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■神隠し■

紺藤 碧
【0638】【飯城・里美】【ゲーム会社の部長のデーモン使い】
 そこは夏の時期になると、神隠しが起こるらしい。
 場所は、昭和の終わりごろ作られた白落ダム。
 なぜ神隠しか―――……
 それは、ダムの近くの山林でも、ダムの水源にも居なくなった人の遺体が見つかったことがなかったから。
 ダムでありながら澄んでいるその水は、沈んだ村をほぼ当時そのままで見ることが出来る。そのため、この場所は一種の観光地となっていた。
 ただの神隠しという噂が立つ程度ならば、警察沙汰で終わるはずだった。
 だが、何故そうならなかったのか。
 それは神隠しから帰ってきた人が―――居たから。
 彼は失踪した…神隠しにあった10年前と、何ら変わらぬ姿でダムの近くに倒れていた。
 ただ失踪していた10年間の記憶を一切無くして。
 一時はワイドショーでも話題になるほどだったが、どれだけ取材陣や特設番組が白落ダムへ訪れても、神隠しなど一切起こらず、彼はただ若作りしているだけの人として、廃れるのも早かった。
 時は、それから3年。
「えーっと、あんたはなんで今、白落ダムに行こうなんて思ったんだ?」
 彼はそろそろ事件が忘れ去られただろうと踏んで、草間興信所に来ていた。
「10年間の記憶を取り戻したいんです」
 彼にとっては一瞬のことだったのに、気がつけば外の世界は10年の歳月が過ぎていたのだ。まるで浦島太郎。
 お土産の玉手箱もなく、その10年間を彼が取り戻すことは出来ない。
「精神鑑定でも、逆行催眠でも、その10年間は“無かった”んです」
 記憶さえも存在しない10年間。
 ただ覚えているのは、花火の音に混じる大きな雷鳴のみ。
 白落ダムで、一体何が起こったのか。
 草間は調査に向かってくれそうな面々を思い浮かべた。

Fairy Tales 〜美しい手〜


【フラグ1:試練】

「妖精の眼<グラムサイト>覚えるんでしょ?」
 白銀の姫ゲームマスターだった黛慎之介は、ニコニコと話しかける。
「俺が連れてってあげるよ。ガレスの元まで」
 どうやら妖精の眼を覚えさせてくれるエルフはどうやらガレスと言うらしい。
 流石ゲームマスター、実際の3Dとなっても迷う事無くガレスが居るらしい街へと案内され、丁寧にも庵の前まで案内してくれた。
「じゃぁがんばってね」
 庵の入り口で慎之介はヒラヒラと手を振って帰って言ってしまった。
 そして、そんな慎之介を見送り、庵の中へと入る。

「…塗り薬、妖精の指輪…力が、欲しいのか?」

 とんがった耳のエルフ―ガレスの問いかけに頷くと、彼は顔を上げ、その金色の瞳で見据える。
「我が試練にクリアして、みせよ」
 ガレスのその一言で、画面がフィードアウトした。


【フラグ2:Fly high】

「飯城部長?」
 声をかけられ、飯城・里美ははっと顔を上げた。
 辺りを見回してみると、あの青年に連れられてやってきたガレスとか言うエルフの家の中ではない。
 此処は、
「珍しいですね、飯城部長がぼーっとしてるなんて」
 そう此処は、里美の会社の自分のデスクの前。
 懐かしい部下に苦笑気味にそう言われ、里美はくすっと鼻で笑うように息を漏らし、疲れてるのかもな。と、思ってもいない言葉を口にする。
「書類此処に置いておきますね」
「あぁ」
 部下が厚さ1cmほどもありそうな書類をバタンとデスクに置いて、自分のデスクに戻っていく背中を見つめながら考える。
 そう、書類を今置いていった部下の顔を見た里美は、なぜかとても懐かしさを覚えてしまった。
 それは、どうしてか。
 ふと卓上カレンダーに眼を落とし、里美はそれを持ち上げる。

20××/××/××

 落ち行く夕陽は確かに暖かく、綺麗な橙色の尻尾を残して地平線へと消えていく。
 身に宿るデーモンの力や、引き込まれたあのゲームの世界は全部夢?
 部下が持ってきた書類をペラリペラリとのんびりと捲りながら、一回息を吐き出す。
 そして、バンっとデスクを大きく両手で叩いて勢いよく立ち上がる。
「さぁ!今日も徹夜だよ!」
『えぇ!!』
 複数の笑いを含めた抗議の声が上がる中、里美はその顔に強い意思を込めた微笑を浮かべて一同に労いの言葉をかけた。

 その中で一人、ほくそ笑んでいる者が居る事も気が付かずに。



「里美部長!起きて下さい!!」
「ぁえ……?」
 仮眠室で毛布を被り仮眠していた里美を女性社員が揺さぶり起こす。
「急いで来て下さい!!」
 里美はこの女性社員の慌て様に疑問符を浮かべつつも、簡単に身なりを整え女性社員の後を追いかける。
 開発室に近づくにつれて大きくなる電話の対応の声と、プルル…という着信音。その音に里美は尚怪訝そうに眉を寄せる。
 そして開発室に走りこんできた里美を出迎えたのは、里美の上司に当たる男性だった。
「飯城君、どういう事だ!?」
「何がですか?」
 明らかに激昂している上司が、どうして怒っているのか分からずに里美は首をかしげる。
「杉田君が、顧客情報と君達の開発部で完成間近だったゲームプログラムを持って、よりにもよってライバル会社に転職したそうじゃないか!!」

 え?

