■エヴァ・ペルマネント人間化計画■
よしずみ |
【1252】【海原・みなも】【女学生】 |
エヴァ・ペルマネント人間化計画
○シンデレラ、エヴァ
エヴァ・ペルマネントは悩んでいた。テロ組織「虚無の境界」の最新型霊鬼兵として製造された自分は「人間」に近付けないのか? 将来自分の赤ん坊を産んで、胸に抱くという行為は許されざることなのか……と。
「そんなお前に朗報じゃ!」
「所長!?」
エヴァを創り出した「虚無の境界」兵器製造担当所長――。
「所長! 勝手に人の心を読まないで下さい!」
「お前は“人”なのか?」
「……」
所長がおもむろに口を開く。
「エヴァよ、今日1日だけチャンスを与えよう。“兵器”ではなく“人間”として生きる機会を。口を大きくあけろ」
「?」
エヴァは訳も分からず大きく口を開け、所長はその口の中に苦い液体を数滴垂らした。
グッ……と咳き込みそうになるエヴァに怒鳴った。
「吐き出すな! それを飲めば12時間は人間の女性として暮らすことが出来る。女性ホルモンの分泌も促され、妊娠も可能だ。その間霊鬼兵としての能力は無くなることには注意しろ」
「え……わたしに子供が産めるの……?」
エヴァの顔に希望の火が点った。
「今は12時丁度。深夜12時までに決めて来い! 魅力的な“女性”を見たら片っ端から声を掛けてホテルに誘い込むんじゃ! そこから先はこの“虎の巻”に書いてある通りにすれば良い」
「分かったわ! ありがとう所長!」
エヴァは虎の巻を受け取り、駆け足で東京都内へ向かった。それを見送る所長は何か疑問を感じ、数秒後に気が付いた。
「待った! 声を掛けるのは魅力的な女性じゃなくて“男性”じゃ!」
その声はもう遠くを走っているエヴァには届かなかった――。
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エヴァ・ペルマネント人間化計画
○シンデレラ・エヴァ
ひとりの人間として子供をつくりたいと悩むエヴァ。そのエヴァにテロ組織「虚無の境界」兵器製造担当所長は12時間だけ人間になる薬を飲ませ、子供のつくりかたを書いた虎の巻を渡し、高らかに告げた。
「夜中の12時までに決めて来い! その虎の巻を読めば全て分かる! 魅力的な“女性”をゲットするのじゃ!」
礼を言って走り出したエヴァ。
しかし――女性のエヴァに「女性をゲットしてこい」と言っても子供ができる訳もなく、数秒後に所長は言い間違いに気が付いた。が、とき既に遅し。エヴァは遥か彼方に走り去っていた。
○初めてのナンパ
水曜の午後。下校途中の海原・みなも(うなばら・みなも)、13才は公園に散る遅咲きの八重桜の桜吹雪の中にいた。
そこを通りがかったエヴァ。桜吹雪の中にいる女の子に何か神々しいものを感じ、胸がときめいた。
(これが……これが魅力的ってこと? うん、わたしはこのときめきを信じる!)
