■I’ll do anything■
九十九 一 |
【2740】【ねこだーじえる・くん】【猫神】 |
都内某所
目に見える物が全てで、全てではない。
東京という町にひっくるめた日常と不可思議。
何事もない日常を送る者もいれば。
幸せな日もある。
もちろんそうでない日だって存在するだろう。
目に見える出来事やそうでない物。
全部ひっくるめて、この町は出来ている。
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ねこびより
神聖都学園。
ふらりと足が向かったその先で、何となく昼寝を始めた事に理由なんて物は必要ないだろう。
勝手気ままで自由であることこそが猫の習性であるのだから。
「ぽかぽして気持ちいいにゃ〜」
小さな体をぐぐっと伸ばしたねこだーじえるは、近づいてくる足音に耳をぴくりと動かした。
「にゃ?」
「……」
本を持った黒髪の少女と目が合いぴたりと動きを止める。
帰り支度をすませた頃のようだが、まだ早いのではないかと思ったのもつかの間。
今日は早く帰れる日のようだ。
誰かに見られるとはうっかりだが、幾らでもごまかし様はある。
今のうちに逃げてしまうとか人形のふりをするだとか、どれも同じぐらいに簡単で、やろうとすれば簡単な筈だった。
相手も変わった能力を持っていなかったらの話だが。
この場合に限っては、うたた寝しかけていたこともあり、そのまま動かずにいればいいと考えてしまったのだ。
その選択がまさかあんな結果を導くとは誰が予想しただろうか?
「メノウちゃん、まだ帰らないの?」
「少し、気になることが……」
小さくなる声と反比例するように、道からそれねこだーじえるの側まで来るメノウ。
「………」
「………」
このまま動かない方が良いだろうか?
影が体の一部にかかりそうなところまで来ている。
「メノウちゃ……」
「しっ」
静にの合図を指先で形作りながら、視線は尚もまっすぐにこちらに向けられていた。
感じる視線は同じような年頃の少女がかわいい物を見つけたとはかけ離れている。
それは品定めと言うよりも、ネコが獲物を捕らえる直前のそれに告示していた。
見えない方の頬をつうっと汗が伝う。
彼女はもう確実に普通ではないことを気づいている。
少女はジリリと確実に歩を進めていた。
あと少し。
もう、すぐそこ。
「……」
思わず息を止める。
それは無意味であると気づいたのは、メノウがぱっと手を伸ばしたのと同時だった。
「……っ、にゃー!!!」
「あっ!」
本能的な危機を察知し、手が届く寸前で起きあがり走り出すねこだーじえる。
あの何とも言えない微妙な緊張よりは、こうしてしまった方がずっと良いと感じたのだ。
「動いた!」
「いやにゃ〜」
「あ、にげ……っ!」
走るねこだーじえる。
追うメノウ。
真昼の追いかけっこは、こうして始まった。
走っていった二人から少し離れた位置にいたリリィはも背後から声をかけられ振り返る。
「どーした?」
「あ、りょう。あのね」
向かえに来たりょうとナハトに、突然始まったおいかけっこをどう説明しようかと考えたリリィに一言。
「……いいのか、あれ?」
「え? あっ!」
考えていた間に遠く、と言う程ではないが、多少離れたところまで走っていってしまっていた。
問題はそこではなく、走り始めた時よりも明らかにメノウがふらふらとしている事。
「大変っ」
数メートル離れた場所で、どうしようか悩んでいるねこだーじえる。
側に寄ろうにも今まで追いかけられていたのだから無理はない。
「メノウちゃん」
「うっ……けほっ、こほ」
「大丈夫か?」
駆け寄る二人と一匹に習い、流石にねこだーじえるも側に行こうとはしたのだが……。
咳き込みつつもしっかりと見て居るので油断できない。
悩んでいる間に駆けつけたりょうがポンと背中を叩いた途端。
「………」
「え?」
がしっとりょうの腕を掴み、ねこだーじえるを指さす。
「手伝ってください」
「は?」
「いいからっ」
何とも嫌な予感に後ずさる。
初めて視線を外したのは、真剣な口調でそう言ってりょうの背によじ登るためだったのだ。
「お、おい……」
「早くしてください!」
ばしばしと背中を叩かれ、困ったように走り出すりょう。
背負ったままではあるがメノウとは違いかなり早い上に、両手があいてるから札も使いたい放題である。
つまり……。
「にゃ、にゃ〜!!!」
さっきよりもずっと速く逃げないとならないと言うことだ。
「逃げました、早く!」
「何で!?」
「気になるからですっ」
背後から聞こえる会話を深く考えればそれだけで怖いと感じるのは気のせいだろうか?
