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■とりかえばや物語?■

ひろち
【5054】【ニルグガル・―】【堕天使/神秘保管者】
 その日、めるへん堂には少々珍しい客が来ていた。
「あれ?蓮さん、どうしたんですか?」
 買い物から戻ってきた夢々はアンティークショップの店主・碧摩・蓮に声をかける。栞と話していた蓮は、夢々の方を向くと少しだけ笑って見せた。
「いわく付きの本を届けに来たのさ。この子がどうしても譲って欲しいと言うからね」
「はあ」
「それじゃあ、用もすんだしあたしは帰るよ」
 蓮の背中を見送ってから、夢々は栞の方を見た。やたらと嬉しそうに机の上に置かれた本を眺めている。古ぼけた本の表紙には、これまた古ぼけた字でこう書いてあった。
「とりかえばやものがたり・・・・・・?」
「平安時代の作品ですね。作者は不明ですが」
 本を棚に押しこめながら氷月が解説してくれる。
「で、栞さん。この本がどうかしたわけ?」
「だから、いわく付きなんですよ」
「どんな」
 夢々の問いに「ふふふ」と笑う栞。訊かなければ良かったと後悔したが、もう遅い。
「何でも、この本を一緒に開いた二人は体が入れ替わってしまうとか」
「は?何それ。信じられないんだけど・・・・・・」
「ですから、それを実験してみようと思ってるんですけどね」
「実験って・・・・・・誰で?」
 まさか俺じゃないだろうな。
 身構えた夢々だが、栞の答えは彼の想像の範疇を遙かに越えていた。
「次に来たお客様限定二名」
「こらあああっ!!」
 夢々が全力で説得に入る前にドアが開く音がした。
とりかえばや物語?

■ヒーロー〜ニルグガル・―〜


 その店に入ったのは鑑定して欲しい魔術書があったから。用が済んだらすぐに帰るつもりだった。
 なのに・・・・・・

『この本をお二人で開いてみてくださいませんか?』

 何度か店に足は運んでいたので、それなりに顔馴染にはなっていた店長の本間栞。彼女が差し出してきた本はいかにも古くて怪しげな雰囲気が漂っていた。
『その行為に何か意味は?』
 問いかけてみたが彼女は笑顔のままだ。激しく嫌な予感がしたのだが妙な圧力に押され、その時同じく店内にいた神父とその本を開く羽目になった。
 タイトル『とりかえばや物語』。
 それを見た時点で何かに気付くべきだったのかもしれない―――


「妙なことになりましたね」
「・・・ええ」
 古書店「めるへん堂」前にて。
 自分の顔から発せられた声にニルグガルは頷いていた。なかなか不思議な気分だ。
「それにしても最初あなたを見た時は女性だと思っていたのですが・・・男性で安心しました」
「何故ですか?」
「私、女性はどうも駄目でして・・・」
「・・・なるほど」
 女性恐怖症。
 そういえば、本を受け取る時も極力栞に触れないようにしていた。そんな状態で女性と入れ替わってしまったらさぞかし落ち着かなかったろう。
 そう、ニルグガルとめるへん堂にいた神父。現在、体が入れ替わってしまっているのである。
 諸悪の根源、栞は二人に笑顔でこう言った。
『まあ、いいじゃないですか。多分一日もすれば元に戻ると思うので、それまでお互いの振りをして過ごせばいいでしょう?』
 何て無責任な。
 そう思ったが、他にどうしようもないのでとりあえずお互いの予定等を打ち合わせることにする。
 青年の名前は紅月・双葉。元エクソシストで、現在は見た目通り神父をやっているらしい。
「こんな状況になっても、双葉様は随分と冷静なんですね」
「あなたこそそうでしょう?」
「私は・・・それほど感情豊かな方ではないので」
 何をするにも、何が起きても大抵は無反応なのだ。どんなことでも焦ることなく対処できる自信がある。
「なるほど」
 双葉は苦笑する。何となく・・・彼は自分に似ている部分があるのかもしれないと思った。
 双葉は微笑を浮かべたまま、ニルグガルに歩み寄り頬に触れる。
「・・・何ですか?」
「あなた・・・笑えますか?」
「え?」
「嘘でもいいので、教会に来る方や子供たちには笑ってあげてくださいね。無愛想な神父というのもおかしいでしょう?」
「はあ・・・」
 それはそうかもしれないが。
 正直、何の自信もないままニルグガルは曖昧に頷いていた。
「努力は・・・してみます」


