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■シンデレラは誰だ!?■

ひろち
【5443】【―・亮介】【謎の郵便屋さん】
「・・・居ない」
 いつでも本を読むことに没頭している栞が、珍しく口を開いた。夢々はコーヒーを淹れていた手を止める。
「居ないって、何が?」
「シンデレラですよ。シンデレラ。本の中から消えちゃってるんです」
「はあ?」
 意味がわからない。
「・・・栞さん。また俺をからかってるわけ?」
「違いますよー。確かに夢々くんいじめるのは楽し・・・じゃなくて、これ見てみてください」
 栞が本を差し出してきたので、夢々は顔をしかめつつもそれを受け取り、中身を読んでみた。

+++ +++ +++ +++ +++
『シンデレラ!シンデレラはどこ!?』
『お母様。あの子、どこにも居ないわ。とうとう逃げたのよ』
『シンデレラ!シンデレラ!!』
『どーこー行ったのよー。出てきなさーい!』
+++ +++ +++ +++ +++

「・・・何これ。もはやシンデレラじゃないっていうか・・・継母達がシンデレラ捜索し続けてるだけじゃん」
 数ページ後には白紙になっていた。しばらく眺めているとまた新たな文字が書き加えられる。やはり内容はシンデレラ捜索。
「シンデレラが居なければ物語は進行しませんよ。当たり前のことでしょう?」
「そうだけどさ。何でこんなことになってんの?」
「多分、本を抜け出してどこかに出かけたんじゃないですか。シンデレラもたまには息抜きしたかったんでしょう。そのうち帰ってきますよ」
「そういうもんなの?」
「そういうものです」
 栞がそう言うのならそうなのだろう。何せここは「めるへん堂」だ。夢々自身も元々は本の中の人間である。ここでは本は「生きた存在」なのだ。
「・・・あ。ちょ・・・っ栞さん!!」
「どうしました?」
「何かこの本、凄いことになってきてるんだけど・・・」
 きちんと文章を形成していた文字が、乱れてきている。接続語の欠落、綴られる脈絡のない言葉、前後で繋がりのない文章。最後には文字ですらなくなっていた。
「うあー。全っ然、読めねーっ」
「主人公を失ったことで混乱しているようですね」
「どーすんだよっ」
「どうすると言われても・・・」

 ギィ・・・

 最近建付けが悪くなってきたドアが開く音がした。 
 客だ。
「丁度いいですね」
「何が」
 栞は「ふふふ」といたずらっぽく笑う。何か思いついたのだろう。
 嫌な予感。
「な・・・なぁ、栞さん・・・?まさか客をシンデレラに仕立て上げちゃおーとか思ってないよな・・・?」
「え?だってそれしかないですよね」
「えええええっ!?」
シンデレラは誰だ!?

 人生色々。
 そりゃ俺だってそれなりに生きてるからね。そこらの人よりは経験豊富な方だと思うよ?
 でもさすがに、この展開は予想していなかったなあ・・・・・・

「へ?シンデレラ?」
 珍しい本が読みたくて、たまたま入った古書店「めるへん堂」。急に「シンデレラの代わりをやってくれないか」と言われ、俺は少々面食らってしまった。
「・・・シンデレラってあれだよね?不幸な女の子が王子様と結ばれてラッキー!みたいな話だよね?」
「ええ。的確なあらすじです」
「栞さん、タイム!!」
 勢い良く手を挙げる店員(と、いうよりは栞さんの下僕かな?)夢々くんに、店長・栞さんは不思議そうな視線を向ける。
「何ですか、夢々くん」
「その人、男だよ?何か根本的に間違ってるって!!」
「新たな世界が開けてむしろ面白いと思いますが」
「そういう問題じゃないような・・・」
「来客なんて滅多にあるものではありません。形振り構っていられないでしょう」
「そっちが本音なんだね・・・」
 夢々くんは溜息をつくと不安げな目でこちらを見つめてきた。俺はにっと笑い、応えてみせる。
「いいよ。やっても」
「ええ!?お兄さんっ、もっと冷静に考えなよっ」
「俺は冷静だよ〜?何か面白そうだしさ」
「いや、でもっ」
 まだ何か言いたそうな夢々くんを制し、栞さんは一歩前に出、微笑んだ。
「ご協力感謝します。では、案内役は誰にしますか、亮介さん?」


【お后様は誰だ?〜―・亮介〜】


 別に掃除とか料理とか洗濯とか、嫌いなわけじゃないし。シンデレラ生活はそんなに苦にはならなかった。でもさすがにこれが毎日続いたら辛いのかもしれない。
 まあ、だからって同情する気はないけどね。
「あら、意外にもお似合いですね」
「俺、ドレスなんて初めて着たなあ」
「そう何度も着てたら大問題だと思うよ、亮介さん・・・」
 本日はいよいよ舞踏会。栞さんが用意してくれたのは薄緑色のひらひらドレスだったけど、まあそれなりに似合ってるんじゃないかな。別に女装趣味があるわけではないけどさ。
「何かさ、このまま王子様とゴールインっていうのはつまんないよね。俺、そっちの気ないし」
「はあ」
「だからって、シンデレラ捜して説得する気にもなれないんだよなあ・・・」
 彼女は自分で動くべきだ。自分の幸せは自分で掴まないと意味がない。
「じゃあ・・・どうしたいわけ・・・・・・?」
 夢々くんの表情は明らかに強張っている。何となく嫌な予感がしているのだろう。俺は悪戯っぽく笑ってみせた。
「目指せ、后の座!!ってのはどう?」
「えええええええええっ!?」
「あ、それ面白そうですね」
「栞さん!?」
 夢々くんは俺と栞さんを交互に見て、口をぱくぱく動かしている。彼には悪いが、俺はどちらかというと栞さん側の人間なのだ。
 滅多にない機会なんだから、上り詰められるところまで上り詰めないとね?

