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■Calling 〜小噺・演目〜■

ともやいずみ
【4929】【日向・久那斗】【旅人の道導】
 よくわからないのだが。
 たまたま助けた相手が劇団員で、どこかで公演するのに人数が足りないとかで。
(……どうして)
 手伝ってと頼まれて、了承してしまったのだろうか……。
 あと一人、人手がいるとか……。
(…………)
 嘆息するしかなかった……。


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■当方のNPC、遠逆和彦、遠逆月乃、どちらかと共に劇を成功させてください。
NPCに頼まれて劇に参加することになった。
困っているNPCを見つけたので、手伝うことにしたなど。とにかく手伝って劇を成功させることが目的となります。
演じる劇と配役によっては、親密度があがったりします。積極的にNPCを助けることも親密度をあげることになります。

■どんな劇を演じるか(童話など、既存の話は誰もが知っているものでお願いします)、NPCにはどの役を演じさせるか、あなたはどんな役を演じるかを決めてください。
オリジナルの劇ならば、どういう話でということは必ず書いておいてください。
ライターにお任せでもいいです(「恋愛もの」「熱い青春もの」などの指定さえあれば良いです)

■完全個別受注となっております。

■初対面の方は初対面として描かせていただきます。

■内容はコメディか、ほのぼのなものになりそうです。(憑物封じは基本的にしませんので、戦闘はないと考えてください)

■参加NPC・世界観については、下記URL「東京怪談〜異界〜」を参照下さい。
 □Calling 〜捕縛連鎖〜
  http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=1258
Calling 〜小噺・演目〜



「え〜っと、お母さんかお父さんはいないのかい?」
「…………」
「こ、困ったなぁ〜……」
 後頭部を掻く若い警官は、ほとほと困って溜息をつく。
 彼の目の前には、晴れなのに傘を差している少年。彼は、じぃっと警官を見上げていた。
「保護者がいないってことは、迷子なのかなぁ……」
「迷子……違う」
 小さく首を振る少年の肩に、誰かが手を置く。
 ゆっくりと振り仰ぐ少年・日向久那斗の目が軽く見開かれた。
 長い髪の少女が、久那斗の肩に手を添えている。名前は――――。
「月乃」
 久那斗の言葉に彼女は反応しない。まっすぐ警官を見つめている。
 警官はぽかーんと月乃を見ていた。見惚れている、ともとれるその視線。
「この子の保護者は私です。お手数おかけしました」
「えっ? あ、そうなの?」
 戸惑う警官を見遣り、久那斗はこくりと頷く。
「君は……この子の、えっと、お姉さん? あまり似てないように見えるけど……」
「異母姉弟です」
 きっぱり言い放った月乃の迫力に警官がたじろいだ。
「そ、そっか。じゃあ今度は迷子にならないようにね、坊や」
 笑顔で去っていく警官の姿が完全に見えなくなったところで、久那斗は月乃の様子を見遣る。
 彼女は大きく溜息をついて、久那斗の肩から手を離した。
「なにをやっているんですか、こんなところで」
「……わからない」
「…………」
 呆れたように肩を落とす月乃は、久那斗を心配そうに見遣る。
「いくらあなたに凄い力があっても、見かけは子供なんですから気をつけてください。誰かにさらわれたらどうするんですか?」
「さらわれる……?」
「……動揺しないのはいいことですけど、人間はかなり危険な生物なんですから……」
 はあ、とまた嘆息した。
「それではもう行きますね」
 とそこで。
 月乃は異変に気づく。
 スカートが引っ張られていた。
「ん?」
 見下ろす月乃は、ぎゅ、とスカートの端を握りしめている久那斗に軽く目を見開く。
「日向さん?」
「…………」
 黙ったまま、ぎゅうっと握る久那斗。離す気はないようだ。
「あ、あのぉ……困るんですけど」
「どうして……?」
「どうしてって……私はこれから行くところがあるんです」
「……行く……一緒」
「え……」
 困惑の色が浮かぶ。
 小さな手でスカートを強く握る久那斗の様子に、月乃は動けないでいる。
「日向さん、私は演劇のお手伝いに行くんです。どうかその手を離してください」
 優しく言う月乃を見上げ、久那斗はしばらくしてから「ぶんぶん」と左右に首を振った。
「……劇……? 神楽? 舞?」
「え? いえ、そういったものではないんですよ」
 苦笑する月乃。
「お芝居ですね」
「芝居……?」
 久那斗が想像したものは、芸人一座のようなものだ。色とりどりのノボリを立て、客を呼び込むあれだ。そう、昔の……。
 ぽわ〜んと想像していた久那斗は頷く。
「……芝居、わかる」
「……いえ、あの……それは良かったですけど……。そろそろ手を離していただければ……」
 ぱ、と久那斗は手を離す。それを見て月乃はほー、と安堵した。
「月乃」
 久那斗は彼女を見上げる。
「行く……」
「行くって……はい。今から私は……」
「違う……久那……月乃、一緒」
「………………は?」



