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■DRUG TREATMENT<<noise 2>>■

哉色戯琴
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
「マジ勘弁だって……時間が経つと段々パワーアップとか、ふつー抜けるだろうよヤクなんて……」

 へにょへにょと弱音を吐きながら目隠しを押さえるギルフォードの手を引きながら歩く。都内でも随分端にあるその旧家の門を見上げながら、溜息を吐く――とんだお荷物を引き受け、とんだ相手を訪ねることになってしまった。
 繭神一族。古代に鬼を作り出し、その力を封じてきた陰陽師の家系。封呪に関してはこと秀でているここの人間ならば、ギルフォードの視覚を封じることもできるだろう。
 原因の除去は後回しに、取り敢えずは進行の食い止めが優先だ。通された部屋の障子を開けると、そこには、意外な取り合わせがあった。

 繭神陽一郎と、三下忠。
 限界ペシミストと高校生三下とも言い換えられる。

「……勝手に失礼を。関連のありそうな事件だったので、場を取り持たせていただきました」

 淡々とした、一種無気力な声で繭神は挨拶をする。勧められた座布団を腰を下ろすと同時に、三下が口火を切った。

「じ、実は、神聖都学園でも今、生徒間に奇妙なドラッグが流行っているんです。ただでさえ曰くの多い土地だからか不登校になる生徒も続出していて、それを封じてもらおうと今日はこちらに……」
「ドラッグって、ガキにも流行ってんのかよ? おいおい、どっから出てんだよー。ちゃんと流出先は調べてんだろーな、あぁん?」

 お前が言うな。
 脚を抓る。

「オカルト好きな生徒が、ネット通販で仕入れたものだとか、聞いてます……暗褐色の液体で、ニオイを嗅ぐとか」
「あ、俺のと同じじゃん」
「名前は『クロイユメ』――アトラスでも、現在調査中、です」

□■□■ DRUG TREATMENT<<noise 2>> ■□■□


「マジ勘弁だって……時間が経つと段々パワーアップとか、ふつー抜けるだろうよヤクなんて……」

 へにょへにょと弱音を吐きながら目隠しを押さえるギルフォードの手を引きながら歩く。都内でも随分端にあるその旧家の門を見上げながら、溜息を吐く――とんだお荷物を引き受け、とんだ相手を訪ねることになってしまった。
 繭神一族。古代に鬼を作り出し、その力を封じてきた陰陽師の家系。封呪に関してはこと秀でているここの人間ならば、ギルフォードの視覚を封じることもできるだろう。
 原因の除去は後回しに、取り敢えずは進行の食い止めが優先だ。通された部屋の障子を開けると、そこには、意外な取り合わせがあった。

 繭神陽一郎と、三下忠。
 限界ペシミストと高校生三下とも言い換えられる。

「……勝手に失礼を。関連のありそうな事件だったので、場を取り持たせていただきました」

 淡々とした、一種無気力な声で繭神は挨拶をする。勧められた座布団を腰を下ろすと同時に、三下が口火を切った。

「じ、実は、神聖都学園でも今、生徒間に奇妙なドラッグが流行っているんです。ただでさえ曰くの多い土地だからか不登校になる生徒も続出していて、それを封じてもらおうと今日はこちらに……」
「ドラッグって、ガキにも流行ってんのかよ? おいおい、どっから出てんだよー。ちゃんと流出先は調べてんだろーな、あぁん?」

 お前が言うな。
 脚を抓る。

「オカルト好きな生徒が、ネット通販で仕入れたものだとか、聞いてます……暗褐色の液体で、ニオイを嗅ぐとか」
「あ、俺のと同じじゃん」
「名前は『クロイユメ』――アトラスでも、現在調査中、です」

