■想いの数だけある物語■
切磋巧実 |
【5515】【フランシス・ー】【映画館”Carpe Diem”館長】 |
――アナタは眠っている。
浅い眠りの中でアナタは夢を見ています。
否、これが夢だとは恐らく気付かないでしょう。
そもそも夢と現実の境界線は何処にあるのでしょうか?
目が覚めて初めて夢だったと気付く時はありませんでしたか?
アナタは夢の中で夢とは気付いていないのだから――――
そこは夜だった。
キミにどんな事情があったのか分からないが、見慣れた東京の街を歩いていた。賑やかな繁華街を通り抜けると、人の数は疎らになってゆく。キミは何処かに向かおうと歩いているのだが、記憶は教えてくれない。兎に角、歩いていたのだ。
「もし?」
ふと穏やかな女の声が背中から聞こえた。キミはつい顔を向けた。瞳に映ったのは、長い金髪の少女だ。髪は艶やかで優麗なラインを描いており、月明かりを反射してか、キラキラと粒子を散りばめたように輝いていた。赤い瞳は大きく、優しげな眼差しで、風貌は端整でありながら気品する感じさせるものだ。歳は恐らく17〜20歳の範囲内だろうか。彼女の肢体を包む衣装は純白のドレスだ。全体的にフリルとレースが施されており、見るからに――――あやしい。
「あぁ、お待ちになって下さい!」
再び先を急ごうとしたキミを、アニメや漫画で見るような奇抜な衣装の少女は呼び止めた。何故か無視できない声だ。再びキミは振り向く。
「わたくし、カタリーナと申します。アナタに、お願いが、あるのです」
首を竦めて俯き加減に彼女は言った。両手をモジモジとさせて上目遣いでキミを見る。
「私は物語を作らなければなりません。あぁ、お待ちになって下さい!」
ヤバイ雰囲気に、キミはさっさと立ち去ろうとしたが、彼女は切ない声で呼び止めた。何度か確認すると、どうやら新手の勧誘でも商売でもなさそうだ。兎に角、少女に先を促がした。
「あなたの望む物語を私に教えて下さい。いえ、盗作とかそんなつもりはございませんし‥‥えぇ、漫画家でも作家でもございませんから、教えて頂けるだけで良いのです」
何だか分からないが、物語を欲しているようだ。仕方が無い、適当に話して解放してもらおうと思い、キミは話し出そうとした。
「あぁッ、待って下さい。いま準備しますね」
教えてくれと言ったり、待ってくれと言ったり、我侭な女(ひと)だなと思いながらキミは待つ。彼女は腰の小さなポシェットのような物を弄ると、そのまま水平に腕を振った。すると、腕の動きに合わせてポシェットから青白く発光する数枚のカードが飛び出し、少女がクルリと一回りすると、カードの円が形成されたのである。
これは新手のマジックか、それとも‥‥。
「どれがよろしいですか? これなんかいかがです? こんな感じもありますよ☆」
彼女は自分を中心に作られたカードの輪を指差し、楽しそうに推薦して来る。カードは不思議な事に少女の意思で動くかのように、自動で回転して指の前で止まってくれていた。
「あ、説明が未だでしたね。あなたの望む物語は、このカードを選択して作って欲しいのです。簡単ですよ? 選んで思い描けば良いのですから☆」
キミは取り敢えずカードを眺める事にした――――。
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想いの数だけある物語
――この世界は魔法で造られている。
