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■Calling 〜宵闇〜■

ともやいずみ
【4929】【日向・久那斗】【旅人の道導】
とうとう四十四の憑物が集まった。
その使命が、解呪の旅が終わりを告げる。
帰ってしまった呪われた退魔士。
けれどそう……その報告に、結末を告げにただ一度舞い戻ってくる。あなたに会いに。
果たして……呪いは解かれたのだろうか……。
Calling 〜宵闇〜



 高い高い空の上。
 そこで傘をくるんと回して下界を見下ろす幼い少年がいる。
 黒いその髪は激しい風に乱されていた。傘がその風に吹き飛ばされないのが不思議である。
 彼の名は日向久那斗。彼は探しものをしている。
 数多にある蝋燭の火の一つを探すような……それほど大変なことを、久那斗はしていた。
 遠逆月乃という名の人間を彼は探しているのだ。
 地上が遠すぎて見えるものはビルくらいだが、それでも久那斗はじっと見下ろしている。
(…………)
 月乃とはほとんど偶然に出会っていたわけだが、あまりにも会えない期間が長い。何かあったのではなかろうかと思って探していたのだ。
 瞳は地上に釘付けのまま、久那斗はぼんやりと思い返す。
 元々彼女はこの土地に居たわけではないのだ。やって来たから、帰った。そのことに久那斗は気づかない。
(ツキモノ……)
 それを封印するために……うんぬん。
 はっきり思い出せない久那斗はしばらくしてから首を小さく傾げた。
 うんぬん、の部分はなんだったっけ?
(封じて……? それで?)
 思い出せるのは月乃の姿とかだけで、その発せられた言葉はわからない。いわば、音声のない映像を見ている感じだ。
(うんぬん……)
 反対方向へ首を傾けて、それから思い至る。
 ツキモノをフウインして、ノロイをとく。
 とかなんとか。
(だった……はず)
 あまり理解していないので、言葉の意味はわからず。
 久那斗は疑問符を頭の上に浮かべていくが、やがて諦めたように地上へ向けて降下を始めた。
 高いところでは、逆に月乃が自分を見つけられないだろう。きっと。

 常に憑物に狙われている月乃は気配をいつも隠しているし、見つからないように存在を希薄にしている。
 だが久那斗はやっとのことで彼女を見つけたのだ。
 月乃は人込みにまぎれてとぼとぼと歩いていた。何かを噛み締めるように。
 悩んでいるようにも見える。
 人が多すぎて近寄れない久那斗は後ろをちょこちょことついて行った。彼女のことだからこちらの気配に気づくだろう。
 きっと気づくというわけのわからない自信を持つ久那斗であったが、結局月乃は歩道を渡り終えても気づかずに歩き続けた。
「つ、つきの?」
 ついつい、というように涙声になってしまう久那斗は驚いた。
 呼ばれた声だけに反応して、月乃が振り返ったのだ。
 彼女の唇が「あ」という音を出し、それからばつの悪そうな表情を浮かべる。
 久那斗が追いつくのを待っていた月乃は、視線を逸らした。
「……月乃……ボク……嫌い……?」
 うまく言葉にならない。これがもしも悲しいという名の感情ならば、人間はなんと辛い思いをしているのだろうか。
「そ、そういうわけじゃないんですよ。ちょっと……考え事をしていただけです」
 歩き出す月乃に、久那斗は続く。

 結局落ち着ける場所が公園だったので、公園のブランコに並んで腰掛けた。
 久那斗は月乃の横顔を眺める。彼女の右目は、いまだ白い。
 アレは呪いの証だと思っていた久那斗は、一人で納得する。
 そうか。呪いはまだ解けていないのだ。
「なんですか?」
 黙っている久那斗に視線だけ向けて、月乃は尋ねる。
 首を横に振る久那斗は俯いた。彼女が言いたくないことなら、訊くべきではない。
「なんで黙ってるんですか?」
 不思議そうな月乃は、ムッとしたような顔をする。
「私を探していたんじゃないんですか?」
「……うん」
「訊きたそうな顔をしながら黙っているのは、どういう了見なんですかね」
「月乃……言いたくない……」
「…………」
 目を細める月乃は明らかに怒っていた。なぜ怒っているのか久那斗はわからない。
「言いたくないから、ずっと黙ってるんですか?」
「…………」
「……待っているだけでは、何も変わりませんよ。まぁ……待っている忍耐の強さが不必要だとは言いませんがね」
 そう言い放った彼女は何かにひどく驚いた表情を浮かべて……苦笑する。
「いいんですよ、訊いても」
「?」
「応えたくないならば、言いません。ですが、人間というのは問われて口を開くこともありますからね」
 そういうキッカケがあれば。
 久那斗は視線を伏せて、それから顔を彼女に向けた。
「呪い、解けた?」
「やっぱりそのことでしたか。
 はい。解けるそうですよ」
 久那斗は笑顔満面で頷く。
 良かった。これで月乃は苦しまずに済むのだ。
「良かった。嬉しい。ボク、嬉しい。すごく。すごく」
 珍しく早口で言う久那斗に月乃は驚き、それから口元を手で隠して疲れたような顔をする。
「それは……困りましたね」
「困る? なぜ?」
「…………まだ先があるんですよ」