エヴァは公園の中に入り、少女に声を掛けた。
「ユー、可愛いわ。すっごく可愛いわよ!」
みなもは「えっ?」と振り返った。
「あたし……のことですか?」
「もちろんそうよ」
「あ、ありがとうございます」
みなもの顔が真っ赤になった。
「わたしはエヴァ。ユーは?」
「あたしは海原みなもです。エヴァさん……て外国の方ですか?」
「素体は――いえ、れっきとした日本人よ」
エヴァは話がややこしくなるのを避けた。
みなもは(金髪はブリーチしたのかな? 東京でも金髪の人ってよくみかけるし――)と自分を納得させた。
「……」
「……」
会話が続かない。エヴァは読破した「虎の巻」の項目を思い出し、実行することにした。
「うっ!!」
うめいてしゃがむエヴァ。
「ど、どうしました?」
「ストマックエイクよ!!」
「え、と……」
みなもは習ったばかりの英語を思い出した。「ストマック」は「胃」、「エイク」は「痛い」
「胃が痛いんですか!? お薬とか持ち歩いてます?」
「ううん、ちょっと休めば治ると思うわ。来て!」
みなもの手を取って歩き出した。
「え、え? どこか休む場所があるんですか?」
「いいから来て!」
エヴァは強引にみなもをラブホテル街まで引っ張って行った。
○イン・ザ・ホテル
「本当にここで休むんですか? あたし、こんな所来たの初めてです……」
ベッドに座るみなもの声は消え入りそうに小さかった。「痛い、痛い」といっていたエヴァは後ろ手にドアを閉め、小悪魔的笑みを浮かべた。
「フフフ、ストマックエイクとは真っ赤な嘘! ユーはわたしと子供をつくるのよ!」
「……はい? エヴァさんて男性だったんですか!?」
みなもは手持ちのカバンをセーラー服の胸元に抱きしめ、警戒した。男にこんな所に連れ込まれたのならもはや「手遅れ」かも知れない。
「なに言ってんのよ、私が男に見える? ちゃんとした女よ!」
ホッとするみなも。エヴァが「女同士で子供ができる」と勘違いしていることを悟った。(そうだ! 今日の保健体育の教科書見せて教えれば――)
「いいですかエヴァさん? 説明しますよ」
みなもはカバンを開けて保健体育の教科書を探しながら言った。
「子供っていうのは男性と女性が愛し合ってですね、」
エヴァは話を聞かず、虎の巻の一項目を思い出していた。
<ベッドの上になれば、有無を言わさず押し倒してしまいましょう>
「あ、あった、保体の教科書」
その言葉と同時に、
「ユー、好きよ!」
ドサッ!
ベッドの上に押し倒した。
「ま、待って下さい! ちゃんと説明しますから!」
虎の巻第二項、
<相手が抵抗した場合、キスで口を塞いでしまいましょう>
「女同士では子供は!」
エヴァの唇が、ゆっくりみなもの口に迫ってくる。
「可愛いわよ、とっても」
エヴァの吐息が鼻にかかり――
「ちょ、待っ……!」
ちゅっ。
「んむーーー!!」
キスは5秒ほど続き、みなもの顔が真っ赤になった。
押し倒されてのキス。このままではヤバイとみなもの本能が告げていた。
「どいて下さい! ちゃんと説明をさせて――」
「わたし力は強いわよ? 抵抗しても無駄無駄!」
ちゅーーー!!
「むーーー!!」
今度は10秒ほどで唇を離し、そのときにはみなもの全身の力が抜けていた。
(もう……どうでもいい……か)
虎の巻最終項目、
<相手が抵抗をやめたら、服を脱がせて「最後までいってしまいなさい!」>
「? 取り敢えず、服脱がすわね〜」
脱力状態のみなもは一切抵抗せず、下着姿になった。が――エヴァには「最後までいってしまいなさい!」の意味がさっぱり分からなかった。
これから一体どうすればいいのか? 仕方がないので尋ねることにした。
「ここからどうすれば子供できるのかしら? ユー知ってたら教えてくれない?」
「……エ……」
「ん?」
「エヴァさんの馬鹿ーっ!」
バチーン! と、みなもの平手打ちがエヴァの頬をとらえた。
「な、なんでそんなことするの? わたしのこと嫌いになったかしら?」
「こんなことするエヴァさんは嫌いです!」
みなもはあたふたとセーラー服を着、カバンを持って立ち上がった。
そしてドアの前まで歩くと、
「女同士で子供ができる訳ないじゃないですか! この保健体育の教科書あげますから、勉強して下さい!」
バタン!
ドアを閉めて去って行った。
残されたエヴァは小さく「保健体育……?」と呟いて教科書を手に取り、ホテル代を踏み倒し、肩を落として繁華街の雑踏へ消えて行った。
○2度目のナンパ
「うーん……この本によるとこういう棒みたいなものが必要なのかしら?」
その小さな声をとらえたのは、先ほどラブホテル前でエヴァとみなもを目撃していた我宝ヶ峰・沙霧(がほうがみね・さぎり)、22才。
沙霧には人には言えない嗜好があった。「同性が大好き」という……。
沙霧は思った。
(さっきホテルに向かうのを見たばっかりなのに……。さてはフラれたわね!)
