■ファイル−2.5 殺生石。■
朱園ハルヒ |
【2291】【里谷・夜子】【高校生】 |
伝説上の人物――その大半は俗に言う『妖怪』だ。
数多にわたるその存在の中に、玉藻前と言う美女がいた。
九尾の狐の化身であり、『封神演義』では殷の紂王を惑わせ、国を滅ぼした話はあまりにも有名だ。
その後天竺から中国を経て、日本に渡った彼女は鳥羽上皇の寵妃となったが名のある陰陽師に正体を見破られ、逃げ込んだ那須野で追っ手の矢に射止められ死に至る。
死してなお、石と化した彼女の霊は殺生を続け、人はその石を「殺生石」と呼んだ。
「――その後は、玄翁っつうぼーさんがこの石を割って、玉藻の霊を浄化してやってな。そいつも成仏出来て嬉しいってぼーさんの枕元に立ったって言う話なんだが…まだ続きがあってな」
文献と自分の記憶を頼りに話を続けるのは、特捜部の中で一番永きを生きる、ナガレだった。
他のメンバーは黙って彼の話に耳を傾けていた。それが、最も重要な事になるからだ。
「ぼーさんが割ったその石…3つに飛び散って残ってるって話なんだよ。有毒ガスが漏れてて、鳥とか虫は近づくだけで死ぬらしいんだけどな」
「……じゃあ、その欠片が…今回の石と同じもの…?」
「でもタマモの話って、伝説上の作り話なんだろ? それがどうして現実になって現れるわけ?」
ナガレの話から槻哉が言葉をつなげると、早畝が遅れをとらずに疑問を投げかけてくる。
「しかもナガレの話じゃ小動物と虫が死ぬ程度の毒ガスなんだろ? でも例の石は人間も…だったよな。ガイシャは死んだんだっけ?」
「いや…かろうじて、であるが、息のある状態ではある」
「…どっちにしたって重体であるには変わらんねーって事だろ」
デスクを囲む、いつもの面子の顔色はいいとはいえない状態にあった。いつも冷静な槻哉でさえ、今日は表情を濁らせている。
そう、これは『事件』なのだ。
趣味で妖怪話をしていた訳ではない。
特捜部にその事件の依頼が持ち込まれたのは、つい2時間前の事。
突然、街中に現れた巨大な石。それを触った者たちが次々と倒れ、病院へと運ばれた。見るからに禍々しい石からは、毒ガスのようなものが滲み出ており、現在は誰も近づけない状態にあると言うのだ。
先に様子を見てきたのは、ナガレだった。そしてその石から感じ取った空気に身に覚えがあり、下調べをしたところ、先ほどの話へと繋がっていったというわけなのだ。
「作り話と言ってもね…そう言った『有り得ない事件』を背負うのが僕らの仕事だろう? 今まで請け負ってきた事件で、『まとも』な内容が、一つでもあったかい?」
「…それは、無いけど。まったく」
ふぅ…と一度深く息を吐いた槻哉が、厳しい視線で早畝へと言葉を投げかける。柔らかい口調ではあるが、彼の雰囲気からは少しも余裕は感じられなかった。
早畝も少しだけ引き気味に、彼の言葉に小さい声で答えることしか出来ずにいる。
「どう足掻いたって、俺たちが解決するしか他に手が無いんだろ。身の危険もあるが、やるしかねーじゃん」
半ば諦めたような口調でそう言ったのは、ナガレだった。
その言葉に、斎月も『同感だな』と続ける。二人はすでに、覚悟を決めているらしい。
「…十中八九、敵はキツネだと思ったほうがいい。伝説がどうであれ、そう言う妖怪は存在するんだ。俺は何度も、そんなやつ等を見てきた」
「うん…解った。俺たちで解決できるように、頑張ろう!」
ナガレの言葉に、早畝も腹を括ったのか握りこぶしを作りながら言葉を強調させてそう言った。
それが合図になったのか、斎月やナガレも決意も新たに、姿勢を正して槻哉を見つめ頷いていた。