 足にくっついて離れない久那斗を連れて現れた月乃を、男は困ったように見つめる。
「ええーっと……弟さん?」
「は、はい……すみません。ついてきてしまって」
 頭をさげて謝る月乃から、久那斗は離れない。
 男はうーんと唸る。
「でもちょうど子役が欲しかったし、良かったら参加してみない?」
「えっ」
 ぎょっとする月乃は、久那斗を見遣ってから男に向き直る。
「お姉さんもいるんだし、一緒に出ても心配はないでしょ。それに、そんなに懐かれてるんじゃ、しょうがないしさ」
 軽く笑う男の言葉に、月乃は何か言いかけてやめた。肩をおとす。
「すみません……」
「いいよいいよ。坊や、お姉ちゃんに迷惑かけずに演じられるよね? 難しいかい?」
「……できる」
 頷く久那斗であった。



「日向さん、どうされたんですか?」
「…………なに?」
「いえ、『なに』ではなく……。どうして私から離れてくれないんですか?」
 しっかと月乃のスカートを握っている久那斗は、不思議そうに月乃を見る。
 その視線に月乃はますます困ったようになった。
「あの……わかっているんですか? 私は呪われていて、憑物に常に狙われているんですよ?」
「…………」
「常にそばにいると、危ないんです。わかりますよね?」
「…………」
「……あのぉ……」
 はあ、と月乃は肩を落とした。久那斗は絶対に離れる気はないようである。
(私のどこがいいんでしょうか……)
 月乃は不思議そうにした。彼女は台本をもらっていたが、それを読む最中ずっと横のイスに座っている久那斗にスカートの端を握られていたのだ。
 まるで手を離すと月乃がどこかへ行ってしまう。そう言わんばかりの久那斗は黙って台本を眺めている。
 久那斗の行動は正しいのかもしれない。
 実際、月乃は他人と距離を保つし、近づかれすぎるとわざと距離をとる。
(月乃……月乃……)
 真横のイスに座って溜息ばかりついている月乃に、ぼんやりと視線を向ける久那斗。
 憑物退治をしている時と違って、やけに人間らしく見える。彼女もこういう顔ができたのかと思えるほどに。
(月乃……元気……)
 なんだか、胸があたたかいような気がする。なぜなのかはわからない。
 うれしい、と一瞬その言葉が浮かぶがすぐに疑問で打ち消されてしまう。
「ええっと、劇は『浦島太郎』ですか……。この話は私も知ってますね」
 安堵したような月乃は、久那斗に視線を遣る。
「日向さんは子供その2。亀をいじめる役ですが……大丈夫ですか?」
「大丈夫」
 こくりと頷く久那斗の様子に月乃はかなり不安になったらしい。
「ほ、本当に?」
「本当」
 またも「こくり」と頷く。
 月乃はますます眉をひそめる。
「亀をいじめるんですよ? お芝居とはいえ」
「できる」
「…………」
 久那斗は月乃をじっと見つめた。
「月乃……なに?」
「え? 私ですか? 私は竜宮城の、魚ですね。ヒラメです」
「…………」
 きょとんとする久那斗は、首を傾げる。
「月乃……乙姫……違う?」
「違いますよ。私は主役より、脇役のほうがいいです。目立つのは苦手なんですから」
「目立つ……苦手? どうして?」
「…………」
 そこまで苦笑したりしていた月乃の表情が一瞬で冷えたものになる。
「他人に近寄られたくないんです」



