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■ワンダフル・ライフ〜特別じゃない一日■

瀬戸太一
【1936】【ローナ・カーツウェル】【小学生】
 お日様は機嫌が良いし、風向きは上々。

こんな日は、何か良いことが起きそうな気がするの。


ねえ、あなたもそう思わない?


ワンダフル・ライフ〜MOTHER/娘の場合。







 最近、何だか無性に体が重い。
何でだろう?と思って母さんに尋ねてみたら、もう少しで夏が来るって言われた。
…夏って何だろう?もっと体が重くなるのかな。
体が重いと、自然に気分も重くなる。
母さん相手にぶーたれてたら、お客様がやってきた。
一人はアレシア・カーツウェルさん。私も知ってる、母さんのお友達。
私自身の記憶はないけれど、私が生まれるときにも助けてくれたそうだ。
だから、私にとっても大切な人。
 アレシアさんは、どうやら母さんに大事な話があるみたい。
…なんだろう?大人は時々、すっごく難しい話をする。
まだその半分も理解出来ない私は、席を外したほうがいいんだろうか。
 そう思って、母さんと話しているアレシアさんを見上げていると、ふともう一人気配があることに気がついた。
顔を向けてみると、入り口のあたりで店の品物を一生懸命伺っている女の子がいる。
私と同じぐらいの年齢だろうか、アレシアさんと同じ金色の髪と、くるくると良く回る青い瞳。
…私とも、同じだ。
 不思議に思って母さんのところに行き、女の子がいるよ、と教えたら、
母さんはきょとん、として首を傾げていた。気付かなかったのかな?
 そうしているうちに、女の子のほうもこちらにやってきて、母さんに挨拶していた。
どうやら母さんとも知り合いみたい。太陽みたいな明るい笑顔が印象的な子だった。
それを眺めていると、ふいに母さんに肩を叩かれた。
あの子とお友達になったら?と誘っている。
 ―…お友達。
母さんのお友達は、私ともお友達になってくれる。
でも私みたいな歳の子とは、まだ殆どお友達になったことがない。
一度学校にも言ってみたくて、駄々をこねたこともあったけど―…。
「Hi、My name is Lorna Kurzweil!Youの名前は?」
 は、と顔を上げると、その女の子の笑顔は私に向けられていた。
Lorna Kurzweil。少し英語のような発音だったけど、大丈夫。聞き取れた。
「あ…、私リネアって云うの。ローナ、ちゃん?」
「Yeah!リネアね、ヨロシクっ」
 ローナちゃんは、バッと素早く手を前に突き出した。
え、ええと…これは。
「うん…よろしくね」
 握手しよう…って言ってるんだよね。
私はうん、と頷いて、彼女の手を握った。
そのとき、にかっと歯を見せて笑ったローナちゃんの笑顔が忘れられない。
「あのね…」
 私も頑張って強張っている頬を緩めながら、彼女に言った。
「私と、お友達になってくれる?」
 …少し突然すぎたかな。こんな風に云うものじゃないのかな?
 私は内心どきどきしていたけども、ローナちゃんは変わらない笑顔で頷いてくれた。
「Of course!モチロンよっ!」
「………!えへへ、ありがとう」
 私は何だか無性に嬉しくなって、にこ、と笑った。
その笑みはいつもの私の笑顔になってると、自分でも思えた。
「あのね、私の部屋に行かない?ローナちゃんに見せたいものがたくさんあるんだ」
「What!Reary?いくいく、Thanksねっ」
 ローナちゃんは顔を輝かせ、うんうん、と頷いた。
そして早速、自分のお母さん―…アレシアさんに報告を始める。
 そんな彼女を眺めながら、私は自分の部屋の様子を思い浮かべていた。
…ちゃんと綺麗にしてるよね。うん、今日は朝もちゃんとベッドを綺麗にしてから起きてきたし。
洗濯物も、洗濯機の中に入れてきたし。昨日遊んだ道具は元通りに直したかな。
そうだ、ローナちゃんにあれを見せよう。母さんが作ってくれたあれ。私の今一番のお気に入り。
「Hey you!リネア、いこっ」
 そんなことを考えていると、ふいにローナちゃんに手を引かれた。
「The second floor?二階でイイの?」
「う、うん。二階のね…」
 説明するより、行ったほうが早いよね。
私はローナちゃんの手をぎゅっと握り返し、階段へと向かった。








