■想いの数だけある物語■
切磋巧実 |
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【5682】【風早・静貴】【大学生】 |
――アナタは眠っている。
浅い眠りの中でアナタは夢を見ています。
否、これが夢だとは恐らく気付かないでしょう。
そもそも夢と現実の境界線は何処にあるのでしょうか？
目が覚めて初めて夢だったと気付く時はありませんでしたか？
アナタは夢の中で夢とは気付いていないのだから――――
そこは夜だった。
キミにどんな事情があったのか分からないが、見慣れた東京の街を歩いていた。賑やかな繁華街を通り抜けると、人の数は疎らになってゆく。キミは何処かに向かおうと歩いているのだが、記憶は教えてくれない。兎に角、歩いていたのだ。
「もし？」
ふと穏やかな女の声が背中から聞こえた。キミはつい顔を向けた。瞳に映ったのは、長い金髪の少女だ。髪は艶やかで優麗なラインを描いており、月明かりを反射してか、キラキラと粒子を散りばめたように輝いていた。赤い瞳は大きく、優しげな眼差しで、風貌は端整でありながら気品する感じさせるものだ。歳は恐らく１７〜２０歳の範囲内だろうか。彼女の肢体を包む衣装は純白のドレスだ。全体的にフリルとレースが施されており、見るからに――――あやしい。
「あぁ、お待ちになって下さい！」
再び先を急ごうとしたキミを、アニメや漫画で見るような奇抜な衣装の少女は呼び止めた。何故か無視できない声だ。再びキミは振り向く。
「わたくし、カタリーナと申します。アナタに、お願いが、あるのです」
首を竦めて俯き加減に彼女は言った。両手をモジモジとさせて上目遣いでキミを見る。
「私は物語を作らなければなりません。あぁ、お待ちになって下さい！」
ヤバイ雰囲気に、キミはさっさと立ち去ろうとしたが、彼女は切ない声で呼び止めた。何度か確認すると、どうやら新手の勧誘でも商売でもなさそうだ。兎に角、少女に先を促がした。
「あなたの望む物語を私に教えて下さい。いえ、盗作とかそんなつもりはございませんし‥‥えぇ、漫画家でも作家でもございませんから、教えて頂けるだけで良いのです」
何だか分からないが、物語を欲しているようだ。仕方が無い、適当に話して解放してもらおうと思い、キミは話し出そうとした。
「あぁッ、待って下さい。いま準備しますね」
教えてくれと言ったり、待ってくれと言ったり、我侭な女（ひと）だなと思いながらキミは待つ。彼女は腰の小さなポシェットのような物を弄ると、そのまま水平に腕を振った。すると、腕の動きに合わせてポシェットから青白く発光する数枚のカードが飛び出し、少女がクルリと一回りすると、カードの円が形成されたのである。
これは新手のマジックか、それとも‥‥。
「どれがよろしいですか？ これなんかいかがです？ こんな感じもありますよ☆」
彼女は自分を中心に作られたカードの輪を指差し、楽しそうに推薦して来る。カードは不思議な事に少女の意思で動くかのように、自動で回転して指の前で止まってくれていた。
「あ、説明が未だでしたね。あなたの望む物語は、このカードを選択して作って欲しいのです。簡単ですよ？ 選んで思い描けば良いのですから☆」
キミは取り敢えずカードを眺める事にした――――。
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想いの数だけある物語
「いけない！ 夜になっちゃったよぉ」
着飾った一人の少女が誰も歩かない町を走っていた。表情は怯えを浮かばせ、息を弾ませながら街燈の灯る路上を駆け抜ける。
「きゃッ」
慌てて走ったものだから足が縺れたのか、少女は小さな悲鳴をあげて前のめりに倒れた。
――足が、痛い‥‥。
ゆっくりと腰を捻る少女の瞳に映ったのは、足首に巻き付いた赤黒い触手だ。ギリギリと締め付けられ、既に足首から鮮血が滴っていた。涙を浮かばせる瞳が触手を追う。闇の中に浮かび上がったのは、長い舌を彼女の足首へと絡めた直立する蛙の化物だ。周りに同じ化物が数体覗えた。
「ひッ！ ッ！？ きゃあぁぁぁッ！」
恐怖に瞳を見開くと同時、クンッと触手状の舌に引っ張られ、少女は宙を舞いながら闇に潜む化物の元へと消えた。
――半年前の事だ。
平穏だった町は突如として、夜になると異形の化物が徘徊する地獄と化した。異形の化物は人間を捕食する事から、町が闇に包まれると共に人々は怯えながら朝を待つ。そんな暮らしが当たり前になろうとしていた――――。
●勇気か無謀か――若き探検者