「かわいいー! 遠逆さんの弟さん?」
「坊や、お名前なんて言うの?」
 団員の女性に囲まれる月乃は、頬にかけて汗を流す。
 月乃の足にくっついている久那斗は、きょろきょろと女性たちを見遣った。
「え、あ、あの……」
 困る月乃は顔を伏せてしまう。
「月乃……いじめる……だめ」
 久那斗が小さく言うと、女性達は「かわいい」とはやしたてた。
 実際、久那斗は月乃の弟でもなんでもない。血縁関係はないのだから。

 疲れてぐったりしている月乃を見上げ、久那斗は首を傾げた。
「疲れた?」
「え……」
 月乃は顔を久那斗に向け、渋い表情をする。
 久那斗に悪気が無いのはわかっているが、彼がいるとどうにも目立ってしまうのだ。
 けれども。
(また一人にしておくと、警官に補導されかけたりしますし……)
「疲れてます」
 はっきりと月乃は言う。
 無言になってしまう久那斗。
「あんなに大勢の人と喋ったのは……初めてというか……。慣れてないので」
「…………」
「あなたが邪魔というわけではないですよ」
 小さく微笑む月乃の言葉に、久那斗は呆然とする。
 彼女が本心から言ったとは思えない。自分がいることで、彼女には明らかに迷惑がかかっていた。
 それは、誰が見てもわかることで……。
 でも。
 全部が、嘘じゃ……ない。
 それが嬉しい、と感じてしまう。いいや、ウレシイという名なのかは、はっきりわからない。
 けれど間違ってないはずだ。きっと…………きっと。
「僕……嬉しい」



 浦島太郎役の男が、子供たちの集まりを発見する。
 その中には久那斗も混じっていた。
(演じる……不思議)
 これが「楽しい」?
「こら、おまえたち何をやっているんだ!」
 浦島太郎が子供たちに声をかける。
 子供たちが囲んでいたものを見るために、浦島太郎は彼らの中に割り込んだ。
 子供たちに囲まれて見えなくなっていたのは亀役の男だ。
 わーっと子供たちは一斉に逃げてしまう。これで久那斗の出番は終わりだ。
「助けてくれてありがとうございます! お礼にあなたを竜宮城にお連れしましょう!」
 助けてもらった亀は浦島太郎にそう申し出た。

 出番の終わった久那斗は、舞台のそでで月乃の出番を待つ。
(月乃……月乃、まだ……?)
 久那斗の衣服は、なんだか彼に懐かしささえ与える。
 竜宮城に辿り着いた浦島太郎は、乙姫に迎え入れられた。
「ゆっくり楽しんでくださいね」
 笑顔を浮かべる乙姫の合図によって、魚役の女性達が舞台に出てくる。
 全員同じ衣装で、華やかだ。
 あ、と久那斗は少しだけ身を乗り出す。
 その中にいる人物。ヒラメ役の月乃だ。
 魚役の難しいところは、全員で踊ることだろう。タイミングを合わせて舞う娘たち。
 それを懸命に練習していた月乃を、久那斗は知っているのだ。
 動きが完璧にできるだけではダメなのである。それは個人プレイだ。
 これはみんなが力を合わせて創りあげるもの。月乃が周りに合わせなければならない。
 全員のタイミングをみて、月乃は少しずつズラし、そして練習する。
 みんなと揃うことが、大事な役。
(月乃……綺麗……)
 そして、楽しそうだ。すごく、すごく楽しそう。

 舞台は見事に大歓声を迎えて終わった。
 最後に全員で出てくる。久那斗の手を握ったのは月乃だ。
 久那斗は見上げる。
 彼女は微笑んで見下ろしてくる。
 全員で繋いだ手。全員は手をあげる。
 そして二人は、みんなと一緒に観客に頭をさげたのだ――――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【4929/日向・久那斗(ひゅうが・くなと)/男/999/旅人の道導】

NPC
【遠逆・月乃(とおさか・つきの)/女/17/高校生+退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 二度目のご参加ありがとうございます、日向様。ライターのともやいずみです。
 月乃にべったりな感じで書かせていただきました。かなり月乃も柔和になっていると思われます。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!