                  ■□■







「ごめんね、散らかってるかもしれないけど」
 一応、そう前置きしておいたあと、私は自分の部屋のドアを開けて、ローナちゃんを招きいれた。
ローナちゃんはあはは、と笑い、
「No、そんなことないよ!Meのroom、もっと汚いね!
いつもママ、キレイにしなさいって云うヨー」
「あはは、私も同じ。母さんの部屋もごちゃごちゃしてるのにね」
 私はベッドの上からクッションを引きずり下ろし、ローナちゃんに勧めた。
だけどローナちゃんはすぐには座らず、きょろきょろと辺りを見渡している。
「Hey、リネア!これ―…」
「わ、ダメだよっ!」
 私はローナちゃんがつついたそれを見て、飛び上がった。
それは私の机の隅に置いてある、可愛らしい女の子のお人形。手の平サイズのお人形だけど―…。

            ―…ボワンっ!!

 私の制止の声は間に合わず、軽い爆音が響いたと思うと、あたりは真っ白の煙に包まれてしまった。
「けふ、けふっ…ローナちゃん、大丈夫?」
 私は咳き込みながら、ローナちゃんを探す。
「―…!!?What!?What's happend!?」
 ローナちゃんは何が起こったのか分からず、なにやら英語で叫んでいた。
やがて煙が晴れると、目を丸くしているローナちゃんが見えた。
「大丈夫?あ、お人形見ちゃダメだよ」
「Why?」
 離すことを考えてなかったのか、ローナちゃんの手にはまだしっかりとお人形が握られていた。
私の言葉に反応してか、ローナちゃんはふとお人形を見下ろす。
…あちゃあ、何も言わなかったほうが良かったかな。
 私が額を抱えると同時に、部屋―…ううん、店全体に、ローナちゃんの絶叫が響き渡った。





「くぉら、うるっせーぞリネア!さっきから何をどすんばたんぎゃーぎゃー…ってアレ?」
 バタン、と大きな音を立てて、褐色の肌をした男の子が部屋に入ってきた。
リックちゃん、母さんの使い魔だ。一応黒コウモリだけど、普段は便利だからって人間の姿になっている。
「リックちゃん、ごめんね。お人形が、爆発しちゃって」
「はあ?人形?」
 リックちゃんは暫く頭を抱えていたが、やがてぽん、と手を叩いた。
母さんの影響なのかわからないけど、リックちゃんも割りとリアクションが古いんだよね。
「ああ、あの失敗作か。お前が普段の顔は可愛いからって飾ってる奴」
「うん、そう。変に衝撃与えると爆発しちゃって、顔を変える奴ね。
母さんがビックリ箱作ろうと思って、失敗しちゃったんだよね。変身後の顔が怖すぎるから」
「そーそー。ありゃあ俺も3日は夢に出てくるよーなとんでもない代物で…ってあれ、
そこでうずくまってんの、もしかしてローナか?」
 私の隣でクッションに顔を埋め、ぷるぷると震えていたローナちゃんに気がつき、
リックちゃんは首を傾げた。
「リックちゃん、知ってるの?」
「知ってるも何も。良く店にくるじゃん?おいローナ、お前何してんだよ」
 リックちゃんはずかずかと私の部屋に入り、しゃがんでローナちゃんの頭をぽんぽん、と叩いた。
「っく、リック…?Why?何で?」
「何でって、ここは俺の家だもん。お前こそ何してんだ?うわっ、きたねーなあ」
「リックちゃん、そんな風に言ったら可哀想だよ。ローナちゃん、怖いもの見ちゃったんだから」
 私は呆れて云った。
ローナちゃんが上げた顔は涙でびしょびしょ、私のクッションもローナちゃんの涙でぬれている。
さっきの絶叫から、ずっとこんな感じだ。…どうしよう。
「リネアっ…あれ、何っ!?口がぱくっと割れて、舌がびろーんって、歯が四列で…思い出したくもないよっ!」
 ローナちゃんはそう叫んだあと、わぁっとまたクッションに顔を埋めてしまった。
私とリックちゃんは、眉を八の字にしたまま顔を見合わせた。…どうしよう。
 やがてリックちゃんは、あー、だとかうー、だとか呻くように言いながら、ローナちゃんの頭を撫でた。
「うん、まー…一週間もしたら忘れるだろーし?野良犬に噛まれたとでも思ってだな…」
「One weekはlong過ぎるよっ!酷い、cruelだよーっ!」
 そうクッションに顔を埋めたままローナちゃんは叫ぶが、リックちゃんは何故かうん、と頷き、
「大丈夫だ、似非日本語に戻ったから」
「リックちゃん…何気に酷いね」









