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■【楼蘭】赤き犬の陣■ |
はる |
【2467】【C・ユーリ】【海賊船長】 |
聖都エルザードから東へ4月と4日、船旅を経た場所にあるという……蒼黎帝国は帝都楼蘭。
折もよく城では新年の儀が執り行われていた。
「主上に置かれましては、ご機嫌麗しく……」
九拝を受ける相手は、みすごしにあくびをかみ殺していた。
「暇じゃ……」
「主上…」
「分かっておる」
じゃが、暇なものは暇なのじゃ。未だ声は若く、どちらかというと幼い。
傍に控えた女性が嗜めるも、出てくるあくびは止まるものではない。
退屈な近隣諸侯と家臣と挨拶。毎年変わらず続いているものとはいえ、なんとかならんものかと考えあぐねていたとき。
「おーほっほっほっほ……か弱きものどもが、よくもまぁ此処まで集って・・・」
高らかに笑う女の声が、厳粛な楼閣内に響きわたった。
「女丑の尸……この女狐め」
舌打ちしたのは誰だったか。
「帝都の皆々様にわたくしから、贈り物ですわ」
どうぞお受け取りになって。
女が手をあげると、数匹の赤い巨犬が空よろ現れた。
「天犬!?」
それは騒乱の世に現れる、赤き犬の名。
「くそ!とっつかまえて食ってやる!!」
いきり立つ将達が各々武器を手にする。
「此処は拝殿じゃ、争いは表でなされ」
「相変わらず、お優しい宰相様ですこと」
「余計なお世話じゃ。各々ぬかる出ないぞ」
主命を守るは武士の本懐。
「とはいえ……だれぞ、助っ人を呼んだほうがよいかのぅ」
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みっどないと・ふぃ〜ば〜☆
茹だるような暑さが残る夏の夜。
冒険者達はある手紙を受け取り、ブランシア城の辺を流れる川岸に集っていた。
河からはいくらか涼しげな風が吹いてくる。これだけでも十分にこの場に足を運んだかいがあった。
「しっかしなんだって、こんな時間に……」
そろそろ、深夜を回ろうとしていたとき……辺りは薄靄に包まれた。
ギー、ギー、ギー
軋んだ櫂の音が闇夜に響く。
「ちょっと……なによ……」
不気味な音は河上から聞こえてくる。辺りはおどろおどろしい空気に包まれた。
水面をすべるようにして靄の中から現れた今にも沈みそうな小船の上には外套に身を包みポージングをする渡し守の姿。
……ん?ポージング??
「って、なんだディースかよ」
集った冒険者の一人が一つ息を吐き出した。正体がわかれば恐ろしくもなんともないこの近くのカタコンベの墓守がいた。
「なんだとはなんだ!俺のこの素晴らしき骨格を見よ!!」
カタカタと奥歯を鳴らし外套を肌蹴ポーズを決めながら髑髏が不満の声を上げる。
「怖がって損した〜」
「素晴らしき骨格って……骨は所詮骨だろ?」
ネタがばれれば怖くもなんともない後はだれた空気だけが残っていた。
「まったく、近頃の若い奴は……そんなお前たちのために俺たちが取って置きの恐怖ゾーンを用意してやったぜ!」
暑さもこれで吹っ飛ぶはずだ。
と、墓守が肋骨を張った。
「冒険者一行様ご案内〜♪」
さぁ、船にのったのったと無理やり沈みそうなおんぼろ小船で向かった先には昼間何度か訪れたことのあるブランシア城傍の地下墓地。
「今日は、ここの皆が張り切って準備したからな。気合入れて涼しくなれよ!」
近くにいた男の方をバンバンたたきながら、墓守が陽気な笑い声を立てた。
「で………これは一体なんなんだ……」
「ん?キイテネェの??ブランシア城恒例、夏の風物詩。肝試しにきまってるじゃん」
そんなこときいてねぇよ、とその場の全員が一斉に溜息をついたのはいうまでもない。
裏寂れたカタコンベの一画で本物の死人達がプロデュースした肝試しが今始まろうとしていた………
この度の、突発的なイベントに参加することになった哀れな生贄……もとい、奇特な冒険者の面々は……
「筋試しだって、そりゃあ面白そうだ!」