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ファイル−2.5 『殺生石』
伝説上の人物――その大半は俗に言う『妖怪』だ。
数多にわたるその存在の中に、玉藻前と言う美女がいた。
九尾の狐の化身であり、『封神演義』では殷の紂王を惑わせ、国を滅ぼした話はあまりにも有名だ。
その後天竺から中国を経て、日本に渡った彼女は鳥羽上皇の寵妃となったが名のある陰陽師に正体を見破られ、逃げ込んだ那須野で追っ手の矢に射止められ死に至る。
死してなお、石と化した彼女の霊は殺生を続け、人はその石を「殺生石」と呼んだ。
「――その後は、玄翁っつうぼーさんがこの石を割って、玉藻の霊を浄化してやってな。そいつも成仏出来て嬉しいってぼーさんの枕元に立ったって言う話なんだが…まだ続きがあってな」
文献と自分の記憶を頼りに話を続けるのは、特捜部の中で一番永きを生きる、ナガレだった。
他のメンバーは黙って彼の話に耳を傾けていた。それが、最も重要な事になるからだ。
「ぼーさんが割ったその石…3つに飛び散って残ってるって話なんだよ。有毒ガスが漏れてて、鳥とか虫は近づくだけで死ぬらしいんだけどな」
「……じゃあ、その欠片が…今回の石と同じもの…?」
「でもタマモの話って、伝説上の作り話なんだろ? それがどうして現実になって現れるわけ?」
ナガレの話から槻哉が言葉をつなげると、早畝が遅れをとらずに疑問を投げかけてくる。
「しかもナガレの話じゃ小動物と虫が死ぬ程度の毒ガスなんだろ? でも例の石は人間も…だったよな。ガイシャは死んだんだっけ?」
「いや…かろうじて、であるが、息のある状態ではある」
「…どっちにしたって重体であるには変わらんねーって事だろ」
デスクを囲む、いつもの面子の顔色はいいとはいえない状態にあった。いつも冷静な槻哉でさえ、今日は表情を濁らせている。
そう、これは『事件』なのだ。
趣味で妖怪話をしていた訳ではない。
特捜部にその事件の依頼が持ち込まれたのは、つい2時間前の事。
突然、街中に現れた巨大な石。それを触った者たちが次々と倒れ、病院へと運ばれた。見るからに禍々しい石からは、毒ガスのようなものが滲み出ており、現在は誰も近づけない状態にあると言うのだ。
先に様子を見てきたのは、ナガレだった。そしてその石から感じ取った空気に身に覚えがあり、下調べをしたところ、先ほどの話へと繋がっていったというわけなのだ。
「作り話と言ってもね…そう言った『有り得ない事件』を背負うのが僕らの仕事だろう? 今まで請け負ってきた事件で、『まとも』な内容が、一つでもあったかい?」
「…それは、無いけど。まったく」
ふぅ…と一度深く息を吐いた槻哉が、厳しい視線で早畝へと言葉を投げかける。柔らかい口調ではあるが、彼の雰囲気からは少しも余裕は感じられなかった。
早畝も少しだけ引き気味に、彼の言葉に小さい声で答えることしか出来ずにいる。
「どう足掻いたって、俺たちが解決するしか他に手が無いんだろ。身の危険もあるが、やるしかねーじゃん」
半ば諦めたような口調でそう言ったのは、ナガレだった。
その言葉に、斎月も『同感だな』と続ける。二人はすでに、覚悟を決めているらしい。
「…十中八九、敵はキツネだと思ったほうがいい。伝説がどうであれ、そう言う妖怪は存在するんだ。俺は何度も、そんなやつ等を見てきた」
「うん…解った。俺たちで解決できるように、頑張ろう!」
ナガレの言葉に、早畝も腹を括ったのか握りこぶしを作りながら言葉を強調させてそう言った。
それが合図になったのか、斎月やナガレも決意も新たに、姿勢を正して槻哉を見つめ頷いていた。
