|
■【セフィロトの塔】ばってん羊■ |
斎藤晃 |
【0644】【姫・抗】【エスパー】 |
セフィロトの塔には数多のタクトニムがいた。その中でも彼は群を抜いて特殊だったろうか。
人工知能で自律行動するシンクタンク。二足歩行し、背中にバズカーを背負い、両手には二挺のリボルバーを握っている。
見た目は羊以外のなにものでもない。
体長150cmがタクトニムの中では小柄な方なのか大きい方なのかは定かではないが、彼はもこもこの羊毛に覆われた可愛い羊である。
だが、見た目に騙されてはいけない。
孤高の羊。一匹狼、されど羊。
そう。彼は羊の皮を被っただけの恐るべきシンクタンクなのだから。
右目は戦いの中で失ったのか、十字の傷を持つ。残る左目が鋭い眼光を放っていた。
思った以上に俊敏な動きを持ち体術にも優れた彼は、今日もいつものようにセフィロト内を徘徊し、屈強なビジターの訪れを待っている。
ただ戦う事が好きなのか。
彼が求めているのは獲物なのかそれとも好敵手なのか。
名もなき彼をビジター達はこう呼んでいる。
――ばってん羊。
|
【セフィロトの塔】ばってん羊
【Opening】
セフィロトの塔には数多のタクトニムがいた。その中でも彼は群を抜いて特異だったろうか。
人工知能で自律行動するシンクタンク。二足歩行し、背中にはバズカーを背負い、両手には二挺のリボルバーを握っている。
見た目は羊以外のなにものでもない。
体長150cmがタクトニムの中では小柄な方なのか大きい方なのかは定かではなかったが、彼はもこもこの羊毛に覆われた可愛い羊であった。
だが、見た目に騙されてはいけない。
孤高の羊。一匹狼、されど羊。
そう。彼は羊の皮を被っただけの恐るべきシンクタンクなのだから。
右目は戦いの中で失ったのか十字の傷を持ち、残る左目が鋭い眼光を放っている。
思った以上に俊敏な動きを持ち体術にも優れた彼は、今日もいつものようにセフィロト内を徘徊し、屈強なビジターの訪れを待っていた。
ただ戦う事が好きなのか。
彼が求めているのは獲物なのかそれとも好敵手なのか。
名もなき彼をビジター達はこう呼んでいる。
――ばってん羊。
【妲妃降臨】
PKバリアが姫抗の体を包みこむ。
リボルバーから吐き出される弾丸をバリアで弾き返しながら彼は一気に奴との間合いをつめた。
奴の弾切れにバリアを解き、詰めた間合いに回し蹴りを叩き込む。
奴のレバーを狙ったその一撃は、その右腕にガードされた。
互いに一歩分間合いを開ける。
どこから風が吹いたのか砂塵が舞った。
右目のばってん傷に死角を狙った筈の攻撃があっさり防がれて尚、いやそれ故にか、抗は口の端を楽しげに歪めた。
それに奴もニヤリと笑みを返す。
互いに好敵手と感じとったか。
だが次の瞬間、奴と抗は大きく後方に跳び退いていた。
2人の間に割って入ったのは一体の狐、白銀の獣毛に覆われた狐の獣人である。
見覚えのある顔に抗はファイティングポーズをとくと、小さく肩をすくめてみせた。
「やっと見つけたわ……ばってん羊……」
彼女は抗には目もくれず奴だけを睨み据えて言った。
もこもこのふわふわのウール100%を少しだけ埃にまみれさせ、奴――ばってん羊は左目で白神空を睨み付けている。戦いに水を注されて少しイラだったような顔つきだが、あくまで沈着冷静を装っている。
狐の獣人【玉藻姫】に変化していた空の体から銀毛が消え、妖艶な美女へと変貌を遂げた。
獣化を解いたのか、はたまた二段階変化でも出来る様になったのか。
「ジャパニメーションチックでしょ? あらゆる術を使える【妲妃】よ」
と、彼女はのたまった。
しかし、どっからどう見てもいつもの彼女である。
「あらゆる術って?」
抗が尋ねたが、彼女はそれを無視してウェストポーチからバリカンを取り出した。
それをばってん羊に掲げてみせる。
「あたしの幸せの為、その羊毛、いただくわ!」
宣言するやいなや、空はばってん羊に向かって駆け出していた。
しかし相手は草食動物である。見た目は。
故に肉食獣――雑食だけど――のハンティングには滅法敏感であったのだ。危険を察知した彼は空が走り出すより速く動いていた。
「えぇい! 何をしている抗! ジンギスカンを逃す気か!?」
少し離れた場所で持参の七厘に炭を起こしていたゼクス・エーレンベルクがしゃがんだまま声を張り上げた。
抗がやれやれと肩を竦める。
弾切れを不利とみたのか、ばってん羊は手近の家に飛び込み姿をかくしてしまった。
それに、空がゼクスのセリフを聞き捨てならない形相で振り返る。
「何ですって!? ゼクス、あんたアレを食べる気ぃ!?」
