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■Eden −箱庭の扉−■ |
紺藤 碧 |
【0592】【エリア・スチール】【エスパー】 |
何時もの街並みのはずなのに、時々見える蜃気楼のよな陽炎のようなものは何だろう。
眼がおかしくなったのかと思ってこすってみても、目薬をさしても何も変わらない。しかも周りの人たちにはこの蜃気楼が見えていないようなのである。もしかしたら自分が何か得体の知れない病気にでもかかってしまったのかもしれないが、熱も無いのにこの夏の景色のような陽炎が見えるなど明らかにおかしい。
おかしいと思いつつも、そっと手を伸ばし蜃気楼に触れる。
一瞬の頭痛に瞳を閉じると、瞼の裏に今までとは違う色が見える。
ゆっくりと瞳を開き周りを見渡すと、目隠しをした人が一人、こちらを向いていた。目隠しをしているはずなのに、射貫かれたような視線を感じる。
『無理矢理こじ開けた人なんて、初めてだよ』
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箱庭の扉
何時もの都市マルクトのはずなのに、時々見える蜃気楼のような陽炎のようなものは何だろう。
眼がおかしくなったのかと思ってこすってみても、目薬をさしても何も変わらない。しかも周りの人たちにはこの蜃気楼が見えていないようなのである。もしかしたら自分が何か得体の知れない病気にでもかかってしまったのかもしれないが、熱も無いのにこの夏の景色のような陽炎が見えるなど明らかにおかしい。
おかしいと思いつつも、そっと手を伸ばし蜃気楼に触れる。
一瞬の頭痛に瞳を閉じると、瞼の裏に今までとは違う色が見える。
ゆっくりと瞳を開き周りを見渡すと、目隠しをした人が一人、こちらを向いていた。目隠しをしているはずなのに、射貫かれたような視線を感じる。
『無理矢理こじ開けた人なんて、初めてだよ』
はたっと足を止めて、エリア・スチールは顔を上げる。
気が付けば買い物をしていたはずなのに、目の前には以前見覚えのある景色が広がっていた。
(こじ開けちゃった?)
風景に気を取られながらも、以前聞き覚えのある声になんとなく首をかしげエリアは辺りを見回す。視線を向ければ、見覚えのある少女がこちらに顔を向けて立っていた。
エリアはハッと我に返って、目の前の少女に駆け寄る。
「大丈夫? わたくし勝手にこじ開けてしまったから、この空間が消えかかってるなんて事無いですよね!?」
気が付くや早口でまくし立てるように一気に言葉を発したエリアに、少女−エアティアはゆっくりと顔を上げた。
『大丈夫。消える事は無い』
その一言だけを伝えてすっと背を向けると、エアティアは湖畔の切り株へと歩いていく。
『一度会ったから、波長が合ったんだよ…きっと』
テレパス系ではないとはいえ、エリアもれっきとしたエスパーだ。何かしらの力が働きあってもおかしくない。
エアティアの返答に、エリアはほっと胸をなでおろし、安心したようにその顔に笑みを浮かべる。
改めて辺りを見渡せば、この前迷い込んだときと一切の変化のない湖畔。ありえないとは思っていても、森の動物達がその円らな瞳をエリアに向けていた。
前来た時に、ここはエアティアが作り出した空間だと言っていた。強い幻覚の能力によって引き込まれているだけ。
足元に擦り寄ってきた小さな動物達を撫でるように腰を屈めて、その頭を撫でる。
ちゃんと、毛並みの手触りがあった。
『帰るなら、向こうに歩いていけば、出れるよ』
切り株に腰を下ろして、すっと森の向こうに指を差す。
帰るなら、という事は、帰らなければ此処に居てもいいという事なのだろうか。
エリアはふわりと微笑んで振り返ると、
「わたくし前から一度この湖でお昼寝してみたかったのです」
余りにもうきうきと話すエリアに、エアティアも瞳をパチクリとさせたような驚きを口元に浮かべる。
『好きにして…いいよ』
「ありがとうございますわ♪」
この太陽も雲も無い真っ白な空といえど、麗らかな日差しが差し込む湖畔に、エリアは腰を下ろす。
その周りに集まった動物達は、そんなエリアに頬を寄せ、じっとその瞳を覗き込んできた。
「あの、お昼寝の前に、少しだけ遊んで行って、良いですか?」
動物達の瞳がどうしても「遊んで」と言っている様に見えて、エリアは顔を上げると嬉々として問いかける。
そんなエリアの笑顔にエアティアがくすっと笑ったのが分かった。
『遊んで、いいよ』
迷い込んだとは違う、無化効力とはいえ自分の力でこの場所に無理矢理入り込んでしまったのに、嫌がることもせず自分を受け入れてくれたエアティアに、エリアはまたもほっと胸をなでおろす。