■モーリス/シオン/蘇鼓■

「ふいんふいん、ふいーん。よし、来た。解決策はただ一つ。その一つを親切な俺サマが提示してしんぜヨウ。ずばーり」

 きらりん。
 逆光を背負った舜蘇鼓の手元、鋭角過ぎる鋭角の金属が鈍くも禍々しく光を纏う。ギルフォードは土気色の顔に染み付くような青さを浮かべ、冷や汗と共にそれを見上げる。

 やばい、今の状況宇宙ヤバイ。テラ単位でヤバイ。だってほら、相手。アイスピック持ってるから。しかも何か、凄い。だって今まで精々幽霊単位でしか見えなかったわけ。なのに今、なんか羽とちまちま手足の生えた肉団子まで見えるから。蘇鼓の頭の上でむぎむぎ髪握ってんの見えるから。やばい、マジやばい、つーか、

「何でテメェ俺に圧し掛かって来んだよ、つーかそれ危ないから、むしろなんか幻覚見えるから!」
「遠慮すんなってギル、怖い怖いコトがあるなら、見ない為には眼ェ抉っちまえば良いんだって。どーせ今だって眼帯ライフなんだから、今更見えない眼が一個増えたところで無問題」
「眼は二個しかねぇんだよ!」
「そうです、そこは目隠しで何とか乗り切るのが一番の方法なのです! さ、この手製アイマスク(らぶらぶハート型、ウサギの刺繍入り、ふりふりレース使用)をどうぞ!」
「シオンてめぇ裏切りッ」
「と言うか、もう視覚の段階は過ぎて触覚まで浸透していますからね。眼やら何やら、抉っても隠してもあまり意味はありませんよ?」

 繭神家の床の間、組み合う蘇鼓とギルフォード、そしてそこに悪意無く加担するシオン・レ・ハイの様子を眺めながら、モーリス・ラジアルは三下の頭を撫でていた。少し困ったような表情を浮かべながら、三下は座卓に向かってかりかりと原稿を書いている。とは言ってもアトラス用のものではない。手書きのそれは、リーフパンフレットの下書きだった。

 蘇鼓を捕獲したのは、シュライン・エマだった。外へと聞き込みに出た所、道端で楽しい弾き語りライフを楽しみながら、道行く人を捕まえて暗褐色の液体が入った小瓶を見せていたらしい。どうやら彼自身もそれを拾っただけで何かは判らなかったようだが、しっかり遊んだ後ではあったようだ。んぉ、と蘇鼓は視線を上げ、あらぬ方向に手を振る。何が見えているのか、考えてはいけない。
 進行速度に関しては、摂取時期が違うためか、まだ初期――視覚的に霊を感じるだけ、ではあるらしいが、新しいサンプルとしては中々に重宝出来る。のか、なぁ。ぐりぐりと三下の頭を撫でながらモーリスは思考する、やはり少年の髪質は柔らかくてサラサラで実に手触りが良い。四コマ描いていようがそんなことは気にしない。

「あ、あの……シオンさん、取り敢えず下書きが、出来ました」
「ああ、すみませんお任せしてしまって! これはお礼です、どうぞ使って下さいっ」

 揉み合い決闘に縺れ込んでいる蘇鼓とギルから離れたシオンが、ぺほ、と三下の頭に手製アイマスクを乗せた。レースがふんだんにあしらわれているそれは、パッと見にヘッドドレスのようにも見える。三下の美少女顔には妙に似合って、モーリスはククッと小さく噴出した。しかも、シオンは三下を女性だと思っているようだし。

「やっぱり女の子にはそういうのが似合いますね、ボーイッシュも良いですが、たまにはスカートなども良いものです!」
「……い、いえ、あの、僕は」
「そうですよ忠『ちゃん』、今度機会があったら私とお出掛けしませんか? 可愛い服を見立てて差し上げますが。ああ、勿論お望みなら今からでも今すぐでも用意は出来ますし」
「も、モーリスさん、からかわないで下さいっ! だから僕はーっ」
「そうですからかうのは駄目です、かよわい女性をいじめるのは良くないです!」

