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■【ボトムラインアナザー≪battle2:bloody≫】■
切磋巧実
【0592】【エリア・スチール】【エスパー】
 ――フェニックス。
 アメリカ南西部ソノラン砂漠の中心にある町である。
 太陽の谷とも呼ばれたこの町を訪れる者は様々だが、皆どこかに焦燥感を持っている者ばかりだ。中でも、戦場の硝煙の匂いと緊張感が忘れられない者が多く訪れる。
 ――ボトムライン。
 かつて警察の賭博だったモノが何時の間にか広まったMS(マスタースレイブ)バトルだ。
 何ゆえ金色の大海に囲まれ、気温は40度を越える町で開催されているのか定かでないが、密かな話題になっていた。

 この物語は、硝煙の匂いと鋼鉄の弾け合う戦いを忘れられない者達が、トップ・ザ・バトラーを目指して戦い合う記録である――――

「ハァーイ☆ ボトムラインフリークの皆さん元気にバトってるぅ? いよいよボトムラインGPセカンドバトルの開催日が決定したわよー♪」
 インディアンルックの金髪美女が、身振り手振りを交えて開催を告げる姿が大型モニターが映し出される。
「セカンドバトルは、ブラッディバトル! つまり銃器の使用もOK、格闘武器の使用もOK、ぶっちゃけて言っちゃえば何でもアリってバトルよ☆ 但し、事故だとしても死亡させちゃ駄目なのがGPのルールだから、その辺はスポーツマン的に対応して頂戴ね。基本的にはコロシアムの舞台はファーストバトルと同じよ、障害物も無いから立ち止まったらヤラレちゃうと思った方が良いわね。それじゃ、参加を待ってまーす♪」

 やたらと明るい美女の開催告知を、赤毛の少女はTVモニターで観ていた。MSサーキュラーのバトラー、キサト・テッドである。食い入るように画面を見つめ、豊かな胸元の前で、レースの施されたシーツ越しに隠れた両手に力を入れているようだ。純真そうな緑色の瞳は真剣そのものである。
「よーし! 次は頑張るもん☆ とにかく1回戦で敗退だけは突破しなきゃダメダメだよね!」
 少女は椅子を反対に腰掛け、決意を呟く。そんなキサトの背後に佇むのは白いスーツに身を固めた一人の青年だ。
「次も出場されるのですか?」
 不安気な表情を浮かばせる彼に、少女は頬を膨らます。
「何よ、そろそろ期待に応えなきゃダメダメでしょ?」
「しかし‥‥」「そうしてもらいたい所だな」
 青年の澄んだ声と同時に飛び込んだのは冷たい響きのある男の声だ。青年が視線を研ぎ澄まして瞳を流すと、開いたドアを背に立つサングラスの男が映った。キサトは笑顔を浮かべて見せる。
「先生!」
「先生は止めて欲しいな、白衣は着ているがね」
「何か用ですか? キサトちゃんの身の回りの世話は、私の仕事です」
 少女の前で青年は攻撃的な口調でサングラスの男に近づく。男は相手にせずにキサトにサングラスを向ける。
「キサト、大丈夫なのだな? おまえが駄目なら」
「大丈夫だよ! 私、頑張るから! まだ、やれるもん!」
 キサトは椅子を倒して男の膝元にしがみ付く。シーツが床に落ち、手足の先が欠如した姿が曝け出される中、少女は必死の形相で哀願するようにサングラスに隠れた瞳を見つめた。
「わかった。次のバトルエントリーを済ませて置こう。私もおまえには期待しているのだよ」
 男が白衣を翻して踵を返すと、キサトは支えを失い倒れ込んだ。慌てて青年が少女を抱き起こす中、サングラスの男は部屋を後にした――――。
【ボトムラインアナザー≪battle2:bloody≫】

●ハプニングエリア
「うーん」
 エリア・スチールは、しゃがみ込んで頬杖をついて唸っていた。大きな赤い瞳に映るのは装甲を外したパリエ――SilverWolfの脚部だ。おっとりとした印象を窺わせる少し垂れた瞳に、可愛らしく眉をハの字にして悩み捲る。なかなか答えが出ない。
「部品じゃないわね〜。エンジンを載せ換える訳にもいかないし、やっぱシステムかなぁ」
 ぴょこんと腰をあげ、少女は小さな身体でMSのコックピットに攀じ登る。さながらロッククライミングかのようだ。何とか辿り着くとそのまま細い半身を中へと滑り込ませた。逆さ吊りの状態と化し、流れるような長い銀髪がパサリと落ちる。ちょっと鬱陶しい。
「あったあった♪ このボックスを取り出してっと‥‥きゃッ!」

