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■【ボトムライン・アナザー≪バトル1:rookie≫】■
切磋巧実
【0351】【伊達・剣人】【エスパー】
●ボトムラインの風
 ――フェニックス。
 アメリカ南西部ソノラン砂漠の中心にある町だ。
 太陽の谷とも呼ばれたこの町を訪れる者は様々だが、皆どこかに喪失感を持っている者ばかりだ。或る者は大金を狙って訪れ、或る者は酒場の美人オーナー目当てに訪れ、そして、戦場の硝煙の匂いと緊張感が忘れられない者が訪れる。
 ――ボトムライン。
 かつて警察の賭博だったモノが何時の間にか広まったMS(マスタースレイブ)バトルだ。つまり、MSに乗った者達が互いに戦い合い、行動不能にすれば勝利となるゲームと呼ぶのが相応しいだろうか。
 何ゆえ金色の大海に囲まれ、気温は40度を越える町で開催されているのか定かでないが、密かな話題になっているのは確かだ。

 この物語は、硝煙の匂いと鋼鉄の弾け合う戦いを忘れられない者達が、トップ・ザ・バトラーを目指して戦い合う記録である。

●酒場エタニティー
 物憂げなバラードが店内に響き渡るものの、客共はいたって陽気だ。アルコールと煙草の匂い、客の喧騒が室内を包み込む中、耳を傾ければボトムラインの噂話ばかりが溢れていた。
 ――酒場エタニティー
 ボトムライン闘技場の傍にある安酒場である。
 闘技場の近くとあってか、最新情報も入手できると、ボトムバトラーや関係者には、評判が高い。

「それにしてもよぅ、あれは見掛け倒しだよな」
「あの見慣れないMSの事か?」
「これまでの戦績は黒星ばかり、一度も勝ってないんだと」
「ボトムバトラーは若い娘だって噂だぜ。たいそうな美少女って聞くぜ?」
「するってーと、金持ちの嬢ちゃんの遊びかよ?」
「最近は女バトラーも増えたからな、ったく女の出る幕じゃないぜ。面が良いなら、わざわざボトムラインに関わるなっての!」
「あら? 随分と余裕のない事を言うのね」
 男共の噂話に落ち着いた声を響かせたのは、酒場の美人オーナー、アンナ・ミラーだ。噂では過去に何人もの男から求婚され、どれも撃墜したとも聞く。飾りっ気は無いが、腰ほどある赤毛と薄での衣服から窺える肢体は大人の色香を漂わせており、どこか少女的な風貌が妙なアンバランスさを醸し出していた。
 アンナはカウンターに頬ずえをつき、クッと小首を傾げて見せる。
「ボトムラインは男だけの舞台じゃない筈だけど?」
「あー、いや、つい愚痴っただけだよ」
「それよりアンナ、次のバトルは決まったのか?」
 アンナの少し垂れた瞳が微笑する。
「ええ、バトルは一週間後‥‥種目はイングリッシュバトルよ☆」
 ――イングリッシュバトル。
 またの名をピットファイトと呼ばれるバトルだ。
 中世の戦いを意識したものかは定かでないが、このバトルは格闘武器のみで行われる。正に拳と拳のぶつかり合い、刃と刃の弾け合う格闘技だ。それ故に、手加減は効き難く、下手をすれば命の保証もない。
「今更ピットファイトかよ!」
 ――ボトムラインには幾つかの種目がある。
 迷路を駆け巡りながら模擬弾(ペイント弾)でバトルする『サーチ&アンブッシュ』。射撃武器無しの接近戦のみで行う『イングリッシュバトル』。MS対サイバー、または複数対1の変則マッチなど、所謂異種格闘技に近い『アストラルバトル』。そして、正真正銘の戦闘を行う『ブラッディーバトル』だ。

「乗る気がないようね? どうやらグランプリを開催するみたいよ。つまり、格闘戦の『イングリッシュバトル』、射撃戦ありの『ブラッディバトル』、チーム戦や異種戦の『アストラルバトル』、迷路を進行して旗を取る『フラッグバトル』などを開催し、この街の最強バトラーを決める大会らしいわ☆」
「その第1バトルがピットファイトって事か‥‥」
「噂の『白いお嬢様』も出場するらしいわよ」
 ボトムラインに最近出場しているMSだ。機体名はサーキュラー。シャープなシルエットで模られたMSだが、下半身は膝部を覆う裾の広いフレアスカートのようなイメージを醸し出す機体であり、外観から、白いお嬢様とバトラー達に呼ばれていた。
「参戦したい人はマッチメーカーと契約するのを忘れちゃダメよ。因みに私もマッチメイクしてあげるけど? 仲間を探すのもOKよ♪」
 ボトムラインに参戦するには『マッチメーカー』と契約する必要がある。これは面倒な処理と対戦カードを取り仕切る所謂マネージャーに近い存在だ。
 酒場に集うバトラー達は喧騒を奏でながら、アンナの用意した広告に群がり出す。

