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■【ボトムライン・アナザー≪バトル1:rookie≫】■
切磋巧実
【0580】【高桐・璃菜】【エスパー】
●ボトムラインの風
 ――フェニックス。
 アメリカ南西部ソノラン砂漠の中心にある町だ。
 太陽の谷とも呼ばれたこの町を訪れる者は様々だが、皆どこかに喪失感を持っている者ばかりだ。或る者は大金を狙って訪れ、或る者は酒場の美人オーナー目当てに訪れ、そして、戦場の硝煙の匂いと緊張感が忘れられない者が訪れる。
 ――ボトムライン。
 かつて警察の賭博だったモノが何時の間にか広まったMS(マスタースレイブ)バトルだ。つまり、MSに乗った者達が互いに戦い合い、行動不能にすれば勝利となるゲームと呼ぶのが相応しいだろうか。
 何ゆえ金色の大海に囲まれ、気温は40度を越える町で開催されているのか定かでないが、密かな話題になっているのは確かだ。

 この物語は、硝煙の匂いと鋼鉄の弾け合う戦いを忘れられない者達が、トップ・ザ・バトラーを目指して戦い合う記録である。

●酒場エタニティー
 物憂げなバラードが店内に響き渡るものの、客共はいたって陽気だ。アルコールと煙草の匂い、客の喧騒が室内を包み込む中、耳を傾ければボトムラインの噂話ばかりが溢れていた。
 ――酒場エタニティー
 ボトムライン闘技場の傍にある安酒場である。
 闘技場の近くとあってか、最新情報も入手できると、ボトムバトラーや関係者には、評判が高い。

「それにしてもよぅ、あれは見掛け倒しだよな」
「あの見慣れないMSの事か?」
「これまでの戦績は黒星ばかり、一度も勝ってないんだと」
「ボトムバトラーは若い娘だって噂だぜ。たいそうな美少女って聞くぜ?」
「するってーと、金持ちの嬢ちゃんの遊びかよ?」
「最近は女バトラーも増えたからな、ったく女の出る幕じゃないぜ。面が良いなら、わざわざボトムラインに関わるなっての!」
「あら? 随分と余裕のない事を言うのね」
 男共の噂話に落ち着いた声を響かせたのは、酒場の美人オーナー、アンナ・ミラーだ。噂では過去に何人もの男から求婚され、どれも撃墜したとも聞く。飾りっ気は無いが、腰ほどある赤毛と薄での衣服から窺える肢体は大人の色香を漂わせており、どこか少女的な風貌が妙なアンバランスさを醸し出していた。
 アンナはカウンターに頬ずえをつき、クッと小首を傾げて見せる。
「ボトムラインは男だけの舞台じゃない筈だけど?」
「あー、いや、つい愚痴っただけだよ」
「それよりアンナ、次のバトルは決まったのか?」
 アンナの少し垂れた瞳が微笑する。
「ええ、バトルは一週間後‥‥種目はイングリッシュバトルよ☆」
 ――イングリッシュバトル。
 またの名をピットファイトと呼ばれるバトルだ。
 中世の戦いを意識したものかは定かでないが、このバトルは格闘武器のみで行われる。正に拳と拳のぶつかり合い、刃と刃の弾け合う格闘技だ。それ故に、手加減は効き難く、下手をすれば命の保証もない。
「今更ピットファイトかよ!」
 ――ボトムラインには幾つかの種目がある。
 迷路を駆け巡りながら模擬弾(ペイント弾)でバトルする『サーチ&アンブッシュ』。射撃武器無しの接近戦のみで行う『イングリッシュバトル』。MS対サイバー、または複数対1の変則マッチなど、所謂異種格闘技に近い『アストラルバトル』。そして、正真正銘の戦闘を行う『ブラッディーバトル』だ。

