決めてください。
オリジナルの劇ならば、どういう話でということは必ず書いておいてください。
ライターにお任せでもいいです(「恋愛もの」「熱い青春もの」などの指定さえあれば良いです)

■完全個別受注となっております。

■初対面の方は初対面として描かせていただきます。

■内容はコメディか、ほのぼのなものになりそうです。(憑物封じは基本的にしませんので、戦闘はないと考えてください)

■参加NPC・世界観については、下記URL「東京怪談〜異界〜」を参照下さい。
 □Calling 〜捕縛連鎖〜
  http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=1258
Calling 〜小噺・演目〜



 谷戸和真は、ぼんやりと店の奥で本を眺める。
 丁寧に箱の中に戻し、店先に出そうとして足をそちらに向けた瞬間、店に物凄い勢いで入ってきた客がいた。
「ここなんだね? ね? 遠逆さん?」
 トオサカ、という名に和真が軽く目を見開く。
 一瞬、どきりと胸が鳴る。
(トオサカって……まさか)
 そちらを見遣り、和真はどことなくほっと安堵したような気分になった。
 長い髪の少女は困ったような顔で、和真を見遣る。そしてばつの悪そうな表情を浮かべた。
「ああ、君が遠逆さんの友達かい?」
 遠逆月乃の手を引いて入ってきた男が、和真をじろじろと見遣り、尋ねてくる。
 握られたその手を見て、和真は眉間に微かに皺を寄せた。……なんだか、おもしろくない。
「月乃、どうかしたのか?」
 なるべく親しみを込めて名前を呼ぶと、彼女は驚いて目を見開き、不審そうに見てきた。
 無理もない。
 和真と彼女は友人でもない。単なる知り合いなのだ。
 しかも、出会いは……正直いいものとは言えなかった。
「良かった! これで人数は揃いそうだ! き、君、実はお願いがあるんだ」
 男は和真のほうへと近づいて来る。狭い古書店の店内で、この勢いはちょっと問題だ。
「劇に出て欲しいんだ。遠逆さんの友達って聞いて……お願いできないかな?」
 頼んでくる男の背後の月乃を見遣り、和真はしばし考え、
「まあ……俺でいいなら」
 と、渋々了承した。本来なら断る内容だったが、月乃が関わっているのならと妥協したのである。
「本当かい!? 良かった! じゃあこのことを伝えてくるよ!」
 男は和真の両手を掴んで上下に振る。かなり感謝しているようだ。そしてそのまま駆け去ってしまう。
 残された月乃は、俯いていた顔をあげて和真を見た。
「…………よお」
「……こんにちは」
 ぎこちなく挨拶をする二人。
「……俺たち、友達だったっけ?」
「…………すみません」
 月乃は深々と頭を下げてくる。それに慌てたのは和真のほうだ。
「お、おい! いいから頭あげろって!」
「…………」
 彼女は頭をあげるものの、俯いたままである。
「……実は、劇の手伝いを頼まれまして」
「ああ……」
「もう一人足りないと言われて……咄嗟に谷戸さんの名前を出してしまったんです…………」
「なんで俺なんだ?」
 そこが気になる。
 どうして自分なんだろう? 他にもたくさんいるだろうに。
 月乃は眉間に皺を寄せる。
「……東京での知り合いが、あなたしかいないからです……」
 かなり小さな声であった。だが和真には聞き取れてしまう。静かな店内にいるためだ。
 あー、と思って和真は顔をしかめる。
(まずったか……?)
「…………えーっと……そうだ。茶、飲むか?」



