PSYCOMASTERS TOP
前のページへ


■EP1:The First Contact■
はる
【0692】【宵待・クレタ】【エスパー】
 都市区画『マルクト』の片隅。何かに惹かれるように狭い路地裏に入り込んだ貴方。
 教会と思われる建物の横を抜けると不意に開けた場所に出た。
 広場の中央に一人の少女。
「お譲ちゃん、こんなところを一人で歩いていると危ないぞ」
 少女は貴方の言葉に、不思議そうに首をかしげる。
『うにゃ〜』
 足元に屯していた薄汚れた猫が警戒するように、少女の前に進みでる。
「おいおい、俺は怪しい人物じゃないって」
 猫たちに詰め寄られて、何となく自分が悪人になったような気がして一歩後ずさりをする。
「この辺は危ないからさ、俺が家まで送っていってやるよ」
 名前は?と尋ねると、少女は小さな声で一言

「アシャ」

 とだけ答えた。
EP1:The First Contact


『Esta noite como todos modo coral?さて、今晩はこのナンバーから行って見ようかな……』
 陽気なディスクジョッキーのトークに耳を傾けながら眠たげに瞼をこする。
 アナログな時計の長針は数字の6を刺している。
 時刻は18:00。世間一般からすればそろそろ家路に着く頃合だが、ここは都市セフィロト。時の流れから切り離された街。
 これでも彼、宵待・クレタにしてみれば十二分に早起きと言える時間帯であった。
 少し途切れがちな音を拾うラジオは、彼自身が趣味で作ったジャンクパーツを集めたもの。
 電池を必要としないそれから流れる音は、市販のものに比べて随分と柔らかい音をだしていた。
 何時もであれば、もう少し遅い時間帯から活動を始めるクレタが早起きをしたのには理由があった。
 趣味で作っている鉱石ラジオのパーツとして必要不可欠な、良質な鉱石が行きつけの店で格安販売されるという情報を手に入れていたから。どうしても営業時間内に店に行かねばならなかったのだ。
「………ふぅ……」
 家から一歩踏み出すととたんにむっとした熱気が纏わり付く。それもそのはずここは赤道直下のブラジルだったからある程度平均的な室温に保たれているセフィロト内部においてもある程度の温度と湿度は覚悟しなければならないものであった。
 未だしょぼつく眠い目を無理やりこじ開け、夕飯時にごった返す街並みにクレタは足を向けた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 手の中の小さな紙袋の中には数個の黄鉄鉱が入っていた。目当てのものは以外にあっさりと購入することが出来た。
 この鉱石で聞くラジオの音はどの様なものなのだろう?
 交渉の末、提示された値段より更に割引させて手に入れた鉄鉱石は見るからに不純物が少なく、予想以上に良質のものであった。
 何時もどおり黒いフードを目深に被ったその下の、クレタの眦は心なしか緩んで見えた。
 空調のきいた部屋も良いが、たまの外出と思えば蒸し暑い空気も悪くない。季節は夏、雨季を間近に控え、都市セフィロトの内部の温度も随分と上がっていた。
 件の少女と出会ったのはそのときだった。
『みゅ〜………』
「駄目、まって」
 ててててと目の前をブチの子猫が走り、その後を追うように少女が小道の脇から走り出してくる。
 思わず反射的に片手を伸ばして、クレタは目の前を横切ろうとした子猫を捕まえた。
「……あ…」
 少女の後を付いてきた数匹の猫たちが、不振な人物だと判断したのか警戒しクレタに向かって威嚇の声を上げた。
 子猫を追ってきた少女もフードで顔を隠したクレタに戸惑ったようにおどおどと立ち尽くす。
「……このこ……君の…?」
 クレタはポンと片手に乗るほどの大きさの子猫を少女の腕に渡し、目深に被っていたフードを上げ警戒を解かない猫たちを宥めようと手を伸ばした。
「………僕は怪しい者じゃない……」
 クレタなりに宥めようとしていたのだが、猫たちにすれば自分のテリトリーに踏み込んできた闖入者の一人とみなしたのだろう。
 威嚇の声をあげ、彼の周りをぐるぐると取り囲み一定の距離を保ち近づいてこようとしない。
「……あの……ありがとう…」
 子猫を手渡され、礼を言うのを忘れていたようにクレタを見ていた少女がおそるおそる口を開いた。
「……別に…なんでもないから……気にすることはないよ……」
 その子が丁度目の前を走っていたから捕まえただけ。何時もの調子でぼそぼそと話す。
「……この辺りはあまり治安がよくない……一人でいるのは危険だよ……」
「そうなの?でもアシャ何時もここで遊んでるのよ」
 どうやら少女の名前はアシャというらしい。何処か危うげな儚さを感じさせる少女にクレタは興味を覚えるのであった。
「この場所が好きなのか?…思い出すことでもあるのかい……」
 目の前の少女はその手の趣味の好事家が見たら恐らく、毒牙にかかること間違い無しの美少女だった。