 杉田…?
 そう、ぼーっとしてデスクに座っていた時に、懐かしいと感じた部下の顔。
 あの時書類を持ってきた部下の名前。

 彼が、転職?
 よりにもよってライバル会社に?

 信じられないと言った里美の表情に上司は深くため息を付き、その額に深くしわを作って眉を寄せる。
「この責任はもちろん飯城君が取ってくれるんだろうね?」
 上司は里美の直属の部下とも言える彼の裏切りは、里美の監督不行き届きだと責め立てる。
 そして、その上司の一言で周りの音が一瞬シャットアウトしてしまっていた里美の直ぐ近くの電話が鳴り響く。
 はっと我に返ったように電話に視線を向けると、それを別の部下が急いで取り対応を開始する。
「どうしましょう部長!お客様からのクレームが――」
 予約していた商品が発売されない。
 同じ商品をなぜか別の会社が出す。
 どこから知られたのか、顧客情報流出に対するクレームまである。

 どうしたら…

 どうしたらいい!

 里美は、意識が遠ざかっていくのを感じた。





 はっと里美の頬をすり抜ける風。
 我を取り戻すように瞳を開けると、里美は屋上で立ち尽くしていた。

 ――どうする?

 ふと挑戦的な声が里美の耳元で響く。
 顔を上げれば見渡す限りの青空。
 そして、視線を下へと移動させれば――…

 ――楽になるだろうな

 まるで車が豆粒程度の大きさで駆け抜けていく。
 人の大きさなど米粒だ。
「楽に……」
 里美はよろよろとした足取りで一歩、屋上の桟へと近づく。

 ――そう、その下は楽な世界

 上司に責められる事も、顧客のクレームにさいなまれる事もない。とても楽な世界。

 ――楽になれる

 まるで、楽になりましょう?と問いかけるかのような声音。
 里美は屋上の桟に立つ。

 ――さぁ!

 これで体を傾ければ楽になれる。
 何も考えなくても良い。何にも煩わされる事がなくなる。

 それでいいのか!

 里美の中で、何かの感情が爆発する。
 傾けかけていた体が止まる。

 ――?

「死んでたまるか!!」

 里美はばっと体を反転させる。

 今作っていたゲームが自信作だったとしても、この先もっと良いゲームを作れば良い。それだけの事ではないか。
「あたしには、皆が楽しめて皆の心に残るゲームを作り続けるっていう使命がある!」
 作れると信じている。
 だから、
「こんな所で死んでたまるか。這ってでも生きてやる!」
 里美はカツカツとヒールの音を響かせ屋上の扉を開けた。

















 光が、溢れた―――――
















【フラグ3:ガレスの紋章】

「帰ってきたか…」
 落ち着いた声音が耳に響く。
 ゆっくりと眼を開くと、ガレスがやれやれといったような表情で自分を見ていた。
「妖精の眼<グラムサイト>は取得できたようだな」
 ガレスは杖ですっと自分の手の甲を差した。
 つられて視線を落としてみれば、手の甲に幾何学模様の紋章が輝いていた。





next 〜吠える獣〜


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■   獲得アイテムとイベントフラグ詳細      ■
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ガレスの紋章獲得
よって『妖精の眼<グラムサイト>』習得


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0638/飯城・里美(いいしろ・さとみ)/女性/28歳/ゲーム会社の部長のデーモン使い/僧侶】

【整理番号/PC名/性別/年齢/職業/今回のゲーム内職付け】
*ゲーム内職付けとは、扱う武器や能力によって付けられる職です。


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■         ライター通信          ■
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 ゲームノベル版Fairy Tales 〜美しい手〜にご参加くださりありがとうございました。ライターの紺碧です。かなり早い回転で窓がしまってしまいましてご迷惑をおかけしたやもしれません。
 前回のノベルの方へのご参加不在でしたので、ゲームノベルという形として、少々ガレスに出会える理由が他の方々とは違ったのですが、そんなものは水面下の出来事でして、あまり関係ありませんでしたね(苦笑)。Fairy Talesシリーズももう直ぐ折り返しを迎えます。今後ともよろしくお願いします。
 それではまた、里美様に出会える事を祈りつつ……