 今、この街に新しいボトムラインの歴史が刻まれようとしていた――――
【ボトムライン・アナザー≪バトル1:rookie≫】

●出会い
・第1バトル
■チーム名:アークエンジェル(MS名:紫電改)
■チーム名:ブレーヴハート(MS名:護竜)

・第2バトル
■チーム名:銀狼(MS名:Katze)
■チーム名:アライブプラン(MS名:サーキュラー)

・第3バトル
■チーム名:大っきいわんこ(MS名:SilveWolf)
■第1バトル勝者

・ファイナルバトル
■第2バトル勝者
■第3バトル勝者

 ――コンコンッ☆
 対戦カードを眺めていると、控え室をノックする小さな音が聞えた。
 返事をするとドアが開かれ、車椅子に座った一人の少女が姿を見せる。その背後にはサングラスを掛けた細身の男が佇んでいた。彼女は短めの赤毛を揺らして微笑む。年齢は14〜16歳ってところか。
「これからバトルなのにゴメンね☆ 私、キサト・テッドっていうの! ヨロシクね♪」
 ヨロシクも何も誰だろう? ファンの少女? 否、そんな訳はない。第一、これからバトルなのに、関係者以外の立ち入りを許す筈がない。それに、腰から下はレースの施されたシーツで覆われていた。両手も膝の上らしく、シーツの中だ。
「あ、ゴメンなさい! 私もバトラーなんだよ♪ もしかしたら戦う事になるかもしれないから、挨拶に来たんだ。頑張ろうね☆」
 言いたい事を告げてキサトの微笑みはドアの向こうに消えた――――


 ――Pi
 闇の中でセラミックエンジンが低い唸り声を響かせる中、次々とグリーン、ブルー、レッドの光が浮かび上がり、薄っすらとコックピットを照らし出す。伊達剣人の覗く望遠カメラ越しの視界に、大きな鋼鉄の壁が映し出された。否、壁ではない鋼鉄の扉だ。それは轟音を響かせると左右に割れた。
「さて、これが俺のMS乗りデヴューだ」
 精悍な風貌に不敵な笑みを浮かべ、剣人は望遠カメラをズームさせる。約30m前方でも同じように鋼鉄の扉が割れ、シルエットが照明に浮かんでゆく。男はMSのコックピットで軽く口笛を吹いた。
「ほう、コイツは凝ったデザインだ。ベースは何だ?」
 カメラ越しに映し出されたMSは、正に恐竜だ。頭部には大きく裂けた口が開いており、長い尻尾らしき物も確認された。咆哮を轟かせても不思議ではない。
「良いね、倒し甲斐があるっもんだ。行くぞ、紫電改!」
 MS紫電改はゆっくりと前進する。四角いコロシアムに姿を見せると、周囲から歓声の波が注ぎ出した。

 ――フェニックス。
 アメリカ南西部ソノラン砂漠の中心にある町である。
 太陽の谷とも呼ばれたこの町を訪れる者は様々だが、皆どこかに焦燥感を持っている者ばかりだ。中でも、戦場の硝煙の匂いと緊張感が忘れられない者が多く訪れる。
 ――ボトムライン。
 かつて警察の賭博だったモノが何時の間にか広まったMS(マスタースレイブ)バトルだ。
 何ゆえ金色の大海に囲まれ、気温は40度を越える町で開催されているのか定かでないが、密かな話題になっていた。

 この物語は、硝煙の匂いと鋼鉄の弾け合う戦いを忘れられない者達が、トップ・ザ・バトラーを目指して戦い合う記録である――――


『ハァ〜イ☆ 只今よりボトムラインGPファーストバトルを開催するわよ♪』
 突然スポットライトの中で、よく通る女の声が響き渡った。剣人は視界を向けてカメラをズームさせる。インディアンルックの若い美女がマイク片手に解説を始めていた。どうやら司会という立場か。
『このバトルは30m四方が壁で覆われた、沈んだ床で行われます。バトルは射撃武器を使用しないピットファイト! 鋼鉄の機体が互いの得物でぶつかり合い、殴り合いを展開する正に原始的で最も熱い対戦です。それじゃ、パパッと紹介するわよ♪』
 金髪美女の視線がコチラに向くと、右の細腕を上げた。
『チーム・アークエンジェル! MS紫電改!!』
 スポットライトにエリドゥーベースの機体が照らされ、歓声が響き渡る。次に対戦相手が紹介された。
 ――チーム・ブレーヴハート、MS護竜。
 それが叩き潰さねばならない相手だ。
『それじゃ行くわよ♪ ボトムライン! レディィィゴーー!!』