「無論。その為に追って来たのだ。あ、勿論毛皮は売るぞ」
ゼクスがシレッと答えた。相変わらずの無表情である。
「馬鹿言わないで。羊毛は刈ってもまた伸びるのよ。ウールを売ったお金で羊の肉を買えば毎年ジンギスカンが食べられるのに、今アレを食べちゃったら、1回こっきりで終わりじゃない!」
空が言い放った。
ちなみに、問題はそんなところにはない。たぶん。
ばってん羊は羊の皮を被ったシンクタンクである。故にモンスター系ではない彼に食べられる部分などあるわけがないし、羊の毛も再び伸びる事などないだろう。
だが、彼らにはそんな事はどうでもいい話であった。
「む……」
ゼクスは言葉を詰まらせた。
「あたしの幸せの邪魔をするようなら容赦しないわよ」
空が両手を腰にあて、どうだまいったか、と言わんばかりにゼクスを睨み下ろした。
「ど……どうしよう、抗。俺は今ジンギスカンが食べたいんだ」
ゼクスが顔には殆ど表れていなかったが、おろおろとした口調で抗を見上げた。食べ物が絡むと、深慮遠謀より目先に弱い彼である。
「俺に相談するなよ、そんな事」
「あの羊毛を売ればジンギスカンだけじゃなくエビフライも食べられるわよ」
空がしゃがんでゼクスの耳元で甘く囁いた。「エビ」の部分に若干の力をこめて。
それでゼクスはあっさり落ちた。
「エビフライか。そうか、エビフライじゃ仕方ないな。よし抗、羊毛ゲットだ」
エビと聞いては彼も折れねばなるまい。無類のエビスキーである。
「あ、そう」
抗は呆れてそれ以上の言葉が出ない。
「しかしそうすると、羊毛は山分けになるのか?」
ふと思いついたようにゼクスが空に尋ねた。
「バリカンを持ってるのはあたしよ。そうね。大まけにまけて7:3でどうかしら? 勿論あたしが7だけど」
「何ぃ!?」
空の言葉にゼクスが立ち上がる。
「あぁ、なるほど。中身が【妲妃】さまだったのか」
抗が納得げにぽんと右手の拳で左の手の平を叩いた。さっきの第二段階変化の話をしているらしい。
「こっちは2人だぞ。7が俺達なら構わんが」
「馬鹿言わないで。そんな事したらリマの羊の着ぐるみパジャマが作れないじゃない」
「手袋と帽子のセットだって充分かわいいだろ」
ゼクスの言葉に、空の視線が宙をさ迷う。
もこもこの手袋と帽子をしているリマを想像してみた。帽子には羊の角が生えていたりする。確かに可愛いかもしれない。
「わかったわ。じゃぁ、可愛い子を紹介してくれたら考えてあげる」
「リマがいるじゃないか」
「あら、それとこれとは話しが別よ」
「何が別なんだ……」
ぶつぶつ言いながらゼクスは腕を組んで考えた。とはいえ交友関係のさして広くない彼である。
「仕方ない。これでどうだ?」
ゼクスは抗の腕を掴んで引っ張り寄せると言った。
「へ?」
「うさ耳もついて可愛いぞ」
抗の帽子についているうさ耳の先を指でつまんでびろんと広げてみせる。
「おいおいおい」
空が品定めでもするかのように抗の顔を覗き込んだ。
「あら、帽子かぶってたし、前髪がばさばさだったから気付かなかったけど、なかなかの美形だったのね」
「リマより1つ年少のピッチピチだ」
「わかったわ」
「うむ。では5:5だな」
「あら、6:4よ。勿論あたしが6ね」
「なに!?」
「その代わりエビを付けてあげるわ」
「わかった」
商談成立したらしい。抗は呆気にとられたまま2人を見つめていた。
「腐ってもエビって言ってくれる人間は扱いが楽でいいわね」
ゼクスには聞こえないような声で空がボソリと呟いた。本人は胸の中でだけ呟いたつもりだったらしいが、それは音声化され、抗の耳に入っていた。
「正しく【妲妃】さまだな……」
勿論、本当に腐っていたら、さすがのゼクスでも怒るだろうが、賞味期限切れ程度の腐りかけ寸前なら、彼の胃袋には大した影響を及ぼす事はない。だから見切り品でもエビなら彼は大いに喜ぶだろう。
恐るべし、第二段階変化。
「あの……俺の意思とかは?」
抗が2人に尋ねた。
「ない」
きっぱりゼクスが言い切った。
「あら、あたしじゃ不満?」
空が意味深な笑みを向ける。とても断れないような笑みだった。
「いえ、綺麗なお姉さまは大好きです」
抗が笑みを返すと、空は満足げに微笑んだ。
正しく【妲妃】さま……。
かくして抗と空は、ばってん羊の入っていったその家に飛び込んだのだった。
【うさ耳とわたし】
徘徊する二足歩行羊「ばってん羊」。
彼の噂を聞いて以来、シュワルツ・ゼーベアは夜も眠れなかった。これが恋というものだろうか。勿論誤解。
是非一度会ってみたいと常々思っていた彼は、仕事の休みを利用して、彼の目撃情報を手に、とうとうこの日彼に会いに来たのだった。
