■Calling 〜小噺・演目〜■
ともやいずみ |
【5040】【桜坂・みずき】【音楽講師】 |
よくわからないのだが。
たまたま助けた相手が劇団員で、どこかで公演するのに人数が足りないとかで。
(……どうして)
手伝ってと頼まれて、了承してしまったのだろうか……。
あと一人、人手がいるとか……。
(…………)
嘆息するしかなかった……。
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■当方のNPC、遠逆和彦、遠逆月乃、どちらかと共に劇を成功させてください。
NPCに頼まれて劇に参加することになった。
困っているNPCを見つけたので、手伝うことにしたなど。とにかく手伝って劇を成功させることが目的となります。
演じる劇と配役によっては、親密度があがったりします。積極的にNPCを助けることも親密度をあげることになります。
■どんな劇を演じるか(童話など、既存の話は誰もが知っているものでお願いします)、NPCにはどの役を演じさせるか、あなたはどんな役を演じるかを決めてください。
オリジナルの劇ならば、どういう話でということは必ず書いておいてください。
ライターにお任せでもいいです(「恋愛もの」「熱い青春もの」などの指定さえあれば良いです)
■完全個別受注となっております。
■初対面の方は初対面として描かせていただきます。
■内容はコメディか、ほのぼのなものになりそうです。(憑物封じは基本的にしませんので、戦闘はないと考えてください)
■参加NPC・世界観については、下記URL「東京怪談〜異界〜」を参照下さい。
□Calling 〜捕縛連鎖〜
http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=1258
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Calling 〜小噺・演目〜
「え……」
驚く長い髪の少女は、焦ってしまう。
「そ、そんな……私はそういうことはできないんですが……」
「とりあえずやってみてもらえるかな? きちんと指導する人物を君につけるから」
必死にお願いされても、少女はかなり困惑している。
困惑……している――――。
*
「まあ、私が?」
驚く桜坂みずきだったが、すぐに微笑する。
「わかりました。私でよければ、お手伝いします」
のんびりと答えるみずきは、早速とばかりにとある少女と面会することになった。
部屋に入ってきたのは長い髪の少女だ。
(あらぁ……綺麗な子……)
感心するみずきは、自己紹介する。
「初めまして。あなたのピアノ指導をすることになった、桜坂みずきです。よろしく」
どうにもゆっくりになってしまうみずきの口調だったが、嫌味にはならない。
少女は楽譜を手に持った状態でみずきを見遣り、渋い顔になる。
「遠逆月乃です。よろしくお願いします……」
頭をさげてくる彼女だったが、顔をあげてもその暗い表情は晴れない。
みずきに依頼をした男は言う。
「舞台まで時間がないんだ。短い曲なんだが、できるかな?」
「……そうですねぇ……それはやってみないとどうにも……」
「私はできません」
月乃と名乗った少女ははっきりと言い放った。声に不愉快が混じっている。
「最初に申しました通り、私にはピアノを弾いた経験は一度もありません!」
「そういう人も、少なくないですよ」
激しい感情を出す月乃を落ち着かせるように、みずきは微笑みながら言う。
「ゆっくりと、自分のペースでやってみましょう? きっとできますよ」
「ですけど……」
「技術が問題ではないの。大事なのは、心を込めて弾くことだから」
「…………」
不審そうにする月乃であった。
*
「お芝居まで時間もないみたいですし、頑張りましょう」
微笑むみずきを、月乃は睨みつける。
「……私は全くそういうことはできませんよ?」
「音符くらいは読めるでしょう?」
「読めませんが」
はっきりと言う月乃に、みずきは軽く目を見開く。
「ええと……音楽の時間を思い出してもらえるかしら?」
「残念ながら、私はまともに学校に行ったことがないんです」
ピアノの前に座らされた月乃は、冷えた瞳をみずきに向けている。みずきは彼女の左側に立っていた。
「じゃあ……そこから教えないといけないのね」
なるほどと微笑むみずきに、彼女は奇妙そうな顔をする。