「‥‥！ なぁ柳、さっき女の人の悲鳴が聞えなかったか？」
長めの黒髪を揺らし、風早静貴は振り返った。先を歩くのは、流れるように艶やかな長い銀髪の青年だ。河谷柳は顔も向けずに応える。
「珍しくもないだろ？ 静貴。夜に出歩く方が悪いぜ」
「‥‥僕はその言葉を自分達に問いたいね」
微妙（意味不明）な文字がプリントされたＴシャツの青年は両手を腰にあて、ジトリとした瞳で幼馴染を見つめた。
そう、彼等はその危険な夜の町を歩いているのだ。しかも帰りが遅くなった訳でもない。簡単に言えば『探検』が目的である。
「なに被害者面してんだよ、静貴も知ってて来たんだろ？」
柳が肩越しに青年を見つめ、端整な風貌に不敵な笑みを浮かべた。しかし、静貴は深い溜息を吐いて、呆れたような表情だ。
「‥‥柳が無理矢理誘ったんじゃないか〜」
「おっと、それは誤解というものだぜ！ 俺は確かに静貴を誘って断わられたが、何度も説得した結果、承諾したのは自分の責任だろう？」
――それを屁理屈というんだよ。
「はいはい。でさ、柳、君は原因に心当たりでもあるの？ なんにせよ、異形への対抗手段くらいは‥‥」
「ないぜ。‥‥俺は静貴を頼りにしてんだ」
――はい？
「‥‥え、ちょ、僕が頼り！？」
流石に無茶だ！ それに何の根拠があって頼っているのかすら見当も付かない。静貴は思わず素っ頓狂な声をあげた。
そう、青年は線も細く、強そうに見える訳でもない。否、前髪の一部を金のヘアピンで留め、耳には細長いピアスを嵌めた彼は、中性的な雰囲気も相俟って、寧ろ弱そうに見えると言っても過言ではないだろう。
「‥‥僕は泣きたいよ。なぁ、柳、聞いてる？ ‥‥ッ！？」
左腕を横に開いて柳が制する。静貴も只ならぬ空気を即座に察し、表情を強張らせた。
「‥‥いるんだね」
「あぁ、無駄話は終わりだぜ」
身構える青年達の周囲でガサゴソと物音が響き渡り、暗闇に幾つも影が浮かび上がってゆく。銀髪の青年が口元を歪ませた。
「バックアップ、頼んだぜ！ 強行突破だッ！！」
「えっ？ ちょ‥‥」
手を差し出すが、柳は既に路面を蹴って駆け出した後だ。静貴は細い腕をクロスさせ、瞳を研ぎ澄ます。
「断風（タチカゼ）！！」
クロスさせた腕を勢いよく解放すると、疾風の刃が放たれた。二つの鎌鼬が前を走る青年を追い越し、柳に伸ばそうとした長い舌を切断してゆく。緑色の鮮血が月明かりに浮かび上がる中、奇声をあげる異形の化物共を擦り抜ける。
「流石は風を自由に操れるだけあるぜ♪ 何とかなるもんだろう？」
「何とかなるもんだろうって‥‥あぁもうッ、君は本当に度胸が据わってるって言うか‥‥」
異形の存在は闇に紛れ、なかなか捉える事は出来ない。柳は囮となり、化物の襲い掛かるタイミングに合わせて、静貴の攻撃を誘導したといえる。一瞬の判断ミスが危険に繋がるというのに、銀髪の青年は気楽な微笑みを浮かべていた。黒髪の青年は苦笑するしかない。二人は闇に染まる町を駆け抜けてゆく。
●学校――今宵の目的地
「ふぅ‥‥やっと辿り着いたぜ」
「ハァハァ‥‥ここって！？」
静貴の瞳に映ったのは、町でも一際大きな学校だ。昼間は少年少女達の神聖な学び舎だが、暗闇に浮かび上がる学校ほど不気味なものはない。どうやら、柳の飽くなき探求心の矛先は校内のようだ。
――いや、ちょっと待て。
「今は誰もいないだろうけど、朝になれば生徒達が勉強する所だよ？ 廃校なら兎も角、マズイんじゃないかな？」
太陽が昇れば異形は姿を見せなくなり、人々は平穏な一日を送る。何か問題を起こしてからでは遅い。静貴は尚も警告を促がした。
「心配すんなって♪ 何か壊しても異形がやったと思うさ。ほら、フェンス切ってくれよ」
「やだよ！ 前例が無い事をやったら不安になるさ。今度は鋼鉄をも切断する化物が現れたってね。良くないよ！」
自分の能力を器物破損に行使するのは抵抗がある。柳は呆れたような表情を浮かばせると、フッと微笑んだ。
「不安が大きいほど住民も慎重に行動するってもんだろ？ まあ良いや、攀じ登って中に入ろうぜ」
「‥‥諦めるって言葉を知らないんだね」
あぁ、嘆きの巻き込まれ属性よ。
仕方なく静貴もフェンスを越えて校内へと侵入を果たすが、早速お呼びが掛かる。校舎に入る為には鍵を開ける必要があった。
「鍵穴に風を吹き込んでカチッとなら良いだろ？」
「‥‥開けるだけならやるよ」
――あぁ、僕達不法侵入しているんだよ。分かってるのかな？
柳の持参したペンライトの明かりを頼りに、青年達は校舎内を歩いてゆく。ヤケに靴音が廊下に反響し、恐怖感を煽る。もし、異形が襲って来たとしたら対応は困難だろう。