「……あいつら、何やってんの?」
「天然ボケと弱気っ子をいぢって楽しんでんだろ」

 決闘ごっこを終えた蘇鼓とギルは、まったりと部屋の隅で茶菓子をつついていた。

「ああ、そうそう。蘇鼓さん、簡単なアンケートを取らせて頂いても?」
「ういー? スリーサイズは公然の秘密だけど、それ以外なら俺答えちゃうぜィ?」
「裸族裸族ー」
「うっせぇギル、眼ぇ抉り出して食わすぞ。それとも褌姿写メられてェか。ま、それは置いといて何事だ、ッと」
「貴方はこの薬が入った小瓶を拾ってから、どのくらい吸引しましたか?」

 モーリスの言葉に、蘇鼓はギルの鼻に突っ込もうとしていた手を止め思案する。確か拾ったのは週末でごった返していた数日前、六本木に落ちていた。飴玉と一緒だった、美味かった。拾い食いがデフォルトなんてことはない。だって別に死なないもん。

「感覚が面白かったから、免疫レベル人間程度にしてー、一日一回とかそんな感じで一服気分に? で、面白かったから通り掛かりの連中にもやってみたっけ。どーなッたのかは知らネ」
「無責任は感心しませんが。となると、無作為に使用者が拡大している原因はそこにもあるのかもしれませんね……まだ霊障の類は起こっていないんで?」
「おう。暇潰しに色々調べちゃ見たケド、当たり星も無かったなー」

 ふむ、とモーリスは頷く。
 吸引回数を増しても症状が進行するわけでは、ない。だとしたら時間の問題なのかとも思えるが、それも少し違う。ギルフォードがドラッグに触れたのと蘇鼓が拾った時期は近いが――個体差として片付けるには、まだサンプルが少な過ぎる。もっと集めるなければ、なるまい。薬に触れた人間を探す。使用者が拡大しているのならばそれほど面倒でもないだろうが、探しに行くタイムロスは少し痛いかもしれない。出来ればこの薬も、然るべき場所に持って行って調べたい所だし。

 手の中には、薬。
 部屋の中には、モルモット適正者が二人。

 …………。
 流石にしないけどね。彼は立ち上がり、襖に向かった。

「少し、学園にも向かってみます。好みの生徒――もとい、ドラッグに触れた生徒を探して、少し接触してみることにしましょうか。サンプルが取れたら、薬の解析に回ってみます」
「き、気をつけて、行ってらっしゃいです……」
「…………。忠くん。一緒に来るかい?」
「あ、顎に手を掛けて上げないでくだしゃいぃー!」
「ち。そこのおにーさん達に何かされそうになったら、怖い話を知っている限り聞かせるんだよ。のた打ち回って怖がる人が一人出るから」
「いやー、怖い話イヤー!!」
「って僕も嫌でしゅぅぅう――――ッ!!」
「忠さん安心してください、私が頑張って守りますから! ウサギさんお守り袋があれば大丈夫です!」

 今日も楽しい絶叫日和。
 モーリスは笑って、襖を滑らせた。

■燎■

「んで?」

 にィ、と笑った燎の腕は、一人の男の首に掛けられていた。親しそうに肩を組んでいるように見えてその実、いつでも首を極められるという脅しにしかなっていない格好。ブランド物のスーツに身を包んだ男は引き攣った笑いを浮かべて燎を宥めようとしていたが、足元に転がっている警護の人間達を見れば、下手な動作の気力も失せる。
 看板の出ていない半地下の薄暗い店。調度品はどれも一級のアンティーク、そこは、所謂秘密クラブと呼ばれる集団の邂逅場所だった。先日ギルフォードが立ち寄った場所とは違うが、することは同じである。非合法すれすれか、アウトの遊び。そのスリルを楽しむこと、ばかり。

