■超能力心霊部EX スプリング・ブロッサム■
ともやいずみ |
【3636】【青砥・凛】【学生、兼、万屋手伝い】 |
「もう春です」
そう呟いたのは、長い黒髪の少女。名を一ノ瀬奈々子。
彼女の横に座ってジュースを飲んでいた少女・高見沢朱理は視線だけそちらに遣る。
「春は、桜の季節です」
「…………」
嫌な予感を感じて、朱理は真向かいに座る金髪の少年・薬師寺正太郎に目で訴えた。だが正太郎は肩をすくめて嘆息をしただけだ。
「いい天気ですね……」
ぼんやりと言う奈々子に、朱理は仕方なく尋ねた。
「で、何がしたいの? 奈々子は」
「お花見です」
静かに言った奈々子が、朱理を見遣る。
「春にしかできないものですし」
「お花見って……」
正太郎は困ったように呟いた。
「……そうですね。知り合いとか、まあ参加したい人を集めて、何か持ち寄ってお花見しましょう」
さらりと言い放った奈々子の言葉に、正太郎の手からポテトが落ちる。
「さ、三人だけでいいんじゃないかなぁ……」
「三人で行って、つまらなくないですか?」
「…………」
どうやって答えるべきかと思案する正太郎の向かい側で、朱理が溜息をついた。
「わかった。奈々子がやりたいってんならあたいはいいよ」
「朱理さん!?」
「諦めなよ、正太郎。奈々子は桜が見たいだけなんだからさ」
そんなぁ、と正太郎は呟いて肩を落としたのである。
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超能力心霊部EX スプリング・ブロッサム
集合場所に彼らは足を進めていた。
「でも……いいのかな。僕がお邪魔しても」
頼りなげに言う男装の娘を、銀髪の青年が振り向く。それぞれ手にバスケットやら風呂敷に包まれたものやらを持っている。
「いいと思うぞ……。来たい人は呼んでくださいって言ってたし……それに小さなことを気にするようなヤツらじゃないんでな」
「……海月の話をきく限りは……確かにそうだけど……」
元気のいい少女と、ちょっと乱暴だが丁寧な少女と、怖がりの少年の三人組。
青砥凛は持っていたバスケットを持ち上げる。
「……喜んでくれるといいけど」
ファーストフード店の二階。
そこに三人と、一人。どうやら先に来客がいたようだ。
「よお」
片手を挙げて挨拶をする諏訪海月に、三人は笑顔で立つ。
「諏訪さん!」
それを眺めて凛は少し戸惑う。受け入れてくれるだろうか、自分を。
せっかくだから……やっぱり、嫌われたくない。
「あの……」
海月の後ろからそっと出てきた凛を、三人が見遣る。
「こんにちは……。僕は青砥凛。海月の居候、兼……パートナー。よろしく……」
「こんちは!」
元気よく挨拶され、凛は少し驚く。片手を元気よく挙げているのは、一番小柄な少女だ。
「あたい、高見沢朱理。こっちは一ノ瀬奈々子。で、あっちが薬師寺正太郎ね! 今日はよろしく!」
「……うん」
なんて元気のいいコだろう。そう、凛は微笑した。
*
「と、いうわけで」
奈々子が大きな声で言う。
「お花見を始めたいと思います!」
わーっと全員が拍手をする。だが、その中で一人がぼそっと呟いた。
「自分がやりたいって言ったくせに……」
「そこっ!」
びし! と人差し指を向けられた朱理は、頬杖をついている。
奈々子は朱理を睨みつけた。
「態度が悪いですよ、朱理!」
「へえへえ」
ひらひらと手を軽く振る朱理の横では、月宮奏が苦笑する。
「朱理さんったら」
「だってさ〜……なんでああも張り切れるかねぇ」
「そんなこと言って……」
「ふふふ……。素直じゃないのね、朱理ちゃんは」
上のほうからくすくす笑い声が聞こえた。この場所を提供してくれた、久遠桜だ。ちなみに姿が透けている。彼女はすでに死んでいるのだ。
「奈々子ちゃんのお願いだから、きいてあげてるのに」
「……そうなの?」
そっと尋ねる奏を朱理はちらっと見るが、朱理は無言だ。それは肯定を表している。
一方正太郎はぺこぺこと頭をさげる。彼の両隣に座っているのは凛と、海月だ。
「す、すみません……騒がしくて」
「いいんだよ。いつものことだろ」
苦笑する海月に、正太郎も苦笑で返す。
「青砥さんは……大丈夫です? この雰囲気」
「……平気だよ」
「そうですかー。良かった」
安堵する正太郎であった。
奈々子が眉を吊り上げる。
「ちょっと! 聞いてるんですか、そこっ!」
「きっ、聞いてるよっ」
慌てて返事をする正太郎。