「ボランティア?」
 月乃に説明された和真は、彼女の台本をぱらぱらと捲りながら訊き返す。
 和真が用意したお茶を飲む月乃は、頷いた。
 二人は店の奥のイスに腰掛けている。
「はい。地域で、そういうものをする機会があるんだそうで。私が助けた人が先ほどの方の妹さんだったんです」
「なんで手伝うんだ?」
「……それが、ケガをさせてしまいまして」
「ケガ!?」
 仰天する和真の前で、月乃は明らかに落ち込んだ。
「……はい。大変申し訳ないことをしました……」
「あっ、お、おい……」
 動揺する和真。うまい言葉が浮かんでこなかった。
「で、でも、わ、わざとじゃないんだろ?」
「わざとではないです。妖魔と戦っている最中、気づかずにこちらに近づいて来ていたので矢で足を狙ったんです」
「…………」
 そ、それは……。
 思わず汗を流す和真は、月乃の説明を黙って聞いた。
「矢に驚いてくださったので、安心したんですが……その方が転んでしまって……車が来ていて……」
「…………そ、それは、ご、ご愁傷さま……」
「助けたんですけど、足をひねったらしくて……その代打で出ることになったんです」
「なるほど……まあ、月乃は演じるのが得意そうには見えないしな」
 言ってから、ハッと青ざめる。
 いま、結構失礼なこと……言ったような。
 ちらりとうかがうが、月乃は平然とした顔だ。
「得意も不得意も、やったことがないのでわかりませんが」
「あ、そう」
 彼女が気にしていなくて良かった。そう、和真は安堵する。
 和真は台本を閉じた。
「やるのは『おやゆび姫』か」
「はい。どちらかというと、『一寸法師』のほうが好きなんですけどね」
 まじめな顔で言われて和真はぎょっとする。
 確かにどちらも小さな主人公だが、例えが渋かった。
「冗談ですよ?」
 そう、冷ややかに言う月乃。
「そりゃそうだろ! 一寸法師が好きなんていう女はそんなにいないぞ?」
「簡潔でいいと思いますけどね」
「それで、月乃はどの役をやるんだ?」
 月乃は無表情で口を開く。
「主人公です」
「おやゆび姫か。で、俺はどれを?」
「ツバメです」
「…………」
 二人とも無言になる。
 和真はむぅ、と顔をしかめた。
(ツバメって、おやゆび姫を王子に引き合わせる役だよな?)
 曖昧な記憶を辿る和真。
「ま、まあ……蛙やモグラじゃないだけマシか」
 苦笑というよりは、乾いた笑いを洩らす和真であった。
 そこで気づいた。
 最後は妖精の王子と幸せになるおやゆび姫の話。
(…………)
 劇をやるのはいいのだが、なんとなく……そう、なんとなくだが「面白くない」と小さく思ってしまう和真であった。
「……あの、さ」
「はい?」
「……どうして俺の家、知ってたんだ?」
 月乃はお茶を飲んでから、肩を落とす。
「近くまで来れば、わかりますよ」
「? ど、どういう……?」
「嘘です。本当は……」
 彼女はくすりと微笑む。
「あなたの『声』を辿っただけですから」
 ……わけがわからなかった。