再び、現場へと赴いたナガレは先ほどより多くなっている野次馬に眉をしかめた。
「……ったく、見世物じゃねーってのに。警察は何やってるんだか…」
ぽつり、とそう独り言をもらす。そして人だかりを一瞥した、瞬間に目の端に捕らえたもの。
「…あれ?」
見覚えのある人影。慌てて視線を戻すと、ナガレの視界に入ってきたのは一人の少女。
噂を何処からか聞きつけてきたのだろう。心配そうな面持ちで、人ごみの中に紛れ込んでいる。
「――夜子!」
ナガレはぴょんぴょんっと人の間をすり抜けて名を呼んだ少女のもとへ駆けていく。
「…はい…? ……?」
少女は何処から自分の名を呼ばれたのか解らずに、きょろきょろとしている。
「おう、久しぶりだな」
「…きゃっ」
ひょこ、と少女――里谷夜子の目の前に飛び出すように現れたナガレはそのまま、彼女の肩の上に身を落ち着かせる。
当然、夜子は驚き小さな声を上げた。
「あ、悪いな。驚かせちまったか…」
「…ナガレさん…?」
自分の肩の上に乗ってきた白い影。
それを耳と目で確認した夜子は、そこでようやく、表情を緩めた。
「こんにちは。……お仕事ですか?」
「ああ、この先で陣取ってる殺生石の駆除っていう、ちょっと厄介な仕事だけどな」
「殺生石…?」
ナガレの言葉に、夜子は首をかしげた。耳慣れない言葉であるのは仕方のないことだ。
「うーん…まぁ、話してもいいか。妖怪の話なんだけどな…」
夜子は過去に自分たちの手伝いをしてくれた。今もこうして此処で会えたということは何かしらの縁合ってのことだろう。そう思ったナガレは、事件の経緯をなるべく簡潔に、彼女へと話し始めるのだった。
「……玉藻前、ですか…本で読んだことがありますけど…実在したんですね」
少し、人だかりの中から外れた場所まで移動した夜子は、小さくそう言った。肩の上にはナガレがしっかりと乗ったままになっている。
「それを、ナガレさんお一人で?」
「あーいや…早畝たちも何かしら行動起こしてるはずだけどな。ま、今のところは俺一人ってことになるのかな」
夜子は心配そうに、ナガレを見た。
そして彼の返事を聞いた後、意を決したかのように再び口を開く。
「放って置けませんし…ナガレさんお一人というのも心配です。私にも協力させてください」
その言葉を聴いたナガレは、ひとつため息の後にこくりと頷いて見せた。彼女が協力を申し出てくることは、あらかじめ予測していたのだろう。
「無茶すんなよ」
「…はい」
そう言うナガレに、夜子はにこっと笑って返事をした。そして彼らは、現場へと再び足を向ける。人ごみを掻き分け、手配されている特捜部の人間に声をかけて、中へと入っていく。
「……さっきより、空気が濁ってるな…。夜子、強く吸い込むなよ」
「はい…」
緊張した面持ちの夜子を気遣いながら、ナガレは周囲の空気を読む。この辺り一帯を取り囲む空気は、もう殆ど穢れきっている。悠長にはしていられない。
夜子の足元を見れば、すでに息絶えているらしい虫たちが散らばっていた。
「……………」
こくり、と夜子が喉を鳴らしたのを、真横で確認するナガレ。
石からは、まるで威嚇してくるかのような、強い妖気が流れ込んできていた。
「歓迎は…されてねぇな…」
禍々しい空気。透明感の欠片もないそれ。肌が粟立ちそうな――恐怖感。ナガレは自分の毛が意思とは反して逆立っていくのを止めることは出来ずにいた。
「……怨念や悲しみ…この世に負の思いを持って止まってしまうのは、妖怪も人も同じなのですね…」
そう言う夜子の表情は、曇っている。
彼女も能力者。この空気に違和感を感じてないわけはないのだ。
「…夜、―――ッ!?」
ナガレが、夜子の言葉に応えようとしたその直後。