何故なら……今追われている理由がこれ以上ないぐらいに単純かつ曖昧な物なのである。
気になるからと、何となく。
追っている理由が他にもあるからなら説明できたのかも知れないが、あまりにも単純で不明快なために弁解の余地が皆無なのだ。
「逃げないでください」
「にゃっ、にゃ〜!」
「無理だろ……」
「大丈夫、いけます!」
どこからその自信が来るのかさっぱりだ等と思いきや、直ぐに理由は判明した。
跳ね上がるように高まる霊力の気配。
「……にゃっ!?」
それに加えて。
「ナハトッ」
小さな声であったがはっきりと聞こえたのと、前方からの気配にねこだーじえるはあわてて前に注意を向ける。
挟み撃ちとはまた用意周到な。
前足が届く前にとんっと飛んだのは元きたほう。
高く飛び上がり、クルクルッと回転しつつ着地点に選んだのは……。
「……あ!」
「ちょ、おい!」
りょうとメノウの真上。
急ブレーキをかけつつ止まったりょうは、不幸なことに両手がふさがっている。
このままであれば着地点はりょうの頭上なわけだが。
「い、いくら何でも避けられ……」
当然下がろうとしたりょうの背で、起きあがろうとし始めた為一気にバランスを崩す。
「下がらないでください、もう少しで……」
「そんなこと言ってる場合じゃ……!」
立とうとするメノウが落ちないようにバランスをとると、自然に姿勢が低くなる。
「動かないでください!」
「こらー!!!」
藻掻くメノウにりょうが気をとられたのは、絶好のチャンスだった。
「おそいにゃっ」
キランとねこだーじぇるの目が輝く。
ごす!
「なっ!?」
「あっ」
誰が発したか声かはもはや定かではない。
後頭部に靴の裏が直撃しても尚、メノウを落とさずにいたことのみ評価していただきたい。
「いっ……!」
膝を付いてうずくまったりょうの背から、メノウが降りるのをリリィが手伝い、とりあえずはそこで鬼ごっこの2回戦が終了したことになったようである。
「大丈夫?」
「惜しかったです……」
なおも悔しそうなメノウに、三回戦という言葉が脳裏を駆けめぐったが幸いにその展開には至らなかった。
「追いかけたらびっくりしちゃうよ、どうしたの?」
「変わった気配を感じた物で、どう力を使えばあの姿になれるかが気になったんです」
小さな子供の姿に、ネコ耳とシッポのはえた姿だが、能力はとても高いと言うところが気になった理由だそうである。
「いきなり追いかけられたからびっくりしたにゃ〜」
リリィの背後から顔を出すねこたーじえるに、メノウがようやく落ち着きを取り戻したらしく軽く頭を下げた。
「ごめんなさい、前々から半獣人型に力を返還する方法も知りたかったから」
「……?」
「にゃ?」
小首をかしげたねこだーじえるとリリいに、メノウが説明を付け加える。
「私はあまり体が強くない方ですから、霊力や魔力を使って力に変換する方法を考えてたんです。呪札や他の形では可能だとは証明されてますから扱いやすさを考えると使用者本人の体にはっきりと解るように形作ることが出来たらイメージしやすくて扱いやすくなるんです」
つらつらと並べ立てるメノウは実に楽しそうだった。
「そうですね、例えば盛岬りょうさんのように模様として出るよりも、ネコ耳という形に出来れば『身軽になる』というイメージが沸きやすいと思っていただければ」
ぴんっと耳を跳ねさせ、ねこたーじえるがなるほどと頷いた。
「つまりにゃ。うさみみだったとしたら、耳が良くにゃる札とうさみみでは詳しくしらにゃくても見た目で使い方が解ると言うことかにゃ?」
「はい、そう言うことです」
札は扱いこなす技術と能力と知識が必要だが、メノウの言うとおりのことが出来れば多少の力とイメージで扱いこなせるようになるの筈。
「おもしろそうにゃ〜」
「今は色々なことを試してみたくて」
「そう言うことなら協力するにゃ」
「よかった、ありがとうございます」
ぎゅっと握手を交わすねこだーじえるとメノウの二人。
「良かった、仲良くなったみたい」
もう大丈夫だと微笑むリリィの横で。
「ああ、本当にな……」
「……」
思い切り頭を踏まれたりょうと、それを心配そうに見上げるナハトがいたりするが……まあ付いていないのはいつもの事だ。
「まあ、何だ。なんかケーキでも食べに行くか?」
頭をさすりつつのりょうの申し出に、一同はパッと表情を明るくさせる。
「ケーキッ」
「おいしそうにゃ〜」
「ゆっくり話せそうですね」
それぞれの思惑と共に、嬉しそうに頷き笑顔を見せた。
この研究に関して、後日騒動が起きることになるのは……また別の話。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2740/ねこだーじえる・くん/男性/999歳/猫神】
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■ ライター通信 ■
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発注ありがとうございました。
楽しんでいただけたら幸いです。
このよう結果になりましたが、如何でしたでしょうか?
ほのぼのが書けて楽しかったです。
それでは、失礼しました。
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