●異形のMSを狩れ! 紫電改vs護竜
 紫電改が機動音を響かせて前進する中、護竜も同じように前進して来た。次第に間合いが詰まり、互いのシルエットが明確に捉えられる。
「コイツ、飾りが多い癖に早いじゃないか! 武器は、ブロードソードに、チェーンソー‥‥恐竜なら素手で来やがれって!」
 剣人は視界内で動き回る護竜を捉えようと努めた。しかし、外観以上に、否、外観に相応しく、恐竜の機動力は紫電改を上回っているようだ。左腕を覆うマスターアームのスティックを握り、ランスシューターの鉄槌を叩き込むトリガーのタイミングを計るが、上段に長剣を構えたターゲットは隙を見せない。
「得物の距離は同じか。威力はコチラが上だがッ! 来るッ!」
 上段に構えた恐竜の腕が動いた。回避か!? 防御か!?
「くそッ! 間に合わないッ!?」
 ――隙が多いぞ! しかしッ!
 刹那、紫電改の望遠レンズを勢い良く横切って飛んで行く影。機体後方で壁に突き刺さったのは、紛れもなく護竜の投げたブロードソードだ。
「手が滑ったのか! 行けるッ、くらえ、ゼロ・インパク‥‥なにッ!?」
 戦況が有利と判断した紫電改は地を蹴った。だが、同じように護竜も肉迫! 刹那、恐竜は一歩踏み込み、左足を軸とすると、機体を回転させて捌いた。否、剣人の視界に映ったのは、MSの薙ぎ振るわれる左腕だ! 次の瞬間、激しい衝撃がコックピットを襲う。
「ぐあぁッ! バックスピンブローだと!? ぐぅッ!」
 反動で視界が敵を見失う中、第2撃、3撃が叩き込まれた。明らかに操縦技術が違い過ぎる。機体のカメラがゆっくりと頭上の照明群を映し出す。
「転倒させられたのか? 俺は」
 何度目かの衝撃に剣人は奥歯を噛み締めた。今までの打撃に因るものではない。この強い振動は――倒されたのだ。
 まだ機体(自分)は動く。何とか起き上がろうと努めたその時! 視界に飛び込んで来たのは、マウントポジションに入った恐竜の姿だ。何度も叩き込まれる鋼鉄の拳に、機体が悲鳴をあげる。同時に場内に響き渡るは観客の興奮した歓声だ。
 ――甲高いサイレンの音がコロシアムに響き渡った。
 圧倒的とはこの場合を言うのかもしれない。機体の動き、攻撃技術、防御、回避、全てが剣人を凌駕していたのだ。
「負けた、まだまだ詰めが甘かったか‥‥。ん? 通信だと?」
 フッと微笑む男の視界に、赤い光が点滅するのが見えた。彼は手早く通信回線を開く。飛び込んで来たのは若そうな男の声だ。
『すまない。綺麗な戦いは苦手なんだ』
「気にするな、負けは負けだ」
 場内では歓声と罵声が飛ぶ中、司会の美女が勝者をコールする声が聞こえる。
 ――神代秀流。
 彼がボトムバトラーとして第一歩を戦った相手の名前だった。
 剣人は強かに陥没した機体を再び開かれた扉へと動かすと、ふとコロシアムを振り返った。ヒビ割れた望遠カメラが捉えたのは、ヘッドギアが目立つ青年だ。胸部ハッチを開けた秀流の元には、嬉しそうに緑色のロングヘアを舞わせて飛び込む少女が映っていた。
「やれやれ、彼女付きか。大方マッチメーカーか、それともメカニックかって所か」
 ――次のバトル、見させてもらうぞ。
 不敵な笑みは掻き消え、剣人は黒い瞳を研ぎ澄ませた――――。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/クラス】
【0351/伊達・剣人/男性/23歳/エスパー】
【0577/神代・秀流/男性/20歳/エキスパート】

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■         ライター通信          ■
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 この度は御参加ありがとうございました☆
 はじめまして♪ 切磋巧実です。
 始めに『この物語はアメリカを舞台としたボトムラインです。セフィロトにボトムラインはありませんので、混同しないようお願い致します』。また、MSの演出面もオフィシャルでは描かれていない部分を描写したりしていますが、あくまでライターオリジナルの解釈と世界観ですので、誤解なきようお願い致します。
 今回は決勝戦以外は、ノベルごとにコックピット視界で描写されています。次回、どちらの描写演出を希望されるか明記して頂けると助かります。
 今回は数値割り振りでESP以外の全て対戦相手が上でしたので、このような結果と判定させて頂きました。この辺は賭けですね。思い切った割り振りにするか、平均的にするか、まだまだ初戦ですから、次第に相手の癖が見えて来るかもしれません。次回もトライして頂けたら頑張って下さい。
 プレイングは字数の限り、書いた方が良いかもです。機体の外観や色など、演出したい台詞とか、全て対応できるか分かりませんけどね。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 いえ、リアクションが無いと不安にも‥‥。
 それでは、また出会える事を祈って☆