 一週間と云ったリックちゃんの言葉は当てが外れ、ものの数十分でローナちゃんは回復した。
でも、元通りの笑顔を見せて、リックちゃんの羽を引っ張ったりしてたけど、
その視線は決してあのお人形には向かないことを私は気がついていた。
 …それもそうだよね。今はちゃんと可愛いお人形に戻ったけど、怖いものは怖いもん。
「あ、そうだ。ローナちゃん、ローナちゃん」
 私はローナちゃんを手招きし、じゃーん、と大きな紙を見せた。
ローナちゃんはWhat?ときょとん、とした顔をしている。
私は自慢気な顔をして言った。だって、これは母さんが作ってくれた私の一番のお気に入りなんだもん。
ローナちゃんに、是非見せてあげたい。
「あのねあのね、これに絵を描くと…」
「あ、それってアレよね。その紙に色鉛筆で絵を書くと、紙の上で動き出すってやつでしょ。
あの子元々立体的に動かせようと思ったけど、失敗したのよね。
そんな下らないもの作るから―…何よ、リネア」
 さっき騒がしいとか何とかいって乱入してきたリース姉さん。
リース姉さんがずい、と私とローナちゃんの間に入って、ぺらぺらと早口でまくし立てた。
 …私が説明しようと思ってたのに!
「酷いよ、姉さんっ。私がローナちゃんに説明しようと思ってたのに…先に言わなくてもいいじゃないっ」
「な、何よ…そんな怒ることないじゃない?誰が説明しようと同じよ、同じ」
「同じじゃないよっ」
 私がビッとリース姉さんに指を突きつけて怒ってる隣で、呆れた顔のリックちゃんがローナちゃんに言っている。
「リースはさ、ほらデリカシーっつうもんがねえから。ああいう微妙な心の機微ってやつがわかんないんだよなあ」
「Oh…リース、リネアが可哀想だよっ!ね、リネア、もう一度説明して?Once again!」
「ローナちゃん…」
 私はローナちゃんの笑顔に、じぃんと心のどこかが熱くなるのを感じた。
うん…ほんと、デリカシー皆無のリース姉さんと大違いだ。
「えへへ…うん、説明するね!」
「Yes!meちゃんと聞くよっ」
 大きな紙を床に広げ、付属の色鉛筆を握って説明している隣で、
リース姉さんがやれやれ、と肩をすくめていたけど気にしない。
「…でね、こうやって書くとね」
 私は一瞬何を描くか迷ったけど、すぐにぴん、と思いついた。
深い紫色の色鉛筆で、大きな紙の上にぐりぐりと描いていく。
「Oh!リックねっ。コーモリよ、コーモリ!」
「あはは、分かった?良かった」
 紙の上には、歪な形をした小さなコウモリが、羽を広げていた。
そして私がその色鉛筆で紙を叩くと、ばさばさ、と羽を羽ばたかせてコウモリが紙の上で自由に飛び回る。
 どう?といわんばかりにローナちゃんの顔をのぞき見ると、もう…きらきらと光がこぼれんばかりの笑顔を浮かべていた。
「Woow!!すっごい、Greatっ!リックが飛んでるよっ」
「えへへ、この色鉛筆で描くとね、紙の上で動くんだ。平面しかムリなんだけど」
「What!?ローナも出来る?」
「うん、モチロンできるよ。色鉛筆は12色だから、混ぜて色々使ってね」
「O.k.!まかせて!」
 ローナちゃんはぐっと親指を立ててニカッと笑ったあと、ぺたんと床に腹ばいになり、早速色鉛筆を物色しだした。
ローナちゃんは何を書くのかな?とても楽しそうに選んでるから、こっちまで楽しくなってくる。
 ご機嫌なローナちゃんを眺めたあと、ふと横を見ると、ニヤニヤしているリース姉さんを眼が合った。
「…姉さん、また何か企んでる?」
「おほほ、まっさかあ。紙の上だけで動くもんなのに、
そこまで楽しそうにできるなんて羨ましいわあとか、全然思ってないわよ。
ほんと、お子様っていいわよね、幸せそうで〜」
 何てことを言いながら、おほほほ、と気持ち笑い笑い声をあげてくる。
私は呆れてじとっとした眼で眺めて、
「リース姉さん、母さんの道具のほうが楽しそうで羨ましいんでしょ」
「はあ?ンなわけないじゃない、何云ってんの?
ねえローナちゃん。そんなのより、こっちのほうが面白いわよ?
お姉ちゃんが色んな生き物に変身して見せてあげるわよ〜。ローナちゃんは何か変身したいものとかある?」
 リース姉さんは猫なで声でローナちゃんに近づき、顔を覗き込んで言った。
だけど絵に没頭しているローナちゃんにはまともに届いていない様子で、
「No!Meはママを描いてるのよ。だからあとで!」
「うぐぐぐ」
 悔しそうに変な唸り声をあげているリース姉さんは放っておいて、私は鼻歌を歌いながら、
肌色の色鉛筆を動かしているローナちゃんの手元を覗き込んだ。
「ローナちゃん、それはママ?」
「Yes!Meはママが好きだからよ。ママのcooking、とてもステキなの」
「へえ、いいなあ。アレシアさん、料理とっても上手そうだもんね」
 ローナちゃんが描いたアレシアさんが動き出すの、とっても楽しみ。
私はローナちゃんが迷いなく色鉛筆を動かしているのを眺めていたけども、
私たちの少し後ろでは、リース姉さんがなにやら叫んでいるのも耳に届いていた。
「何よ、あたしはルーリィの魔法に負けたんじゃないからね!?
その子のママに負けたのよっ!ああ、母子の愛って何て素晴らしいのかしらーっ!」
「もうよせって。いい加減見苦しいぞおまっ…げふっ」
「うるさいわね、リックちゃん!こーなったら、あたしだって幼児向けの道具を開発してやるんだから。
見てらっしゃい、ルーリィなんか眼じゃないわよ!」
「なんていって、お前作成術あんまし得意じゃねーだろ。
あ、もしかしてルーリィの設計図、パクるつもりか?うわあ、おまぐがががが」
「余計なことを云うのはこの口かしらあ?おほほほほほ」
「………………。」
 私は背後の怨念を感じながら、ハァ、と溜息をついた。
私の前で鼻歌まじりに大好きなママの姿を書いているローナちゃんと、
あまりに空気が違いすぎる。…全く、リース姉さんってば、負けず嫌いなんだから。
「作成術ぐらい、ぺぺぺのぺーよ!見てらっしゃい、後悔させてやるんだから!」
 その場合、誰が後悔することになるんだろう…。
私はそんなことをふと思いながら、一連のリース姉さんの台詞は、聞かなかったことにしよう、と思った。