 そういった場所に馴染んでいる友人が一人でもいれば、潜入は容易いものだった。ガードを振り切り、『友好的』なお話の時間。すい、と閃かされた銀色のナイフは、威嚇に充分な代物である。実際は刃が丸いペーパーナイフだが、そんなこと極限状態に追い詰められていれば判ることでもない。

「学生連中にまでドラッグってのは、あんま関心しねぇよなぁ。餓鬼ってのは馬鹿だからな、周りの迷惑顧みずに自分の身体ボロくしていく。どっかの馬鹿犯罪者ならまだしも、無知な相手誑かすのは関心しねぇな?」
「な、なんの、こと」
「『クロイユメ』、ってのはどっから卸されてる?」

 燎の言葉に、男の顔色が眼に見えて変わる。

 被害がギルフォード一人ならば、わざわざこんな場所に乗り込んでやる必要もなかった。それでも、被害は広がっている。しかも子供にまで。そうなれば本腰を入れて調査しないわけにも行くまい――不意に沸いてくるのは、苦い経験。彼自身も高校生の頃には、大概の悪事をやらかした。些細なことから大事まで、そして、迷惑を掛けた。ぐちぐちぶつぶつと小うるさい弟も、その時の事に関しては一切小言を言ったことが無い。無かったことにして良いと許され、呆れられ、嘆かれるほどには――自分の身体をずたぼろに、した。
 だからこそ、同じような道を辿り掛けている奴がいるのなら、放っておくのは気持ちが悪い。多少は弾けてでも、調査を進めなくてはならないだろう。ぺたりとナイフが男の頬に触れる、が、
 男は表情を変えなかった。
 蒼褪めたままで、震え続けていた。

「……い、えない」
「あん?」
「言えば、こっちの身が危ないと言ってる――正確なルートは、私だって知らないものだ。巡り巡って、流れてくるだけ。メンバーの一人が持って来て、それ以来このクラブでも流行り出しただけだ」
「そいつは誰だ?」
「だから、言えない。名を言えばただでは済まない、そういうレベルの相手なん」

 言葉が途切れる。
 すっぱりと、音がした。
 ような、気がする。
 弾けるように飛び散る鮮血の音は、確かに響いていたけれど。

 目の前を僅かに掠めた陰に向かい、燎は反射的にナイフを振るった。ペーパーナイフと言えど高純度の銀、魔性を帯びたものには絶大なダメージを与える。キィッと虫のように鳴いたそれは、カマイタチの一種らしかった。ただし三匹の内の一匹、ただ単純に切り裂く、それ。男は喉を抉るように半分以上を切断されている。びくびくと動いてはいるが、夥しい出血量だ。助かりはしない、だろう。
 ぎりッと、歯が鳴る。
 燎は拳を壁に叩き付けた。

■シュライン/アゲハ■

「よく観察してみたら、案外クラスでもこそこそしてる子達がいるんですよね……今までは全然気が付きませんでした」

 久良木アゲハは息を吐いて、月餅を刺した竹串を口元に運んだ。
 神聖都学園の近くにある茶店の前、彼女はシュライン・エマと放課後を過ごしている。もう少し学校に居残って取引の現場等を探すこともしたかったのだが、ともかく情報の疎通が優先だ。まだ少し熱い茶を喉に流し込み、口唇を湿らせる。

 ドラッグの蔓延が高校生レベルにまで浸透していると言うのは、正直信じられなかった。確かにきょうび珍しくないことではあるが、それでも、あの広大な学園でかなりの数になる生徒が手を出しているという状態は異常である。
 校内ではあまり、目端を気にしないようにしていた。その所為なのか今までは気付かなかったが、確かに挙動不審な生徒が多い。隠すように机の中を気にする男子や、こそこそとした遣り取りを手洗いで繰り返す女子のグループ。学校と言う場所は隔絶されている、だから、安心していたのかもしれない。もう少し、早く、気付けただろうか。

