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■EP2:Another Mind ■
はる
【0592】【エリア・スチール】【エスパー】
 子リスのように軽快に屋根から屋根を飛び、建物と建物の間を駆け抜ける人影。
 その白いワンピースの裾が風にふわりと膨らみ、白い脛が見えた。
「あははは………」
 楽しそうな笑い声を上げながら、走り抜ける少女。
「アシャ?」
 その呼びかけに立ち止まった少女は、不思議そうに頭上から貴方を見下ろした。
「誰?」
 人違いか?宙に浮く少女を上から下まで確認した貴方の目が、少女の腕の包帯でとまる。それは間違いなく先日、貴方が彼女の腕に巻いたもの。
「アシャじゃないのか?」
「アシャはここで寝てるよ」
 少女は小悪魔的な笑みを浮かべ、口元を吊り上げる。その小さな手の平は、まだ膨らみのない胸を押さえた。
「寝てる…アシャじゃないのか……?」
 じゃあ、君は誰だ。
「あたしと遊んでくれたら教えてあげる♪」
 あたしと遊んで♪遊んでくれたらアシャにも会わせてあげる。貴方のすぐ傍に降りた少女は、楽しげに貴方の腕を引いた。
EP2:Another Mind


 時間の流れがあまり感じられない都市マルクトの中で、エリア・スチールは路地裏を歩いていた。
 規則正しい生活はエリアの目指す騎士としての必須事項。たとえ昼夜が曖昧であっても、時間通りに行動するのがエリアの心情だった。
 今日の稽古は終了。軽く流した汗にひんやりとした路地裏を吹き抜ける風が心地よい。
「そういえば……」
 この辺でしたね。淡いピンク色の髪をした不思議な少女と出会ったのが確かこのあたりだったはず………
「またあえるでしょうか……」
 自分が覚えていればまた会えると彼女は言った。ならば、きっと会えるだろう。
 淡い期待を込めて、以前少女とであった教会の廃墟の前の広場に足を向けた。

 きゃはははは……甲高い子供特有の楽しげな笑い声が聞こえる。
「くすぐったいよ、そんなに舐めちゃだめだってば」
 真っ白な服が埃で汚れるのにも気にせず、ごろごろと回りに纏わり付く猫たちと一緒になって転げまわる少女。
「アシャさん!」
 緩く波を描く髪の少女の姿は間違いなく、あのときの少女だった。
「……誰?」
 しかし彼女は嬉しさのあまり駆け寄るエリアを不思議そうに見上げた。
「アシャのお友達なの?」
 キラキラと輝く瞳の輝きは先日の少女よりも数倍強い。もしかして、双子の姉妹か何かなのでしょうか?
 不安になったエリアの眼差しは少女の膝に引かれた。そこには直りかけているが確かに転んだ後のような傷……
「アシャさんじゃないんですか?」
「うん、あたしはアシャじゃないよ。アシャならここで寝てるの」
そういうと少女は、まだ未発達な小さな胸に手を当てた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「アシャさんじゃないとしたら……」
 アシャではないと言い張る少女がぐるぐると悩むエリアの手を引く。
「ねぇねぇ、暇ならあたしと遊んで!」
「あ、はい。いいですよ」
 反射的にエリアは思わずそう答えてしまった。

「遊ぶといっても何で遊びましょうか?」
 少女に押し切られる形で、一緒に遊ぶことになったエリアは首を傾げた。
「そういえば、アシャさんがこの前お花を持っていましたよね」
 自然光の入り込まない都市マルクトの中で鮮やかな色彩を持つ花を見かけることはまずない。
「お花?あたしある場所しってるよ。一緒にいく?」
「はい!」
 少女の提案に1、2もなくエリアは頷いた。
 数匹の猫を引き連れて手を繋いで歩く二人の様子は、どこか微笑ましいものがあった。
 少女がエリアを連れて来たのは、教会のあった区画から2ブロックほど離れた枯れた木立の並ぶ公園の跡地。
 以前は樹木が生い茂り、人々の憩いの場となっていたのだろうが今はその面影もない。
「こんな所に、お花があるんですか?」
 降雨も望めないマルクトにあっては植物が自生できる空間にはなっていない。
「うん」
 枯れた木々の間を抜けると……一角だけが鮮やかな色彩を放っていた。
「わぁ!」
 すごい……と、思わず溜息が漏れる。
「ここだけ、お花があるんだよ」
 少女が指差した先には、以前は綺麗に整えられていたであろう花壇の名残があった。
 幸運にもその一画だけ自動の散水機や人工照明の機器類が生きていた。勿論人の手による手入れなどされていないから、花も雑草に近いものばかりではあるが、それでもエリアにはマルクトの中にあって、それはとても貴重な宝のような物におもえた。
「すごいです!すごいです!!」
 子供の様に、エリアは花壇に駆け寄る。
「そうだ、こんなにお花が沢山あるのですから、お花の冠でも作って見ますか?」
「お花の冠?」
 そんなのできるの?
「はいもちろんです」
 ちょっと待っててくださいね。
 いそいそとエリアは花を摘み、器用に編み上げていく。楽しげなその様子に少女も興味を引かれたのか真似してみるが上手くいかない。
「花を根元から長めに取るのがコツなんですよ」
 ぶちぶちと花を摘んでは放り投げる少女の様子にエリアが微笑む。
「ハイ!できました」
 小さな花の冠がエリアの手の中にあった。
「わぁ、すごい」
「そう言えばまだ貴女のお名前聞いていなかったですね、教えて下さいますか?」
 わたくしは……
「エリア・スチールです」
 少女の頭の上にちょこんと出来たばかりの花冠を乗せてやりながら微笑んだ。
「えっとね…あたしはドゥルジ」
 頭に乗せられた花冠を恐る恐る手に取り少女が笑う。
「エリアすごいね」
 お花でこんなのが作れちゃうんだ……
「もっと、長くすればネックレスも出来ますよ」
 とても嬉しそうな少女の様子に、つられてエリアも微笑む。
「ほんと?作って作って!!」
「わたくしだけでなく、ドゥルジさんも一緒につくりましょう」
「あたしにもつくれるかなぁ……」
 先ほど自分が散らかした花の残骸を見渡しドゥルジが首を傾げる。
「大丈夫ですよ、教えてあげますから」
「うん、わかった」
 やってみる、と素直にドゥルジは頷いた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 花冠に花のネックレス。腕輪に指輪。二人は次々と色々なものを花でつくっていった。
 一緒にきた猫たちにも其々御揃いの花の首輪をつけてやった、ドゥルジは本当に嬉しそうだった。
 薄闇に支配されたマルクトの中で、珍しく光に恵まれた公園の名残の中。
 何時までも、何時までも飽きることなく花飾りを作る二人の姿は、仲の良い姉妹の様に見えた……




【 To be continued ……? 】



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】


【0592 / エリア・スチール / 女 / 16歳 / エスパー】

【NPC / ドゥルジ】


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■         ライター通信          ■
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エリア・スチール様

ゲームノベルEP2への引き続きの御参加ありがとうございます。
ドゥルジと一緒に遊んでいただき、ドゥルジも大変喜んでおります。
なんだか、NPC達に一人優しいお姉さんが出来たようなかんじがいたします。

また、これに懲りず二人と遊んでいただけると幸いです。