石から噴出したかのような、重い空気。
瞬時にナガレはシールドを張り、それを跳ね除けた。少しでも遅れていたら自分たちも石の放つ毒気に触れて倒れていたかもしれない。
「………今の、が…毒ガス、ですね…」
「ああ、俺がなるべく吸い込まないようにガードするが…気を抜くなよ」
「…はい」
これ以上石には近づかないほうがいいと判断したナガレは、夜子の足を止めさせる。近距離で攻撃などされたら、彼女を守りきれるかどうか解らないからだ。
気を抜けば、石の餌食になってしまう。
「………………」
夜子はただ黙ったまま、石へと視線を投げている。何か、思い当たるものでもあるのだろうか。
そうしている間にも、石は突然現れた邪魔者を排除しようと、有害な空気を放ち続けてくる。
「……感じるか? 夜子」
肩口で、ナガレが石へと視線を向けたままでそう呟くと、夜子は口を開かずにコクリ、と頷き返してきた。
それはまるで、特殊な映像のように。
脳裏へと直に流されてくる、古ぼけたような女の姿と、低い声。
極上の美しさではあるが、瞳が人間のものではない。間違いなく、それは玉藻前の姿だろう。
一般人には、その影さえ見ることも出来ない、姿だ。
真っ赤に染められた艶のある口唇から紡がれるのは、恐ろしい言葉。
声音を確認しただけでも、全身が震える。
ナガレも今までに体験したことの無い感覚なのか、それを感じ取っては身震いをしていた。
―――俺と夜子だけでは、手に負えないかもしれない。
そう、ナガレが内心思ってしまっても、仕方が無い。
今の状態では、逃げることさえ適わないのだから。
小さな焦りを感じ始めていたナガレに向かい、押し黙っていた夜子が、ゆっくりと口を開いた。
「大人しく…鎮まってくれそうにはありませんね…。粉砕、すれば…玉藻前は眠れるのでしょうか?」
「……何か、手があるのか?」
夜子は小さく震えてはいたが、それでも石から決して視線を逸らさず、言葉も震えることなくナガレへと伝えた。
ナガレはその夜子に、僅かな期待を仰ぐかのように言葉を返す。
「………『私』では、到底無理、です…。でも、彼女の力を借りれば…」
半分、独り言のような。
夜子は胸元で自分の手を握り締めながら、そんなことを言った。ナガレには見当もつかない事で、首を傾げるしかない。
「…私には、『紅姫』という存在がいるんです。…憑かれている、と表現したほうが、解りやすいかもしれないんですが…」
「『紅姫』……」
ナガレが聞きなれない名を、繰り返す。
夜子の言葉から汲み取っても、それは良い存在では無いのだろう。だが、それに頼るしか、今は道が無いということも確かなのかもしれない。
「…実は、私から彼女を呼び出すのは…初めてなんです。だから……」
「―――解った、俺が全面的にサポートしてやる。だからお前は、自分をコントロールすることだけに、集中しろ」
ナガレは夜子の言葉の意味を、いち早く理解した。
呼び出したことが無いと言うことは、今までは自我が…『夜子』がそこにいなかったと言うこと。そして、夜子が望まぬ行動を、『紅姫』は起こしてしまうのだろうと。
「……お願い、します」
夜子はナガレへと向かいそう言うと、弱く笑った。
そして彼女は胸の下辺りで祈るように両手を組み合わせて、瞳を閉じた。
『紅姫』を、呼び出すのだろう。
ナガレは夜子を守る体勢を崩さぬまま、彼女を見つめていた。
「……―――」
時間にして、数秒。
その僅かな時の流れで、目の前の夜子は変わっていく。ふわり…と三つ編みが空に浮き、彼女のオーラが塗り替えられていく。
当たり前のように、夜子の変化に、石も反応する。
(………来るか…!?)