ムキッと力瘤を作って見せた、言わずと知れた腹黒イロモノ親父マッチョ。オーマ・シュヴァルツ氏39歳(1953)。筋試し……?なんか違うような気もしますが、この際良いでしょう。
「肝試しとは……また面白そうな企画だねぇ」
のんびりと、この先に訪れることも知らずに観光気分いっぱいな、荒海を駆ける海の男C(キャプテン)・ユーリー25歳(2467)。
「僕は盗賊だよ、このぐらいへ、平気だよ!」
おんぼろ船に乗せられたときからへっぴり腰だった、ミリア・ミーア・キャット18歳(2589)。やや空元気のような気もしますが……頑張ってください。
「化け物ごときにびびってちゃあ退魔師の名が廃るってもんだぜ!」
やるからには最速記録を作ってやるぜと、元気な少年退魔師(見習い)ケイシス・パール此方も18歳(1217)。その肩に乗せられていた九本の尾がキュートな子狐は、何故かディースに興味があるらしく先ほどから仕切りにその骨格しか残っていない体の周辺をうろうろしている。
以上4名の冒険者達が、少々時期はずれな気もしなくもない企画に名乗りをあげた。
「はいよ〜、じゃぁこれが蝋燭な。これをここの一番奥にある教会の祭壇に立てて、そこに羊皮紙が置いてあるからそれをもって帰ってきてくれな」
羊皮紙には、証明書って書いてあるから間違えるなよ〜
ディースから各自に2刻ほどは持ちそうな、太目の長い蝋燭が渡された。
「中にはいろいろ、楽しい仕掛けを用意しておいたからがんばれよ!」
陽気な墓守に送り出され、あるものはおそるおそる、またあるものは勘違い大爆発のまま夜のカタコンベに足を踏み入れるのであった。
安らかなる死者の眠る地下墓地……住人達は聊か変わってはいるが……
「流石に退治しちゃマズイ……よな?」
「そうだねぇ、ここの皆さんは自分の意思でこの世に留まっている人たちばかりみたいだからねぇ」
先ほどの墓守もそうだが、ここに住む幽霊達に一般論など言うだけ無駄だとユーリーが苦笑する。
「僕としては……何を仕掛けてくるかがしんぱいだけどねぇ」
「筋肉問題ノンノン!全ては桃色筋肉の前に無にかえしてやるぜ!」
此方は家に幽霊を同居させている所為か、それとも元からそのような繊細な神経など持ち合わせていないのかオーマはいたって平然として何時もどおりのマッチョ親父ぶり。
「筋試しのトップ賞は俺がもらった!!」
……いえ、ですから肝試しですから……って、聞いてませんね……
「罠は僕が解除できるから大丈夫だよ!」
口では強気なことをいっているがそんなミーアの尻尾は大きく膨らみ、警戒心いっぱいだ。
昼間も明かりがないと移動も間々らない、陰気な空気の立ち込めるカタコンベの中は夜ともあり、静まり返り正に死者の眠る場所に相応しい。
「流石に雰囲気があるねぇ」
こうして改めて、じっくりとカタコンベの空気を味わうことは今までなかった所為か、ユーリーは興味深げに辺りを見回した。
「ちょっと待つにゃ!」
トラップの痕跡を見つけたミリアが、一同を止める。
「こんな罠、ボクにかかれば一発にゃよ♪」
ちょいちょいちょい……本職が盗賊なだけあって、手馴れた様子で罠の解除を試みる……が…
「うにゃ!?」
べろ〜んとミリアの首筋を冷やりと冷たいものが触れた。
「ふにゃーーーー!?」
あっさりと罠の解除失敗。びよん、びよん、びよ〜〜〜ん。と、糸に釣られて一斉に四角いものが降ってきた。
「何だ!?」
襲撃か!ケイシスが術符を構え、その肩で焔がふーーっと警戒の声を上げる。
「……と、コンニャクだねぇ」
伸縮性のある紐で釣られた四角い物体を冷静に観察してユーリーが一言。コンニャク臭いなんともいえない香りがあたり一面に広がる。
大量に吊り下げられたコンニャクの一つが、無防備だったミリアの首筋を撫でたようだ。
「や、やるにゃね……でも、ボクのいく手はとめられにゃいにゃ!」
罠への失敗を無かったことにして、ミリアは天井から吊り下げられてびよんびよんと跳ねているコンニャクにずびし!と指を突きつけた。
そこにお宝がある限り、凄腕女盗賊の行く先に壁は無いにゃ!