セフィロトの塔内ヘルズゲート奥、第一区画都市マルクト住宅街、通称――誰もいない街。そこにばってん羊がいるという。
白いふわふわのもこもこがシュワルツは大好きだった。
特にご主人様からもらった白いあざらしのぬいぐるみは宝物である。
しかし今度のは動くのだ。想像しただけで心躍るようだった。彼は期待に胸を膨らませてばってん羊を探した。
だが、彼は羊ではなくうさぎを見つけてしまった。
いや、うさぎというには語弊がある。
白くてふわふわのうさぎだったならシュワルツのおめがねにかなったろう、可愛かったかもしれないが、それはピンク色をしていた。いや勿論、ピンクが可愛くないというわけでは断じてないのだが。
体長2m以上はあるだろうか、それでもシュワルツより一回りは小さかったから抱き枕には丁度いいサイズだった。但し、絶対抱きたくないタイプなのだ。
ピンクのうさぎ。いや新種のタクトニムだろうか。羊のタクトニムがいるのだから、うさぎのタクトニムがいたっておかしくはないだろう。うさぎの耳にピンクの毛。よく見たら首から下は毛ではなくピンクのメイド服に覆われていた。メイド服からはみ出した筋肉質の腕や胸板や足に、シュワルツは心なしか気分が悪くなる。
そういえば少し前、ご主人様が恐ろしいメイド親父を見たという話をしていなかったか? よくよく見れば、それに特徴がかなり一致する。
もしかしてあれはタクトニムではなく人間なのか?
と考えていると、突然、傍の家の壁が火を吹いた。
何事かと身構える。崩れた壁の向こうから白い影が躍り出した。
「…………」
白いふわふわもこもこの羊毛に、戦闘で負傷したのか右目のばってん傷。あれに見えるは正しくばってん羊。
鋭い眼光を放っていても尚可愛い。
見た目にすっかり騙されてしまうのも、彼が可愛すぎるからいけないのだ。
これはもう、運命の出会い。
となれば、やっぱり愛情表現は一つしかない。
ハグである。
全力でシュワルツは白いふわもこのばってん羊に抱き付いた。
はっぎゅーーーーーー!!
しかし、シュワルツが抱きつく寸前ばってん羊はよけていた。
シュワルツはばってん羊を捕らえきれなかったのだが、感動のあまり直前で目を閉じてしまった為、その事に気付かなかった。
相手も同様だったらしい。
相手――?
「あら? 大きくなったし、ふわもこじゃないわね」
と相手が呟いた。
「…………」
シュワルツは開けた目をこれ以上ないくらい見開いた。
彼が抱きしめていたのは、ばってん羊ではなく、あろう事か先ほどのピンクのうさぎだったのだ。しかも親父。
力一杯抱きしめあった2人であったが、特に2人とも壊れた様子はない。頑丈なオールサイバー同士である。
ばってん羊を追いかけてきた抗と空が、ひしと抱き合っている二人を呆気に取られた面持ちで見守っていた。
それからふと、我に返ったように空が尋ねた。
「お邪魔だったかしら?」
【うさ耳トリオ見参】
「何ですって、毛を刈る!?」
ピンクのうさ耳親父メイドことらびー・スケールが声をあらげた。
「いけません! そんな事したらせっかくのふわもこが!!」
シュワルツも声をそろえた。
それにらびーがシュワルツを振り返る。
「あら、シュワルツちゃんもそう思う?」
「はい」
シュワルツは力強く頷いた。
「なんだかな」
2人、誤解らしきものはとりあえず解けたが、抗は複雑な面持ちで肩をすくめてしまった。
「当然よ。ウール100%なんだから」
空が2人の巨体に臆する事無くバリカンを翳して食ってかかった。
「毛を刈ったら可愛くないわ」
らびーが抗議する。
「可愛いとか可愛くないは関係ないわ」
空が斬って捨てた。
「ジンギスカンになって腹の中に入ってしまえば同じだしな」
ゼクスが空に加勢する。
「何ですって!? 食べる!? ダメよ。あれはらびーちゃんがペットにしたいんだから」
「そうですよ。是非、お友達になりたい愛らしさなのに」
らびーとシュワルツが再び声をそろえた。
「やっぱりシュワルツちゃんもそう思うわよね」
「当然です」
「らびーちゃん達もしかして気が合うわね。そうだ、これ、お近づきのし・る・し」
そう言ってらびーは、予備のうさ耳バンドを取り出すとシュワルツの頭にセットした。伸縮自在のバンドがぴったりとシュワルツの頭にフィットする。
「……これ、ですか?」
可愛いものは好きだが、自分が可愛くなるのはちょっと違うような気がするシュワルツが、少し怯んだように言った。しかし、似合うわと言うらびーの言葉にのせられたのか、はたまた勢いに負けたのか、はずすまでには至らなかった。
そうして2人は再び空に向き直る。
そんないつ果てるともしれない平行線に、抗が辟易と言った。