奈々子はこほんと咳を一つ。
「えー、では、改めまして。今日は私たちのために集まってくれて、どうもありがとうございます皆さん」
笑顔で言う奈々子に、朱理は苦笑する。奏は頷く。その他のメンバーは見守って静かに聞いていた。
「とにかく今日は、楽しみましょう!」
でん、と出したのは海月だ。
「諏訪海月特製……『花見ご膳』だ」
はらり、と風呂敷の結び目が解ける。中から出たのはお重だ。
盛大な拍手が起こった。
「私もなんですけど……」
奏も「よいしょ」と何かを出してきた。これまた風呂敷だ。
「お重と、あとデザートで……」
風呂敷の結び目を解いて、出す。
「桜餅を」
「素敵ですね!」
目をきらきらさせたのは奈々子だ。どうやら甘いものが好きなようである。
「僕は」
凛はバスケットをでんと置く。
「お茶。僕、お茶が好きで」
「こ、これは豪華だね……。ボクら、何も用意してないのに……」
正太郎が後頭部を困ったように掻いて朱理を見た。彼女は早速海月が作った料理を皿によそっている。
「こらぁ! 何を早速よそってるんです!」
「いたあ!」
奈々子にぼごんと頭を殴られ、朱理が突っ伏す。奏のお重に頭を突っ込みそうになったが凛と正太郎がさっと持ち上げて避けた。
桜の木の枝に腰掛けて、下のその様子を眺めていた桜はくすくすと笑う。
(本当に、面白いですねぇ)
「桜さん、ちょいこっち」
朱理が起き上がって手招きしている。桜はふわりと地面に着地した。
朱理は正太郎を引っ張って桜に向けて突き飛ばした。
「あぎゃっ!」
悲鳴をあげて桜に突進し、ぶっ倒れる。桜は疑問符を浮かべていた。
「せっかくなんだし、正太郎から力をもらって実体化しちゃいなよ」
「え、で、ですけど」
「いいんだよ。減るもんでもないし」
「うおーい! なにさらっと言ってんだよ、朱理さんはっ!」
慌てて立ち上がった正太郎だったが、桜の困ったような顔を見てぐっと言葉に詰まった。
幽霊の彼女は、見ているだけだ。
そ、と手を出す。
「ど、どうぞ」
「え?」
「場所を提供してもらいましたし……せっかくのお花見ですから」
それを聞いて桜はふふっと微笑む。
「諏訪さんて、本当にお料理上手なんですねぇ」
感心したように奈々子が奏の横で言う。
「そうか……?」
「そうですよ。これはお嫁さんなんていらないですね」
にっこり笑顔で言われて海月が少し動きを停止した。
全員の分にお茶をつぎながら、凛が半眼で言う。
「良かったね……。お嫁さんいなくても……生きていけるって……」
「むしろお料理できないお嫁さんのほうがいいのでは?」
くすくす笑って言う奈々子であった。海月は嘆息する。
「なんだ……。おまえたち、俺をからかって遊んでるだろ……?」
「まあまあ。でも本当にお料理上手ですわね、お坊ちゃんにお嬢ちゃんは。あら、これも美味しい」
子供の姿の桜が正太郎の横で奏と海月の料理を食べる。正太郎は美味しさに感動していた。
凛は緑茶をリクエストした朱理に紙コップを渡す。
「……はい」
「あ。こりゃどーも」
受け取った朱理は早速飲んで………………むせた。
激しく咳き込む朱理の背中を、凛と奏が優しく撫でる。
「げほっ、ぐはっ……」
「朱理さん……慌てて食べるから」
「そうだよ……。そんなに急がなくてもなくなったりしないよ……?」
二人に言われるものの、朱理はふふっと不敵に笑う。
「ご、ごめん……。大勢と食べることってあんまりないからさ、あたい」
ちょっと浮かれて……。
小さな声で言う朱理の言葉に、二人とも苦笑して肩をすくめた。
「…………いいんですか? 諏訪さん?」
「なにが?」
もぐもぐと食べていた海月に、奈々子が耳打ちする。
「何がって……朱理と喋ってないじゃないですか」
「しょうがないだろ」
奏がそばに張り付き、凛まで彼女の世話を焼いているのだ。
(あいつは……女に人気が出そうな性格してるしな……)
いや、それは女だけに限ったことではないだろうが……。
「奈々子こそ、朱理が取られて悔しくないのか?」
「えっ!」
ぎょっとしたように奈々子が目を見開き、それからムスっとして海月の料理を食べ出す。
「そんなことありません!」
「素直じゃないんだから、奈々子さんは」
苦笑する正太郎が、会話に割り込んできた。
「諏訪さん、このお花見、本当は朱理さんのためにって奈々子さんが考えたんですよ?」
「えっ、そうなのか……?」
「まあ、そうでしたの」