そして、みずきと月乃のピアノレッスンは幕を開けたのだ。
これが月乃の弾く曲だと、目の前で弾いてみせるみずき。
しっとりとした、静かな曲だ。
聴いていた月乃は、複雑そうに顔を歪める。
「楽しそうに弾くんですね……」
「楽しいもの」
微笑むみずきに、彼女は驚く。
「どうしてですか?」
「好きだから……かしら」
「すき?」
理解できないと言いたげな月乃。
「なんですか、それは。好き? ピアノを弾くのが?」
「ええ」
「…………そうですか。あなたは私とは無縁の世界に住んでいらっしゃるんですね」
どこか諦めたように言う月乃は、自嘲的に笑う。せっかくの美少女なのに台無しの表情だ。
「そんなことないわ……。本当に無縁だったら、私とあなたは出会ってないわよ、遠逆さん」
「……確かに何か力はあるようですね。ですが、やはり違います」
苦笑する月乃は肩をすくめた。
「あなたは太陽の下を歩いているんです。月夜を歩く私とは違うでしょう?」
「? どういう……」
「私が弾いても、あなたのような音は出せないでしょう」
冷えた瞳になる月乃は、ちらりと鍵盤に視線を走らせる。
「楽器は演奏者の心に反応します。だから触れるのが嫌なんですよ、私は」
「でも……」
「わかっています。引き受けてしまったのは私ですから。なるべく頑張ります」
嘆息する月乃は、もらった楽譜を取ると、閉じた。
「まずはその鍵盤の音、どんな感じなのか教えてください」
「ええ。まずはここね。『ド』。次が『レ』」
「……なぜ『ド』なんですか?」
「え?」
「別に言葉はドでなくてもいいじゃないですか。アでもイでもいいのでは?」
斬新なことを言う月乃に、みずきは苦笑を浮かべてしまう。
*
月乃はみずきの教えをまじめに聞く。楽譜の音符に必死に書き込む。
(不思議な子……)
これだけ必死にやって、技術面では全くの心配はなくなったものの、どうにも弾くと冷えた音しか出さない。
演奏する曲が明るい曲じゃないのが救いであった。
元々弾くのに否定的であり、今もそれは継続している。
「心を込めて弾けば、聴くほうもそれを感じるのよ」
丁寧に言うみずきを、月乃は面倒そうに見るのが常であった。
「嫌々弾いているみたい……」
小さく言うみずきの言葉に月乃は気づいていない。
「遠逆さん」
譜面と鍵盤を交互に眺めていた月乃が、振り向く。
「なにか?」
「劇だけに集中しましょう。弾くのが嫌かもしれないけれど……」
「…………わかりました」
硬い表情でうなずく月乃。
「劇は……ほら、他の人格を演じたりするでしょう?」
「はぁ……」
「それと同じよ。いつもの自分と、切り離しましょう」
「…………そうですね」
静かに言う月乃は、薄い笑みを浮かべた。
「そうしないと、いつまでも人を切りつけるような音しか出せません」
*
月乃は舞台の上で静かに演奏している。
恐ろしく上達したと思う。彼女は何か、見えない能力があるようだ。
(技術だけは……)
表情に悲しみを浮かべるみずきは、舞台のソデで彼女が演奏するのを眺めていた。
ピアノを弾く、命があと少ししかない病気の少女役の月乃。
彼女は脇役の一人だったが、悲痛なまでの曲に観客は息を呑む。
とうとう、彼女の弾き方は進展しなかった。
だが、強烈なまでの攻撃が出てしまう。
(なにが……)
何が彼女をここまで傷つけているのだろうか。
「桜坂さん、舞台に出てくれても良かったのに」
月乃を連れて来た男が、みずきに小声で話し掛ける。
「いいえぇ……私はいいんです……」
「桜坂さんと彼女の連弾、聴きたかったんですけどね」
「そうですね。機会があれば」
にっこり微笑むみずきだったが、それが無理なのはわかっている。
月乃はあの曲だけしかできない。まるで機械のように正確に鍵盤に手を乗せている。
そう、彼女は楽器そのものが好きではないのだ。
演奏者の心を反映させるのが、楽器。弾く者で、同じ曲なのに別もののように聴こえるもの。
楽しく弾いていない。苦痛だと言わんばかりだ。
(どうして)
どうして楽しくないのか。
自分で創りあげるのは、嫌いなのだろうか。
間違いなくみずきと一緒に弾けば、彼女の音は狂ってしまうだろう。
生きていたい。
もっと。
もっと生きていたい。
そう、月乃は思いながらピアノを弾いている。
彼女の演じる少女は、命の短さを嘆く娘だ。言葉ではなく、音でそれを演じる。
月乃は楽器が苦手だ。