「乗る気がないようね? どうやらグランプリを開催するみたいよ。つまり、格闘戦の『イングリッシュバトル』、射撃戦ありの『ブラッディバトル』、チーム戦や異種戦の『アストラルバトル』、迷路を進行して旗を取る『フラッグバトル』などを開催し、この街の最強バトラーを決める大会らしいわ☆」
「その第1バトルがピットファイトって事か‥‥」
「噂の『白いお嬢様』も出場するらしいわよ」
 ボトムラインに最近出場しているMSだ。機体名はサーキュラー。シャープなシルエットで模られたMSだが、下半身は膝部を覆う裾の広いフレアスカートのようなイメージを醸し出す機体であり、外観から、白いお嬢様とバトラー達に呼ばれていた。
「参戦したい人はマッチメーカーと契約するのを忘れちゃダメよ。因みに私もマッチメイクしてあげるけど? 仲間を探すのもOKよ♪」
 ボトムラインに参戦するには『マッチメーカー』と契約する必要がある。これは面倒な処理と対戦カードを取り仕切る所謂マネージャーに近い存在だ。
 酒場に集うバトラー達は喧騒を奏でながら、アンナの用意した広告に群がり出す。

 今、この街に新しいボトムラインの歴史が刻まれようとしていた――――
【ボトムライン・アナザー≪バトル1:rookie≫】

 ――湯気の中から水滴を滴らせたしなやかな足が浮かぶ。
 胸元までをバスタオルで覆い、左手を添えて少女は部屋の中を歩いた。向かう先はデスクのようだ。タオルを巻いた緑の髪を拭きながらパソコンを起動させると、アップに纏めた髪を解く。まだ、しっとりと乾き切っていないロングヘアが舞い踊り、ゆっくりと腰の辺りで落ち着いた。
「さてと。スッキリしたし、頑張らなくちゃ♪」
 高桐璃菜は端整な風貌に微笑みを浮かべると、椅子に腰を降ろし、カタカタとキーを叩き始めた。ディスプレイに数字が羅列される中、大きな赤い瞳を左右に流しながら、作業を続けた――――。

「ふあ〜ぁ‥‥ん?」
 ボサボサの髪をポリポリと掻きながら、神代秀流は眠気まなこでドアを開けた。パソコンが低い唸り声をあげており、瞳を流す。刹那、青年は瞳を見開いた。
「お、おいッ! 璃菜!?」
 彼の瞳に映ったのは、バスタオル一枚だけを纏い、ぐったりと眠りこける少女の姿だ。あまりに無防備な姿に、朝っぱらから鼓動を高鳴らせつつ、優しく肩を揺り動かす。
「うぅん‥‥なによぉ」
 ぐしぐしと目を擦り、ぽぉ〜っとした表情で璃菜は半身を起こした。パラッと僅かにバスタオルが緩む。
「な、なによじゃないだろう! ったく、なんて恰好で寝惚けてんだよ‥‥!」
 秀流の瞳がディスプレイを捉える。数式の羅列に覚えがあった。
「璃菜‥‥これはMSの」
「んん? そうよぉ‥‥MSのOSを書き換えて‥‥って」
 面白いようにゆっくりと赤い瞳が見開いた。少女の顔色が変わる。
「あぁーッ! 眠っちゃったんだ!」
 バンッと机を両手で叩くように立ち上がると、勢いでパサッと緩やかに身体を覆ったバスタオルが落ちた。因みに秀流は璃菜の背後に周っていたので、しなやかな背中のラインを拝めただけだ。耳を劈くほどではないが、少女は悲鳴をあげて蹲る。肩越しで振り向き、唇を尖らせた。
「ちょっと、何で私こんな恰好なのよ!?」
「お、俺が知るわけないだろう! いいから、さっさと服を着ろ!」
 ポリポリと黒髪を掻きながら青年はその場を後にした。