 舞踏会は何とも華やかで、一瞬目が眩みそうだった。こんな体験、なかなかできるもんじゃない。
 まあそんなわけで、お約束の展開―――
「何て美しい姫君なんだ。君、名前は?」
「えーっと・・・一応シンデレラ・・・です」
 あまりキラキラしている人間は得意ではないので、一歩後ろに退きながら応える。王子だって内心、男を口説くのは嫌に違いない。この物語の決まり上、仕方なくやっているのだろう。
 と、思ったのだが―――
「ん・・・・・・?」
 あれ・・・?何か腰に手、回ってないか・・・・・・?
「シンデレラ、僕は―――」
「げ」
 その顔は・・・割と本気なのか、王子!?
 待て、それはさすがにマズイだろ?俺、そういうのは本気でカンベンなんだってば!
「シンデレラ・・・・・・」
 待て待て待て――――――――っ
「あーっ!手が滑ったあっ」
「へ?栞さ・・・・・うわあっ!?」
 突如横から吹っ飛んできた夢々くんが王子に激突。そのまま一緒になって床に倒れ込んだ。どうやら、栞さんに思いきり押されたらしい。
 助かった。・・・といえば助かったんだけど・・・
「・・・えげつないことするなあ・・・」
「さあ、今のうちに逃げますよ」

「それにしても、本気で王子が迫ってくるとはね・・・」
「本物のシンデレラがいなくて欲求不満気味なんでしょう」
「なるほどね」
 そういうことなら話は簡単だ。
 ガラスの靴はちゃんと落としてきた。ここまでは計画通り。
「さて、問題はどうやって王子を強請るかですね」
「ゆ・・・ゆする・・・・・・?」
 穏やかでない栞さんの発言に、びくっと震える夢々くん。
 俺と栞さんの間ではすでに意志疎通はできている。
「大丈夫。俺に考えがあるよ」
 栞さんの耳にそっと考えを囁くと、彼女は納得したように頷いた。
 状況を理解できていない夢々くんだけが、不安げに首を傾げていた。

 その後、物語の流れ通り王子は俺の元へやってきた。
「シンデレラ。僕と結婚してくれないか?」
「それよりも俺、君の父親と結婚したいんだけどな」
「・・・は?」
 目を瞬かせる王子に俺は早口で続ける。
「だからさ、今の后様をちゃっちゃーっと追い払っちゃってよ。で、俺と結婚するよう頼みこんでくれる?君ならできるだろ」
「そんなことできるわけが・・・」
「ふーん。いいんだ?悪い話じゃないと思うんだけどなあ・・・」
 意味ありげに笑い、王子に手招きした。近づいてきた彼に小声で囁く。彼は二、三度頷き―――
「わかった。善処しよう」
 予想通り即答だった。



「こうしてシンデレラ(仮)は見事后の座に着き、国の支配者になったのでした。めでたしめでたし・・・っと」
 本を閉じ、俺は満足げに頷いた。我ながら上出来じゃないか。
「どうかな、栞さん」
「なかなか面白かったんじゃないですか」
 笑顔で頷く栞さんに対し、夢々くんは「ありえないぃぃっ」と頭を抱えている。俺はそんな夢々くんの肩をぽんっと叩いてやった。
「ま、人生色々だよ、夢々くん」
「わけわかんねえっ」
「はははっ」
 その後、俺は二、三冊本を購入し、めるへん堂を後にした。
 まあ、なかなか面白い体験だったよな。
 さて、あとは―――


「ねえ、栞さん」
「何ですか?」
「亮介さんはさ。いったい王子に何て言ったわけ?」
「ああ、あれですか。嘘も方便というか。王子も単純というか」
「は?」
「本当になってくれればいいんですけどねえ・・・・・・」


『もし上手くやってくれたらさ、本物のシンデレラが帰ってくるよ』



 そう
 あとは全部君次第
 さあ、シンデレラ
 自分で幸せを掴みに行きな


Fin



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC

【5443/―・亮介(ー・りょうすけ)/男性/14/謎の郵便屋さん】

NPC

【本間・栞(ほんま・しおり)/女性/18/めるへん堂店長】
【夢々(ゆゆ)/男性/14/めるへん堂店員】

【王子(おうじ)/男性/18/シンデレラの登場人物】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、こんにちは。ライターのひろちという者です。
今回はありがとうございました!

このシナリオを男性PC様で書かせて頂くのは初めてでして。
しかも「后の座を狙う」という展開も初だったので、かなりノリノリで書かせて頂きました。
書いていてとても楽しかったです。
栞と亮介さんの強力タッグに夢々は少々脅えていたようですが(笑
本当は王子&シンデレラにお后様倒される!という部分も書いてみたかったのですが・・・
結局こんな感じに落ち着きました。
いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたなら嬉しいです。

もしまたご縁がありましたらよろしくお願いしますね。
その時は是非!今回果たせなかった亮介さん柴犬化を実行に移したいなと思ってます。
ではでは、本当にありがとうございまいした!