「まぁ、あれじゃね? どっちにしても生け捕りなんだからさ」
PKバリアをはりながら4人に目配せする。
ばってん羊がどこから持ってきたのかガトリングガンを撃ってきていた。こんな事で喧嘩をしている場合ではなかったのだ。
「それも、そうね」
空が頷いた。
「まずは捕まえないと、逃がしたら元も子もないわ」
皆が一致団結する。
ゼクスを除いた4人がばってん羊に向き直り戦闘態勢に入った。言うまでもない事だが、貧弱大王ゼクスは戦力外である。
ばってん羊と対峙したらびーが、ふと、首を傾げた。
「あら? どうしてかしら。今一つときめかないわね。あんなに可愛いのに萌えが足りないわ」
「は?」
呟くらびーに思わず空が振り返る。
「そうよ! うさ耳が足りないんだわ!」
らびーは納得げに頷いていた。
もこもこ羊にうさぎの耳。
空は少しだけ遠い目をした。気が抜ける。
らびーは持っていたショッキングピンクの可愛らしいリュックからバナナを取り出すと、ゼクスが横取りするよりも早くそれを食べ、その皮をばってん羊の足元に投げた。勿論、ワナのつもりである。
「さぁ、いらっしゃい」
ピンクのエプロンを振ってばってん羊を挑発した。
「いや、闘牛じゃないから……」
抗が疲れ気味に突っ込んだ。
と、その時、彼らの前に突然立ちはだかる者があった。
「喧嘩はやめてください!」
現れたのはゼクスと同じ青い髪をした女である。心なしかゼクスに面差しが似ているだろうか。頭にはうさ耳バンドを付けていた。
「ナンナちゃん!?」
羊を庇うように立つナンナ・トレーズにらびーが驚いたように声をあげた。
彼女も羊の見た目にまんまと騙されたのだろう、大勢で可愛い羊を弱い者いじめでもしているように見えたらしい。
「さぁ、羊さん、今の内に逃げて!」
言いながらナンナは手近にあった小石を、羊を追い払うかのようにばってん羊に向かって投げつけた。
いや、それは小石などというかわいいものではなかった。見る者が見れば岩盤である。
それを彼女は持ち前の怪力でまるで小石でも投げるように軽々と投げつけたのである。
しかし、そんなものにぶち当たって倒れるばってん羊ではない。
彼は飛んでくる自分より巨大な岩盤を飛び蹴りで粉砕してみせた。
地面に着地するばってん羊。彼を覆っていた砂礫がゆっくりと霧が晴れるようにおさまっていく。
不敵な笑みがばってん羊の口の端にのぼっていた。
「まぁ、可愛いのに、かっこいいですわ……」
思わず見惚れてしまうナンナに、だが、ばってん羊は容赦しない。しっかり弾を装填しなおしたリボルバーの照準をナンナに合わせた。
「ナンナちゃん! 危ないわ」
気付いたらびーがナンナを押し倒す。
ナンナの立っていた場所をリボルバーの弾丸が駆け抜けていった。
「大丈夫?」
らびーが気遣わしげにナンナに尋ねた。
「ごめんなさいらびーさん。大丈夫ですわ」
それにゼクスが「ちっ」と舌打ちした。
「ち?」
抗が気付いて振り返ったがゼクスは誤魔化すような顔つきで明後日の方を向いている。
「羊さんをいぢめるのはいけませんわ」
そう言ってナンナは立ち上がると、どこから持ってきたのか扇風機を取り出し、ばってん羊に向けた。
「ナンナちゃん……」
「羊さん! わたくし達に近づいてはいけませんわ」
しかし、扇風機程度ではたとえ強風でもばってん羊の足を止める事など出来ないだろう。彼女はちょっぴりうっかりさんだった。
「大丈夫よ、ナンナちゃん。らびーちゃん達はばってん羊ちゃんをいぢめてるわけじゃないの。これは、し・つ・け。だってペットにしたいんですもの」
「まぁ、そうでしたの? わたくしてっきりいぢめているのかと勘違いしてしまいましたわ」
「聞き捨てならないわね、らびー。あれは大事な羊毛よ」
らびーのセリフに空がバリカンを握り締めて詰め寄った。
「そんな事したら、可愛くないでしょ!」
「あーあ。また、話しが元に戻っちゃった」
抗が彼らから一歩離れたところで肩を竦める。
隣に立っていたゼクスが尋ねた。
「そういえば、お前はどっちの味方なんだ?」
「え? 俺? 俺は戦えればそれでいい」
抗がそれはそれは楽しそうに笑う。
「あ、そう」
ゼクスは呆れたように言った。
もしかして、この面子で一番の常識人は自分ではないかと、この時ゼクスは思ったのである。口にこそ出さなかったが、出していたら全員から突っ込まれていたに違いあるまい。
「さぁ、ナンナちゃん! 2人であのばってん羊ちゃんにちゃんとしつけをしましょう」
らびーが言った。
「えぇ! わかりましたわ!」
ナンナが賛同する。
「私も混ぜてください」
シュワルツが手を挙げた。