それだけで、嫌われたわけではないと思う事が出来たから。
迷い込み出会ったのも偶然。
そして、エリアがこの空間へと興味を示した事も、偶然と言えるのなら、この出会いは必然と言えないだろうか。
エリアはその膝に前足を置いた仔犬を抱き上げて、切り株に腰掛けるエアティアにふと振り返った。
☆
まるでエリアの言葉が分かるかのようにその動きに合わせて飛び上がったり、走り回ったりする動物達。
なぜだろう…とても、見覚えがある。
『当たり前だよ』
湖畔の切り株に座り込み、こちらに視線を向けることなく言い放ったエアティアの言葉。
エリアは動きを止めて顔を上げると、その言葉に首を傾げる。
『僕は本物の動物なんて知らない』
ならば、なぜこの湖畔には動物がいるのか。
疑問に瞳を泳がせて、エリアは足元の動物達を見る。
幻覚だから本物の命ではないと分かっていたけれど、その暖かさにそれを忘れそうになっていた。
『この動物達は、君の記憶』
以前見た事のある動物、その手で触った事のある動物。
エアティアはエリアが普段気にしていない程、表に出ていない記憶の中にある動物達と共に過ごした記憶を読み取り、ここに擬似的に存在させた。
エリアはエアティアが座る切り株に歩み寄ると、その顔を覗き込むように腰を屈める。
「なら、わたくしの記憶に触れる事で、エアティアは動物を知る事ができたのですね」
そんな事を言われるとは思っていなかったのだろう、エアティアは頭を上げてその顔をエリアに向けた。
「動物、知らなかったのでしょう?」
まるで追い討ちをかけるようなエリアの言葉に、目隠しで隠れていない頬が少しだけ赤くなった気がした。
「遊びましょう? 一緒に」
たとえ偽者でも、この時間は本物。
エリアは座るエアティアの手を握り、腰を上げるように引っ張る。
『結構強引なんだね』
声なんてその口から発せられていないのに、くすくすと笑う声がどこかで聞こえた気がする。
「せっかくこんな素敵な場所にいるんですもの、勿体無いと思いますわ」
水面はキラキラと輝き、せせらぎの音が優しく耳を撫でる。今まで風の音だけが聞こえた空間に小鳥のさえずりが加わり、辺りを静かに彩っていく。
ここに、夜も昼も無い。
あるのは、何も無い空だけ。
『エリア』
余りにも平坦に、だが自然に呼ばれてしまった名前に、エリアは顔を上げる。
『外は、もう直ぐ夕方だよ』
動物達と遊ぶ事に気を取られ、時間が過ぎている事にまったく気が付かなかった。
しかし、この空間に囚われていてもちゃんと時間は流れるらしい。
「いけない!」
そう自分は買い物をするために昼過ぎほどに家を出たのだ。
それが気が付けば夕方。そろそろ帰らなくてはいけない。
『そうだね…さよならだよ』
すっとエアティアが一歩後へと身を引く。
「え?」
突然の言葉に振り返ると、目の前が渦を巻くように歪んでいった。
手を伸ばして、名前を呼ぼうと薄く開いた口のまま、エリアはマルクトの街に立ち尽くしていた。
さようなら。って言葉にしたいのに、世界はそれを許してくれなかった。
ううん、エアティアがその言葉を言う事を許してくれなかったのかな?
またね。だったら―――
「エア……」
開きかけた口をすっと閉じて、ぎゅっと唇をかみ締める。
「あぅ…!!」
そしてズキンッと痛む頭。
エリアは買い物袋を抱えなおし、痛みを発する頭を抑えながら、ふらりと岐路に着いた。
その袋に、蒼い石を一つ増やして―――…
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0592 / エリア・スチール / 女性 / 16歳 / エスパー】
【NPC / エアティア / 無性別 / 15歳 / エスパー】
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■ ライター通信 ■
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箱庭の扉にご参加ありがとうございます。ライターの紺碧 乃空です。この状態で友情度がそれなりに上がったかと思います。見た目的に多分お友達になりやすい年齢ですしね(笑)少女版のエアティアも少年版のエアティアも口調には余り変化がなくてすいません(苦笑)
それでは、エリア様がまたエアティアに会いに来ていただける事を祈りつつ……
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