 双葉のその日の予定はそれ程多いわけではなく、午前中は教会の掃除をしているうちに過ぎてしまった。
 訪れた数名の人間に何やら人生相談みたいなものを受けたのだが、どう答えていいのかわからずかなり適当なことを言ってしまった。それでも皆、満足そうに何度も頷き満面の笑みで「ありがとうございました!」と言って帰っていく。
 どうやら、この双葉という男。それなりに人望はあるらしい。
 壁時計を見て、ニルグガルは息をついた。
 ――そろそろか・・・
「神父様ーーーっ」
 明るい子供たちの声が響く。「あ」と思った時には囲まれていた。
「ねえ、神父様聞いて聞いて!これ、お母さんに買ってもらったの〜」
「神父様、今度うちに来てよ!新しいゲーム買ったんだっ」
「あのね、今日学校で先生に褒められたよっ」
 彼らの声は甲高く、耳がキーンとする。思わず顔をしかめてしまったニルグガルに子供たちは敏感に反応したようだった。
「神父様、具合でも悪いの・・・?」
 そういうわけではないのだが。
 困った。
 子供の相手などしたことがないので、どうしていいかわからない。

『嘘でもいいので、笑ってあげてくださいね』

 ニルグガルは一度息を吐くと、作り笑いを浮かべた。上手くできている自信は少しもなかったが。
「いえ、何でもないですよ。さあ、勉強を始めましょうか」


 子供というのはどうしてもっと静かにできないのか。
 勉強会とはいっても、始終誰かしら喋っていてかなり騒がしい。
「ねえ、神父様。これってどう解くの?」
 ニルグガルは人間の教育など受けたことはない。宿題の内容を問われても答えようがなかった。
「これは・・・ですね・・・」
 教科書を睨み、考える。さっぱりだ。
 突然、一人の少女が立ち上がった。
「神父様!」
「はい?何ですか?」
 少女はニルグガルの腕を掴む。
「遊ぼう!何か今日の神父様、疲れてるみたいだし気晴らしした方がいいよ」
「え・・・いや・・・私は・・・」
 別に疲れているとかそういうのではなく・・・
「いいからっ。皆も行くよっ」
 彼女は子供たちのリーダー的存在なのだろうか。
 引っ張られるニルグガルに続いて、子供たちも立ち上がった。
 教会の庭はそれなりに広く、遊び場には丁度良さそうだ。
「何する?かくれんぼ?鬼ごっこ?」
 出てくる遊びはどれも人間の子供特有の遊びで、当然ながらニルグガルにはやった経験がなかった。「そうですね」「はあ」など適当に相槌を打っていたら、何時の間にかかくれんぼに決定していたらしい。
「じゃあ、神父様が鬼ねっ。ちゃんと100数えるんだよっ」
 あっという間にニルグガルの回りから子供達の姿がなくなる。律儀に100を数えながら、かくれんぼとはどんな遊びだっただろうと思考を巡らせた。確か隠れている人間を全て見つけたら勝ちだ。
 単純で簡単。
 さっさと終わらせてしまおう。
「・・・99・・・100」
 ニルグガルは地面を蹴った。

「神父様強過ぎー」
「大人げなーい」
 ものの数分で大方探してしまうと、子供たちから何故か批判された。
 茂みの中や木の上も探したので、服はかなり汚れてしまっている。双葉に文句を言われるだろうか。
「大人げないも何も・・・かくれんぼとはこういうものでしょう?」
「そうだけどさあ」
「こんなすぐ終わっちゃったらつまんないよー」
 ならどうしろというのだ。まったく・・・子供というものはわからない。
「・・・ねえ、チビがいないよ」
「え?」
 どこかから上がった声に、子供たちはいっせいに息を飲む。チビとは多分、子供たちの中でも一番年下らしかった小柄な少年のことだろう。
「神父様、チビは?」
「・・・私も・・・見ていない」
 教会の敷地内は隈なく探したはずなのだが。彼の姿はどこにも無かった。
「どうしよう・・・!あの子体弱いから、早く探してあげないと・・・!」
「神父様・・・!」
 子供たちは縋るような目でこちらを見ている。ニルグガルは溜息をついた。
「・・・わかりました。もう一度皆で探してみましょう」