 目の前でお茶を飲む月乃を、和真は頬杖をついてぼんやり見つめる。
(…………)
「その」
 和真が口を開く。
 彼女は気づいて顔をあげた。
「なんですか?」
「その……目の色、違うじゃないか。遺伝か?」
「…………」
 少女の瞳が冷えたものに変わる。ああしまった、と和真は視線だけ逸らした。
「生まれてからこうですけど」
「め、珍しいよ、な」
「そうですね」
 …………会話が続かない。
 和真は頬にかけて汗を流しつつ、口を引き結んだ。
「……前の時もそうでしたが、谷戸さんは変わってますね」
「変わってる? なんでだ」
 どこが?
 尋ねる和真を、彼女はまっすぐ見つめた。その強い視線に和真は戸惑いを感じる。
「私を邪険にしませんし……むしろ友好的というか……」
「じゃ、邪険って! どーして俺がそんなことしなくちゃいけねぇんだよ!」
 慌てて言う和真を、月乃は静かに見ていた。
「どうしてって……私が不気味ではないんですか?」
「ぶ、不気味!? いや、不気味っつーか……妙な感じだとは思うけど、よ……」
「……あなたは、お人好しなんですね」
「…………」
 黙ってしまう和真を気にもせず、月乃はさらに続ける。
「お節介なんですかね……谷戸さんは」
「…………言うじゃねーか、月乃」
「私は思ったことを言っているだけですが」
 この娘は安易に敵を作るタイプなのだろうか。
 和真は大きく溜息をつくが、ふと気づいた。
(違う……そうじゃない)
 今回の劇のことを思えば、そうじゃないことはわかる。
 月乃は決して冷たい人間ではない。和真に対して厳しい態度を見せるのは……。
(憑物の、封じ……)
 近づくなという警告なのかもしれない。
 そういえば言っていたではないか。他の者に迷惑をかけることを良いと思っていないと。
(……こいつ、放っておくと……)
 無理をしかねない。
 月乃は強い死の香りをさせる女だ。それは和真にもわかっている。
 お茶を飲んだ月乃は立ち上がった。
「それではそろそろ失礼します」
「えっ? か、帰るのか? まだゆっくりしてても、いいんだぞ?」
「…………」
 引き止めるために腰を浮かせた和真を見遣り、月乃はまた腰をおろした。
「わかりました。しばらくいます」
「お、おう……」
 イスに座りなおした和真は、なんだか恥ずかしくなる。
(な、なにを止めてんだよ、俺は……)
「谷戸さんのお宅は、古本屋さんなんですね」
「え? あ、ああ……」
「……落ち着く感じがしますね」
 小さく洩らした彼女の言葉に、和真は照れ臭くなる。
(な、なんだよ……ちゃんと笑えるんじゃねぇか……)
 微かな笑みでも、それでもそう思わせるのに十分だった。
「古本に興味があるのか?」
「……いえ。まあ……落ち着くニオイというか……」
 は、とする。
(そういや……こいつさっき『一寸法師』がいいとか言ってたな……。あれって、本当に冗談だったのか?)
「……古いものが好き、とか?」
 試しに訊くと、彼女は悩むように目を細めた。
「そうですね。新しいものは、少し苦手かも……しれません」



 こめかみに青筋が浮かんでいた。
(おもしろくねぇ……)
 モグラだろうが、蛙だろうが。
 舞台の上の月乃を、ソデから眺める和真はかなり不機嫌だった。
 もうすぐ自分の出番だ。彼女を妖精の王子に引き合わせるのである。
 おやゆび姫の月乃を、自分が……。

 舞台に出た和真は、最後まで直らなかった棒読みで演技をしていた。これでも最初よりマシなのである。
 王子と引き合わせたツバメは、そこで動きを止めた。
 王子に向けて微笑む月乃を見て、我慢ならなくなったのだ。
 振り向いてつかつかと近づいていく。
 割り込まれた王子役の男と、月乃は驚く。和真は月乃の手を取った。顔が赤い。
「もっと楽しいところに行きましょう! 世界はもっと広い! まだ見ぬ世界を見たくはないですか!? ここで王子と過ごすのは、そのあとでもいいじゃないか! ぜひ、私と一緒に……!」
 必死な彼の言葉に月乃は唖然としていたが、苦笑する。
「わかりました……! ぜひ、ご一緒させてください!」
 王子役の男は呆然としていた。
 和真は安堵したあと、ハッとして慌ててしまう。
(や、やっちまった……!)

 劇はなんとか終わった。それなりに好評だったのだが。
 落ち込む和真を見遣った月乃は、苦笑してから微笑んだのだった――――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【4757/谷戸・和真(やと・かずま)/男/19/古書店・誘蛾灯店主兼祓い屋】

NPC
【遠逆・月乃(とおさか・つきの)/女/17/高校生+退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 二度目のご参加ありがとうございます、谷戸様。ライターのともやいずみです。
 谷戸様の月乃への気持ちに、少しずつ親密度があがっている感じとして書かせていただきました。いかがでしたでしょうか?
 前回よりも警戒を月乃は解いています。少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!