うさ耳を付けた3人がばってん羊に向かっていく。
「諦めたの?」
抗が空に尋ねた。
「彼らとまともな会話を成立させる事を、ね」
空が疲れたように言った。暗に、羊毛を諦めたわけではない、と言っている。
ただ、さすがの【妲妃】さまも、うさ耳トリオの勢いには勝てなかったようである。
【受難の花道】
バナナの皮が落ちていた。
よく滑るように改良を重ねられたバナナの皮だ。
よく滑るバナナ、その名も“スベールバナナくん”を開発したザンゲスト青果によれば、当社比20倍と公式発表されている。
何故にそんなものがこのヘルズゲート内の住宅街に落ちているのかといえば、それは某氏がばってん羊をゲットしようとはっておいた罠に他ならない。
だが、ばってん羊は某氏が思っている以上に知能が高かった。故にこの程度の罠には引っかからなかったのである。
とはいえ、バナナの罠に引っかかったからといって、そいつが知能が低いかといえば、それは一概には言えないであろう。彼の名誉の為にも、ここだけは断言しておく。
そうなのだ。彼はちょっぴり浮かれていただけなのだ。
お気に入りのバイクをゲットして有頂天になっていたのである。そんな時人は心をどこかへ置き忘れてきてしまうものだ。
浮かれてどこか明後日の方向に飛んでいた意識。
わき見運転とは時に恐ろしい事故を生むものであった。
シオン・レ・ハイはあろう事かバイクでそれを踏んでしまったのである。
当社比20倍のバナナの皮は本当によく滑った。風呂場のタイルに石鹸水でもここまで滑っただろうか。鉄板に油をひいて斜めに傾けてもここまで見事に滑らないかもしれない。若干の誇張あり。
「ぎゃっ!?」
と彼が悲鳴をあげた時には既に手遅れだった。
彼はそのまま目の前の家にバイクごと突っ込んでいたのである。その家に人が誰も住んでいない事だけが不幸中の幸いだったろうか。
「あら?」
壁をぶち破るもの凄い音に、スベールバナナくんの地雷を設置していたらびーが意気揚々と駆けつけた。弾切れに再びどこかの家に姿をくらました、ばってん羊がかかったと思ったのだ。
しかし、かかっていたのはばってん羊ではない。
「シオンちゃん!? 大丈夫?」
「…………」
勿論、大丈夫などではなかった。
オールサイバーである彼の体は、反射的に受身をとった事もあり無事であったが、お気に入りのバイクは見事に大破してしまっていたのである。
どうせ突っ込むなら家ではなく、こいつに!! と彼が思ったとしても、それは無理からぬ話であった。ましてや――
「はっ!? 危ない、シオンちゃん!!」
などと抱きつかれ挙句押し倒され――もとい、庇われては、最早オールサイバーである彼の唯一の生体部分――脳を走っている毛細血管が数本切れてもおかしくはなかった。
ぶちっという音をそこにいた何人かが聞いている。
天敵なのだ。
仕方が無いではないか。
折りしも奴と戦っているのは可愛いもこもこの羊であった。
あれがタクトニムであるのか、コレと同類のコスプレマニアなのかはわからないが、少なくともコレよりはマシに違いない。
「可愛い羊をいぢめるくらいなら!!」
彼は誰かに言い訳――もとい、大義名分を掲げてらびーを払いのけると、すっくと立ち上がり、ばってん羊に向かって駆け出していた。
「葬ってください! 奴をぉ!!」
後ろを指差しながら声を張り上げる。
「奴…ね……」
空がチラリとらびーを振り返った。
「奴……だな……」
抗が何とも同情を禁じえない顔でらびーを見やった。彼が同情している相手がどっちかは定かではない。
「やっぱり奴か……」
ゼクスがぼそりと呟いた。
かわいい羊は建前で、そっちが本音だろう。
「まぁ、シオンさんも勘違いしてらっしゃるんだわ。わたくし達、羊さんをいぢめているわけではありませんのに」
ナンナが哀しそうに俯いた。
「難しい選択ですね」
シュワルツがしみじみと言った。
「シオンちゃん……」
らびーが寂しそうに呟いた。
一方、ばってん羊はといえば、誰かとつるむ気など毛頭ない。
駆けてくるシオンに、彼は即座にロケットランチャーを構えると、容赦なくシオン目掛けて引鉄をひいた。
ロケットランチャーのロケット弾は近距離で着弾してすぐに爆発するものではない。ある程度の飛距離を必要とし、それではじめて爆発するのである。
シオンはロケットを腹に受けてそのままロケット弾の推進力により押し戻された。
シオンとロケット弾が一体になってらびーの元へ飛んでくる。
――ちゅどーーーーーーーん。
誰もいない静かな町にロケット弾の爆発音が響き渡った。爆発は大地を震えさせ、辺りのものを一様に粉砕し、そこに大きなクレーターを作り出している。その中心で――