「男女比はそんなに目立った差もありません、少し女の子が多いぐらいです。区別されていると言う事はなく、知っている子達の間では、流通が滑らかですね」
「売人、になるのかしら。そういう役の子がいるのなら、上に繋がっていると思うのだけれど」
「私もそれは考えたんです。だから、体育の時間にちょっと失敬して机の中を」
「……漁ったの?」
「はい、ざくざくと」

 通常は犯罪ですからやめましょう。
 そんなテロップが入っているのは幻覚だ。

「携帯電話のメモリーを見てみたんですけれど、やっぱりそれらしいものはありませんでしたね。一応アドレス帳なんかのデータは写しましたが、共通するものとかは一切見付けられませんでした」
「うん、ご苦労様。ほかには、何か気付く点、なかったかしら」
「……うーん」

 例えば、一週間時間を遡る。
 確かその頃は、出没している通り魔の噂で持ちきりだったように思う。学園の近くでの犯行だった為に生徒も何人か襲われていたし、体育系の部活ですら明るい内に切り上げていた。教師達も見回りをしていたし、生徒も有志で警戒をして。アゲハ自身も、こっそりと、それを探って。死人は出ていないし重傷者も出ていない、だが、相手の姿が見えないのはやはり恐怖だった。

 ふと、アゲハは思い至る。
 不安な状態。それを打ち消す逃避としてのドラッグ。
 この状態に、何か因果関係があるのだとしたら。

「私は、もう少し年齢層を上げたところで聞き込みをしてみたのだけれどね」
「あ、はいっ」
「近隣、学園の子達が立ち入るようなお店とか、大学部とか。そっち側では勘付いている気配が無かったみたいなの。少し様子がおかしい子もいたけれど、多分通り魔の所為だろう、って。この辺りで出ているって言われたけれど、本当?」
「はい。私がギルフォードさんとかち合ったのも、その調査の最中でしたし。ただ趣味でやっていただけですけれど」
「ここの因果関係は、気になるところよね……。それと、使用者の子供達の一派、見付ける事が出来たわ」
「一派? と言いますと」
「文字通り、ね。症状に怯えてみんなで固まっているの。そこで判ったのだけれど――――」

 半日ほど聞き込みを続けていたのは、学園の近くの商店街だった。歩き回っているととある一団が目に付く。制服姿、神聖都学園高等部の生徒達。少年少女が五・六人ほど固まって、怯えるように店を渡り歩いていた。声を掛けたところで補導員と間違われたが、事情を話すと、少女達が泣き出して。
 暗い場所に耐えられなくて一人でいるのに耐えられなくて、二十四時間のファミレスを転々としながら交替で眠っている。怖いものが襲ってくるから、皆でそれから逃げ出して隠れる。彼らは『怖いもの』と表現した。それは必ずしも、霊と言う形ではないらしい。
 クロイユメ――黒い、夢。

「見えるのは、霊に限ったものじゃないみたい。危害を与えたりするのは確かにそれなのだけれど、彼らの視覚が捉えるものは、必ずしもそれとイクォールじゃないのね」
「怖いもの――例えば昔のクラスメートとか、犬とか、顔形のまるでわからないはずの通り魔とか。自分の感覚にあるものと言うことですか?」
「そうかも、しれない。でも、そんな薬をばら撒くことに何の意味があるのか判らないわ。実験だとしたらサンプルの状態は細かに観察しなきゃいけないはずなのに、現状ではまったくそれがなされていない。それと、子供達の言葉で判ったのだけれどね……薬を嗅ぐと、生じようが緩和されるみたいなの」
「……え?」