 チビを見つけるのに、そう時間はかからなかった。教会の屋根に登り、下りれなくなっていたのだ。チビは今、ニルグガルの胸に顔をうずめ声をあげて泣いている。
「こ・・・怖かっ・・・」
「怖いなら登らなければいいでしょう」
「だ・・・だって、あそこなら見つからないと思ったんだもん〜っ」
「・・・」
 なお泣き続けるチビ。これは一体どうしたものか。ニルグガルはチビの背中を軽く叩いてやった。
「確かに見つからなかったですよ。私の完敗です」
「し・・・神父様・・・?」
「あなたはかくれんぼの天才ですね」
 何故こんな慰めの言葉が自然に出たのかはわからない。まさか、子供に情が移ったわけでもあるまいに。きっといつもと違う体だからなのだろう。
「ほんとう・・・?」
「ええ」
 チビの顔がみるみる輝いていく。子供というのは単純な生き物らしい。泣いていたと思ったら、すぐに笑顔になるのだ。
「ただし、もうあんな危険な真似はしないこと。いいですね?」
「うんっ!」
 チビは涙を拭うとニルグガルから離れ、仲間達の方へ駆け寄った。
 子供たちはまた、ニルグガルの回りに輪を作る。
「それにしてもさっきの神父様、格好良かったよね!」
「うんっ。あっという間に屋根に登って、チビを助けちゃうんだもん」
「正義の味方みたいだったっ」
「ヒーローだ、ヒーロー!」
 腕を引っ張ったり、腰に抱き着いたり、背中に乗って来たり。
 子供たちは「ヒーローだ、ヒーローだ」と騒ぎ立てながら、ニルグガルをもみくちゃにする。
 不思議と煩わしいとは思わなかった。
 逆に何となく温かい気持ちになったのは何故だろう。
 他人の体を使っているからこそ起きる、錯覚だろうか?
 それでも構わないと、ニルグガルは思う。
「ヒーロー・・・か」
 正義の味方。堕天使であるニルグガルにはおよそ似つかない言葉だが・・・
「・・・悪い気はしませんね」


「随分と派手に汚れましたね。一体何をやったんです?」
 あちこち汚れた自分の服を眺めて、双葉は笑いを堪えているような表情で問いかけてきた。何となく何があったかは想像がついているのだろう。
「かくれんぼ・・・を少し」
「そうですか。それはまた・・・。大変だったでしょう?あの子達は元気が有り余っているようですから」
「大変・・・でしたけど・・・」
「・・・楽しかったですか?」
 思わぬ質問にニルグガルは顔をしかめる。
「はあ・・・?何故そんな・・・」
「あなた、今笑っていましたから」
「え・・・?」
 そんな馬鹿な。
 ニルグガルは自分の頬に触れる。
「子供というのは不思議な生き物ですよ。私のような冷徹男でも、時々は優しい気持ちになるのですから」
「・・・・・・ヒーロー・・・と言われたんです」
「ヒーロー?」
「ええ」
 一点の曇りもない顔で、ただただ無邪気に子供たちは言った。
「こんな私にヒーローって。・・・おかしいですね。それが何となくくすぐったくて・・・」
 感じたことのない気持ち。例え一瞬の錯覚でも、確かに心地よい感情だった。
「・・・不思議な・・・生き物でしょう?」
「ええ、確かに」


 一瞬でも、錯覚でも確かに感じた気持ち
 今はまだ蕾でも
 いつかどこかで花開く時がくるのだろうか?


「まったく・・・私らしくない」


 言葉とは裏腹に足取り軽く、ニルグガルは歩き出した。


fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC

【5054/ニルグガル・―/男性/15/堕天使、神秘保管者】

【3747/紅月・双葉(こうづき・ふたば)/男性/28/神父(元エクソシスト)】

NPC

【本間・栞(ほんま・しおり)/女性/18/めるへん堂店長】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、こんにちは。ライターのひろちという者です。
今回はありがとうございました!

あまり感情は表に出さないニルグガルさん。なかなか接したことはないだろうと思われる、子供達との絡みを中心に書かせて頂いたのですが・・・いかがでしたでしょうか?
イメージが崩れていないかとドキドキしているのですが・・・
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
後日、入れ替わった相手である双葉さんの方も納品予定ですので、よろしければそちらの方もチェックしてやって下さいませ!

本当にありがとうございました!
またご縁がありましたら、その時はよろしくお願いしますね。