「やるわね、ばってん羊ちゃん……」
らびーが瓦礫の下から這い出しながら言った。
「大丈夫? シオンちゃん?」
と、やはり瓦礫の下に埋もれていたシオンを引っ張り出す。
爆風に煽られた砂礫が舞う中、他の5人は抗のはったPKバリアーで難を逃れていた。
「ちょっと勝手な事しないでよね。逃げられちゃったじゃない!」
空がシオンを怒鳴り付けたがシオンは半ば気を失っている。
そんな事よりも、普段、協力の「き」の字もない彼女にだけは言われたくない言葉に違いない。勝手な事――天下無敵の自己中心。
「【妲妃】さま健在」
「ふっ……こんな事もあろうかと、罠を用意してある」
それまで他人任せで全くばってん羊捕縛に参加していなかった戦力外の男、ゼクスが言った。
「ワナ?」
皆がゼクスを振り返る。
「うむ。さっき、大きな金ダライを見つけたんだ」
「ワナってまさか……」
抗がおそるおそる尋ねた。思いあたるものがあった。嫌な予感がした。そして嫌な予感とはよく当たるものなのだ。
「あれだ!」
ゼクスが指差した先にあったのは、なんとも古典的なワナだった。
金ダライを伏せておき、その下にえさを置いて棒を立て金ダライを支えている。
奴が餌を取りにきたところを、棒についている紐を引っ張って金ダライを落とし捕縛しようというものだ。ご丁寧にも餌にまで紐を付けている。
「サイズが間違ってるだろ」
抗がぼそりと言った。金ダライは確かに直径150cmぐらいはありそうだったが、二足歩行の奴にはちょっと低すぎる。いや、突っ込むべきところは他にもいっぱいあるはずなのだが。
「あんなので捕まえられるわけないじゃない」
空が呆れたように言い放った。
「大丈夫だ。羊は飼い葉が大好物のはずだ」
「まぁゼクスさんって物知りですのね」
ナンナが言った。
「しつけはらびーちゃんに任せて」
「というか、あれでかかったらすごいですね」
うさ耳トリオもここへきて意見が別れたか、シュワルツはちょっと引き気味だ。
と、そのとき、餌に付いた紐が動いた。
何かがかかったのだ。
ゼクスが棒のついた方の紐を引っ張る。
「かかったぞ!」
「何ぃ!?」
抗が目を剥いた。
「嘘でしょ!?」
空もにわかに信じがたいという顔つきだ。
「嘘だと思います」
さすがのシュワルツは冷静だった。
「凄いですわゼクスさん」
ナンナがゼクスを尊敬の眼差しで見上げている。
「よし、ゆっくり開けるから、逃がさないように抗、バリアをはっておけ」
ゼクスが言った。
「……へい」
そうしてゼクスはゆっくり金ダライを開けた。
白いふわもこが見える。
しかし全く動く気配はない。
サイズも心なしか小さくなったように見える。
少なくとも体長150cmのそれではない。
そこには餌はなく羊のぬいぐるみが置いてあった。
腹の部分に張り紙がしてある。
そこにはたった2文字でこう書かれてあった。
【 バ カ 】
「うぉぉぉぉぉのぉぉれぇぇぇぇぇ〜!!! 羊の分際でっっ!!!」
ゼクスがキレた。怒りに張り紙を引きちぎる。
「ま、そうだよな」
抗がしみじみ言った。
「あの金ダライに入るわけないじゃない」
空もちょっと安堵したような顔でホッと息を吐き出した。この程度で捕まる相手なら苦労しないのだ。
「まぁ、可愛らしい羊さんですわ」
ナンナが羊のぬいぐるみを見て言った。
「これ、もしかしてばってん羊ちゃんのお手製なのかしら。まぁ、お裁縫も出来るなんて! 絶対らびーちゃんのペットに欲しいわ」
らびーが目を輝かせる。
「この毛……まさしく100%ウールですね。私、貰っても宜しいでしょうか?」
シュワルツが羊のぬいぐるみを抱き上げ、肌触りを確認するように頬で撫でた。
「え? それはらびーちゃんも欲しいわ」
「まぁ、でしたらみんなでじゃんけんにしましょう」
ナンナが提案する。
「わかりました。では、じゃんけんで」
と、外野が羊のぬいぐるみ争奪戦に燃えていた頃、ゼクスは普段滅多に崩すことのない顔を憤怒の形相に歪めて喚いていた。
「こうなったら緻密な罠を仕掛けてやる! 人間様を甘く見た事、思い知らせてくれるわぁぁぁっっ!!」
「……食べ物以外で怒るの珍しいな」
【まだまだ続くよ】
「この策戦には大量のバナナの皮を必要とする。仕方ない。バナナは俺が食べてやろう」
策戦(案)と殴り書きされた、紙を広げてゼクスが言った。
「そう言うと思ってたよ」
「まぁ、異論はないわ」
ジャンケン大会の行われている中で、3人は淡々とばってん羊捕縛策戦を練っていたのである。
らびーがみんなのおやつ用に持ってきていたスベールバナナ君を緻密な計算によって割り出された位置に配置する為、ゼクスはいそいそとバナナを食べて、満足げにゲップをした。
