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■EP3:Commonplace daily ■ |
はる |
【0233】【白神・空】【エスパー】 |
何もない日、ごくありふれた一日がまた始まろうとしていた。
「なにか、面白いことはないかな?」
閉鎖的なマルクトの中で空を見上げてみても、目に映るのは薄暗い天井のみ。
「ま、今日も適当に時間でもつぶすか」
「ひまなの?」
だったら一緒に遊ぼうよ。
金の眼差しの少女は一つの体に二つの心を宿している、幼い少女。
ため息をついた、あなたの前に現れたのは……
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EP3:Commonplace daily
日々、セフィロトの塔に挑み続けるビジター達にも休息はある……今日はそんな都市マルクトの中でのあるビジターの小さな休日のお話。
手の中にある小さな種を転がし、白神・空はこれを落とした少女との出会いを振り返っていた。
路地裏で出会った不思議な少女、大人しく触れれば脆く崩れ落ちてしまいそうな危うい空気を纏っていたが、次に出会ったときは意志の強い燃え盛る篝火の様な瞳をしていた。
アシャとドゥルジ、二つの顔を持つ彼女に、これをもって入ればまた会える……そんな気がして手放せずにいたのだが……
「一体なんの種なのかしら?」
植物の自生しない都市マルクトにあって、それはある意味高級な嗜好品ともいえた。
硬い外皮に包まれた、小指の先ほどの薄紅色の種……その色はこれを落とした少女の髪の色を思わせた。
「空?」
振り向いた先に、彼女がいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「久しぶりね、今日は……どっちかしら?」
覚えていてくれて嬉しいわ。と嫣然と空の真紅の唇が笑みを刻む。
その問いが分かっているのか、いないのか透明な空気をまとう少女は小首を傾げた。
「そうね……今日はアシャの方なのね?」
それは確信。この子に先日あった時のどこか小悪魔的な色は全く感じられない。
「うん、アシャなの」
コクリと縦に大きく頷く。
「久しぶりね、アシャ。丁度今日あたしオフなの。だから…一緒にお買い物に行かない?」
何もしないから大丈夫よ、と少女を怯えさせないように屈みこんで目線を合わせる。
「おかいもの?」
「そ、この間アシャが落としていった種。これを育てるための道具がほしいの」
「空。お花育てるの?」
「折角、咲くものなら咲かせてみたいじゃない?」
空の提案にアシャがパチパチと目を瞬かせる。
「といっても、あたしも育て方なんて良く知らないんだけど……アシャは知ってるかしら?」
空の手の中の種をつつきながら、アシャも首を傾げる。
「しらない、お家の近くで拾ったの」
「……こまったわね……」
種まいて育てるなんて性にあわないんだけど……これも何かの縁だし……光源氏計画みたいな、『種』を『育てる』のは大好きなのよねぇ。
チラリと、まだ種に目を落とすアシャを見つめて、故郷の古典文学を思い空がほくそえんだ。
「どうしたの空?」
「なんでもないわ、仕方がないから知ってそうな場所で聞いてみないと駄目ね」
二人が訪れたのはセフィロト内のショッピングセンター。
日常の大抵のものはここでそろってしまう。
勿論生活必需品以外にも高級嗜好品の数々も取り扱っているが、それらはいずれも一介のビジターでは手が出せないような値が付けられていた。
「植木鉢一つが1000レアル!?」
ちょっと、ぼったくり過ぎじゃないの!!
ショッピングセンター内の花屋で、植木鉢の値段を聞いて空は店員に噛み付いた。
無論、今の空にとって出せない金額ではないが、通常のビジターの簡単な依頼1つ分に相当する金額に驚きの声を上げた。
「そうは仰いますけど、この容器は世界崩壊前の骨董的価値のある品物ですし、人工照明付きの物となると……やはりそれなりのお値段がしてしまうものなんですよ」
店員は言い訳の様に慌てて、取り繕う。
確かに、鉢の外側を飾る、花の絵柄のホウロウの容器は年代を感じさせる一品で、空も一目で気に入った。
これならば、部屋に飾っても問題あるまい。
人工照明は、光の差さないマルクトの中では植物の育成に欠かせないものだと、言われてしまっては仕方がない。
「空……?」
心配そうに店員と空のやり取りを見守っていたアシャが不安そうに空の服の裾を引いた。
「アシャ、少しだけならお小遣いあるよ」
白いワンピースのポケットに手を入れる。
「いいのよ、アシャはそんなこと心配しなくて、ここは私に任せて頂戴♪」
数十分粘った末、値段は落とすことは出来なかったがその代わり。殺菌済みの園芸用の土と化学肥料をつけてもらうことで折り合いが付いた。
「この入れ物かわいいね」
「そうね……そうだ、折角ここまで来たんだからもう少し遊んでいこうか」
両手に可愛らしくラッピングされた植木鉢と照明のセットを抱えて、心なしかアシャの頬はほんのり上気して見えた。
空は楽しげにアシャの手を引き、衣料品を扱うコーナーへ足を向けるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
時刻で見れば夕刻。といっても時間の流れの感じられない都市マルクトにあってはあまり意味はないのだが。
最初にであった路地裏の広場で二人は今日買い込んだものを広げていた。
植木鉢に土をいれ、肥料を薄く引きさらに土をかぶせる。
種を埋めた上からはあまり厚くならないように慎重に土をかぶせ、花屋の店員に言われたとうりに霧吹きで表面を湿らせる。
花屋で聞いてもても今では種自体が珍しいために、店の店員でもなんの種だか分からなかった。
「ということは…咲いてからのお楽しみっていうことよね♪」
どんな花が咲くのかしら?
傍で人工照明の淡い青白い光を不思議そうに見ている少女の髪には真新しい、モスグリーンのリボン。
ショッピングセンターで見かけて、空からアシャにプレゼントした物だった。
聊か色気に欠けるデートではあったが、本日の収穫に空は満足していた。
「これ、いつ芽がでるのかな?」
「さぁ?直ぐには無理じゃないかしら……」
お花咲くといいね。警戒心を解いたアシャの満面の笑顔が眩しい。
少しは心を許してくれたようだった。
「気になるなら、あたしの所にくればいいわ」
わたし一人でみてたら、世話を忘れちゃうかもしれないし。
「アシャも一緒に育ててくれるとうれしいな」
そこ言葉に少女は首を傾げる。
「遊びに行っていいの?」
「何時でもいらっしゃい」
そしたら一緒にお花が咲くところが見てるかもしれないしね。
「うん、いく」
アシャは素直に頷いた。
名も知らぬ花の種、芽がでるのは当分先であれど……空の傍らにある蕾は綻びつつあった……
【 To be continued ……? 】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
【0233 / 白神・空 / 女 / 24歳 / エスパー】
【NPC / アシャ】
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■ ライター通信 ■
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白神・空様
今回もご参加ありがとうございます。
アシャの方をご希望ということでしたので……人見知りの激しい子なりに空さんのことが気になってきているようです。
なるべく自然に驚かさないように努めてみましたが……いかがでしたでしょうか。
今回植えた種が花開く日を、心待ちにおまちいたしております。
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