「ふぅー、サッパリサッパリ♪ おーい、エリアさーん、シャワー空いたよー☆ エリ‥‥」
 パジャマ姿で、ガレージに姿を見せたのはクリスティーナ・クロスフォードだ。白い肌がホカホカと紅潮する中、銀髪をタオルで拭きながら辺りに赤い瞳を流した小柄な少女は、呆然と言葉を失った。
「‥‥エリアさん、なにやってるの?」
「ひーんッ! 助けてーッ!」
 MSのコックピットからは、細い足だけがジタバタと足掻いており、くぐもった少女の悲痛な声が聞こえる。何て異様な光景だろう。ともあれ、このままでは頭に血がのぼって大変な事になる。
「待ってて! いま助けるからね」
 クリスティーナは少女の両足を掴むと、渾身の力で引っ張ってみた。尚もジタバタと両足が暴れ捲る。
「痛い痛い! 痛いよ〜。もっと静かに引っ張ってよ〜」
「ごめんごめん。でも僕の力だと一気に引っ張らないとさぁ」
 銀髪を掻きながら同意を促がす。
「えーっ? じゃいいよ。‥‥はやくしてね?」
「よーし! 我慢だからね! いっくよ〜♪」
 深夜のガレージに少女の悲鳴が響き渡った――――。

「機動性をあげる為にコックピットを調べていたって?」
「そうよ♪ システムを弄って無駄な動きを削除しちゃうのよ」
 人差し指を出すと、エリアは得意気に話した。頭脳明晰な彼女が言う言葉だ。クリスティーナは理解しているのか定かでないものの、「うんうん」としきりに頷いてみせた。
「それじゃ、わたくしは作業に取り掛かるね。クリスティーナ様はバトルに備えて寝ちゃって構わないから☆」
 確かにバトルは近い。それに16歳の乙女に夜更かしは禁物だ。っと言うか、何より眠い。少女はスックと立ち上がると、エリアに微笑む。
「うん、僕がいても何も出来ないしね。無理しないで早目に切り上げるんだよ♪」
「うん、大丈夫♪ おやすみなさい☆」
 ゆっくりと腰をあげると、クリスティーナに微笑んで見せた。
「よし、先ずはノートパソコンでデータを読み取らなきゃ」
 ダイニングルームを出て行くエリアは、小さな悲鳴と共に足を躓かせて――――

「おはよー」
 大きな欠伸をしながらダイニングに顔を出すクリスティーナだが、目の前の光景に言葉を失い、慌てて駆け寄る。
「エリアさん! 駄目だよ、こんなとこで寝てちゃ!」
「‥‥はい? あ、転んだまま眠ってしまいました☆」
 舌を覗かせコツンと頭を叩く仕草を見せるエリア。
 ――転んだまま眠っていたって?
「あ、あのさ‥‥改造の方は、どう、なったのかな?」
 不安だ。訊くのは怖いが状況は知っておきたい。
「あぁ〜」
 呆けたような声。クリスティーナは覚悟して先を待つ。
「完了したわよ♪ 疲れて転んだ拍子に寝てたみたい☆」
 ペタンと少女は安堵の息を吐きながら腰を落とした――――。

「駆動系をいじってみたの、SilverWolfのスピードが上がった代りにチョット扱いがシビアになってるの、注意してね」
「うん、ありがとう。僕、頑張るよ」
 二人は銀色に輝くSilverWolfの勇姿を見上げる。胸部には勝利の証である星印が一つ金色に浮かび上がっていた。

 ――フェニックス。
 アメリカ南西部ソノラン砂漠の中心にある町である。
 太陽の谷とも呼ばれたこの町を訪れる者は様々だが、皆どこかに焦燥感を持っている者ばかりだ。中でも、戦場の硝煙の匂いと緊張感が忘れられない者が多く訪れる。
 ――ボトムライン。
 かつて警察の賭博だったモノが何時の間にか広まったMS(マスタースレイブ)バトルだ。
 何ゆえ金色の大海に囲まれ、気温は40度を越える町で開催されているのか定かでないが、密かな話題になっていた。
 この物語は、硝煙の匂いと鋼鉄の弾け合う戦いを忘れられない者達が、トップ・ザ・バトラーを目指して戦い合う記録である――――