それから3人でバナナの皮を配置していく。その時――
「やりました!!」
シュワルツが長いジャンケン勝負の末、勝利に喜びの声をあげた。
「おめでとうございます」
ナンナが言った。
シュワルツは白くてふわもこのらぶりーなばってん羊のぬいぐるみを大事そうに胸に抱きしめている。ウール100%は肌触りも最高だ。
「悔しいけど仕方ないわね」
らびーが羨ましそうにそれを見つめていた。
その頃、皆に存在を忘れかけられていたシオンは悪夢の中にいた。
シンクタンクが羊の着ぐるみを着ている。理由は今一つ判然としない。敵を油断させる為だろうか。
いや、違った。タクトニムは突然オシャレに目覚めたのだ。
ビジターキラーがうさぎの耳を付けている。ピンクのリボンのメイド服を着て、ピンクのウィッグを付けて、ピンクの筋肉質のうさ耳メイドがわらわらわらわら……。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
悪夢の中シオンは悲鳴をあげて飛び起きた。
何事かと誰もが振り返るような凄まじい悲鳴だった。
「大丈夫ですか?」
シオンの半端じゃない悲鳴に驚いたシュワルツが咄嗟にそちらへ一歩を踏み出す。
そこには、ゼクス達が設置したスベールバナナ君の地雷があった。
恐るべしスベールバナナくん。
シュワルツは、当社比20倍に足をとられた。
滑った先にナンナとらびーがいた。
2人を巻き込み更に滑った。
そこにはシオンがいた。
バナナの皮はゼクスの緻密な計算により、ある一点へ向けて滑るようにセッティングされていた。
ゼクスが、丁度、最後の皮をセッティングしようとした時、彼らは滑ってそこへやってきたのだ。
ある一点。そこには落とし穴が用意されていた。
正確には、落とし穴を掘る手間をはぶいて用意されたマンホール。それが蓋を開けて待っていたのである。
その入口に、ゼクスと空と抗が立っていた。
シュワルツは見事な計算によって次々に置かれたバナナの皮を滑りながら全員を巻き込んでマンホールへ……。
だが彼は落ちなかった。
彼はその巨体ゆえにマンホールの入口に引っかかったのだ。
「あ……」
と呟いた時には遅かった。
彼は、残りの6人をマンホールの中に突き落とし、一人マンホールの中を覗いていた。
「すみません……」
一方マンホールに落ちた6人である。
実はマンホールの中にはトランポリンが仕込んであった。
しかし、さすがにオールサイバー2体を含む計6人の重さには耐え切れなかったのか、彼らを支える事無くトランポリンはズボッと穴をあけた。
6人は更に下へと落ちていく。
「うっ……お……重……いっ……」
右手にゼクス、左手にナンナを掴んで抗は何とかそこに踏みとどまった。PK飛行である。
とはいえ、飛行で浮かせられるのは自分の体だけであったから、2人の体重は彼の両腕に全てかかっていた。いや、それだけではない。
「ほら、抗さんが重がってるじゃないですか」
抗の長袍の裾にぶら下がっていたシオンが自分の足に捕まっているらびーを蹴飛ばしながら言った。
「潔く落ちてください」
「酷いわシオンちゃん」
シオンの足をしっかり握った腕をどすどす蹴られて、らびーは哀しそうな目でシオンを見上げたが、さすがにオールサイバーの握力は半端ではない。
「あ…暴れ……るなよ……」
暴れると重さが増す。抗はそこにとどまるのが精一杯といった風情で言った。1mmも上昇しないどころか、シオンらが揺れるたびにじわじわ下がっているような気さえする。
「落とすなよ、抗」
右手のゼクスが冷たく言った。視線だけでタクトニムを殺せそうなくらい冷たい顔をしている。落としたらどうなるかわかってんだろうな、と口ほどにものを語る目が言っていた。
「抗さん、頑張ってください」
ナンナが応援した。
「ほら、早く手を離してください」
シオンがげしげしとらびーを蹴飛ばす。
「シオンちゃんは蜘蛛の糸の話を知らないの?」
らびーが涙で目を潤ませながら言った。
「蜘蛛の糸ですか?」
と、その時だった。
ビリッ。
という不吉な音がした。
「おや?」
シオンが首をあげる。
刹那。ビリビリビリッ……。
抗の長袍がシオンの持っているところから破れた。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
異口同音の悲鳴を上げて2人は奈落の底へ落ちていった。
「あー!? 俺の一張羅が!?」
抗が破れた服を振り返る。
「良かったじゃないか。軽くなって」
ゼクスがやっぱり冷たく言った。
「まぁ、わたくしで良かったら縫ってさしあげますわ」