青空の中、鳥達と共に幾つも飛び交っているのは、箒に跨った人間だ。辺り一面に生い茂る深い森だろうと、断崖絶壁の岩山や、人間が通るのを憚る濁流であろうとも、現代の魔法文明では他愛のない自然の一部に過ぎない。人々は全て魔法で対応し、自然と共に共存しているのだ。火や水を呪文と共に容易く生成し、風を起こし、大地に干渉する。高度な魔法技術を修得していれば、小物から大きな屋敷まで生成する事さえ可能だ。この世界の人間は魔法と共に不自由のない暮らしを営んでいる。
だが、魔法で全てが解決される世界でも、問題が起こらない訳ではない――――。
■悪魔に願いを――NoFuture
薄明かりに照らされた一室には、幾つもガラスの容器が並んでいる。同じような形状の中に、淡く発光する青白い炎が収まっていた。ガラス容器の陳列される棚に囲まれた室内に、二つの人影が浮かび上がる。一人は猫背でオールバックに流した金髪が肩まで延びている色白り男で、椅子に腰を降ろしているにも拘らず、細い手足がやたらと長い。もう一人は華奢な身体つきの黒いセミロングヘアの少年で、男の傍で佇んでいた。二人が見つめる先にあるのは、机に置かれた何も入っていないガラス容器だ。物音一つしない室内で見守る中、ボォっと青白い炎が浮かび上がった。中性的な雰囲気を漂わす少年――キイラ――が笑顔を浮かべる。
「やったね、フランシス様! 魂ゲットですよ☆」
フランシスと呼ばれた男は、痩せ細った風貌にギラギラとした青い瞳を滾らせ、口元を吊り上げた。
広過ぎる額に窪んだ眼、色褪せたような白い肌に長い耳が特徴的な壮年の男だ。
「さて、キイラ‥‥仕事だぜ」
男は徐に立ち上がり、青い瞳にキイラを映す。若干14才位の少女とも窺える風貌の少年が、満面の笑顔で応える。尻尾でもあればブンブンと振っている事だろう。
「はい☆ 今夜も魂ゲットしましょうね♪ どちらに行かれます?」
「‥‥東の城だ。何でも恋のお悩みがおありとか? ビンビンと波動流してやがる」
卑屈そうな表情に歯を見せるフランシス。キイラは「うん、分かったよ! 馬車の用意をするね♪」と陽気な声をあげながら、室内を飛び出して行く。
断崖絶壁の岩山頂上に建てられた漆黒の屋敷から、黒塗りの馬車が姿を見せたのは間も無くの事だった。瞬く星空の中、上空を慣れた動きで馬車は駆け抜けてゆく――――。
●満たされぬ想い
魔法陣の中、規則正しく蝋燭が灯る中心で、一人の女が細い両手を組んで瞳を閉じていた。優麗に流れる金髪に気品溢れる風貌は未だ少女のようだ。シャイラ姫は漆黒のマント一枚のみを羽織り、静かに呪文を呟く。彼女の目の前には大きな牛の頭が血を滴らせたまま、皿の上に乗っていた。
そんな妖し過ぎる光景を窓から眺め、キイラが苦笑する。
「‥‥色々と間違いが多いけど、本気ですね。フランシス様」
「フッ、親が見たら失神するかもな。嘆かわしい事だぜ」
少年の声に応えた男の表情は卑屈な笑みを浮かべ、そのままベランダへと音も無く着地した。何者かの気配にシャイラは瞳を開き、腰を捻って緑色の視線を流す。動いた拍子にマントが揺れ、覗いた白い肉体に赤い魔法陣が浮かぶ。18位だろうか、若い娘は慌てて肢体を庇う。
「‥‥ど、どなたですか? 婦女子の部屋に勝手に‥‥きゃッ」
フランシスは手を使わずにベランダのガラス窓を開け放ち、突風が少女の金髪とマントを激しく揺らした。漆黒の衣服に身を包んだ細身の男は、口元を吊り上げて口を開く。
「迷える子羊よ、怯える事はない。呼んだのはお前さんの筈だぜ?」