●狼再び――SilveWolfvsKatze
「先手必勝ってね♪ 遣られる前にコッチから行くよ!」
 クリスティーナ・クロスフォードの駆る銀色のバリエ――SilveWolfは、機動性を活かして躊躇う事なく床を蹴った。それは正に銀の閃光だ。シャープなシルエットの腕部には、肘の部分に幅広のロングソードが斜めに突き出ている。前回のバトルで得た優勝商品だ。優美に風を切る刃が残像を描き、胸部装甲にあしらわれた金色の星印が光輝く。
 ――――!!
 望遠カメラ越しに映る敵機との距離が次第に縮んでゆく中、少女は例え様のない感覚に襲われた。銀髪が一瞬舞い、赤い瞳を見開く。
「なに? この感覚? やだ、気持ち悪いよ‥‥」
 僅かに集中力が欠如した。誰かに覗かれているような感覚‥‥。だが、クリスティーナは頭を振ると、瞳を研ぎ澄まし、意識を敵機――Katzeへと向ける。
「あれ? やな感覚が消えた? ま、いっか♪」
 さっきまで感じた不愉快さが掻き消えた。このまま接近戦に入れば前回のバトルと結果は同じだ。しかし、状況は前回と同じでは無かった。接近している筈なのに、なかなか距離が縮まない。
「あれ? 敵もバリエなのに差が縮まらないよ。こっちは機動力を上げているのに‥‥改造が失敗したのかな? ん?」
 望遠カメラをズームさせると、違和感を覚えた。Katzeは歩いていないのだ。その代わりに脚部に映るローラーが回転していた。導き出される答えは一つ――――。
「メカニックを雇ったの!? やばッ!」
 望遠カメラに映るKatzeが銃口を向けると、7.62mmバルカンが唸り声をあげた。クリスティーナは素早くSilveWolfに回避運動を行わせたが、そう簡単に躱せるものではない。狭いコックピットが衝撃に揺れる。
「あんッ! 当っちゃった!?」
 ――過信していたのだろうか? 
 機動性を活かして接近戦で畳み掛けるつもりが、相手も機動性を高めていれば簡単ではない。況して、クリスティーナは接近戦を試み、Katzeは遠距離から銃弾を撃ち捲ったのだ。圧倒的な差が無ければ、MS戦は僅かな判断が命取りになる。
「体勢を立て直さなきゃ! クッ! また当った!」
 接近を試みていたSilveWolfは、小刻みに動きながら、40mm榴弾機銃を放ち、後退を始めた。機動音に合わせて上下に揺れる視界の中で、敵機が爆炎に包まれた。しかし、バルカンの雨は尚も装甲に叩き込まれ、ダメージを蓄積させてゆく。
「このッ! 沈んじゃえ! 沈んじゃえ!」
 一概にどちらが有利な戦況か判断は困難だった。双方機動力を活かし、移動しながら銃声を響き渡らせるものの、互いに装甲に火花と爆炎を浮かばせていたのだ。銃弾が飛び交う戦闘が続く。
「まだ沈まないの! ‥‥きゃあッ!」
 激痛が疾り、視界に鮮血が舞い散った。叩き込まれる銃弾に装甲が悲鳴をあげ、遂に機体の破片が少女の白い肌を傷付けたのだ。それだけじゃない。
「‥‥クッ、駆動系をやられたの!?」
 罅(ひび)の入ったカメラにバリエが映る。このままバルカンの雨を食らい、エンジンに直撃を受ければ機体は爆発してしまうかもしれない。否、そのまま装甲が疲弊すれば、いずれは貫通し、血の雨を身体中から飛び散らせて踊る羽目に成りかねないのだ。
 ――ブラッディバトル。
 クリスティーナは恐怖に震えた。バトラーを死亡させたら失格となるルールだが、遠距離戦で明確に敵の状況を把握できるだろうか? 競技として行われているが、戦闘に変わりはない。銃声が鳴り響き、硝煙の匂いが戦場を呼び起こす。
 ――ゴンッ★
 鈍い衝撃が伝わり、視界が傾く。次の瞬間、少女はコックピットの中で強かに背中を打ち付けた。一瞬、何が起きたのか分からず、クリスティーナは赤い瞳を見開き、呆けたような表情のまま固まる。
 刹那、耳に飛び込んだのは大きな歓声だ。
『チーム名、銀狼! ウィナーKatze!!』
「‥‥僕‥‥負けちゃったんだ」
「クリスティーナ様!」
 柔らかい銀髪を振り乱し、何度も何もない所で体勢を崩しながら、少女は倒れたままのSilveWolfへと駆けた。胸部ハッチを外部から跳ね上げ、顔を覗かせる。コックピットに鮮血が飛び散っており、エリアは両手で口元を覆い、瞳を潤ませた。
「クリスティーナ様! いま治療するから」
 傷口に両手を翳すと、温かい光が放射され、次第に裂かれた皮膚が修復されてゆく。どうやら命に問題はなく、傷も残らないようだ。
「エリアさん‥‥僕、負けちゃったよ」
「うん、遣られちゃったね」
 少女はクリスティーナを見つめて微笑みを浮かべる。
「相手が強かったね、また頑張ろうよ」
「うん、そうだね。僕‥‥頑張るから」
 クリスティーナは微笑みを返すと、再び瞳を閉じた――――。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/クラス】
【0592/エリア・スチール/女性/16歳/エスパー 】
【0656/クリスティーナ・クロスフォード/女性/16歳/エキスパート】
【0634/キリル・アブラハム/男性/45歳/エスパーハーフサイバー 】

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■         ライター通信          ■
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 この度は御参加ありがとうございました☆
 お久し振りです♪ 切磋巧実です。
 続けての参加とても嬉しく思っています。
 始めに『この物語はアメリカを舞台としたボトムラインです。セフィロトにボトムラインはありませんので、混同しないようお願い致します』。また、MSの演出面もオフィシャルでは描かれていない部分を描写したりしていますが、あくまでライターオリジナルの解釈と世界観ですので、誤解なきようお願い致します。
 残念な結果となりましたが、改造が失敗した訳ではありません。今回は戦術の問題でした。でも、エリアさん達は若いのですから、失敗も大きな成長の糧となるでしょう。頑張って下さいね。
 わーい☆ イラストだぁ♪(おいおい)。可愛らしい方ですね。エリアさんがロングヘアだと、クリスティーナさんは短めかな?
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