ナンナが微笑む。
2人とも、落ちていったシオンとらびーを心配する様子はない。
「…………」
抗は2人を連れて何とか地上へ上がったのだった。
一方、空である。
彼女は、皆が抗にぶら下がっていた頃、1人天舞姫に変化してさっさとマンホールを脱出していた。
しかしマンホールの上にはトランポリンで跳んできた羊を確実に捕縛する為の網が張ってあった事をすっかり忘れてその網に引っかかる。
「…………」
ちょっと自分の間抜けっぷりに溜息を吐き出して、空は網を切り裂いた。
彼女が地上に降り立ったのと、抗達がマンホールから出てきたのはほぼ同時だったろうか。
「大丈夫ですか?」
シュワルツが声をかけた。
「くっ、おのれ、ばってん羊……」
ゼクスは握り拳を握っていた。あくまでばってん羊のせいである。
今更、自分のせいとも言えずシュワルツはそれ以上の発言を控えた。
抗は全力を使い果たしたのか息も絶え絶えにヘタレていた。一張羅を破られた精神的ダメージも大きいのだろう。
「お洋服はわたくしが頑張って縫ってさしあげますわ」
ナンナが気遣わしげに抗に声をかける。
と、その時。
「ん?」
ゼクスが何事か気付いたように、それを振り返った。
「あれはロケットランチャーですね」
遠目にばってん羊がランチャーを構える姿を見つけてシュワルツが言った。
「いかん、抗!」
「もう、オーバーワークだっての!」
抗は喚きながら立ち上がる。
彼には既にPKバリアを張るだけの力が残っていなかったのだ。PK飛行で力を使いきってしまったらしい。
彼は乗ってきたトライクに飛び乗った。
「ナンナ、ゼクス、乗れ!」
タンデムシートにゼクスとナンナが乗りこんだ瞬間、抗がアクセルを全開にする。
続いてシュワルツも170km/hで走り出した。
空は天舞姫で飛翔する。
ロケット弾は彼らのいた場所に放物線を描きながら飛んでいた。
そのほんの数秒前。
「はぁ、やっと上がってこれました……」
シオンが下水まみれでマンホールから顔を出した。
自慢のメイド服が下水まみれになったらびーもその後に続こうとする。そんな2人の目の前にロケット弾は落ちたのだった。
「あ」
――ちゅどーーーーーーーん。
「逆戻りですかーーーー!?」
爆音が閑静な住宅街に再び轟き渡った。
「ふっ……いい勝負だったぜ……」
トライクを脇に止めロケット弾が吹きあげる爆煙を、仁王立ちして見やりながら抗がしみじみ言った。
「ばってん羊さんとはお友達になれませんでしたが、戦利品もいただけたので良かったです」
生きていればまた会えるだろう。セフィロトは存外狭い。
シュワルツは羊のぬいぐるみを抱きしめながら満足そうに言うと、お疲れさまでした、と頭を下げて帰っていった。
ヘルズゲートの前の時計塔が午後6時を示している。
うさ耳の事は忘れているのか、気に入っているのか、シュワルツはうさ耳を付けたままだった。
その背中に結局抗は声をかけそびれてしまった。
こうしてまた、うさ耳’zに新たな1人が加わったのだ。
果たして彼らのうさ耳’zにばってん羊が加わる日は訪れるのか?
「ま、今回は仕方ないわね。抗、行くわよ」
いつの間にか抗のトライクにまたがっていた空が言った。
「へ?」
何となくそこに、あらがえないものを感じて促されるままに抗はタンデムシートに座る。
「じゃ、コレ貰ってくわね」
空が後ろ手に手を振った。
「へ?」
「エビ、楽しみに待ってるぞー」
ゼクスが手を振って笑顔でそれを見送った事は言うまでもあるまい。
「…………」
セフィロトを徘徊する見た目は羊。中身はシンクタンク。
その名は――。
ばってん羊。
■完■
■━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
【0295/らびー・スケール/男性/47歳/オールサイバー】
【0641/ゼクス・エーレンベルク/男性/22歳/エスパー】
【0579/ナンナ・トレーズ/女性/22歳/エスパー】
【0375/シオン・レ・ハイ/男性/46歳/オールサイバー】
【0233/白神・空/女性/24歳/エスパー】
【0607/シュワルツ・ゼーベア/男性/24歳/オールサイバー】
【0644/姫・抗/男性/17歳/エスパー】
【NPC0200/ばってん羊(ばってんひつじ)/男性/???歳/タクトニム】
■━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━□
ありがとうございました、斎藤晃です。
楽しんでいただけていれば幸いです。
ご意見、ご感想などあればお聞かせ下さい。
|
|
|
|
|
|