■文月堂奇譚 〜古書探し〜■
藤杜錬 |
【4984】【クラウレス・フィアート】【「生業」奇術師 「本業」暗黒騎士】 |
とある昼下がり。
裏通りにある小さな古い古本屋に一人のお客が入っていった。
「いらっしゃいませ。」
文月堂に入ってきたあなたは二人の女性に迎えられる。
ここは大通りの裏にある小さな古本屋、文月堂。
未整理の本の中には様々な本が置いてある事でその筋で有名な古本屋だ。
「それでどのような本をお探しですか?」
店員であろう女性にあなたはそう声を掛けられた。
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文月堂奇譚 〜古書探し〜
クラウレス・フィアート編
●雲の下で
「たまにはしずかにほんをよむのもいいかもでちね…」
どんよりとした曇り空、肌にじっとりとした感覚がまとわりついてくるような梅雨の最中、クラウレス・フィアートはふと思いついたように呟く。
「たしかここからならふみつきどうもちかかったでちよね……。せっかくだからあいさつもかねていってみるでちか」
そうクラウレスは呟くと、奇術の合間に休憩の為に座っていた公園のベンチから立ち上がり歩き出すのであった。
「でもきょうはどういうほんをさがすでちかね…」
曇り空を見上げて歩きながらクラウレスはこれからのことを考え始める。
「そうでち、きょうはしあわせなどこかうれしくなるようなほんをさがすでち」
どういう、という事ではなく幸せになれる本という目標を決めたクラウレスは、文月堂の方へと向かってゆっくりと走り始めた。
●本の所在
「たかみさんこんにちはでし、あのどうわのほんってどこにおいてあるでちか?」
文月堂に着いたクラウレスは店番をしていた佐伯隆美(さえき・たかみ)に軽く挨拶をする。
「童話?なんか珍しい物を探しているのね」
「いえ…、しりあいからきかせてもらったおはなしがきになってまちて…」
「へぇ、それでどういうのを探しているの?」
「それはでちね…」
そう言って少し勿体振りながらクラウレスは話し始める。
「さるかにがっせんやにんぎょひめなんかのちいさなしあわせがいっぱいつまったおはなしがよんでみたいのでち」
「なるほど、小さな幸せね。童話ならそういうお話がたくさんあるものね」
納得したかのように隆美が小さく頷く。
「そういう事なら私も協力するわよ、一日じゃ読みきれないくらい探すのを協力してあげるわ」
「ほんとうでちか?ありがとうでち!」
クラウレスが嬉しそうに隆美に微笑む。
「それじゃ探し始めましょうか?」
「そうでちね、がんばるでちよ」
そう言って二人は山となっている本の山に挑み始めるのであった。
●気持ち
「それにしても、わが店の事ながらすごい量ね…」
勢い込んで探し始めたはいいが、その少し探すと出てくる本の量に少し辟易した様に隆美がいう。
「でもたのちいでしよ?ほんとうにこのおみせにはいろいろなほんがあるでちね」
クラウレスが目当ての本以外にもたくさんの『童話』の書かれた本を見つけて一冊一冊嬉そうに手に取る。
そして手に取った本をゆっくり開いては楽しそうに読んで行く、そしてその中でも気持ちが暖かくなる本を分けて積み上げていった。
ただ、その積み上げた量だけでもかなりな高さと気がつくとなっていた。
「でもさっきの話は判るけど、いきなり童話ってのも驚いたわよ」
一休みにと紅茶とクッキーを持ってきて、クラウレスと一緒に休んでいた隆美が思い出した様にクラウレスに話しかける。
クッキーを嬉しそうに頬張っていたクラウレスはその言葉にふとその手を止めた。
そして少し寂しそうな声で話し始める。
「わたしは…このよのなかがたのしいことやうれしいことだけじゃないことをしっていまちゅ…。だからせめてほんのなかだけでもおはなしのなかだけでもしあわせがいっぱいなおはなしがあってもいいんじゃないかとおもったのでち…。そうかんがえたらいてもたってもいられなくなったのでちよ」
クラウレスのその言葉にふと隆美も何かを考える。
「確かに、この世界は綺麗な事ばかりじゃないし、幸せな事だけじゃないわよね。そのクラウレス君の気持ちなんとなくだけど私も判るわよ。深く考えた事はなかったけど、私が本が好きなのもクラウレス君と同じ様な事を無意識に考えているのかもしれないわね」
「たかみしゃんもそうなのでちか?」
「そうかもしれないって事ね。……でもね、この世の中には逆に本当に幸せなこともあるのよ。本当にすぐ身近な所にね」
隆美はそんな風に言いながら自らの義理の妹のことを思い浮かべる。
本来ならば不幸と戦っていかねばならなかったはずのその少女が得られた幸福のことを考えながら。
「そういうものでちか?」
隆美が何を考えてるのか?少し不思議に思ったクラウレスが疑問を口にする。
「あ、そういう事もあるかもしれないって事よ?」
隆美はそんなクラウレスの言葉に慌てた様に答える。
そして誤魔化すかの様にお皿の上に残っていた最後のクッキーを口に運ぶ。
「最後のこのクッキー貰っちゃうわね」
心の動揺を感ずかれない様にわざと茶化すようにクラウレスにそう話す。
「ああっ、ひどいでち。さいごにたべようとにとっておいたのに…」
クラウレスもなんとなく気がつきながらも、あえて深く突っ込まない様に軽い調子で隆美に答えた。
●闇の先の光
そうして一通り本を探し終えたクラウレスは、気に入った本を手にとり文月堂を後にする。
「わたちはほんとうにこういうものをしらなかったでちね…」
クラウレスは歩く歩を止め街頭の下でそうして集めた本を見ながらそんなことを考える。
決して不幸を否定してきたわけではない。
ただ、自らが普段見慣れているそういう『報われないこと』に対する何かを探したかったのかもしれない。
たとえそういう『幸せ』が今は本の中にしかなかったとしても、いつかどこかにきっとその幸せが実際にあるのだと、そう思いたかったから。
そういう自らの頃に囁いてくれる何かを探したかった。
「いまはどこにあるかわからないでちが……。いつかきっとさがしてみせるでち」
クラウレスはどこか決意したかの様に一人呟くとすっかり暗くなった通りを再び進み始める。
今の自分はこの暗闇の中にいるかもしれない、だがいつかきっと、光り輝く場所を見つけることが出来るとそう思いながら……。
Fin
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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≪PC≫
■ クラウレス・フィアート
整理番号:4984 性別:男 年齢:102
職業:【生業】奇術師 【本業】暗黒騎士
≪NPC≫
■ 佐伯・隆美
職業:大学生兼古本屋
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■ ライター通信 ■
こんにちは、お久しぶり、ライターの藤森錬です。
今回は再びゲームノベル『文月堂奇譚 〜古書探し〜』にご参加頂きありがとうございます。
幸せとは何か?という事を考えることの難しさ、が上手く出せてれば良いな、と思います。
本格復帰へはまだ少し掛かりそうですが、少しずつ、復帰していこうかと思っています。
依頼などでもし見かけましたらまたよろしくお願いいたします。
それではこれから暑い盛りになりますが体調などお気をつけください。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
2005.07.11
Written by Ren Fujimori
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