好きではない。
その理由はわかっている。
壊れてしまうからだ。
簡単に、壊せてしまうからだ。
人間のように抵抗の言葉すら吐かないからだ。だから、ためらいもなく壊せてしまう。
(桜坂さんは、悲しむ)
そうだろうなと月乃は思った。
みずきは楽しくピアノを弾く。教え方も丁寧でわかりやすかった。
ピアノが好きだと言ったみずきを、月乃は全く理解できなかったのである。それは、簡単な答え。
月乃には好きなものがないからだ。
守りたいとか、楽しいとか思うものが何一つない。
ああだが。
自分がこの曲を弾ける理由を知っている。
(私は――――生きたいだけだ)
ただ生きていたい気持ちは、わかるのだ。
*
舞台は無事に終わった。拍手で会場が埋め尽くされている。
患者の衣服から、いつもの制服姿に戻った月乃に、みずきは駆け寄った。
「素晴らしかったわ、遠逆さん」
ぎゅ、と手を握ってくるみずきを見遣り、月乃は顔をしかめる。
「すみません……あんなに一生懸命教えてくださったのに…………」
「患者さんとしての演奏だもの。いいと思うわ」
微笑むみずきの前の月乃は、苦笑した。
「やはりピアノは苦手です」
「……できるなら好きになって欲しいけど……しょうがないわよね」
どれほど上達しても、肝心な部分が彼女には足りないのだ。
それが埋められない限りは、きっと……無理だ。
「やあ、良かったよ! 遠逆くん」
「どうも」
彼女は頭をさげる。
「ぜひ次回もやってもらいたい! 君は才能があるよ」
「……遠慮します」
冷たく月乃は拒絶した。
「どうして……こんなにピアノも上達したのに……!」
「私は役者ではありませんし、演奏者でもありません。それに、才能などと軽々しく口にしないでください」
「遠逆く……」
「才能があっても、努力しない者には芽は出ません」
軽く頭をさげて去る月乃と男を交互に見遣っていたみずきは、月乃を追いかけた。
「遠逆さん……!」
「桜坂さん、どうして追いかけてくるんですか?」
「あなたを……放っておけない、という理由ではいけないかしら……?」
苦笑してしまうみずきを、肩越しに見る月乃。
「お人好しですね。騙されますよ」
微笑するみずき。
空は夕焼け色に染まっている。
「もうすぐ闇になります……。早く家に帰ったほうがいいですよ」
「遠逆さん……?」
彼女はまっすぐ空を見上げた。
「私は……まだやることがあるんです。私は……」
長く彼女の影が伸びる。もうすぐ夜になるからだ。
「桜坂さん、あなたと過ごした数日、楽しかったです」
「…………」
「いつか……全てが終わったら……こういうのも悪くないと思います」
苦笑する月乃の顔は、みずきからは逆光で見えない。
彼女は何か大きなことを抱えている。
それは……みずきにはわからないけれど。
「早く……終わるといいわね」
穏やかに微笑むみずきを、彼女は唖然として見つめる。
そして、頷いた。
「それでは」
彼女は去っていく。
残されたみずきは、嘆息して肩を落とした。
「……がんばって……」
凍りついたようなあの心が……いつか。
いつか、穏やかな生活を送れることを祈って――――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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PC
【5040/桜坂・みずき(おうさか・みずき)/女/22/音楽講師】
NPC
【遠逆・月乃(とおさか・つきの)/女/17/高校生+退魔士】
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■ ライター通信 ■
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初めまして桜坂様。ライターのともやいずみです。
楽しく演奏したかったのですが、どうにも月乃が苦手ということで今回はこのような形になりました。
少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。
今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
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