 そしてやがて、ローナちゃんが渾身の力を込めて描いたアレシアさんが動き出し。
紙の上で楽しそうに料理をしている姿を見ながら、二人で笑って。
そして、今度は本物のアレシアさんが、お茶にしようと呼んでくれて。
私たちは手を取り合って、一階へと急いだ。

 …うん、お友達っていいよね。

 私はローナちゃんの輝く笑顔を見ながら、夏の太陽って、ローナちゃんの笑顔みたいなものかも、と思った。
 うん、それなら夏のお日様も、私好きになれる気がする。








                  end.








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▼ 登場人物 * この物語に登場した人物の一覧
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【整理番号|PC名|性別|年齢|職業】

【3885|アレシア・カーツウェル|女性|35歳|主婦】
【1936|ローナ・カーツウェル|女性|10歳|小学生】

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▼ ライター通信
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 アレシアさん、ローナさん、そしてPL様。
母子でご参加して頂き、誠に有り難う御座いました。
そして遅延、申し訳ありませんでした;
遅れた分、気に入ってもらえると大変嬉しく思いますが…;

今回は初めての母子同時参加ということで…
一緒にいる場面をもう少し描きたかった気持ちもありますが、
お話の流れ上、大部分を個別化して書かせて頂きました。
母verはルーリィ視点、娘verはリネア視点ということになっております。
片方のノベルで描写していない場面は、もう片方で書いておりますので、
あわせてご覧になって下さいな。

それでは、いつもうちの店の連中と遊んで下さって有り難う御座います。
またの機会がありましたら、どうぞまた遊んでやってくださいませ^^