■狭間の聖域■
水貴透子 |
【2269】【石神・月弥】【つくも神】 |
―月光花―
数百年に一度だけ咲く花がある。
その花の名前を月光花。
名前の通り、月の光を受けて育つ花だ。
本来ならば月光花は存在しない花だ。
狭間の聖域だからこそ、育つことが許される禁忌の花。
自然の理に背いて生まれたせいか、その花の命は儚く短いものだ。
だが、次の花を咲かせるための種は残る。
水晶のようにキラキラと輝くその種は加工すれば魔よけのアクセサリーにもなるだろう。
月光花を見たい、もしくは月光花の種が欲しいというのであれば次の満月に狭間の聖域へと赴くがいい。
普通ならばそちら側の人間に月光花を見せるのは禁止されているが、今回は特別だ。
我々、狭間の聖域の住人はそなたを歓迎しよう。
|
狭間の聖域
オープニング
―月光花―
数百年に一度だけ咲く花がある。
その花の名前を月光花。
名前の通り、月の光を受けて育つ花だ。
本来ならば月光花は存在しない花だ。
狭間の聖域だからこそ、育つことが許される禁忌の花。
自然の理に背いて生まれたせいか、その花の命は儚く短いものだ。
だが、次の花を咲かせるための種は残る。
水晶のようにキラキラと輝くその種は加工すれば魔よけのアクセサリーにもなるだろう。
月光花を見たい、もしくは月光花の種が欲しいというのであれば次の満月に狭間の聖域へと赴くがいい。
普通ならばそちら側の人間に月光花を見せるのは禁止されているが、今回は特別だ。
我々、狭間の聖域の住人はそなたを歓迎しよう。
視点⇒石神・月弥
月弥の興味を惹いたのは『月光花』と呼ばれる禁忌の花。
最近、噂でよく聞く狭間の聖域にのみ咲くことを許された花だと―…。
「…月光花…」
月弥はポツリと呟き、その花を見に行く事を決意した。幸いにも今宵は満月、狭間の聖域への扉は開いている。
「どんな花なんだろう…」
狭間の聖域へと向かう準備をしながら、月弥は期待に満ちた声で呟いた。
こんなもんかな、月弥は肩掛けバッグを持ちながら聖域へと向かった。
「…うわぁ」
狭間の聖域に足を踏み入れた最初の言葉がそれだった。
名前からして、きっと薄気味悪い場所なのだろうと考えていた月弥だったが、その予想は見事に打ち砕かれた。
月弥が出た場所は一面の花畑、空にはぽっかりと丸い月が浮かんでいて、言葉で現すのだったらまさに『神秘的』という言葉がぴったりと似合う場所だった。
「珍しいな、客人か?」
突然、背後から声が聞こえたため、月弥はバッと勢いよく後ろを振り向いた、そこにいたのは一人の女性で、狭間の聖域の雰囲気とよく似た感じがした。
「…目的は月光花か?おぬし、運がいいな。今年の花は出来がいい。良い種も手に入るだろう。あぁ、紹介が遅れた。私はナナシ、狭間の聖域の番人だ」
ナナシと名乗った彼女は心地よく吹く風を受けながら髪をなびかせる。
「…ところで大層な荷物で来たのだな。月光花を見に来ただけじゃないのか?」
ナナシは月弥が持っている大荷物に視線を移して、クスと笑みを浮かべる。
「あ、ここに来た記念というか…絵を描こうと思って…だめですか?」
本当は写真を撮って月光花の姿を留めておきたかったのだが、本来は見せることも禁止されている花だと言うので、写真は控えた。
その代わりに絵を描いて、月光花の姿を忘れないようにしたかったのだ。
「絵なら別に構わない。写真だと月光花の姿がそのまま残る事になるからダメだが」
「そう…ありがとうございます」
月弥はナナシに礼をいい、手ごろな場所に腰を降ろした。
そして、まるで小学生が使うような図画セットとスケッチブックをバッグから取り出して、スケッチブックに鉛筆を滑らせた。
「でも…何でこんなに綺麗な花が禁忌なんだろう…」
絵を描きながら月弥は疑問に思ったことをポツリと呟いてみる。
「…綺麗だからさ。おぬしは知っているか?美しいものは時として人を狂わせる。美の魔力に狂わされて、争いを起こす。これもその一つだ」
ナナシが話すには、元々『月光花』と呼ばれる花は月弥の暮らす世界に存在した花だったらしい。絶滅に瀕した花で、その花を巡って争いが耐えなかった。
「もしかしたら、それすらも月光花の望みだったのかもしれない。だから―…狭間の聖域へと封印した。この花は人々の血を吸い、美しく艶やかに咲き誇る、災いの花だから」
「でも、今はこの聖域で綺麗に咲いてるよ。それはナナシのおかげだよね」
月弥の言葉にナナシはキョトンとした顔で月弥を見つめ、大きな声で笑い始めた。
「ははははっ、おぬし面白い奴だな。気に入った。これをやろう」
そう言ってナナシは近くの花を摘み、その花から種を取り出した。
「これは月光花の種、きっとおぬしを守ってくれる事だろう」
渡されたそれはキラキラと輝いていて、月の光のような神秘的なものにも思えた。
「ありがとう、大事にするね」
渡された種をバッグになおしながら、月弥は再び鉛筆を滑らせる。
神秘的なその空間を支配するのは、風によって月光花が揺れる音、そして月弥の鉛筆を滑らせる音だけだ。
ナナシも月弥の隣に腰を降ろし、何を言うでもなく月弥の描く絵を眺めていた。
「出来た」
あれから暫くの時間が過ぎ、月弥の声がナナシの耳に響いた。
「見せてもらってもいいか?」
「うん」
月弥が描き終わった絵をナナシに渡すと「へぇ…」と短い言葉がナナシの口から紡がれた。
「中々上手く描けているな」
「あ、こっちのはナナシにあげるよ」
月弥が「種のお礼」と言って渡したのはスケッチブックの一ページで、そこには満月を背景にするナナシが描かれていた。
「…これは…私か?」
ジーっとスケッチブックを眺めながら小さく呟いた。
「あ、気に入らなかった…かな…」
「…いや、嬉しい。こういう風に何かを貰うのは初めてだから途惑っただけだ」
そう呟くナナシの顔は緩み、言葉の通りに嬉しそうだった。
「そろそろ、月が消える時間だ。また来い。おぬしなら私は歓迎するぞ」
ナナシが言い終わると同時に朝日が昇り始め、ナナシ、そして狭間の聖域の空間がぐにゃりと歪み始めた。
「今日はありがとうございます、俺、月光花を見られてうれしかったです」
ナナシは月弥の言葉に返事を返す代わりに軽く手を振ってその姿を消した。
聖域から出た場所は自宅の玄関の前だった。
もしかしたら、あれは夢だったのではないだろうか、とも月弥は思ったが、バッグの中にはナナシから渡された月光花の種が存在していて、夢ではなかった事を証明していた。
「…また、行けたら行きたいな…」
今はもう消えた月を眺めながら月弥は小さく呟いた。
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
2269/石神・月弥/男性/100歳/つくも神
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
石神・月弥様
お久しぶりです!
今回「狭間の聖域」を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
発注をかけてくださいまして、本当にありがとうございました。
なのに納品日ギリギリになって申し訳ないです。
話のほうはいかがだったでしょうか?
少しでも楽しんでくださったなら、ありがたいです^^
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくおねがいします^^
−瀬皇緋澄ー
|
|