「月乃よ」
「……はい」
 当主の言葉に、月乃は頷く。
 広い座敷の奥には、当主である老人が座っている。もごもごと口を動かし、聞き取りづらい声で喋るのだ。
「『逆図』は完成させたであろうな?」
「ここに」
 正座している月乃は、空中から巻物を呼び出してそっと畳の上に置いた。
 巻物が一気に老人の手元に引き寄せられる。
「……ふむ。よくやった」
「…………当主、これで呪いは解けるのでしょうか?」
 無表情の彼女は、あまり期待せずに当主の言葉を待った。
 遠逆家に戻ってくるまで彼女は憑物に狙われ続けていたのだから。
「安心せよ。呪いは解ける」
「……! まことに、ございますか」
 信じられなかった。この一族で育つと、どうも疑り深くなる。そういう風に教えられたのだから当然だろうが。
 月乃はじっと、当主を見つめる。
「なぜ……呪いがかかっておるか、存じておるか?」
「は?」
 目を丸くする月乃は、怪訝そうにした。
 生まれた時からそういう体質だったため、なぜかと問われても答えはわからない。
「誰が、呪いをおまえにかけたと思う?」
「だれ? 人間の呪詛とでも?」
 そんなことはありえない。
 人間の呪詛でこんな永続的なものはよっぽどの恨みの念を使っているか、大掛かりなものだ。
 遠逆の家はあまり好まれていないのはわかっているが、だからといって月乃を狙ってくるのはわからない。根絶やしにする価値があるとは思えない家だからだ。
「そうだ。おまえの呪いは、ひとの手によるものだ」
「……それは、当主ですら跳ね返せぬほどの手だれですか」
「それをすると、おまえも死ぬ」
 月乃は目を見開いた。
 今の言い方は変だ。
 ど、っと冷汗をかく。
「ど、どういう……意味でございましょう?」
 まるで呪いをかけたのが自分自身だとでも言うのだろうか?
 そんなことはない。
 月乃はこれまでの生活の中で、何度もこの体質を呪い続けた。退魔士の仕事中にほかの妖魔すら呼び寄せることで、余計な心配事も増えた。人間が巻き込まれないように神経を何倍も遣ったものだ。
(私は、自分に呪いなんてかけない)
 生まれたばかりでそんなことができるのは、よっぽどの天才や、人外の者だ。
 巻物を開いた当主は頷く。
「四十四、揃っておるな。東の『逆図』はこれで完成された」
「…………はい。東西合わせて八十八の憑物です」
 月乃は話を逸らされたことに対してやや不満だったが、またも空中から巻物を取り出す。
 当主の手元のは黒。月乃が持つのは赤い巻物だ。
「では、おまえを四十四代目に任ずる」
「………………は?」
 突然のことに、月乃は面食らう。
「え? ど、どういう……?」
「この東西の『逆図』があれば、おまえを殺せるであろう?」
「…………………………」
 しん、と座敷が静まり返った。
 殺す?
 私を?
 月乃の顎から、汗が落ちる。膝の上の拳の上に。
「お、おっしゃる意味が……わかりません」
「代々、一の位に『四』の数字がつく当主は、一族の為に身を捧げるのだ」
「…………供物ですか」
「これは『契約』なのだ」
 ずき、と彼女の右眼が軋んだ。涙のように血が頬を流れ落ちていく。
「け……い、やく……」
「そうだ」
 老人は閉じていた瞼を開く。余分な肉で動くこともままならない当主は、わらった。
「おまえが生まれるのを待ちわびておったよ、月乃」
「…………では、呪いは? 解けるとおっしゃった……。まさかあなたが!?」
「そんなわけはない。
 呪いは解ける。おまえの右眼をくり抜けばな」
 月乃は咄嗟に右手で目を隠す。
 心臓がどうも激しく鳴っている様な気がする。気のせいだと思いたい。
「おまえが妖魔に追われ続けたのは…………その眼のせいだ」
「か、過去脆弱の?」
「英霊と言っても違いはない。優秀な魂だ。
 ――――――――――――――――なにせ、おまえの実の兄なのだから」
 頭を、鈍器で殴られたようなショックだった。
 兄? この右眼に宿っているのは兄なのか?
 吐き気がこみあげる月乃は、わなわなと震えた。
「双子だったので、おまえを生かし、兄を殺したのだ。兄はおまえを呪ったのだよ」
「な、なぜ……私……を……選んで?」
「どうせ当主になった時点で死ぬ。ならば、どちらでも同じこと。おまえは運が良かっただけだ」
 ただの、二者択一だっただけだ。それだけで。
 兄ではなく、選ばれたのが自分だった。
「遠逆が退魔士として存続するために、おまえは死ぬのだ」
「…………の、のろ、いは……眼を、取り出せば……?」
「おまえの視認攻撃は、元は兄のものであったのだよ。おまえ本来の能力は、それに喰われてしまったようだな」
「…………」
 ならば自分は全て兄の能力で今まで生きてきたのだ。
 兄に呪われ、兄に助けられて。
 凍ったように動かない月乃は、ぼんやりと畳を見つめる。
 見つめた。



「――というわけなんですよ」
 苦笑混じりに言う月乃の視線を受けて、久那斗は怪訝そうにした。
 結局、だから?
「月乃……どういうこと?」
「つまりですね、私は死ねと言われているんです」
「ダメ!」
 すぐさま叫んだ久那斗はブランコから飛び降り、そして月乃の正面に立って必死に言う。
「死ぬの、ダメ!」
「そうは言われても、どちらの道も後悔してしまうんですよね」
「?」
「ここで終わっても、出会った人々のことを思い返して辛くなる。
 いまだ道を続けても、自分の行ったことを思い返して苦しくなる。それだけですよ」
「月乃……」
 疲れたように笑う月乃を、久那斗はただ見ているしかなかった――――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【4929/日向・久那斗(ひゅうが・くなと)/男/999/旅人の道導】

NPC
【遠逆・月乃(とおさか・つきの)/女/17/高校生+退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、日向様。ライターのともやいずみです。
 解呪の結果と、「呪いの正体」が語られました。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!