コンニャク相手に宣言しても、説得力はなかった。
「あれ?オーマは??」
先ほどまで傍らにいたはずの筋肉の塊が見当たらなかった。
「さっきまで、そこにいたんだけど、どうしたんだろうねぇ」
いたって普通の調子で、ケイシスとユーリーが辺りを見回す。
「そうか、お前さんも苦労してるんだな、俺も下僕主夫だからその気持ちよくわかるぜ」
「そういう、あんたこそ……大変な毎日を送っているんだな」
薄暗い枝道の先で、巨体を丸めるようにして正座で話し込む筋肉親父と、過去は良い体格をしていたのであろうグールの一団の姿がそこにあった。
「そうだ、どうせならお前さんも入会しねぇか?」
怪しげなパンフレットを差出なにやら勧誘を始めたりして……
「はいはい先に行くよぅ」
「まった、まだ話はおわってねぇぞ!?」
「蝋燭にも限りがあるから進むのにゃ」
「そんなことまた今度やりゃいいじゃん」
当初の目的を忘れ去っている、マッチョ親父に同行者一同は聞く耳を持たなかった。
足場の悪い階段を下りきり、半分ほどになった蝋燭を手にした一同の耳に小さな水音が聞こえてきた。
目の前に広がるのは黒い水面を見せる地底湖。蝋燭の明かりだけではその全ては見渡せない。
「にゃ?」
ピクっと動くミリアの耳は、ぱしゃんと跳ねる水音を聞き逃さなかった。
「この音はお魚の跳ねる音にゃ!」
だっと先ほどの失敗を忘れ地底湖の傍に駆け寄り、爛々と輝かせる瞳は既に獲物を狙う狩人の眼差し。
「おっきなお魚がいるにゃ!!」
猫の瞳は暗い水面の下を泳ぐ魚影も見逃さなかった。
「そんなに近づくとあぶねぇぞ」
ケイシスの忠告も遅かった。
「誰が魚じゃ!!わらわは人魚じゃぞ!」
怒声ともに、全員を鉄砲水が襲う。
「水は苦手じゃないけど、流石にこれはたまらないねぇ」
「火が消えちまうぜ!!」
戻れと慌てて、総員元来た道へ取って返した。
「水は苦手なのにゃ……」
先ほど逃した魚(?)を名残惜しげにぺたんと耳を伏せミリアが呟く。
「……でさ、またあの親父がいないんだけど……」
「そういえば、どうしたんだろうねぇ」
気が付けば、先ほどまで一緒にいたはずのオーマの姿が消えていた。
「ま、そのうち会えるだろ」
「そうだね」
「行き先は同じだから大丈夫にゃね」
確か、目的を勘違いしていた気もしなくもないオーマをあっさり見捨てて3人は先に進むことにした。
「一番左のお前!大胸筋の見せ方があまい!!正しいポージングはこうだ!!!」
ハィーー!っと両手を前に突き出し筋肉をぴくぴく痙攣させて見本を見せる。筋試しというのは古来からある漢と漢の暑い筋肉の語り合い……
「こうか?」
「おう、そうだいい感じだぜ」
薄暗いカタコンベの中で賞味期限切れのアニキ達に正しいポージングの指導をする、桃色筋肉親父の姿があった。
筋肉ラヴアタックで心と心が通じ合った戦友との出会いに、オーマは自分の持ちえる全てを友人達に受け継がせようと闘志を燃やしていた。
その足元にある蝋燭も何故か、人型。しかも腕を振り上げ筋肉を誇示するアニキの姿の世にも暑苦しいものに取って代わっている。……何時の間に?というか、その辺のところは突っ込んではいけない全ては腹黒親父魂の前に塵と成すのが世の理なのだ(何)
そんな暑い魂の語り合いをするオーマのポージング指導の成果は直ぐに現れた。
「ちょっと、トラップの数が多くなってきたような気がしないかぃ?」
息を上げながらユーリーが辺りを見回す。
「なんで……巨大植物が………」
先ほど苦手なプラント系のモンスターに追い掛け回されたケイシスもグロッキー気味。
「これは、前もって此方の苦手なものを調べていてくれたようだねぇ」
楽しげにカタコンベ内を見回すがそんなユーリーの余裕も何時まで持つものか、心配だった。
それは突然3人を襲った。
「桃色筋肉フォーメーションA!」
「「「「おぅ!!」」」」
ザッと半ば腐りかけた筋肉たちの群れが、一列に並び両手を高々と上げ溶けかけた上腕二等筋を誇示する。
「フォーメーションB!!」
「「「ハィー!!!」」」
一糸乱れず今度は後方に腕を曲げ、下にある骨の見えかけた三角筋を盛り上げて見せる。
「なんにゃ……」
聞き覚えのある号令に、ポージングをし群成す元筋肉アニキたちの姿にミリアが激しく脱力した様子。
「名付けて……桃色筋肉アニキ遭遇トラップ!完成!!」
どの変が桃色で、どの変がトラップなのか不明だったがオーマは確かな充実感を覚えていた。
……もっとも、その後彼が無言の3人に撲殺されたことは言うまでもない。
「やっと辿り着いたにゃ……」