ナガレは石のほうへと視線をやり、戦闘体勢を取った。意識を集中させ、シールドを強化させる。
石はナガレたちを排除すべく、その持ち合わせる力を、より黒いものへと変化させていく。
パシ、と目の前から音が聞こえたのは、その直後。
「……っ…やばい…!!」
ナガレのシールドに、ひび割れが入った。
新たなシールドを作り上げようとナガレが大きく口を開けた瞬間。
すっ、と、ナガレの目の前に手を差し出してきたのは、夜子だった。否、それは…夜子ではない、別の存在なのだが。
「………………」
言葉を交わすことなく、彼女は差し出した手を自分の前へと移動し、手のひらを石へと向けた。
そして次の瞬間には、石から放たれた黒い空気を、弾いて見せた。
「…――は…」
言葉を失ったのは、ナガレ自身。
夜子の身体を借りた『紅姫』の力に、驚きを隠せずにいるのだ。
ある意味、玉藻前よりも、恐怖を感じるような――。
「……哀れな…魂」
ゆっくり、口を開いた紅姫の声音は、凍りつくような冷たいものだった。
ナガレが覗き込むと、彼女はちらり、と視線をこちらへと移し、壮絶なまでの冷たい微笑を彼へと送る。赤い、どこまでも紅い色の瞳で。
「――解き放たれるがいい。彷徨いしモノよ」
ゆらり、と紅姫のオーラが揺れた。
差し出された手の先には、彼女が呼び出したのだろう、木刀が姿を見せる。
それをゆっくりと握り締め、紅姫は歩みを進めた。
「…守りを」
肩口のナガレに、一言だけそう告げた紅姫は、真っ直ぐに玉藻前と対峙する。
ナガレは言われるままに、自分と、『夜子』を守るために、新たなシールドを作り上げた。
紅姫に握り締められた木刀は、真っ直ぐに頭上へと伸ばされ、石へと振り降ろされる。
ぶつかり合う、力と力――。
「…………………」
それを間近で見ていたナガレは、背筋がゾクゾクとし全身に電流が流れたかのような感覚を覚えた。
同時に、じわりじわりと削られていく生命の力。……石の、力。
瞬きさえも許されない力のぶつかり合いは、その直後に石の粉砕とともに、掻き消されていった。
石が二つに割れ、粉砕された欠片が散らばる中。
辺りは特捜員の動きが慌しい風景へと変わっていた。槻哉や早畝たちも、その場に姿を見せている。
その、喧騒から少しだけ離れた場で、膝を突いているのは夜子だった。手にしていた木刀で身体を支えていると言った感じで、自分の頭さえ重く感じているようだ。
「……夜子、大丈夫か?」
ナガレが静かに、彼女へと声をかける。そこにはもう、『紅姫』の存在は見受けられなかった。また、夜子の体の中へと戻っていったのだろう。
「――…ナガレさんは…平気、ですか…?」
「俺は見てのとおりだ。傷ひとつ負ってないぜ」
疲れた表情で、夜子はゆっくりと顔を上げた。
慣れないことをしたのだ、仕方ない。自我を保つために、相当な精神力を使ったのだろう。
「無理させたな…今車を手配させたから、少し特捜部で休んでいくといい」
「……ありがとう、ございます」
賭けの様な行動であった。だが、結果としては一番の選択肢だったと、ナガレは心の中でそう思う。
夜子の笑顔は、少しだけ陰りが見えた。
彼女の中に眠る、『紅姫』の存在が気になるところだが、それは自分が奥まで踏み込んでいい問題ではない。
ナガレはそれ以上は何も言わずに、後始末をしているメンバーへと視線を移していた。
「…紅姫が、ナガレさんに迷惑をかけなくて…よかった…」
それは、夜子の独り言。
もちろん、ナガレは耳にしていたが、応えることはせずに夜子を見上げた。
「協力してくれて、有難うな」
ナガレがそう言うと、夜子はまた、微笑んだ。今度は、明るい色を含ませて。
空を見上げれば、夕刻を告げるオレンジ色が薄く広がり始めている。
夜子は、自分の手で解放された玉藻前の事を祈らずにはいられなかった。
――もう、迷うことなどないように。今度こそ真実の愛を、見つけられますように…と。
彼女の優しい祈りは、巻き上げる風に乗り、そのまま上空へと昇っていくのだった。
-了-
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登場人物
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【整理番号 : PC名 : 性別 : 年齢 : 職業】
【2291 : 里谷・夜子 : 女性 : 17歳 : 高校生】
【NPC : ナガレ】
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ライター通信
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ライターの朱園です。今回は『ファイル−2.5』へのご参加、ありがとうございました。
里谷・夜子さま
今回もご参加くださり有難うございました。また夜子さんにお会いできて、嬉しかったです。
紅姫さんの描写を、ドキドキしながら書かせていただきました。多少、脚色してしまった部分もあるのですが
もしイメージなどが違っていた場合は、申し訳ありません(汗
少しでも楽しんでいただければ、幸いに思います。
ご感想など、聞かせていただけると嬉しいです。今後の参考にさせていただきます。
今回は本当に有難うございました。
誤字脱字が有りました場合、申し訳有りません。
朱園 ハルヒ。
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