「?」
 クレタの問に少女は首を傾げた。その足元に屯する猫たちも少しは警戒を解いたのか、暫く様子を見ることにしたのか数匹はその場に寝そべりじっとクレタの様子を注視している。
「別に、思い出すこととかはないの。ここだと誰も来ないからアシャはここにいるの」
 アシャに思いでは必要ないからと歌うように少女は告げる。
「誰も……?」
「うん、ここは行き止まりが多いから普通の人があんまり来ないのよ」
 そういえば、クレタ自身もこの道を通るのは初めてだった。
「……そうか……」
 入り組んだ都市セフィロトの内部において、このような袋小路は少なくない。少女はそのような場所を選んで遊び場にしているのだろう。
「あ、そうだ貴方のお名前は?」
「名前?」
 そういえば自分の名前を告げていなかったことをクレタは今更ながらに思い出した。
「……クレタ…宵待・クレタ……」
「ふ〜ん、クレタはどうしてここに来たの?」
「…買い物帰りに何となく……かな?」
 特に深い意味合いがあったわけではない、何となく近道かな?と思って足を踏み入れただけのこと。
「お買い物?」
 そこで初めてクレタの手の中にある、紙袋に少女が興味を示した。
「……うん…趣味で使うものをちょっとね……」
 紙袋の中にある鉱石の欠片を手の平に出して少女に見せる。
「わ〜きれ〜」
 キラキラだね。
 輝石や宝石などと違いそれ程、高価なものではないが少女にとって珍しいものなのであろう、目を輝かせてクレタの手の中を覗き込んだ。
 宝石などとは違う金属的な滑らかな輝きが美しい黄鉄鉱。
「…幾つかあるし…一つあげようか?」
「え?いいの?」
 クレタの大事なものじゃないの??
 驚いたようにアシャは目を丸くする。
「これだけじゃ意味はないけど……ここで合えたのも何かの縁だから………」
 それはほんの気まぐれ。一番小さな欠片を少女の手の中に落す。
「う〜んと……じゃぁ、アシャはクレタにこれ上げる!」
 ごそごそと少女がポケットから出したものは何かの花の種らしきもの……
「……これは?」
「アシャの宝物。クレタが大事なものくれたから。アシャも大事なものあげるの!」
 交換こと、手の中に押し付けられたそれをクレタは、苦笑しながらも大切そうに外套のポケットにしまうのであった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 帰る方向が同じだからという理由で、少女の手を引きクレタは時間的に深夜の街並みを歩く。
 時は深夜を差していても、この町は消して眠らない……。ここは時の流れのない町だったから……
 クレタの腰程しかない小さな少女の手はとても柔らかく暖かいものだった。
「あ、アフラ!」
 人影を見つけ歓声を上げて少女が突然駆け出す。
 その先にいたのは、暗闇に溶け込むように気配を殺した漆黒の肌の青年。
「……!?」
 思わずその姿を見て、クレタは息を呑んだ。
 先ほどまで手を引き傍らを歩いていた少女と、何時ぞや出会った異形のタクトニム……関係はわからないがその男はけして少女を粗末に扱っているようには見えなかった。
 駆け寄ってきた少女を当然の様に悠然と抱き上げる。それは極自然な仕草。
「バイバイ、クレタ」
 またね。タクトニムの腕の中で手を振る少女と漆黒の青年をクレタは呆然と見送ることしか出来なかった。


『そろそろ、ラストナンバーの時間かな?今日一日はみんなにとってどうだった?
 それじゃぁ、この曲を聴きながらお別れするね………』
 手に入れた新しい鉱石を使ったラジオからはしっとりとした女性ジョッキーの声が流れてくる。
 一体あの少女は何物なんだろう?そして、あのタクトニムとの関係は………?確かに先ほどまで一緒にいたはずなのに…風の様に走り去った少女。
 一つだけ少なくなった鉄鉱石と外套のポケットに入っていた何かの植物の種がそれが夢でなかったのだと告げていた。


 ことを荒立てる気はさらさらなかったがクレタにとって、多くの疑問に見舞われた一日がやっと終ろうとしていた……



【 Fin 】



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】


【0692 / 宵待・クレタ / 男 / 16歳 / エスパー】


【NPC / アシャ】
【NPC / アフラ】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


宵待・クレタ様

こんにちはライターのはるです。
ゲームノベル【EP1:The First Contact】への御参加ありがとうございました。
素敵なプレイングを頂き悶絶しながら書かせていただきました(何)
という訳で、追加の粗品付きでお届けいたします。お気に召していただければよいのですが……

それではまたのご来訪お待ちいたしております。