 ――フェニックス。
 アメリカ南西部ソノラン砂漠の中心にある町である。
 太陽の谷とも呼ばれたこの町を訪れる者は様々だが、皆どこかに焦燥感を持っている者ばかりだ。中でも、戦場の硝煙の匂いと緊張感が忘れられない者が多く訪れる。
 ――ボトムライン。
 かつて警察の賭博だったモノが何時の間にか広まったMS(マスタースレイブ)バトルだ。
 何ゆえ金色の大海に囲まれ、気温は40度を越える町で開催されているのか定かでないが、密かな話題になっていた。

 この物語は、硝煙の匂いと鋼鉄の弾け合う戦いを忘れられない者達が、トップ・ザ・バトラーを目指して戦い合う記録である――――

●約束
「秀流の超能力じみた直感に対応できるよう、MSのOSを修正して反応速度を上げておいたの。結果として機動力UPに繋がってると思うわ」
 ガレージで二人は恐竜のシルエットを模ったMSを見上げた。
「そうか。‥‥悪かったな、無茶させてしまったようだ」
 璃菜は首を横に振ると、再び『護竜』を見上げて口を開く。
「勝っても負けても無事で帰ってきてね。お父さんも、そうだったから」
「ああ」
「お父さんとお母さんもこういった大会にたまに出てたよね。あの時の私達は観客席。今はお父さんとお母さんと同じ場所に立ってる。‥‥‥‥ちょっとは二人に近づけたかな‥‥?」
 微笑みを浮かべた瞳はMSから秀流へ流れていた。見上げる少女に青年は応える。
「ああ、璃菜も俺も、きっと近づいてるさ」
 見つめ合う若い二人はゆっくりと互いの距離を縮めてゆく。刹那、璃菜が「あっ」と小さく呟き、視線を逸らすと、彼の間を擦り抜ける。少女が駆け出して追うのは2匹の飼い猫だ。
「あ、こら迷子になるからここにいなさいって! もぉ、言うこと聞きなさいってば!」
 青年は苦笑する。
「やれやれ、これじゃ出撃の挨拶もお預けかな?」

●唸る銀狼! 鎖の鞭を捌け! 護竜vsSilveWolf
 護竜はブロードソードを上段に構えて間合いを計った。SilveWolfはMS用高周波ダガーを右手に、大型チェーンを左手に持っている。一気に肉迫するか否か、その判断が重要だ。まして相手はバリエベース。装甲を犠牲にしているだけに機動性はエリドゥーを凌駕している筈。
 秀流は望遠カメラに、如何にも速そうなシルエットの銀色の機体を捉えるものの、機動性に目を見張る。
「速いッ! 護竜だって機動性を上げている筈なのに、機体ベースの違いって訳か!?」
 刹那、衝撃に機体が揺れた。青年は顔色を変え、不安に彩る。
「長距離から!? クッ! 何て正確な狙いなんだ! 一撃は軽傷だが‥‥」
 ――躱せない!?
 何とか動き回り鎖の洗礼を躱そうと努めるが、機体は鋼鉄の鎖を叩き付けられ、赤い火花を散らし続けた。恐らく相手からの視点では、回避が追い着いておらず、面白いように攻撃がヒットしている事だろう。
「こうなればダメージ覚悟で接近するしかない!」
 護竜は防御体勢を取りながら前進した。同時に視界に銀色のバリエが肉迫する! 直ちにバックスピンの動きに入ろうとするが、望遠カメラに映る相手のカメラアイが発光したのを確認する。
「接近戦で来るのか!? 間に合わないッ!? うあッ!」
 チェーンの時よりも激しい衝撃がコックピットを襲う。
 SilveWolfは攻撃手段を高周波ダガーに切り換えたのだ。振るわれた刃が恐竜のシルエットに火花と共に切り傷を刻んでゆく。
「これ以上やらせる訳にはいかないんだよッ!!」
 護竜はタックルを叩き込む――――筈だった。しかし、相手は自分の機体が脆い事は熟知していたのだ。巧みな操縦と機動力でヒット&ウェイを繰り返す。それは正に狼が獲物に跳び掛かり、牙の洗礼を与えては跳び去り、再び牙を向ける野獣そのものの動きだ。
 高周波ダガーは使用回数に限りがあるものの、確実に恐竜にダメージを与え続けた。塗料が熱で鮮血のように舞い、装甲の破片が爬虫類の皮膚の如く飛ぶ。護竜のメカニックを担当した緑のロングヘアの少女には、恐竜が痛みに咆哮をあげるように見えた事だろう。
 ――渾身の一刀が叩き込まれ、カメラアイが破片を飛ばした。
 次に響き渡ったのはバトル終了を告げるサイレンの音だ。
「やられたな。こりゃ修理代が掛かるか」
 胸部ハッチを跳ね上げると、頬を掻いて秀流は苦笑する。歓声と罵声がコロシアムを包む中、銀色の機体も胸部ハッチを開いて、バトラーが陽気に手を振り声援に応えていた。
「女‥‥の、子?」
 秀流の瞳に映った対戦相手は、銀髪の小柄な少女だ。しかも、ゆっくりと歩きながら少女に近づくのも、同じく小柄な銀髪の娘。
「双子‥‥じゃないよな? メカニックか‥‥。あ、コケタ‥‥」
 おっといけない。対戦相手とはいえ、あまり少女を見ていてはパートナーに何を言われるかも分からない。
「うーん、まだ力不足ってことか‥‥。だが、次は勝たせてもらうぞ!」
 小さな声で呟き、傷付いた護竜をゆっくりと扉へと向かわせた。