 植えつけられた恐怖を発露させる薬が、同時にその記憶を閉ざす。ループ状に、一人あたりの摂取量が増えて行く。

「その子達は怖くなって薬は止めたのだけれど、やっぱり治らないみたい」
「どういう……こと、でしょう」
「それはまだ調査中、ね」

 シュラインは湯呑に口を付ける。アゲハは制服のポケットに触れた。
 そこには、クラスメートの机から拝借したあの暗褐色の液体が入れられた小瓶の感触があった。

■□■□■

「ドラッグ撲滅、よろしくおねがいしまーす! 危ないドラッグが流行っていまーす!」
「……なーシオン、なんで俺らチラシ配りしてんのん?」
「愛は地球を救いまーす、地球環境保全の為の募金にご協力……」
「や、それは真の意味でキャラ違う!」
「はッ! これは失敗です、危うく殴られて目が飛び出すところでした……ともかく、ドラッグに対する警戒、お願いしまーす!」

 神聖都学園前。
 短い部活後、下校時間になった生徒達に向かって、シオンと蘇鼓はリーフパンフレットを配っていた。曰く、『こわいドラッグにはきをつけて!』。交通安全もびっくりな可愛らしいイラストと、四コマによるドラッグの恐怖説明。劇画タッチの警告缶バッヂ(製作/三下忠)、そしてうさぎさんマスコット。
 それを配るおぢさんと、強面おにいさん。
 怪しさは、満点だった。

「ですがこうやって注意を促せば、みなさんドラッグさんに対して何らかの危機感を覚えるはずです! 愛で青少年を救うのです!」
「救えるのかねぇー、俺としては疑問……むしろシオン、お前さん確か今文無しに限りなく近い状態だとか言ってなかったっけか? なんか食糧の買出ししたとかで。印刷代その他諸々は何処から」
「後で必要経費としてギルフォードさんに貰います……。この印刷は、繭神さんのお宅のコピー機で済ませましたから問題ありません!」

 しゅたたたたた!
 言いながらも、シオンは高速でチラシを配っていた。悲しいアルバイターの処世術である、その動きを蘇鼓は携帯で激写する。恐怖、白昼チラシ男――笑いのツボは判らないものだ、いそいそと彼はそれを待ち受けに設定する。すると、携帯の液晶画面の中に、一人の少女が入った。

 蘇鼓は顔を上げる。
 小柄な少女が、睨むようにこちらを見詰めながら立っていた。
 彼女はゆっくりと近付いて、そして口唇を開き、

「……あなたたち、何をゲフッ!」

 吹いた。
 少女の頭には、不細工なペリカンがヒットしていた。

「ごらぁ、何が自然に帰りてぇだテメェ式神の癖に――ッて、あぁ? 何やってんの、お前ら」
「あ、燎さん、偶然ですね! 一緒にちらし配りでも如何」
「じゃなくて! 貴方達、あまりことを大事にしないで! こっちが動きづらくなっちゃうんだから、はい撤収、撤収!」
「あぁ? こっち、って、嬢ちゃん何モン?」

「私は――茂枝萌。IO2のエージェントだよ」



■□■□■ 参加PL一覧 ■□■□■

4584 / 高峯燎       / 二十三歳 / 男性 / 銀職人・ショップオーナー
2318 / モーリス・ラジアル / 五二七歳 / 男性 / ガードナー・医師・調和者
0086 / シュライン・エマ  / 二十六歳 / 女性 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2318 / 舜蘇鼓       / 九九九歳 / 男性 / 道端の弾き語り・中国妖怪
3356 / シオン・レ・ハイ  / 四十二歳 / 男性 / びんぼーにん(食住)+α
3806 / 久良木アゲハ    /  十六歳 / 女性 / 高校生

■□■□■ ライター戯言 ■□■□■

 やっぱり長くなりました……お疲れさまでした、ライターの哉色です。この度はDRUG TREATMENT<<noise 2>>に御参加頂きありがとうございました、早速納品させて頂きますっ。段々と新しい情報が出ているようで中々進みの判らない状態ですが一応次回で『転』になります。ごろごろ転がるようでテンポは悪めですが、お付き合い頂ければ幸いです。