ススス、と沙霧はエヴァの横へ寄っていった。そしてエヴァの読んでいる本を見、
「あら、保健体育の教科書なんか読んでるの?」
さりげなく声を掛けた。あまりのさりげなさにエヴァも普通に、知人のように答えてしまった。
「そうなのよ。『子供つくろう』って言ったのにみなもちゃんに断られて、今勉強中」
「ふーん」
(さてはこの子、女同士で子供つくれるとか勘違いしてるわね! それなら好都合!)
「というかユーは誰? 綺麗だし、わたしの子供づくり手伝ってくれるんなら嬉しいけど」
「喜んで手伝うわよ! 私は我宝ヶ峰沙霧。あなたは?」
「わたしはエヴァ。ところでユーにこの棒みたいなものあるかしら?」
「あははっ!」
「?」
沙霧は笑って、
「あるわよ。安心して付いてきて!」
大嘘をついてエヴァの手を引いた。
「そっか! やっぱり子供つくれるんだな!」
エヴァも喜んで付いていった。
○イン・ザ・ホテル(其の二)
エヴァは既に沙霧に上半身裸にされ、首筋にキスマークをつけられていた。
沙霧はそれからエヴァの口元に顔を寄せ、囁いた。
「キス……イヤじゃないわよね?」
エヴァが小さく頷くと、沙霧はエヴァの口にキスをした。子供っぽくない、手慣れた大人のキス。エヴァの力が抜け、完全に沙霧ペースだった。
もうろうとする意識の中で、エヴァは思った。(この子に棒みたいなものがついてなかったら、また失敗する……)
保健体育の教科書の内容はもう頭の中に入っていた。そっと沙霧の股間を右手で確認するエヴァ。
……ない。
「棒がついてない! ユーわたしを騙したな!」
「今頃気付いたの? 心配しないで、ちゃんと天国へ連れてってあげるから!」
「ぬぬぬ……!」
エヴァは沙霧の体を乗せたまま反動もつけずに起き上がり、沙霧はその怪力に驚いた。
「あ、あなた人間!?」
エヴァは質問に答えず、
「12時まではまだ何時間もあるけど、もうやめだ!! 所詮わたしは霊鬼兵、人間の子供をつくることなんて、はなっから無理だったのか……」
悲しげに言って服を着た。
「霊鬼兵?」
沙霧は首を傾げ、たまっていた疑問を口にした。
「あなた一体何者なの? 名前も変だし、その金髪も髪の太さで分かったけど、ブリーチした金髪じゃなくて元から金髪でしょ?」
エヴァはベッド脇に立ち、おもむろに口を開いた。
○わたしの名は……
「わたしの名はエヴァ・ペルマネント。『虚無の境界』が作りし最強の霊鬼兵。強くなくては生きていけない、強さこそが全て!
わたしを騙したユーをここで殺すことだってできるんだぞ……」
ベッドに手を伸ばすエヴァ。
沙霧は「ヒッ、」と後ずさった。が、エヴァは沙霧には手を出さず、ベッドの上の保健体育の教科書を手に取った。
「ユーは助けられた。人間の――みなもの優しさに……」
エヴァは窓を開け、一気に飛び降りた。
(ここは4階!)
数秒遅れて窓から下を覗く沙霧。だが全速力で走り去ったエヴァの姿はもう見つけることはできなかった。
エヴァの目から、涙がひとしずくこぼれていた。
おわり。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1252/海原・みなも(うなばら・みなも)/女性/13才/中学生
3994/我宝ヶ峰・沙霧(がほうがみね・さぎり)/女性/22才/職業的殺人者
NPC エヴァ・ペルマネント
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■ ライター通信 ■
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