 扉を潜り抜けると、少女が佇んで待ち侘びていた。
 秀流は傷だらけの機体を止めて、胸部ハッチを上げる。交される瞳の中、静寂が二人を包み込む。沈黙を破ったのは璃菜だ。
「あ〜‥‥残念ね‥‥帰りはエタニティーで残念パーティーね」
「‥‥すまない」
 大して残念そうな暗い声では無かったものの、青年は俯いて小さな声で謝罪する。少女は小さく溜息を洩らして視線を流す。
「(もぅ、素直なんだから!)でもさ、1回戦は勝ったんだから、残念パーティーってより、反省会よね?」
「次は‥‥必ず勝ってみせる」
 クルリと璃菜は背中を向ける。
「そう? でも、私は約束さえ守ってくれればいいのよ」
「やくそく?」
 少女はふわりと髪を揺らし、腰を捻って振り向く。
「勝っても負けても無事で帰ってきて。それだけで私は嬉しいんだから‥‥満足なんだから」
 大きな赤い瞳が潤む中、璃菜は微笑みを浮かべて見せた。秀流は何かに気付いたように少女と視線を交差させると、フッと微笑みを取り戻す。
「反省会、行くか」

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/クラス】
【0580/高桐・璃菜/女性/18歳/エスパー】
【0577/神代・秀流/男性/20歳/エキスパート】

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■         ライター通信          ■
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 この度は御参加ありがとうございました☆
 お久し振りです♪ 切磋巧実です。
 始めに『この物語はアメリカを舞台としたボトムラインです。セフィロトにボトムラインはありませんので、混同しないようお願い致します』。また、MSの演出面もオフィシャルでは描かれていない部分を描写したりしていますが、あくまでライターオリジナルの解釈と世界観ですので、誤解なきようお願い致します。
 上記のような理由がございますので、セフィロト関連の台詞はアレンジさせて頂きました事を御了承下さい。
 さて、お約束のようなサービスカット的演出をさせて頂きましたが、事実どの辺まで進展しているのでしょうか?(笑)。「へん! 璃菜の裸なんて見慣れているぞ」なんてとこまで進展していると辻褄が合わなくなるので、微妙に濁させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 いえ、リアクションが無いと不安にも‥‥。
 それでは、また出会える事を祈って☆