驚く桜であった。この場所を提供してくれとやって来た朱理は、奈々子が言い出したと言っていたからだ。
「……実は音痴なんです」
むぅ、として奈々子はそう言う。
マイクを差し出していた正太郎は、硬直する。
その横では朱理が持ってきたお酒を、桜がごくごくと美味しそうに飲んでいた。
「……いい飲みっぷり」
小さな拍手をする凛である。
奏はマイクを持ってどうしようか悩んでいる正太郎に声をかけた。
「だったら……私が歌う」
「え? ほんと?」
助かった、というように正太郎がマイクを奏に渡した。
奏が準備をしている最中、海月は朱理に尋ねる。
「おまえは歌わないのか?」
「へ?」
料理をあらかた食べ尽くした朱理は、奏の桜餅をもぐもぐ食べていた。まだ食べるのか、という感じである。
さすがに海月が呆れた。
「まだ食べるのか……」
「せっかくさ、諏訪さんや奏ちゃんが作ってきてくれたんだし」
「食べ過ぎると困らないか……?」
「美味しいものなのに、お腹なんて壊さないよ」
やだなあと朱理は笑う。
海月は凛がいれてくれた紅茶を飲み、それから微笑する。
「そう言ってもらえると……作った甲斐があったな」
「お世辞じゃないよ? 諏訪さん、お嫁さんになったほうがいいって、絶対!」
「…………おまえまで言うか」
と、そこでぱちぱちと拍手が起こった。
奏がすぅ、と息を吸い込む。
可憐な少女の歌う曲は、優しく、穏やかで……とても綺麗だった。
「可愛らしい歌声だこと」
桜はお酒片手に言う。正太郎は転がっている数本の酒瓶を目にして青ざめた。
「お、おまえ……口にあんこついてるぞ」
思わず顔を引きつらせる海月が朱理の顔に手を伸ばし、あんこを取って自分の皿にのせる。
「ありがと、諏訪さん」
凛がいれた中国茶をさらにごくごくと飲む朱理が、突如またむせた。
うっとりと奏の歌声に聞き入っていた奈々子の眉が吊り上がる。それに気づかず海月は朱理の背中を軽く叩いてやった。
「……学習しないやつだな、朱理は」
「またむせたの……?」
凛までこちらに来て朱理の背中を撫でる。
「…………」
その様子に奈々子がぷるぷると震えた。ハッとして正太郎が青ざめる。歌い終えた奏も、状況に動きを止めてしまった。
「朱理ぃぃぃぃぃっ!」
怒声が響き、奈々子が立ち上がる。正太郎が彼女をおさえにかかった。
「せっかく月宮さんが歌っていたのに、あなたの咳き込みで台無しですよ!」
「奈々子さん、気にしない……」
で、と続けようとした奏だったが、奈々子は聞いてはいない。
息苦しさに涙まで浮かべていた朱理の前に、彼女は仁王立ちした。
凛と海月の手が止まる。まるで――――――鬼だ。
「あらあら」
楽しそうに眺めていた桜に、正太郎が声をあげる。
「と、止めてくださいよぉ、桜さんもぉー!」
「仲のいい証拠ですのに」
「ち、ちょっとなんですかそれーっ!」
正太郎の悲鳴が、桜舞い散る中、悲しく響いたのだった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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PC
【4767/月宮・奏(つきみや・かなで)/女/14/中学生:癒しの退魔士:神格者】
【3364/久遠・桜(くおん・さくら)/女/35/幽霊】
【3604/諏訪・海月(すわ・かげつ)/男/20/ハッカー&万屋、トランスのメンバー】
【3636/青砥・凛(あおと・りん)/女/18/学生と、万屋手伝い&トランスのメンバー】
NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】
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■ ライター通信 ■
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ご参加ありがとうございます、青砥様。初めまして、ライターのともやいずみです。
超能力心霊部のメンバーとの初対面ですが、いかがでしたでしょうか?
今回はありがとうございました! 楽しく書かせていただき、大感謝です!
楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
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