「‥‥!? そ、それでは、貴方がわたくしの言葉を聞いて来て下さったのですか?」
ゆっくりと頷いてやると、シャイラは両手を組んで微笑みを浮かべた。こうも容易く信じてしまうとは、流石は高貴な姫様だ。おめでたすぎるぜ。フランシスは内心苦笑しながら、早速用件に入る。
「迷える子羊よ、お前さんの魂三割で一つ願いを叶えてやろうじゃねえか」
「‥‥わたくしの魂を三割で、ですか?」
「安い買い物だろ? ん?」
「は、はいッ! 三割でよろしいのでしたら、差し上げます!」
シャイラは考える事もなく、きっぱりと返事した。瞳は潤み、整った顔は恍惚な色さえ浮かばせている。あっけない仕事だ。男はゆっくりと娘の胸へと鋭利な爪の付いた指を差し延べた――――その時だ。
「あぁッ! フランシス様〜!」
悲鳴を響かせたのは外で待機するキイラだ。漆黒の馬車は眼下から放たれた風の矢に木片を飛び散らせ、馬が激しく暴れ嘶いていた。尚も魔法の矢は洗礼を叩き込む。
「フランシス様〜! あいつです!」
「チッ、またガゾックか!」
キイラの伝えた『あいつ』で、フランシスの脳裏に名前と顔が浮かぶ。町の治安を買って出ている筋骨逞しい男――ガゾック――は、度々、仕事の邪魔をして来るのだ。馬車が見つかったという事は、ここに乗り込んで来るのも時間の問題か。急変した状況に、シャイラが不安そうな顔で見つめる。
「いかがなさいましたか? あの、わたくしの願い事は‥‥」
「按ずるな、窓から見える青年に恋をしたのだろう? 俺が城から出してやるぜ。後は何も考えずに男の元へ駆けて行きな」
窪んだ青い瞳が点滅したかと思うと、シャイラの緑の瞳は光を失い、口元に涎が一筋流れると共に、微笑みが零れる。
「‥‥はい☆ わたくしは彼の元に‥‥」
刹那、糸の切れた人形のように姫は崩れ、フランシスの長い細腕に抱きかかえられた。卑屈な笑みを浮かべる悪魔がベランダへ向かおうと背中を向けた時、部屋のドアが激しく開け放たれる。飛び込んだのは野太い男の声だ。
「フランシス! 今宵こそ地獄に返してやるぞ! ‥‥ッ! 姫を放せッ!」
豪華な調度品に彩られた室内に漂う香の匂いと、一郭に照らされる儀式の後に、ガゾックは僅かに動揺したものの、背中の向けたままのフランシスへと声を響かせた。悪魔はシャイラを抱えたまま、ゆっくりと踵を返す。
「俺は呼ばれたから来ただけだぜ? この姫さんが」
「言うなッ! これは貴様が仕組んだ事だ! 何にしろ貴様を滅ぼせば問題はない!」
ガゾックが呪文を詠唱すると共に、扉が一斉に閉じる。先ずは逃げ道を封じた訳だ。更に空間が一転、短い茶髪の屈強そうな男の背後にベランダが映る。後は攻撃魔法でフランシスを滅ぼせば済む。しかし、シャイラに傷をつける訳にはいかない。
「俺を掻い潜って外に出るしかないな、フランシス!」
「ならば躱してみせようじゃねぇか」
フランシスは二ヤリと口元を吊り上げ、青い瞳に集中する。脳裏にガゾックの魔法能力と攻撃手段が浮かび上がった。風と地の魔法。攻撃手段は――――。
一気に男が床を蹴って駆け出す。ガゾックが呪文を素早く詠唱すると風の矢は放たれた。吸い込まれるべき標的はフランシスの頭部だ。刹那、抱えたシャイラで禿げた額を庇う。慌てた短い茶髪の精悍な風貌の男は、風の矢を只の風へと切り換えた。フワリと姫の金髪が揺れる。
「‥‥貴様ッ! 姫を盾に!」
――次は右手を狙うか‥‥ほう、足かよ! ならば!