「ちぇッ、何も無いな‥‥」
「何か捜し物があったの？」
「あぁ、何か見つからないかってな♪」
柳の応えに静貴は頬を引き攣らせた。
挫けるな！ 嘆きの巻き込まれ属性よ――――。
結局散策したものの、何も収穫（？）は無かった。
時刻は既に次の日を迎えており、撤収も時間の問題だろう。
二人が行き着いたのは、最上階である４階を抜け、屋上へと通ずるドアだ。ノブに手を掛け、柳が肩越しに顔を向ける。
「‥‥最終ポイントだぜ」
「もう何も見つからないから、帰ろうよ」
銀髪の青年は二ッと微笑むと、ドアを開いた。
――僕の言葉は無視ですか‥‥。
突風が青年達の髪を舞い躍らせる中、ライトを照らす。刹那、瞳に映ったのは、ゆったりとしたキャミソールを身に纏った白い肌の少女だ。思わず息を呑む柳。距離はあるものの、静貴は腕を振るう準備だけは整えた。
「‥‥キミ！ 生徒じゃないだろ？」
「ちょッ、柳！？」
――考えがあった声を掛けましたか？
きっと何も考えてないんでしょうね‥‥。
ペンライトの灯りを向けられ、少女はゆっくりと顔を向けてゆく。
風が少女の髪を舞い躍らせる中、静貴の視線と交差した。
刹那、視界が真っ白に染まり、黒髪の青年は眩さに瞳を細める。
――今、僕は何をみたんだろう？
「‥‥う、ぅん‥‥ッ！？」
ゆっくりと瞳を開いた静貴は、呆けた眼を凝らす。
――瞳が眩しい。あれ？ 賑やかだな‥‥。
耳に流れて来るのは、車両群の掻き鳴らすエンジン音と街頭信号機の響かせるリズミカルな音色、そして幾人もの鳴らす靴音だ。
青年は瞳を見開き、映し出された日常風景に腰をあげた。
――腰をあげた？ 僕は‥‥。
静貴は公園のベンチに座っていたのだ。隣では銀髪の青年が仰向けになって未だ夢の中らしい。黒髪の青年は顔をあげる。陽光が木漏れ日から降り注ぎ、今が昼位だと気付いた。
――僕達は確か夜の学校で‥‥。
記憶が頭の中で高速リピートされ、深夜の屋上からゆっくりと流れる。突風が吹きつける中、ペンライトに照らされた少女の瞳――――。
「‥‥あれ？ それからどうしたんだっけ？」
立ち尽くす青年の周囲で人々の時間（日常）は刻まれてゆく。
そして夜になれば、この公園も闇に染まり――――。
「‥‥これがアナタの描いた物語なのですね」
カタリーナは一枚のカードを胸元に当て、瞳を閉じたまま微笑みを浮かべていた。やがて、ゆっくりと瞳を開き、静貴にカードを差し出す。
「このカードは、静貴さんが物語の続きを描く時に使って下さい。カードに記録として履歴が残ります」
「‥‥履歴、ですか？」
「はい☆ 今回の場合は、『闇に異形が蠢く現代。静貴は夜の町を探検する中、深夜の学校で謎の少女と出会う。』って感じです」
いいのか？ こんなてきとーな履歴で‥‥。
「あ、ありがとう、ございます。へぇ、カードかぁ♪」
取り敢えず苦笑しながらも、静貴はカードを受け取った。微妙な履歴の刻まれたカードを眺め、何となく嬉しそうだ。
「それでは、静貴さん、ごきげんよう☆」
カタリーナが微笑む中、次第に大きくなる眩い閃光に、静貴は瞳を閉じた――――。
＜闇の町で探検を続ける＞ ＜目を覚ます＞
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号／ＰＣ名／性別／年齢／職業】
【5682／風早・静貴／男性／19歳／大学生】
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■ ライター通信 ■
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この度は発注ありがとうございました☆
はじめまして♪ 切磋巧実です。
先ずは、プレイングの口調とＰＣ設定の口調に相違がありますが、幼馴染というシナリオ設定を考慮し、プレイングのままとさせて頂きました事を御了承下さい。多分、初対面や年上には礼儀正しく接するのでしょうね。
さて、いかがでしたか？ 今回はプレイングのままとさせて頂きました。少女が何者かはお任せします。振り回されっぱなしの静貴さんでしたが、巻き込まれ属性では仕方が無いですね（笑）。
楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
それでは、また出会える事を祈って☆
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