ここに来るまでにおこった様々なアクシデントの数々に涙ぐみ、ミリアは最奥部に設けられた教会の天井のレリーフを見上げる。
「長かったな……」
ケイシスの手の中の蝋燭ももう残すところあとわずか。
「いろいろあったねぇ」
こちらはまだまだいけそうな様子のユーリー。
「で、ここに蝋燭を立てて羊皮紙をもってかえるんだったよな」
「そうだね」
「あったにゃ!!」
一番先に羊皮紙と思われるものを見つけ飛びつくミリア。
「ふにゃ!?」
再び悲鳴がカタコンベ内に響き渡った。
「おや、ナメクジかぃ」
「ぬるぬるするものは苦手にゃ……」
羊皮紙に下に潜んでいた子供の手の平ほどもあるナメクジに触れてしまい、ミリアが泣きそうな声を上げるのだった。
「これで、終了な」
ほっと、その場においてあった羊皮紙を手にしたケイシスが見たのはけばけばしいピンクで書かれた……『腹黒同盟パンフレット』の文字。
何時の間にすりかえたのだろう……
「………」
「………」
「………」
そのとき、その場で起こった惨劇を知るものは少ない。
「あれ?」
「なんにゃ?」
「ここに、蝋燭を置いてしまったら……」
帰りは、どうするんだろう。『証明書』と書かれた羊皮紙を手に入れたユーリーの問は最もなものだった。
「それなら心配ないぜ、焔がいるからな」
『こん』
それまで、ケイシスの肩で大人しくしていた九尾の狐が嬉しそうに一つ泣き声をあげるのだった。
帰る間際、教会にオーマが一年分のパンフレットを置こうとしたり、地底湖でミリアが落ちてしまったりと……
帰りもすったもんだの末に全員がカタコンベの出口に戻ってきたのは既に深夜といってもいい頃合だった。
「お〜♪おつかれさ〜ん」
どうだった、楽しかっただろ?と、軽い調子の墓守に多少の殺意を覚えたとしても仕方あるまい。もっとも相手は一度死んでいるのだが……
「ぐはっ!?」
ケイシスが鳩尾らしき骨の隙間に拳を叩き込み、ユーリーが首の辺りにラリアット食らわせ、ミリアは猫パンチでその頭蓋骨をたたき飛ばす。
序とばかりに焔が誘惑に負けて、ディースの足の骨にカリッと噛り付いたのはご愛嬌。
「とってもたのしかったけどねぇ」
「いい加減限度って物を考えろよな!」
「腐りかけた筋肉はもういやにゃ!!」
「やっぱ、男たるもの筋肉が全てだよな」
一人満足げな、筋肉親父は置いておくとして。各々が好き勝手な感想をのたまう。
そういいながらも4人が其々に手に入れた『証明書』と書かれた羊皮紙をディースに差し出した。
「結構、結構、コケッコーと、んじゃま打ち上げでもやっか」
その後……ブランシア城のメイドが用意していてくれた料理の数々に舌鼓を打ち。
ユーリーの持ち込んだ日本酒の味を楽しんでいる皆のことを何時の間に上ったのか、柔らかな朝日が照らすのだった。
余談であるがオーマが懐に用意してきた『秘伝のアニキ染め殺し酒』という世にも怪しい名前の酒に手をつけるものはなく、その後それが城主のコレクション『珍品』の欄に加えられたとか加えられないとか………小さな謎を残しながらもブランシア城恒例、夏の肝試し大会は幕を下ろした……
【 Fin 】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男 / 39歳(実年齢999歳) / 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2467 / C・ユーリ / 男 / 25歳(実年齢25歳) / 海賊船長】
【2589 / ミリア・ミーア・キャット / 女 / 18歳(実年齢9歳) / 盗賊】
【1217 / ケイシス・パール / 男 / 18歳(実年齢18歳) / 退魔師見習い】
【NPC / ディース】
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■ ライター通信 ■
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始めましての方が大半となりまして、少し緊張しながら書かせていただきました。
ライターのはるです。
この度は『みっどないと・ふぃ〜ば〜☆』への御参加ありがとうございます。
なにやら、久々の纏まった人数の集合型ノベルに一部暴走気味となっておりますが、とても楽しく書かせて頂きました。
皆様にも、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
今回は本当にありがとうございました。
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