次々と放たれる変則的な風の洗礼は、シャイラを揺り動かす事で相殺してゆく。気を失った娘は軽く、ふらふらと揺れる細腕やしなやかな足は都合良くフランシスを護ってくれた。
「来やがれッ! キイラ!」
ベランダへの扉が開き、漆黒の馬車がガゾックの背後に迫る。標的を切り換えた男に、少年が呪文を響き渡らせた。
「この魔法は詠唱に時間掛かるんだよね♪ オールカバーアタック(絶対防御)だよッ!」
刹那、馬車は風の洗礼を弾き、目に見えない衝撃がガゾックを吹き飛ばす。
「障壁だと!? これほどの力を‥‥はッ!?」
「フッ、俺は飼い犬だって選んでんだよ! ガゾック、粋がっていられんのも今のうちだ。せいぜい今を楽しむんだな」
隙を突いてフランシスが馬車へと乗り込みながら、不敵な笑みを浮かべて見せる。魔法攻撃にびくともしない馬車に、ガゾックが苦虫を噛む如き表情を浮かべる中、漆黒の馬車は城から飛び出して行った――――。
●エピローグ
――数日後。
「お客さんこれからどうすんのかね」
フランシスの瞳に映るのは夜の街角で佇む一人の女だった。優麗な金髪はカサカサに薄汚れ、彼方此方が破れた薄手の衣服にボロボロの黒いマントを羽織っている。それでも整った風貌は気品を僅かに浮かび上がらせていた。変わり果てた姿を見つめる少年がふと主に尋ねる。
「気になります?」
「いや‥‥俺の知ったこっちゃねえか」
シャイラは全てを捨てて男の元に行ったものの、幸せは訪れなかった。酷い仕打ちを受けた後、ボロ屑のように捨てられ、今は或る町をさまよっている。
「一つだけ言えるこたあ、『羊』は群れを離れちゃ生きていけねえんだ。悪魔に頼って道に外れた時がアンタの運の尽きさ」
「でもフランシス様? 姫さんの魂を削ってちょっとバカにしちゃった訳だし、何とか冬までは生きて行けますよ♪」
二人が見つめる中、シャイラは惚けたような笑顔を男に向け、夜の町へと消えて行く。フランシスの叶えた願いの代償として与えた不幸なら、命を奪われる事はないだろう。
「よしキイラ、次の仕事だ」
二人も闇へと消える。魂と引き換えに願いを叶え、不幸を受ける者を探す為に――――。
「‥‥これがアナタの描いた物語なのですね」
カタリーナは一枚のカードを胸元に当て、瞳を閉じたまま、微笑みを浮かべていた。やがて、ゆっくりと瞳を開き、フランシスにカードを差し出す。
「このカードは、フランシスさんが物語の続きを描く時に使って下さい。カードに記録として履歴が残ります」
「俺の履歴だと?」
「はい☆ 今回の場合は、『魔法の発達した世界で魂を狩る悪魔――フランシス――。妨害を受けるものの、目的を達成する』って感じです」
いいのか? こんなてきとーな履歴で‥‥。
フランシスはカードを受け取った。微妙な履歴の刻まれたカードを眺め、男は卑屈な笑みを浮かべる。
「それでは、フランシスさん、ごきげんよう☆」
カタリーナが微笑む中、次第に大きくなる眩い閃光に、フランシスは瞳を閉じた――――。
<魂を狩り続ける> <目を覚ます>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【5515/フランシス・ー/男性/85歳/映画館館長】
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■ ライター通信 ■
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この度は発注ありがとうございました☆
はじめまして♪ 切磋巧実です。
さて、いかがでしたか? 展開はフランシスさんの設定を元に演出させて頂いています。ガゾックへの対処は隠し能力を行使した結果です。もし、自分の設定にない魔法を使う場合(別世界物語なので可能です)は、明記して頂けると助かります。やはりイメージがありますから、設定内で演出させて頂きました。登場人物割り振りとしては、ちょうど良い人数かもしれませんね。次回は誰が生贄になるのか(笑)。勿論、別の選択肢を選んで、まったく別の物語を描いても構いません。お気に召したら是非カタリーナに聞かせてあげて下さいね。
楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
それでは、また出会える事を祈って☆
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